『吉田茂とその時代』 下巻 ジョン・ダワー

戦後日本の原点


吉田茂とその時代(下) (中公文庫)
ジョン・ダワー
中央公論新社 (2014-10-23)
売り上げランキング: 381,347


敗戦から講和条約、最後の外遊まで、政治家としての吉田茂の足跡を辿る
戦後、吉田は東久邇宮内閣、幣原内閣の外相を務め、1946年には鳩山一郎の公職追放を受けて自由党の総裁に。選挙を経ない貴族院議員の身で内閣総理大臣に就任する
GHQとの折衝が国内政治の大きなウェイトを占めたゆえに、外務省出身者が台頭したのだが、吉田はGHQの方針にことごとく反対し、政治家としてはその改革のスピードを落とすように努力する
保守主義者として、新憲法制定、農地改革、財閥解体、教育改革にも抵抗し、巧みにその無力化を計った。これでよくマッカーサーに嫌われなかったのが不思議なほどである
著者は財閥解体の中途半端さが、日本的な系列の関係、企業別労働組合を生んだと批判する
とはいえ、GHQが強硬に主張した政策には、最終的にはしおらしく従い、経済優先の『従属的独立』に成功した。内政面で吉田は開明的とはいえず、GHQのごり押しが日本社会に寄与した部分も多いそうだ(すこしバイアスは感じるけど)

保守主義者を標榜した吉田だったが、鳩山一郎など他の保守政治家とは違い、再軍備に対してだけは慎重に取り扱った
新憲法が制定されて九条の解釈が国会で問題となったときには、「多くの戦争は自衛を名目に始まっている」と自衛戦争の権利すら放棄共産党の野坂参三「戦争にも正邪があるのでは」と問いただされる場面すらあった。非武装中立論は、軍国主義払拭のための吉田の政治姿勢に端を発しているのだ
吉田からすると、共産主義は内部から始まるという想像があり、軍隊がその温床になると考えていた。近衛上奏文に連なる発想である
朝鮮戦争の危機が迫り「逆コース」の政策転換があったときも、アメリカの再軍備要求には否定的で、国内の治安維持のための警察予備隊7万人でスタートした
吉田は国際社会で独立を承認されるためには、対外的に軍国主義の復活を印象づけてはならないという考えがあり、国内では反共でも共産主義諸国の反応に留意した。また、大規模な軍隊を持つと日本経済への負担を増やし、朝鮮戦争に動員される危険を避ける現実的判断があった
とはいえ、再軍備が在日米軍の撤兵につながることから、経済と外交を睨んだ漸進的な拡張を視野に入れていた
こうした慎重な姿勢が、サンフランシスコ講和会議での国際社会への復帰につながり、ひいては日本の経済大国化につながっていく

戦前には典型的な帝国主義者として、中国への偏見を隠さなかった吉田だが、戦後はその「伝統外交」の価値観を引きずりつつもイデオロギーに振り回されなかった
イギリスが1950年に大陸中国を承認したように(香港問題があるからだが)、共産党の北京政府との関係修復を模索する。吉田は中国がソ連と一体となって第三次世界大戦を起こすという発想に懐疑的で、中国がソ連の下風に立ち続けることはないと予見していた
しかし朝鮮戦争の勃発からアメリカは軍国主義的な冷戦政策へ転換し、台湾政府を正統として「反共の砦」とすることを決意。日本もその戦略に巻き込まれていく
なぜアメリカはベトナム戦争に到ったのかを課題とする著者にとって、日本の「従属的独立」による在日米軍基地は、冷戦のアジア政策を代表する存在
ただし日本視点に立てば、冷戦の情勢を生かして防衛を肩代わりさせ、経済協力で東南アジアの共産化を防ぐ吉田の構想は、今日の繁栄を築いたものと評価できるようだ
が、平和憲法と「従属的独立」の枠組みは、当初から政治的な解釈改憲に迫られていた。昨今の安保法制も、吉田路線の延長で生じた問題なのである


前巻 『吉田茂とその時代』 上巻

宰相吉田茂 (中公クラシックス (J31))
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