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『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史 1』 オリバー・ストーン&ピーター・カズニック

米帝さまの始まり



アメリカはいつ、共和国から帝国の道を歩んだのか。『プラトーン』のオリバー・ストーン監督が語るアメリカの黒歴史

2012年にアメリカで放映された同名のドキュメンタリー番組と関連していて、50分番組では語りきれなかった多くのエピソードが盛り込まれているようだ
第1巻は、米西戦争から始まるアメリカ帝国主義の黎明期から、第一次世界大戦への参戦、ニューディール、第二次世界大戦と原爆投下まで
19世紀から振り返るので、独立戦争から西部へ拡張、ネイティブアメリカンとの闘争、南北戦争については触れられていないが、「自明の運命」(マニフェスト・ディステニー)の名のもとに膨張主義が肯定されたことを批判されている
第一次大戦ではJ・P・モルガンが戦時国債を取り立てるためにドイツへの賠償金を盛ったことや、戦間期にはアメリカ企業がこぞってナチス・ドイツに関連会社を作って利益を上げていたことが指摘され、第二次世界大戦はアメリカの自演で起こったかのごとし
こうしたエピソードは、今年に流れているNHK『新・映像の世紀』にもそのまま取り上げられていたので、直接影響を受けているのかもしれない(本書のドキュメンタリー番組も、2013年にBSで流されている)
誤解のないように書いておくと、本書はあくまでアメリカの「歴史の闇」に絞って記されたもの。監督いわく、栄光や善行を称えるものは巷に溢れているので、そうした部分は丁寧に省いただけで、本書はアンバランスを意図したものと心得るべきだ


1.モンロー主義と中南米への介入

驚愕の新事実が並ぶというより、知る人ぞ知るネタがまとめられている印象だ
モンロー主義を標榜した時代から、合衆国は同じアメリカ大陸へは容赦ない介入を繰り返している。コロンビアパナマを譲らないから独立運動を焚き付けるのはその典型で、独立後にその国益のために大西洋と太平洋を結ぶパナマ運河を築いている
独立性の高い政権が生まれると、軍艦を派遣して転覆させ親米政権を打ち立てる。『トロピコ』というSLGゲームでは、アメリカに逆らうと海兵隊が送られてゲームオーバーとなるが、リアルでそういった歴史が繰り広げられていたのだ
キューバのカストロがソ連に転んだのは、ゲーム的に正しい決断だったといえる(苦笑)
フィリピンにおいては民族主義のアギナルド政権が粉砕されていて、独立は太平洋戦争終結を待たねばならなかった


2.ニューディールと共産主義

管理人として目新しかったのは、ニューディールと共産主義の関係
ルーズベルト自身は主義者ではなく、使えるものは何でも使う実践家であり、ニューディールはいろんな政策がごちゃまぜになったものだった
雇用安定のために大胆な公共事業、農作物の価格安定のための作物制限など、アメリカ伝統の自由主義に反する政策が取られていて、行き過ぎた資本主義を非難する立場からオリバー・ストーンもニューディールを評価している
ニューディールの後押しとなったのは、ソ連の計画経済が大恐慌の影響を受けずに成功しているとされたことで、危険視されていた社会主義の運動は全国で過熱し、アメリカ共産党も二大政党の間で票を伸ばしていた
スターリン体制下での粛清が明らかにされたこと、第二次大戦の直前で独ソ不可侵条約が結ばれたことで、この空気は一変するものの、独ソ戦が始まると再び親ソ感情が醸成されることとなる


3.軍産複合体の風化

ルーズベルト政権下では、第一次世界大戦に始まる軍産複合体を指弾する動きもあった
ジェラルド・ナイ上院議員らは1934年から、戦争の口実に莫大な利益を上げる企業グループが存在し、そうした企業活動が次の戦争を呼ぶと公聴会で非難した
こうした「死の商人」を撲滅するために軍事産業の国有化と戦時所得税の大幅引き上げを叫んだが、屑鉄や綿すら軍事物資になる現実から線引きが難しい、と政府はぼかしてしまう
「死の商人」を規制する法律は作られた反面、その良識的な行動がナチス・ドイツが暴れる非常時には裏目となり、厭戦気分を強めて参戦を遅らせることにもなったから皮肉だ
そのためにルーズベルト政権は、旧式の駆逐艦をイギリスへ譲渡することさえ、議会で非難されてしまうのだった
ともあれ、こうしたチェック機能が働くのがアメリカの民主主義の伝統といえよう


4.無条件降伏と原爆投下

日本人にとって重要なのは、原爆投下の顛末だろう
結論を言うと、日本を降伏させるには必要なかった。現場の司令官も政治家も1945年時点でアメリカに抵抗する力を失っていることは明白だった
日本の降伏要件でネックとなっていたのは、「無条件降伏」という文言で、日本側にとっては天皇制の廃止を意味していた。当時の日本人にとって受け入れられる内容ではなく、アメリカ政府もそれを理解していた
結局、日本の天皇制を存続させたのに、なぜポツダム宣言に盛り込まれなかったのか
本書ではまさに原爆を落とすためであるという。ヤルタ会談(1945年2月)においてドイツ降伏後の三ヶ月後にソ連の対日参戦が約束されたが、1945年7月にアラモゴードで原子爆弾の実験が成功する
ソ連の参戦が前倒しで8月にあるとされ、米軍の本土侵攻作戦は11月を予定されていた
このままではアジアがソ連の勢力圏となると考えたトルーマン政権は、ソ連への牽制をかけて原爆の使用を決行したのだ
マッカーサーやアイゼンハワーはじめとする軍人たちは軍事的に必要と認めず、戦後の調査でも日本が降伏を決断した要因にはソ連参戦が強かった
降伏要件で国体護持を不明瞭したのは、降伏されてしまうと原爆が落とせないという打算からなのだ
アメリカ人にこうもはっきり語られたのは、薄々分かっていたことでもショックである


*23’4/12 加筆修正

次巻 『オリバー・ストーンの語るもうひとつのアメリカ史 2』




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