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『ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争』 上巻 デイヴィッド・ハルバースタム

日本も機雷の掃海を行っていて、国民の知らないうちに集団的自衛権を行使していた戦争でもある



“語られない戦争”朝鮮戦争で何が起こっていたのか? 末端の兵士の声と上層部の動きを通じて、三年に渡る消耗戦の実像を探る

本書はベトナム戦争を取材した『ベスト&プライテスト』著者デイヴィッド・ハルバースタムが、交通事故死する直前に脱稿した遺作で、ベトナムほど題材にされない朝鮮戦争について徹底調査している
冒頭が中国人民解放軍の参戦で、国連軍が窮地に陥るところから始まる。北朝鮮の攻勢を跳ね返して鴨緑江まで来ながら、アメリカ軍はなぜ戦争を終わらせることができなかったのか、という視点で本書は分析しているのだ
上巻ではマッカーサー、トルーマン、李承晩、金日成、スターリン、毛沢東と重要人物の動静を押さえつつ、戦争前夜の状況、北朝鮮の侵攻と釜山防衛線、仁川上陸作戦から38度線北上までを扱う
著者の興味がアメリカの戦争指導へ向いているせいで、日本の植民地統治を紋切り型で扱ったり、民間人の被害が取り上げられていなかったりするが、自国の指導者の誤りを手厳しく指摘し、多大な犠牲を払った戦争から歴史の教訓として残そうとする意志は明確だ


1.マッカーサーの失策

朝鮮戦争最大のキーマンは、なんといってもダグラス・マッカーサー
仁川上陸作戦から38度線の突破、人民解放軍の攻勢まで、国連軍の実質的な指導者としてその判断がそのまま戦況を左右している
朝鮮戦争時のマッカーサーは70歳で、当時の米軍ではアイゼンハワーをも上回るレジェンド的存在。陸軍士官学校では南軍のロバート・リー将軍以来の成績で卒業、1930年に歴代最年少で参謀総長に抜擢されていた
連合国軍最高司令官として日本の統治にあたっていた彼は、その司令部(GHQ)を中心に本国の掣肘を受けない聖域を作り、情報機関であるOSS及びCIAの介入も許さなかった
その結果、東アジアの情報はマッカーサーとその周辺のフィルターによって遮られ、北朝鮮の南侵が軽視されてしまう。また、1948年の大統領選を意識して、国民受けする兵士の除隊を後押しし、アメリカの抑止力を削いでしまう
開戦当初も北朝鮮の本格的な侵攻と認めず、釜山までの戦線は後退する。太平洋戦争のフィリピン同様、自信過剰で受身には弱い将軍なのだ
しかし、軍事的には危険の大きい仁川上陸作戦を成功させ、アメリカでは名将の列に加わることになる。太平洋戦争の島嶼戦の経験があったものの、二番煎じの元山上陸作戦では上陸する前に韓国軍に占領されるお粗末さで、やはり名将とは言いがたい


2.アメリカの軍縮とアジア軽視

なぜこの時期に朝鮮戦争が起きたのだろうか
まずは1948年に国共内戦が終結し、北朝鮮の金日成が刺激されたこと
満州の抗日ゲリラとして活動し、半島での実績のない独裁者は半島統一の名声を欲していた。人民解放軍から朝鮮系兵士が補充され、ソ連からT-34など受領し、南北の軍事バランスは大きく北へ傾く
アメリカは朝鮮半島の地政学的位置を軽視していて、国務長官アチソンが防衛ラインについて半島に言及しなかったことから、南侵を誘発する

しかし、北朝鮮側にもアメリカが本格介入したことは誤算。国共内戦と同様、外国への侵略と認識されないと判断していたのだ
第二次大戦からの七年間、世界は平和的ムードに包まれ、終戦時1250万人いたアメリカ軍はなんと150万人にまで減少した。核兵器の威力が誇大視され、軍事費削減の観点から通常兵力が軽視されていたのだ
太平洋戦争を戦い抜いた猛者たちは多くが除隊し、次の戦争の主戦場はヨーロッパという判断から、東アジアは手薄な状況に陥っていたのだ


世界大戦で肥大化した軍産複合体がベトナムを招いたという史観は少し短絡的で、大戦後の融和ムードが朝鮮戦争で打ち砕かれたことが実は転換点となっている
日本の平和憲法も、1945年から1952年の極めて楽観的な時代背景から生まれた産物であり、再軍備に日米安保という「逆コース」も現実的な脅威から始まったことを理解すべきだろう


*23’4/14 加筆修正

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