『ラディカル・ヒストリー ロシア史とイスラム史のフロンティア』 山内昌之

ロシア帝国の真実




ロシアとムスリムの確執はどこから始まったのか。旧ソ連圏の民族問題を歴史的過程から捉えなおす
初出が1991年とソ連崩壊前夜ながら、キエフ・ルーシ、モスクワ大公国時代から遡ることで、チェチェン紛争、ウクライナ問題などが生じる由縁を先回りしたかのように明らかにしていく
旧ソ連は人口にして世界第五位のイスラム教徒を抱えていて、現在のロシアの領域で考えてもシベリアをはじめとする東方は、トルコ系やモンゴル系の遊牧民の勢力圏だった
カスピ海と黒海に挟まれたカフカス地方は、18世紀からロシアが100年がかりで併合した地域であり、現地民との桎梏はロシア文学のテーマにもなった
チェチェンにおける民族紛争は、18世紀に始まる伝統的な抵抗運動でもあるのだ
本書では拡張する帝国とイスラム教徒の軋轢を被支配者側から捉え直し、封殺されてきた歴史を白日の下にさらしている

もともとロシアとイスラム教徒や遊牧民は対立関係にはなかった
ノルマン人の征服者リューリクの末裔たちが、キエフ・ルーシやモスクワ大公国などスラブの諸王朝を起こしたが、東方の「タタール」とは宗教が違えど友好的な関係だった
当時はイスラム教文化を受容した「タタール」のほうが高度な文明を持っており、ルーシ側は「タタール」に奴隷を提供する立場だった。イスラム教徒側が実力的にも文化的にも優位だった時代が長かったことが、現代の紛争を複雑なものとしている
モンゴルのバトゥが遠征するに及んで、ルーシとタタールの均衡は一変。モスクワ大公国は、バトゥの子孫であるキプチャク汗国の属国となる
農奴制や専制君主の伝統はキプチャクの体制から受け継いだもので、ロシア帝国の実質はビザンチンというよりモンゴル帝国の後継者と言っていい
「タタールの頚木」を断ったと言われるイワン4世、チンギス・ハーンの末裔を「全ルーシの大公」に担いだ時期があり、三番目の妻もその血を引く者を選び、いわばモンゴル帝国の後継者として、東方の領有を正当化していたのだ
本当の意味で頚木を断ったのはロマノフ王朝からで、イスラムを野蛮としキリスト教文明を広める十字軍として、各地へ征服に乗り出していく
イスラム教圏との紛争は、この「脱亜入欧」の変節に端を発していて、ピョートル大帝以来、西洋文化を専制的に押し付ける手法は、マルキシズムをイデオロギーとするソ連へ受け継がれて現代に到る
旧ソ連圏の混乱は、国内に植民地を抱えて膨張したロシア帝政が原因なのだ

ソ連は様々な政策を通して、イスラム圏の社会制度を粉砕しようとしたが、その無言の抵抗から果たせなかった
本書では、女性問題に大きく紙数が割かれている
中央アジアでは、女性の地位は男性に隷属するものとされ、基本的に「女の世界は家の中だけ」とされていた。成人女性はヴェールをかぶり、外出するときには夫の同伴が原則。外で仕事を持つなどもってのほかだ
ソ連政府はこの女性差別を突破口にして社会制度を変革しようと、女性の公務員を登用し、女性党員にジェンダー問題の活動を始めさせた
しかし、それに対するムスリム社会の反応は冷淡だった。現地の男性党員や役人は職場から女性を隔離して無視し、酷い地域では女性活動家を集団で暴行、凌辱に及び、なおかつそれが司法の場で正当化されることもあった
強引に女性登用を進める中央政府に対し、現地人からなる地方政府はまったく乗る気でなく、その党幹部や役人は一夫多妻を誇っていた
また遊牧民社会では、娘を嫁入りさせる際に貴重な労働力の見返りとして家畜や生活物資、金銭等を受け取るカーリアという風習があった。近代にあるまじき人身売買として当局から禁じられたものの、今なおこうした風習は存在しているそうだ
そもそも女性側にすら、それが悪いという認識がまったくなかった女性が囲い込まれるのは、こうした男至上の社会や「誘拐結婚」への対抗措置ともいえ、社会的条件が揃わないうちに改革を強要したゆえの悲劇といえよう
そのほか、ムスリム共産主義の英雄スルタンガリエフの悲劇や、旧ソ連の共和国がソ連の管理しやすい都合で民族を分断していたなど、本書は強権が悲劇を呼び、それがさらなる強権を呼ぶという構図を浮き彫りにする
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