『ハンナ・アーレント 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』 矢野久美子

絶好の入門書


ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者 (中公新書)
矢野 久美子
中央公論新社
売り上げランキング: 40,392


アーレントはいかなる境遇を潜り抜けて、「公共性」を見出したのか。その人生と思考の過程を日本人の研究者が追う
著者は富野監督の対談コーナー「教えてください。富野です」にも登場したアーレントの研究者で、いくつもの訳書を手がけている
本書はアーレントの伝記ともいえる内容だが、その人生と時代とリンクして著作を分析することで、その時々に彼女が論じたかった真意に迫るするものとなっている
なにせアーレントの原著は難解である。本書ではそのエッセンスともいえる要素を、分かりやすく抜き出して解説してくれるので、時間のない社会人には非常にありがたい

ハンナ・アーレントは、1906年にドイツのケーニヒスベルク(現・カリーニングラード)のユダヤ人家庭に生まれた
18世紀のケーニヒスベルクは、ベルリンに次ぐドイツ・ユダヤ啓蒙主義の中心地と言われ、ユダヤ人のゲットーからの解放ドイツ市民社会への融合が唱えられていた。ハンナの祖父マックスは、ユダヤ民族主義にこだわるシオニストと一線を画す自由主義者だった
ベルリン大学の聴講生を経て、1924年にマールブルグ大学に入学する。同大学には、「思考の国の隠れた王」と呼ばれたマルティン・ハイデガーがいて若い学生のグループができていた。ハンナは珍しい女学生として参加し、ハイデガーとは道ならぬ恋路に踏み込む
ハイデガーとの関係はその妻エルフリーデの耳にも入り、1926年にはハイデルブルグ大学へと転学する。そこでハンナを指導したのが、ハイデガーの盟友であるカール・ヤスパース。ヤスパースは患者を社会に合わせて治療する既存の精神医学の方法論に疑問を持ち、心理学の手法を哲学に持ち込んでいた
この大学で生まれた博士論文が『アウグスティヌスにおける愛の概念』アウグスティヌスは4世紀、ローマ帝国末期のキリスト教哲学者で、ハンナはその著作をとおして「隣人愛」、隣人の存在意義への問いかけを行う
人間を社会的なものとして考えると、同じ神に創られた「被造物」というだけでは不十分で、それぞれ孤立した存在となってしまう
そこでアダムを始祖とする「出生」によって成立する「人類」への帰属をもう一つの起源として掲げる。罪深き「人類」として相互に依存し、平等に「運命を共有」して、それは死者たちの「歴史」に由来し、死者をも含む「社会」でもある
「処女作には、その作家のすべてがある」などというが、たとえ「他者」であっても、同じ「人類」である以上、歴史的に相互依存性があるという信念が処女論文に表れているのだ

ドイツで凄いメンバーに囲まれて育ったアーレントは、1933年にナチス政権の成立からフランスへ亡命する。そこでは、同じ亡命者の劇作家ブレヒト批評家のヴォルター・ベンヤミンと出会い、ロシア人哲学者アレクサンドル・コージェヴの講義にも顔を出していた
学業だけでなく、ユダヤ人青少年のパレスティナ移住を助ける運動にも従事し、結果的に数千人のユダヤ人を救ったとされる
1939年に第二次大戦が始まると、パリにいた亡命者たちは意外な苦境に立たされる。フランス当局によって、「ドイツ野郎」として強制収容所に入れられたのだ。アーレントたち女性はスペイン国境近くのギュルス収容所に収容された
国民国家は国籍のない人間に人権を保障してくれない。こうした苛酷な経験が「パーリア(賎民)」としてのユダヤ人論、『全体主義の起源』『人間の条件』といった著作に生かされていく
アイヒマン裁判を巡る論争では、「独裁体制のもとでの個人の責任」という難しい問題に対して信念を貫き、多くのユダヤ人の友人との絶縁を厭わなかった。体制に「服従」したか、ではなく「支持」したかが大事であり、体制そのものが犯罪なら自分の無力さを認めて不参加・非協力という生き方もあるとした
本書は「考えること」が特定の層のものではなく人間に必要な営みであり、そうして考え言葉を交わし行動することが世界を存続させるという彼女の哲学が、いかなる経験からで醸成されたかを教えてくれる


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