『安倍晋三と岸信介』 大下英治

確かに言っていることは変わらない


安倍晋三と岸信介 (角川SSC新書)
KADOKAWA / 角川マガジンズ (2013-07-25)
売り上げランキング: 42,995


安倍晋三祖父・岸信介から何を受け継いだのか。岸の戦後と安倍の政治家としての半生を辿り、保守政治の再生を描く
冒頭に自民党総裁に就任直前(2012年)のロングインタビューがあり、岸信介に関しては五章中一章が割かれるのみ。本書は基本的に安倍政権への応援歌である
安保闘争のデモ隊に水鉄砲を浴びせたという良く聞く逸話から、世襲議員同士の友情、突然の首相退陣の裏幕、安倍シンパ議員の奮闘、決選投票も危ういと思われた総裁選など、第二次安倍政権を支える側からの視点で全編が描かれている
金丸訪朝団の時代から拉致事件の解決を訴えていて、小泉の訪朝の際に官房副長官として同行し、被害者の報告を知らされて謝罪の要求を進言し、金正日の謝罪を引き出した
政治信条をストレートに表現するが、その時々の役職に応じて国益を優先するというスタンスはブレがなく、党内に派閥を超えた安倍シンパが生まれるのも良く分かる。それだけに第一次内閣での突然の退陣表明は、シンパにとっても衝撃だったわけだが
本書はNHKの幹部を呼び出した事件に触れるものの、現在行われているメディア対策について言及はなく、大胆な金融緩和や肥大化する負債の問題など、厄介な部分には踏み込まない。これからつきあう政治家を悪く言わない配慮が目立って、分かりやすいバイアスがかかっている
それでも、安倍政権を支えている議員たちの意外な側面を覗けたのは良かった

そもそも保守本流とは、なんなのだろうか。戦後民主主義を「保守」とする人もいるが、自民党内における「保守本流」は、結党の理念である憲法改正であり、占領軍に押し付けられた枠組み、歴史観を解消することにある
岸信介は1953年、自由党に加わったとき、自由党憲法調査会の会長となる

『岸信介証言録』(毎日新聞社)によると、岸はこのとき、吉田総裁に次のように言った。
「自分としては、実は今の憲法を改正しなければいけないと思っている。この憲法は、そもそも制定の経緯からして間違っている。憲法調査会会長としては、そういう考えでやりたいと思いますが、いいですか」
吉田は答えた。
「この憲法なんていうのは、改正しなきゃいかん憲法だよ。自分は、実はあの時、この憲法を仕方なしに受諾せざるを得ない立場にあった。これを改正しねければならないと考えてきた。しかし、改正は容易にならんことだ。そこで占領下のうちに改憲をやろうと思って、朝鮮戦争が起こった当時、マッカーサーに相談した。マッカーサーも自分がこれを日本に押しつけたのは間違いだった、改正すべきだと言っていた」(p66)


ここにおいて吉田の軽武装・経済優先路線と岸の保守本流は、対立していなかった。平和憲法の据え置きは、体制を作った本人も意図しないことだったのだ
岸は鳩山内閣で日ソ国交正常化がなったのを受けて、日米安保条約の改定に乗り出す
興味深いのは、当時の社会党を率いる浅沼稲次郎書記長が、沖縄が軍政下のままであることと安保条約が不平等条約であると非難しつつも、安保条約の破棄を求めなかったことだ
実は安保条約に対する認識は、与野党でここまで接近していたのである
また核武装に関して、岸は死の灰を振りまく核爆弾は憲法違反としつつも、現憲法下でそれをのぞく核兵器(原潜、原子力空母)は自衛のためなら可能という認識を示していた
首相就任後に訪米より先にアジアへ行くなど、安倍総理は岸の行動を踏襲していて、思想的にその延長で行動しているのは間違いない

今、世論を揺るがしている集団的自衛権について、冒頭のインタビューで明確に語っていた

 自民党が2013年3月にまとめた「憲法改正原案」では、自衛権を明確化して、自衛軍を保持することを明記し、集団的自衛権も容認する。個別的自衛権というのは、本来持っている機能ですから。憲法九条とは関係ないですから。私は、そもそも憲法九条を変えなくても、個別的自衛権と集団的自衛権は権限として持っていれば、当然行使できるという考え方です。(p35)


個別的自衛権は良くて、集団的自衛権はいけないという内閣法制局の解釈には、党内で親中派とされる高村正彦副総裁すら、疑問に思っている
内閣法制局は、法律の専門家であっても安全保障の専門家ではなく、集団的自衛権の中に日本の生存のための必要最低限のことがあるのに、気づいていないのではないか
その一方で、憲法改正そのものについては、アメリカに派兵を求められても、「あんたらの置き土産のせいで、派兵できない」と断れる部分もある。自民党内では、より多くの党派の賛成が見込める第96条の憲法改正の規定の改正自衛権を脅かしかねない第九条の二項の削除し、自衛隊(国防軍)の存在を明記するというラインで検討されている
本書を読む限り、TPPオバマ大統領から、自民党の政権公約を掲げて「聖域なき関税撤廃を前提としない」という言質をとるなど、第二次安倍内閣は外交に強い人材がそろっていて、着々と点数を稼いでいるように見える。民主党が酷過ぎたから、ハードルが低いのもあるけれど


岸 信介VS大野伴睦 昭和政権暗闘史 二巻 (静山社文庫)
大下 英治
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