『悪の論理 地政学とは何か』 倉前盛通

かつてのベストセラーだって


悪の論理―地政学とは何か (角川文庫 白 267-1)
倉前 盛通
角川書店
売り上げランキング: 175,699


久々に地雷を読んでしまったかと思ったが……
地政学、地理的政治学とは、地理的な位置関係が国際政治に与える影響を研究する学問のこと。歴史的には時の政権の外交政策に追随して保証を与える側面があり、戦争の遠因にもなった
本書はそんな悪名高き学問を国際政治の常識として啓蒙しようというものながら、脇道があまりに多すぎる! マハンの海上権力史論から始まって、マリアナ沖海戦など太平洋戦争の解説に入り、地政学と直接関係ない海外情勢の薀蓄へと向かってしまう
その薀蓄も特に引用先が明示されないものが多いので与太話の域を出ず、アメリカの「影の権力者」を持ち出すなど陰謀論めいたオチもある
初出が1977年と冷戦たけなわであり、ネットもない時代。事情通(?)から得た限られた情報を手探りで推測していく他なかったのだろう
バブル前でロッキード事件が世間に取りざたされている頃の代物であり、今となっては懐かしい落合信彦的な語り口で冷戦時代の想像力が良くも悪くも堪能できる

いちおう、地政学のことにも触れているので収穫はあった
著者が地政学の先駆者として、アメリカのアルフレッド・セイヤー・マハンを挙げている。秋山真之も師事したマハンは『海上権力史論』によって、シー・パワー(Sea Power)が大国の覇権を決定ずけたことを証明し、アメリカが海洋大国になるために大海軍と海外基地の獲得、パナマ運河、ハワイ併合の四条件を掲げた
マハンの戦略そのままに、アメリカの帝国主義は展開され、今日に到っている
対する日本は第一次大戦に連合国として参戦し、ミクロネシアを得たことでアメリカのグアムやフィリピンを包囲することとなり、著者は日米対決の遠因が作られたとする
こうしたシーパワー重視の地政学に対し、イギリスのハルフォード・マッキンダーはドイツを警戒してハートランド論を展開した。歴史をシー・パワーとランド・パワー(Land Power)の衝突と説くマッキンダーは、海軍国の軍艦が遡行できない地域をハートランドと命名し、ランド・パワーの聖地とした。具体的にはユーラシア大陸中央部で、直接的にはロシアそのものといえる。かつて、ハートランドの遊牧民はユーラシア大陸の過半を制圧し、モンゴル帝国を築いている
マッキンダーはドイツによるハートランド制圧を恐れたが、現実にはソ連が「ハートランド論」を忠実に信奉して世界戦略を展開した。不毛とも思えるシベリア開発アフガンへの介入も「ハートランド信仰」ゆえなのだ

マッキンダーが警戒したドイツにも、地政学が発達する。フリードリッヒ・ラッツェルは、国家はひとつの生命体に喩えその国力に応じて成長するものとし、生存圏」(レーベンスラウム)という概念を持ち出した
スウェーデンのルドルフ・チェーレンは大陸国家の優勢を訴え、国家は自給自足(アウタルキー)を不可欠とした。チェーレンが初めて「ゲオポリティック」という名称を用い出したという
こうした研究を受けてドイツのカール・ハウスホーファーは、第一次世界大戦の敗因を分析し、「地政学会」を立ち上げる。ハウスホーファーの理論は、副官のルドルフ・ヘスがナチスの副総裁となったようにヒトラーの戦略に影響を与え、日本の「大東亜共栄圏」にも関係している。ハウスホーファーは、世界を四つの地域、「パン・アメリカ」「ユーロ・アフリカ」「パン・ロシア」「パン・アジア」に分かれる「統合地域論」を唱えており、松岡洋右の日独伊ソ四国同盟構想はこうした世界観によった
著者は海洋国家の本分を忘れ、ドイツ系の大陸地政学に酔ったのが日本の失敗としている

冷戦後には、従来の地政学を訂正する動きが起きる
アメリカの地政学者ニコラス・スパイクマンは、マッキンダーのハートランド編重を批判し、むしろその周辺地域(リムランド)を政治・経済・文化の先進地域が集まっているとして重視する
海軍の時代ならともかくも、航空機とミサイル技術の発達で、ハートランドは大陸国家の聖域とは言えなくなったのだ
また米ソが大陸間弾道ミサイルと原潜を持ち合ったことで、緩衝地帯だった北極海が隠れた激戦地に早変わり。ハンス・W・ワイガードは「極中心論」を掲げ、メルカトール図でははない極中心の世界地図で米ソ欧州を包む新・ハートランドを掲げた
とここまで観たところ、地政学は結局、超大国の陣取り合戦攻略本である。しかも大国のエゴを満たすように論理づけているだけに過ぎず、それを鵜呑みにした大国も破滅に到っている
著者も日本に地政学を取り戻そうというより、題名どおり「悪の論理」と認めており、国際社会に立ち向かうために大国の「悪の論理」を理解することの必要性を訴えている


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