『ヒンデンブルク炎上』 ヘニング・ボエティウス

墜落原因は今も謎


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1947年。ヒンデンブルク墜落事故に巻き込まれたスウェーデン人記者ビルガー・ルントは、船内で知り合った女性マルタを訪ねた。ルントは事故で死んだと見なされ、顔を整形して別人の人生を送っていた。ヒルデンブルクの一件が忘れられない彼は、元操舵手ボイセンから事件の真実を得ようとフリースラントの島へ向かう

墜落したヒンデンブルクの昇降舵手を父に持つ作者が、事件の真相とその時代に生きた人々の真実を追う物語
作中に出てくる操舵手エドムント・ボイセンは、父をモデルにしたおぼしく、船乗りから飛行船のスタッフになる経緯を、子供時代から丹念に追っている。半ば、父を題材にした文学小説と言っていい
対して事件を追うビルガー・ルントは、墜落の直前からようやく乗客として姿を現し、事故後に顔と経歴を失って、当事者でありながら家族のもとへ帰れたボイセンと対照的な存在に描かれる
小説の原題『Phoenix(不死鳥)』で、それを意味するのは破壊からの再生。ヒンデンブルクという悲惨の事故を直視することで、別人を生きるルントは人生の意味を取り戻す
ボイセンにとって見れば、事故を直視することは、ナチス・ドイツという忌まわしい過去を見つめなおすことであり、そうしてこそ「ドイツ人の真の再生」は成ると言いたげだ
ミステリーと思って読むと肩透かしを食う部分もあるが、1910年代から1930年代、そして戦後と辿る物語は、それぞれの時代の空気を匂わせてくれる

ヒンデンブルク墜落の原因は、明確には分かっていない
最近の研究では、外皮塗料が原因で静電気が外へ出なかったという説が有力になっているが、それでも説明できないことがあるようで、作者はそこを突いてナチス陰謀説を唱える
実際、ヒンデンブルク墜落後に同情から米独関係は良化し、ルーズベルト大統領はドイツへのヘリウムガス輸出を認めている
ただしその後のオーストリア併合で、再び関係は悪化しているし、小説で語られる推測にも信憑性が薄い。事故に脱出したルントが反ファシズム活動家から、爆破した犯人と勘違いされて褒められる場面もあり、事件当初は共産党をはじめ様々な陰謀論が飛び交っていた
ともあれ、小説ではヒンデンブルクが平和と科学が両立する象徴であると強調されていて、その墜落を破局の始まりとする文学的表現と見るべきだろう
ルントによると、殺人者とは自己破壊者であり、一人で死ねないから他人を巻き込む。ヒトラーはドイツ国民全体を巻き込んだ破壊者であり、平和の象徴としての飛行船は許せなかったとする。1940年にヒンデンブルクと同型の飛行船は、その建材のアルミニウムを戦闘機に回すために解体されている
そうした破壊者の台頭を許したのが、実直に務め家庭を守る、ボイセンのような平均的ドイツ人だという指摘は、ドイツ人にとって非常に重いものだろう

飛行船の時代はとうに終わったが、ツェッペリン型飛行船は90年代になっても作られている
その名もツェッペリンNT(ニュータイプじゃないぞ)で、骨格を炭素繊維、船体を化学繊維で組んだハイテク飛行船で、訳者はこれを日本に導入する事業に参加していた
2004年から営業飛行したものの、業績不振で2010年に会社が倒産してしまったが、海外ではまだ運行されているようだ


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