『永遠の0』 百田尚樹

太平洋戦争が時代小説になる時代


永遠の0 (講談社文庫)
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百田 尚樹
講談社
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実の祖父は特攻で死んでいた。母から祖父のことを調べてくれと頼まれた姉・慶子は、司法試験の勉強をずるけるぼくに取材への協力を頼まれる。元海軍のパイロットや整備士たちによると、宮部久蔵は凄腕のパイロットながら同僚たちから「臆病者」とも見られていた。その久蔵がなぜ特攻を志願したのか――

なるほど『壬生義士伝』に似ていた(苦笑)
百田尚樹は、関西のお化け番組『探偵!ナイトスクープ』の放送作家で、小説家に転じてもヒットを連発、本作は文庫本にして販売部数300万部を超えている
視点となる主人公・健太郎は、司法試験くずれのモラトリアムであり、姉・慶子はフリーライターで戦後教育の申し子ともいうべき価値観の持ち主と、現代人に入りやすく設定されている
宮部久蔵も、当時の人間の典型というより、もし自分が海軍のパイロットだったらどう考えどう行動するか、感情移入しやすい造型となっている。戦いを嫌いながら、一方で一流の腕前を持つという、まるでロボットアニメの主人公の如し
『壬生義士伝』のように、複数の証言によって浮かび上がらせる手法であり、前半では太平洋戦争の戦況についてこれでもかと語られる。当時者の証言という形で、作者の戦争観が吐露されている

作者がNHKの経営委員に就任し、その発言が物議をかもしたが、本作で語られる太平洋戦争はわりあい通説に近い
少し違和感を感じるのは、搭乗員の犠牲を前提にする「特攻」を否定しつつも、それを受け入れて飛び立った特攻隊員たちを「立派な男たち」を美化しているぐらいだろうか
特攻隊員が作戦が決まってからの逸話は様々にあるので、みな従容と受け入れたでは少し物足りなかった。そこに本当のドラマがあったはずなのである
朝日新聞社の記者とおぼしき高山という男に「特攻隊員はテロリスト」と言わせるあたりは、いかにも作者らしい因縁のつけ方(苦笑)。探せばおかしい記者はいるだろうが、いくら何でも無理筋で、多くはむしろ元特攻隊員を取り込んで政府批判をしたいと考えているはずだ
ネットで叩かれやすい朝日新聞を仮想敵に仕立てるのは、論壇的な戦略と思える
ともあれ、文体は文章が短く区切られて読みやすく、参考文献から引用された説明も良く整理されて頭に入りやすい。『壬生義士伝』がこれぐらい抑制された文章で書かれていれば読みやすかったと思うぐらい(失礼)
ただしその反面、宮部久蔵のテクニックを酒井三郎から拝借するなどアレンジされている部分もあり、当事者の証言という体裁から当事者の主観、勘違いを免れないという逃げ道もある
後半の展開はいかにも小説的なミステリーが入り込むし、あくまでノンフィクションを装った小説と心すべきだろう


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