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『ふたりの証拠』 アゴタ・クリストフ

辛く悲しい物語




「ぼくらのうちの一人」クラウスは鉄条網を越え、「もう一人」リュカは祖母の家に残った。戦争が終わり一党独裁の体制下で、リュカは野菜と家畜の面倒を見つつ、夜は居酒屋でハーモニカを吹いて生計を立てていた。ある日、不義の子を死なせようとした少女ヤスミーヌと出会い、二人を引き取る。リュカはいつかクラウスに伝えるために、日記を書き続ける

『悪童日記』の続編である
祖母の家に残った双子の片割れ、リュカの視点で、戦後の生活が語られる
双子の祖国は共産主義陣営に組み込まれ、全体主義的体制に支配された。戦争中より生活は安定するものの、当局によって本屋や図書館から読みたい本が消えて行く
父と不義の子を作ったヤスミーヌとその子マティアス、恋人を処刑された司書クララ、アルコール中毒の本屋ヴィクトール、同性愛者の党書記ペテール……リュカは直接実害を被らないものの、作品には社会からはじき出されり、精神生活を抑圧されて病んだ人々が次々に登場する
戦争によって生活と歴史が破壊され、全体主義によって記憶を奪われ意味が押し付けられる社会で、人間が生きたという証明は何によってなされるのか
社会は人を統計としか記憶せず、人が人によって記憶される他ない。リュカは自分の生きたという証のために書き続ける

前作では「ぼくら」で括られた双子は、それぞれリュカクラウスという名前を与えられている
他の登場人物も名前を持っていて、普通の小説に近くなったが、端的に書きなぐられた少年の日記という文体は変わらない。それによって青年になったリュカは、少年時代と同じ澄み切った存在に見せいてて、実はそれが巧妙なトリックとなっている
日記は読まれることを前提に書き残すもので、そこには著者のバイアスが必ずかかる。終盤に他の登場人物がリュカを語るとき、屈託のないような彼の精神がいかに脅かされていたかが明らかになるのだ
もう、なまじのミステリーなどぶっ飛ぶような衝撃である

戦争が終わって生活は安定したが、そこに住む人々の生活は荒廃している
その象徴として、リュカの家の屋根裏には、前作で死んだ母と妹の骸骨が飾られている。リュカは「ぼくらの片割れ」と別れたあと、その欠落を埋めようとするように、ヤスミーヌが生んだ障害児マティアスを受け入れて、自らの子として育てようとする
しかし、その新しい家族を作ろうとする努力は、複雑な人間関係のなか、最悪の形で崩壊する。戦争とその後の統制社会で人々の傷は癒されることなく沈殿していくのだ
はたしてリュカはどこへ行った?


次巻 『第三の嘘』
前巻 『悪童日記』


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