『オリガ・モリソヴナの反語法』 米原万里

どこかで富野監督が褒めてたはず


オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)
米原 万里
集英社
売り上げランキング: 23,718


1960年、10歳の志摩チェコのプラハ・ソビエト学校に通っていた。そこのダンス教師オリガ・モリソロヴナは老女ながら魅了的な舞踊をする一方、異様に褒めて相手を罵倒する反語法で有名だった。30数年後、翻訳家となった志摩は、恩師がいかなる人生を送ったのか、ソ連崩壊後のモスクワへやってくる。そこで彼女は学校の親友やオリガの関係者と会い、スターリン体制下の苛酷な時代を生き抜く踊り子の人生を知る

日本人が書いたとは思えない、凄まじい物語だった
作者は少女時代をプラハで送っていて、志摩の人生とほぼ重なるようだ。巻末の池澤夏樹との対談では、オリガ・モリソヴナは実在するものの調べて分からなかった部分をフィクションにしたと告白している
オリガは元々、ネップ時代に花開いたモスクワ・ミュージックホールのスターであり、関係者の密告によりラーゲリ(強制収容所)に送られる。小説では収容所経験者の資料や告白によって、想像を絶する生き地獄が語られていく
こうして暗く陰鬱な話に続きそうなところを救っているのが、志摩の青春時代の回想であり、親友や関係者との食べ歩き(笑)。まさに光と影のように、好対照に場面が転換されていて、泣き笑いしながら謎を解いていく
何気に日本のバレエ業界へも毒舌を振るっていて、藻刈富代(誰のことか分かるよね!)が技術もないのに実家に金を出させてプリマを射止めたことなど、劇団経営が苦しく主役が金で買える状況が常態化している現状も告発している。ソ連崩壊後のボリショイにも同じ状況があって、資本主義とバレエは相性が悪いようだ
語り口の上手さから信じられないことだが小説としては処女作であり、最後の締めに関してはやや急仕立てな感はある。それでも時代に翻弄されつつも強かに行きぬいた女たちを描ききられた名作なのである

オリガ・モリソブナの謎は、嘘に嘘を塗り固めるソ連の体制が生んだものだった
スターリンの強い猜疑心から生まれた大粛清は、公安組織NKVD(内務人民委員部)の独走をはらみ、オリガ、いや前身の踊り子バラは外国人と交際したことからスパイ容疑をかけられる
スターリン体制下では些細なことがスパイ容疑に拡大解釈されて、その身内までも連坐する形で強制収容所へ放り込まれる。彼女が連れ込まれたのは、スパイ容疑の配偶者や愛人たちが集められた専用のラーゲリだった
妊娠していた者は堕胎するか、生んだあとに強制的に取り上げられてしまい、小さい子供たちも国家犯罪者の影響を遮断するために、誰が親か分からないうちに孤児院に入れられる
オリガの親友、エレオローナ・ミハイロヴナはそうした悲劇を味わった一人であり、プラハの学校にも孤児院から引き取られた子供が通っていたのだ

そうした冬の時代もスターリンの死ともに変わっていく。フルシチョフのスターリン批判に続いて、ベリヤ長官を始めとするNKVDも指弾されていく
ベリヤにはその職権を生かして、10代の少女たちを拉致・強姦する事件を起こしていて、謎の性犯罪者「青髭」として噂されていた。ただし、告発されたベリヤの罪は当局によって誇張されたとも言われ、政敵フルシチョフによる報復の一面があるらしい
フルシチョフもまたスターリンの腰巾着の一人であり、批判しつつも自らとスターリンのつながりを巧妙に隠す必要があった。嘘に嘘が塗り固められ、本当に何があったのかは誰にも分からない(NKVDの関係者に聞こうにも、本人たちも粛清されているケースが多い!)
こうした体制の嘘は下々へ嘘を強制し、エレオローナが発狂してまで真実を隠し続けたことへつながっていく
この悲しい嘘の連鎖は、プーチンのロシアでも引き継がれていることだろう。残念ながら
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