『ミスティック・リバー』 デニス・ルヘイン

忠実に映画化すると、リズムや空気が悪くなるのも止む無し


ミスティック・リバー (ハヤカワ・ミステリ文庫)
デニス ルヘイン
早川書房
売り上げランキング: 182,354


ショーン、ジミー、デイヴは子供時代をともに過ごした幼馴染だった。しかし、11歳のときにデイヴが警官を騙る男たちに連れ去られたとき、三人の間に越えがたい溝が生まれた。25年後、ジミーの愛娘ケイティが何者かに殺される。刑事となっていたショーンは、被害者の父親になったジミーと対面し、関係者としてデイヴと接することに。三人の断絶は回りまわって、新しい悲劇を……

クリント・イーストウッド映画『ミスティック・リバー』の原作小説である
映画は後味が悪かったが、それが小説に忠実だからこそと分かった。本作はミステリーの皮をかぶった文学であり社会派小説生まれ育ちの違う人間同士の埋めがたい隔絶が丸裸に描いてしまっているのだ
優等生のショーンと不良少年のジミーには早くから経済格差を意識しているし、デイヴは性犯罪に遭って誰にも言えない心の傷を負っている。大人を生きる間に、お互いが分かりきれない背景を抱えて、かつては気心のしれた友人ですら疑心暗鬼に陥ってしまう
タイトルであるミスティック・リバーとは街を流れるドブ川だが、人々の闇を飲み込んでいく冥府の川なのである
映画では陰鬱な場面が続きすぎて、かえって悲劇としても乗れなかったが、小説では見事な悲劇として成立している。あまりに完成度の高い小説は、映画化に向いていないのだろう

小説の裏テーマには、成長していく街とその住人たちの葛藤がある
70年代にすら、「岬」に集まる中産階級集合住宅に押し入られるスラム住人との埋めがたい格差があった
「岬」のショーンはそれなりの学校に通って敏腕刑事になりおおせたが、親父が失業したジミーは17歳にして強盗団の首領となり、その方面のカリスマとなる
ジミーがその才能を振るえる場所は、犯罪の世界しかなかったのだ
その数十年後の街には、外からお金持ちが流入して高級住宅街へと変貌。中産階級が貸していた集合住宅が取り払われて、スラム住民に行き場がなくなっていく。アメリカ社会の格差拡大が本作の背景にある

ジミーが致命的な確執を起こすのは、中産階級のショーンではなく、同じ下層階級のデイヴとだった。デイヴが性犯罪者にさらわれて、みすみす連れ去られたことを気に病んでいたジミーだったが、彼に容疑が浮上すると罪悪感が憎悪に反転する
まるで、デイヴが意趣返しをしたかのように、受け取ってしまうのだ
最初はデイヴをかばっていた妻のシレストが、デイブがさらけ出した闇に耐え切れず裏切るなど、本作では一瞬にして心のコインが反転してしまう描写が光る。追い込まれた人間の脆さと追い込む人間の醜さを描ききられている
テーマ性重視でドブ川のようにまったりと流れながらも、終盤では意外な真相への畳みかけもあって、ミステリーとしての要件をちゃんと満たしている。いろんな苦味を持ち合わせた名作なのである


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