『悪女入門』 鹿島茂

小説のタイトルは、だいたいファム・ファタル自身


悪女入門 ファム・ファタル恋愛論 (講談社現代新書)
鹿島 茂
講談社
売り上げランキング: 121,212


男を破滅させる究極の悪女、ファム・ファタル(=運命の女)」とは何者なのか。バルザック、デュマ・フィス、フロベール、ゾラ、プルーストといったフランスの文学作品から男女の機微を分析する
フランス文学を専攻する著者が女子大で教えていた関係から、講義内容から恋愛指南できないか考えていたところ、雑誌の連載向けにリライトされたのが本書。女子大生に対して、ファム・ファタルの誘惑術を授ける、悪女入門という体裁で書かれている
ファム・ファタルのやり口が実際の恋愛に役立つかは微妙なところ。ファム・ファタル自身が恋愛の地位が高いフランスの社会だからこそ、生まれでた存在であり、他の社会の価値観だと単なる悪女に映ってしまうのだ
往年のフランス文学を元にしているだけあって、「男はこう、女はこう」と規定する形で語られるので、今の若者には違和感を覚えるかもしれない。それでも男が女のどこに惹かれるのか、丹念に分析されているので男心への理解は深まるだろうし、何よりもフランス文学が読みたくなってくる

本書では十作の小説から、それぞれのファム・ファタルが紹介される。面白いもので、同じタイプの悪女は誰一人いない
悪女というと、色気むんむん、本音むきだしで男に迫るイメージがあるが、フランス文学に出てくるファム・ファタルは、積極性一辺倒でもない
『マノン・レスコー』に出てくるマノンなどは、むしろ健気さを装って男を釣り、清純なイメージを保つ。男に合わせてその幻想を守るのも、ファム・ファタルのやり口なのだ
『カルメン』のカルメンは、相手が口説きたいときに距離を置いて焦らし、諦めかかると近寄るプロの悪女。古代のカルタゴを舞台にした『サランボー』のサランボーは逆に天然のファム・ファタルで、処女で何も知らない“鈍感さ”が自然と男を誘惑する「カマトト娘」
まさに十人十色なので、創作で悪女キャラを考えるときの助けになるのではなかろうか

ファム・ファタルの中でも最強と思われるのが、ゾラの小説『ナナ』に出てくるナナ
ナナは両親(小説『居酒屋』の主人公夫婦)がアル中で早逝し、風俗の世界に身を落とす。暴力男のヒモになったり、レズビアンに走ったりと遍歴を繰り返しつつも、途中で世の男どもに復讐しようと「ファム・ファタル」へと生まれ変わる
ナナは数多くの客=愛人を抱え、その客の金を搾り取っては得た金を蕩尽し続ける。作者はその様を、経済学者ヴェルナー・ゾンバルトが唱えた「男女の欲望=贅沢」が近代資本主義の源となる説を実証するものとして、ナナこそ「近代資本主義」の象徴とする
労働によって富が生み出されたとしても、生活の必要以上に富が貯蓄されてしまうと、その富は行き場を失って人間を振り回してしまう。金持ちは余った金をナナに注ぎ込み、ナナはそれを使い倒すことで富が循環していく
「ファム・ファタル」の条件その1は男を破滅させることで、その2は意外にも金銭に執着しないこと。男から奪った金で店を持つ女などは、単なる悪女に過ぎない
しかし、ナナは勝利者とはいえない。近代資本主義の全てを消費されていく構造から逃れられるものはなく、ナナそのものは最後は消耗して病死する
男を破滅させるファム・ファタルには、自身の破滅も宿命づけられているのだ
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