『吉田茂とその時代』 上巻 ジョン・ダワー

帝国主義者のど真ん中


吉田茂とその時代(上) (中公文庫)
ジョン・ダワー
中央公論新社 (2014-10-23)
売り上げランキング: 360,006


戦後のワンマン宰相・吉田茂は、いかなる時代を生きて影響を振るったのか。日米関係研究の権威がその業績と思想を読み解く
上巻はその生い立ちから、外交官時代、戦中の反東条運動まで
著者は『敗北を抱きしめて』で有名なジョン・ダワーで、本書は1970年代の研究をもとに欧米の読者向けに書かれたもので、序文では「日本の読者には常識的なことかもしれないが」と断られている
しかし、それはまったくの謙遜であり、戦前の記憶を遺失した日本人にこそ、読むべき本
海外でも日本の戦前と戦後を断絶したものと捉えられているが、敗戦してなお「昭和」という年号を維持したことが、その継続を色濃く象徴していて、吉田茂という伝統的な保守主義者こそがそれを証明する存在なのだ

吉田茂自由民権運動の闘士・竹内綱の五男として生まれ、父の投獄後にその親友・吉田健三のもとで育てられる。健三は横浜の貿易商であり、40歳で養父が死んだとき、11歳で莫大な遺産を継いだ
1906年に東京帝国大学法科大学から外務省に入省。同期の首席には、広田弘毅がいた
吉田は外交官として多くの期間を中国で過ごした
張作霖政権に対し、排日新聞の販売停止、長城以南への侵攻禁止、日本製品の不買運動の取り締まりなど、関東軍もびっくりの干渉を行う。その一方で、中国南部に権益を持つイギリスへの協調を探り、日英同盟の復活を目論んだ
欧米列強との協調しつつの帝国主義こそが戦前の吉田茂で、自由主義といっても19世紀的な自由主義者なのだ
日中戦争前夜には、同期の広田弘毅に請われ駐英大使となる。ロンドンでは同じ古い自由主義者(帝国主義者)を訪ね日英協調を目指すが、日本の世論を極めて楽観的に語り、本国政府との見解の齟齬を見透かされて、まったく信用されなかった
イギリス側にも古い帝国主義に惹かれる者は多かったが、日中戦争が深刻化し日本国内が好戦的になったこと、アメリカが民族自決、門戸開放の「道義外交」にこだわり、それを無視しがたいことから、お流れとなる
吉田は中国人に近代国家を管理する能力がないと見下していて、その民族主義の昂揚を認めないことは致命的だった

太平戦争前夜には、外務省から退官した身ながら、天皇の重臣・牧野伸顕(大久保利通の息子)の娘と結婚していたことから、その影響力を残していて駐日アメリカ大使ジョセフ・グルーに対し、積極的に日米関係の改善を働きかけた
しかし、例によって楽観的な見通しを語ることから、交渉相手からは信用されない。外交官としての吉田は、執念以外に取り柄がなかった
そして、開戦してからは反東条運動のいわゆる「ヨハンセン・グループに入り、新内閣のもとでの終戦を目指す
グループのメンバーは、近衛文麿、若槻礼次郎といった首相経験者、岳父・牧野伸顕、吉田と同じ古い自由主義者・鳩山一郎真崎甚三郎・真崎勝次兄弟、小畑敏四郎といった2・26事件に関与した皇道派軍人、終戦の総理となる鈴木貫太郎などなど
倒閣後に宇垣一成と首相として、陸相に皇道派を据えて統制派を一掃し、終戦への道筋をつけるという、陸軍内のクーデターを狙った構想だった
しかし、実際の東条内閣退陣につながる影響力はなく、鈴木貫太郎の首相就任にも関わらなかった
唯一、近衛上奏文事件だけが実行され、それをきっかけに吉田は憲兵に収監されることになる。近衛上奏文は、1945年2月に近衛文麿が天皇に提出した文書で、戦時体制の統制経済は日本の赤化を勧めるものであり、その戦争の継続と敗戦は最終的には共産主義者に利し、国体を損ねると警告するものだった
従来から吉田は国際情勢における共産党の暗躍を重くみていて、日独伊防共協定も反共の観点からイギリスを説得しようとしたことがある。その陰謀論的な共産主義への警戒心は、後に日本版レッドパージを生むこととなる
ともあれ、吉田は反戦運動によって捕まることで、平和主義者としての勲章を手に入れて、戦後の飛躍につながっていくのだ。ただし、入牢直後には戦争遂行に協力すると“反省”していて、知り合いだった阿南惟幾の配慮によってその囚人生活は優雅だったという


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