オタク・イン・USA:愛と誤解のAnime輸入史 (ちくま文庫)
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パトリック・マシアス
筑摩書房
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日本のマンガやアニメはアメリカでいかに受容されているのか? アメリカの“オタク”である著者が日本のサブカルチャーの展開とそこから生まれた“オタク”たちを追う
本書は『フィギュア王』と『映画秘宝』で連載されたコラムを集めたもので、映画評論家の町山智浩がそれぞれ翻訳と編集を担当していた。あとがきから想像される力関係と内容から、町山氏がかなり踏み込んだ意訳をして読める文章にしたようだ
アメリカにおいて“オタク”(otaku)とは、日本のマンガやアニメに耽溺する人のこと。日本語のオタクにあたる言葉は、ネガティヴな言い方で「need」、熱狂的なマニアな意味で「geek」という
著者によると、アメリカで“オタク”という言葉が広まったのは、ガイナックスのOVA『おたくのビデオ』がきっかけらしい
アメリカへは60年代末から、ゴジラをはじめ様々な作品が持ち込まれた。が、その性表現、暴力性(!)、政治的事情、そしてジャンルそのものへの侮りから、まともな形で放送されたものは少ない
ゴジラはサパスタインというプロデューサーを得て、東宝と提携しアメリカ版ゴジラが何本も製作された。サパスタインはスターウォーズが大成功を収める前に、版権ビジネスとグッズ商品が一大産業を生むと読んだ先駆者で、ゴジラの名前がアメリカで定着したのは彼のおかげと言っていい
ただし、アメリカ版ゴジラは核爆弾への怒りという要素は排除され、単なる怪獣のプロレスになった(日本のも後半はそうだけど)
成功したゴジラに対して、ウルトラマンは初代こそヒットしたものの、ウルトラセブンはシリアスなところでギャグ台詞に吹き替えられたせいで大沈没。暴力規制からアイスラッシャーはカットされた
アニメは名前が変えられることが多く、『宇宙戦艦ヤマト』は『スター・ブレイザーズ』となり船の名前は“アルゴ”に。『ガッチャマン』は『バトル・オブ・プラネッツ』として放映され、様々な改悪が施されたものの、白鳥のジュンのパンチラ・キックだけは何故か健在で(笑)、子供たちの股間を刺激したという
さて、それではガンダム・シリーズはというと、良く知られているように『ガンダムW』しか成功していない
そもそも初めてテレビで流されたのが、2000年の『ガンダムW』であり、最近のことなのだ。マニアにはZやZZで入って、ファースト・ガンダムを経て宇宙世紀の信者と化す王道ルートが確立されているものの、一般層には年代の落差が厳しいらしい
『ガンダムW』の人気を支えているのは日本同様に女性たちであり、その影響力は大きい。『セーラームーン』がジェンダー問題で打ち切りの危機に立った際には、女性ファンの抗議が殺到して復活させたという
男性中心のアメコミに対して、日本のマンガには少女マンガの歴史が長く、日本のサブカルチャーは女性に開かれていたのだ
日本のクールジャパン戦略にもこうした視点が必要だろう。まあ、クールジャパンそのものがいるかという話もあるが
と、本書が初出の2006年までは日本のサブカルチャーがアメリカで興隆を極めていたが、その後は逆風が吹いていた。文庫版あとがきによると、輸入マンガは粗製乱造が目立って部数は全盛期の三分の一に激減し、有名な全国チェーンの書店が潰れたことで扱う店そのものが減ってしまった。ネット社会が進んで流通形態そのものが変わってしまったのだ
これに続いて衰退しそうなのがDVD市場であり、ネット配信への移行が求められる。お金のないティーンズの読者は、ネットでの違法ダウンロードに頼らざる得ないのが現状のようだ