『風濤』 井上靖

モンゴル化する朝鮮


風濤 (新潮文庫)
風濤 (新潮文庫)
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井上 靖
新潮社
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13世紀の朝鮮高麗の王子倎は、蒙古に荒らされる本国を救おうと、夏の都・上都を目指していた。偶然にも高麗を苦しめていたモンケ汗が病死し、その弟フビライがその後継者として立つ。倎はフビライに暖かく迎えられ、父王の死を受けて元宗として即位。宰相の李蔵用とともに、国家の建て直しに図る。しかし、南宋と戦争中のフビライが日本に目を向けたことから、その関係は暗転。荒廃した高麗に無情な軍役がのしかかる

高麗の視点から、元寇を描いた歴史小説である
主人公が単一ではなく、元宗、その子の忠烈王、宰相の李蔵用金方慶と代替わりを重ねながら、宮廷での政治を追っていて、合戦の場面などはほとんどない。視点も主要人物に寄り添いつつも、あまり人情を拾わない距離を置いた描写がされていて、文章の格調も高い。漢文の引用も多くて、書物から想像した世界をあまり近代的な小説に仕立てずに、神秘的な味わいを残している
ただ、ラディカルな高麗視点過ぎるので、元寇を巡る事情を事前に知っていないと把握しにくく、ハードルの高さは否めない
親衛隊の反乱と廃立騒動、反乱軍のモンゴル帰属、モンゴル公主との婚姻、達魯花赤占(ダルガチ)の内政干渉、そして二度の元寇。フビライの支持を得て即位した国王父子には、様々な難題が立ちはだかる。本作はまさに、高麗悲惨物語なのだ

高麗はフビライがモンゴル帝国を継ぐまでの30年間、その軍によって荒らされ続けた
南宋が劣勢になるなか、モンゴルへの服属と独立を巡って派閥抗争が続き、都を開城(現・板門店近く)から江華島に移していた
元宗がモンゴルの属国となる決断すると、江華島を警備していた親衛隊「三別抄」が従属に反対し反乱を起こした
高麗では度重なる異民族との戦いから、武臣(武人)が力を持ち、時には王を廃した。元宗も「三別抄」の首領・林衍によって、廃立されかかったこともあったのだ
「三別抄」は島々を中心に海賊化したが、王に忠実な宰相・金方慶と、モンゴルに帰順した高麗人・洪茶丘の連合軍によって討伐された
洪茶丘は父をモンゴルに通じたとして先王によって殺されており、高麗出身でありながらフビライの代理人として、元宗と相対する
元宗と忠烈王はフビライの穏和さと洪茶丘の冷酷さの間で振り回され続けることになる

「三別抄」の乱が収まるや否や、第一回日本討伐(文永の役)が高麗に命じられる
高麗人同士の戦いで、より荒廃の度を増していたのにも関わらず、数万の軍兵と水夫、900隻の建造を命じられ、山々の木々は無くなり、畑を耕す農夫もいない状態に陥った
討伐の準備が始まるさなか、元宗は公主クツルガイミンを王子の妃にもらいフビライの親族となることで、国状の回復を図った
後を継いだ忠烈王は、フビライに直談判して代官(ダルガチ)や洪茶丘などの駐屯軍を召還させ、内政の独立を確保する。そのために、自身や王宮の役人にモンゴル様式の胡服と辮髪を義務づける、わざわざ日本遠征への従軍を申し出るなど、涙ぐましい努力を払わなければならなかった
しかし、フビライが高麗に自主性を認めたのは、遠征に協力させるためだった。南宋の海軍を加えた第二回日本討伐(弘安の役)でも、数万の兵士と水夫の動員を命じられ、そのほとんどは海の藻屑となる
高麗王朝はモンゴルの権威を背景に王権を取り戻したものの、モンゴル貴族化して元帝国と運命を共にすることとなる


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