『宣戦布告』 麻生幾

今でも当たらずとも、遠からず?


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原子力発電所が並ぶ敦賀半島に、北朝鮮の潜水艦が漂着した。潜水艦内に残された資料から、特殊部隊による原発占拠作戦が裏づけられるが、有事を想定しない法律と国内事情からまず警察が出動する。しかしロケットランチャーによる攻撃で、SATの精鋭一名が死亡、重軽傷多数で、警察は第一線から退く。代わって前線に出る自衛隊だったが、厳重な交戦規則と高度な政治判断に縛られて……

ガチ過ぎるシミュレーション小説だった
冒頭が精密な写真の照合に始まり、次の章では帝国ホテルに来るフランス大統領夫妻とそれを守る要人警護の体制がリアルに描かれる。作者は元週刊文春の事件記者で、神戸の震災を題材にした『情報、官邸に達せず』麻生幾。本作は初めての長編小説であり、あまり後先考えずに豊富な取材経験が放り込まれていて、圧倒されてしまった
防衛庁高官から半島へ情報を流す画廊の営業マンと美人局、凄腕工作員を追う警察外事課、潜水艦の漂着に右往左往する福井県警、法律と政情に縛られて身動きが取れない官邸、直接撃たれるまで反撃させてもらえない前線の兵士たち……
あまりに登場人物が多く筋が錯綜して、回収されない筋もあるなどエンタメ的に優しいとはいえないものの、硬派に徹した筋書きに唸らされる。帝国ホテルの厳重さと日本の安全保障が、悪い意味で対照的なのだ

作品の初出は1997年の文藝春秋テポドンが日本列島を横断したのは1998年、北朝鮮が拉致事件を謝罪したのは2002年、とまさに時代を先取りしている
2001年の9・11も受けて、有事法制が整備されたものの、小説のような事態にならないかはなんともいえない
有事法制以前から「防衛出動」という概念はあって、冷戦時代もソ連が北海道に軍事侵攻することは、いちおう想定されていた
小説では、特殊部隊が少人数で侵入したために、国内の騒擾を対象にした「治安出動」という概念で出動することとなり、どこまでが「正当防衛」か「過剰防衛」かで警察も自衛隊もてんやわんやし、前線の人間が発砲するしないに官邸の政治判断が必要になってしまう
まるで『パトレイバー2』のような状況も、現場の「正当防衛」を政治家が認めれば、回避可能な気はする。今なら強硬的な措置も、国民の理解を得られるのではなかろうか
逆にいえば、いくら法整備が進んでも、時の政治家次第で大きく対応が変わってしまうことだろう
作者は必ずしも武力編重のタカ派を推奨しているわけでもなく、オチで情報戦略の大切さをアピールしている


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コメント

No title
良い小説で意味のある小説なんですが、古い小説でもあります。

当時はともかく、劇中で問題になっていたようなことは基本的に解決してますので、ご注意願います。

>どこまでが「正当防衛」か「過剰防衛」かで警察も自衛隊もてんやわんやし、

これは麻生幾氏が勘違いしてるように思います。
警察や自衛官の法律に基づく武器使用というのは、刑法第35条の、法令行為にあたります。

※刑法35条 :法令…による行為は罰しない。

刑法第36条の「正当防衛」だから武器使用が認められるのではないのです。
法令による行為なので武器を使用して、場合によっては人を殺傷しても認められるのです。
一般人が襲い掛かってきた犯罪者を「正当防衛」で殺してしまったケースとは違います。
危害許容要件が「正当防衛」という意味(一般人には危害許容要件なんて物は無い)

ROEを遵守して対処し、この結果敵が死んでも罪に問われることは無いです。
変な連中がが訴えても刑法35条の関係で負けることは無いのです。
劇中はROEが無かった時代なので混乱しただけ(一説ではカンボジアPKOのときには存在したらしいですが)

>前線の人間が発砲するしないに官邸の政治判断が必要になってしまう

これは民主党が治安出動に賛成する条件として【行動する前に総理の許可】を求め、与党がそれを飲んだからでは?
最初は現場の判断で自由に対処できるようにする予定だったと思いましたが?

>小説では、特殊部隊が少人数で侵入したために、国内の騒擾を対象にした「治安出動」という概念で出動することとなり、
治安出動は2001年に対暴徒用から対武装工作員用に改正されています。
警職法を超える武器の使用が可能(よくインチキ改憲論者が「警察と同じことしかできない!」などと騒いでますがウソなので)
危害許容要件の「正当防衛」「緊急避難」さえ無くなりますから
相手がテロリストや正規軍として認めたくないようなケース(劇中)に使います。

>まるで『パトレイバー2』のような状況も、現場の「正当防衛」を政治家が認めれば、回避可能な気はする。
そもそも自衛隊法95条というのがありまして、95条の範囲なら平時から武器は使えます。
Re: No title
拙い記事に丁寧なコメントを返して頂いて恐縮です

あくまで1998年の小説であって、現状は危機に際して自衛隊が法律でがんじがらめにはなっていないということですね
間違った認識から改憲論が進んではたまりませんから、こういう情報は本当にありがたいです

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