『危機の二十年』 E・H・カー

Gレコの参考書と聞いて


危機の二十年――理想と現実 (岩波文庫)
E.H.カー
岩波書店
売り上げランキング: 147,643


どうして第二次世界大戦は防げなかったのか? 国際政治学の大家が戦間期の思想を分析し、その原因を時代を遡って探求する
著者は『ロシア革命史』E・H・カー。深刻化する国際情勢のなかで書き上げ、くしくも校正中にドイツのポーランド侵攻を聞いたという
国際政治学という分野は、第一次世界大戦後にその再発を防ぐために誕生したといえ、その歴史の浅さから戦間期ではユートピアン(理想主義者)が中心となっていた。それはあらゆる歴史の始まりにおいてやも得ないことだが、本書ではそれを精錬させるため、具体的な力(オパワー)を重視するリアリスト(現実主義者)の立場から批判していく
しかし、著者はリアリスト一辺倒でも限界があるとする。純粋なリアリズムは、現状を追認して流されるだけになるし、何の流れを生みはしない。またリアリズムを唱えるユートピアへの批判者もまた、マルクスしかりナチスしかりある種のユートピアを帯びてしまう
人間が理想に惹かれて動く以上、ユートピア思想も現実に影響を及ぼすわけで、ユートピアンとリアリストはコインの裏表。双方を行きかうことで、平和への知恵が生まれるはずなのだ

どうして戦間期に、「理性による調和」を期待する心性が生まれたのか
著者はその源を、19世紀の自由主義に見る
『国富論』のアダム・スミスが体系化したレッセフェール(自由放任)の経済は、大英帝国の海軍力に支えれたものだった。自由貿易は、本国の工場へ植民地から安価な原料が送られ、割高な工業製品が各国へ吐き出される体制を固定化する性質を持った
政治面では、「最大多数個人の最大幸福」ベンサムの功利主義が浸透する。道義と欲望を対置せず、一人が己の利得を追うことが社会全体の利益にもなる思想は、アダム・スミスに通じるものもあり、議会制民主主義の支柱となった
19世紀の自由主義とは、いわば強者が現状維持を正当化するものでもあったのだ
植民地のナショナリズム、他の列強の台頭により自由主義が動揺してくると、ダーウィンの『進化論』から「適者生存」の法則を引き出し、経済・社会において「弱者を犠牲にしての強者の生存」が正当化される動きが出だす
とはいえ、人間それぞれの理性によって利益が調和されるという自由主義の伝統は残り、戦間期の前半では支配的だった

後半に論じられるのは、国際社会で法や道義が意味をもつのかどうか
世界大戦の再発を防ぐべく生まれた国際連盟パリ不戦条約などは、「理性による調和」を前提として、「国際世論」によって戦争を抑止されるとしていた
しかし、現実的に国家を拘束できる権力は国家のみであり、国家はその構成員のために活動するのであって、国家が利他的に行動できるのは余裕がある場合に限られる
そして、国家間の約束である条約ですら、「結ばれたときの環境が守られるに限り」という暗黙の前提があり、状況が変われば国益のために破ることも当然と見なされていた
実際の条約はその国家間の力関係によって成立するものであり、例えばヴェルサイユ条約は瀕死のドイツと連合国の間で結ばれていたわけで、著者はドイツ側がそれを訂正するのは当然の現象であるとする
すべての条約、法が不変であるべきとすれば、アメリカ独立戦争などの革命はどう捉えるというのか、というのだ

1920年代の国際秩序は、「ある者にとっての福利は全体の福利であり、経済的に正しいことは道義的にも悪くない」という19世紀の残滓であり、著者は空虚とすら言う
ならば望まれる国際秩序とは何か。道義や法が人や国家に影響を及ぼす以上、無意味ではないが、国際社会が「力」の原則で動くことを理解しなければ始まらない
著者は具体的な展望として、パックス・ブリタニカから、アメリカ・イギリスのアングロ・サクソン間の同盟「大西洋憲章」へと、アメリカ中心の国際秩序を正確に予見していた
日本の戦後における反戦運動、「何でも対話で解決できるはずの」平和主義は、本書で批判される戦間期のユートピア思想そのままである。安保法制とその反対運動にしても、90年前の思想的状況が、暢気にも保存されているかのようだ
本書からユートピア的平和主義の欠落を学び、次代へのヒントを探していいのではないだろうか
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