『王莽』 塚本靑史

前漢的『サンクチュアリ』


王莽 (講談社文庫)
王莽 (講談社文庫)
posted with amazlet at 16.03.16
塚本 青史
講談社
売り上げランキング: 567,935


前漢末期、皇帝の外戚でありながら、王莽の一家は不遇を囲っていた。彼は猛勉強と徳業に励んで儒者としての地位を得、豪商・羅裒の嫁を娶ったことから、出世の階段を登り始める。大司馬大将軍の王鳳、成帝の母・王皇太后と有力者との人脈も築き、幼帝の摂政にまで登り詰める。夭折の続く皇帝一族に対し、民衆には儒者・王莽への期待が高まって……

漢王朝を簒奪した徒花(!)、王莽を主役にした歴史小説である
『平家物語』にて「秦の趙高、漢の王莽…」と平清盛とつなげて語られる王莽は、後漢王朝が再興したことから、前代未聞の簒奪者として語られてきた
本作ではそうした『漢書』を元にした色眼鏡を排除して、等身大の人間として王莽を評価する。豪商・羅裒という遊侠の帝王を登場させて、民衆のなかに新王朝建設を望む機運があったとすらするのだ
裏の主人公ともいうべき羅裒は、色街を通じて遊び人の皇帝・平帝ともつながり、後宮に美人の姉妹まで送り込んでしまう。後半で“新”王朝を見切ると、逆に叛徒側を後援するなど、恐るべき行動力を持ち「人心」「民衆」というものの気まぐれ、臨機応変を体現したかのようだ
彼が妾として王莽へ送った華容という女性が神秘的で、王莽が上昇ともに現れ没落とともに消失する。こちらは「天命」そのものを象徴しているようだったが、全体的に女性への描写が薄く、羅裒ほどの存在感がなかったのが画竜点睛を欠いただろうか。むしろ、予言者の役目を果たす王光が文字通り不気味な光を放っていて、作者は“漢”の物語作家なのかもしれない
エリートとヤクザが手を組むという筋は、池上遼一の『サンクチュアリ』を思いださせる。日本人にはマイナーな時代を舞台にしながら、豪快な物語を味わえた

王莽の簒奪が当時の価値観に反していたかといえば、全くそうでもない
儒教と皇帝独裁を結びつけた董仲舒すら、皇帝の一族が徳を失った場合、有徳の士に皇帝の位が渡ることを認めているのだ
王莽には平帝を弑した疑いはあるものの、百官の支持を得て(反対派を粛正して)幼帝からの禅譲という手続きを経ており、平和的なものだった。孔子の子孫も支持派に属していたのである
作者の言うように、王莽の政治が成功して三代ばかり存続していれば、簒奪者としての悪名を免れたろう
なぜ、王莽が皇帝となってからリアリズムを失ったかは、作者も首をかしげている
おそらく前漢末期の時点で現体制の限界を感じた一派が、儒教の原点に帰って古の社会をユートピアとして追及する動きがあって、それが王莽の取り巻きになっていたのだろう
結局、王莽のユートピアは儒者にとってのユートピアに過ぎず、結局は百官から民衆、匈奴をはじめとする柵封国にも見離されて、全てを失ってしまう。大躍進的失敗である
王莽は易姓革命のためのリセットボタンを押したかのようだ


サンクチュアリ(1) (ビッグコミックス)
小学館 (2013-01-01)
売り上げランキング: 6,315

王莽―儒家の理想に憑かれた男 (白帝社アジア史選書)
東 晋次
白帝社
売り上げランキング: 55,230
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

コメント

コメントの投稿

非公開コメント


(この一行は、各ページ下部に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
カテゴリ
SF (24)
RSSリンクの表示
リンク
FC2 Blog Ranking
ランキング
アクセスアップ!?
検索フォーム
はてな
この日記のはてなブックマーク数
タグランキング

サイドバー背後固定表示サンプル

サイドバーの背後(下部)に固定表示して、スペースを有効活用できます。(ie6は非対応で固定されません。)

広告を固定表示させる場合、それぞれの規約に抵触しないようご注意ください。

テンプレートを編集すれば、この文章を消去できます。