『イスラーム国の衝撃』 池内恵

最近、漫画の記事が多いなあ。反省


イスラーム国の衝撃 (文春新書)
池内 恵
文藝春秋
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「ISIL」は、なぜあれだけのことをして潰れないのか。国際的な連帯、宣伝工作、宗教的言説などからその実態を探る
本書はそのどぎつい行動から拡大したイメージで見がちなISILを、その起源から、実際の支持層、外国人兵士の集散、宣伝手法を分析し、実際の姿を測るものだ
国境を越えて欧米にテロを仕掛けたアル・カーイダに代わり、その国際ネットワークを受け継ぐつつも、イラク北部とシリア東部に根付いた経緯イラク戦争、「アラブの春」の失敗から克明に描いている
国際社会全体を敵に回す行為も、実は彼らの世界観では妥当性を持ったものであり、それなりに洗練されたイスラム教の解釈で理論武装しており、有名な人質殺害の映像などにも緻密な計算があって、非常に情報戦に長けた集団でもある
彼らの報道に触れる際に、この本をフィルターして印象操作を退けたいところだ

「ISIL」はいかに起こったか
もともとはザルカーウィが創設したアル・カーイダ系組織に由来しており、アフガニスタンに本拠を置きつつも、ザルカーウィの故国ヨルダンへのテロを企てていた
9.11の報復でアフガンを追われるとイラクへ逃れ、イラク戦争によるフセイン政権倒壊を受けてイラクでの活動を開始する。いくつかの小勢力を合同したものの、ザルカーウィは2006年に米軍の攻撃で戦死してしまう
ただし、この2006年にイラク出身のバグダーディに形式的であれ指揮権が移譲されたらしく、イラクの土着化が始まる
イラク新政府はシーア派中心のマーリキ政権であり、彼らの民主主義は少数民族のクルド人には広汎な自治権や内閣ポストで配慮する一方、少数派のスンニ派はかなり割りを食う体制だった。このため、旧フセイン政権の軍人が「ISIL」になだれ込み、軍隊としての形を整えだす
さらに「ISIL」を後押ししたのは「アラブの春」で、シリアのアサド政権が民主化運動を大弾圧したことから、泥沼の内戦に突入。アサド政権が東部を放棄したことから、そこに後背地を得ることに成功する。たとえ放棄された地帯とはいえ、イラク軍や多国籍軍はシリアの領土をやすやすと空爆できない
シリアのアサド政権はロシアによって安保理の制裁を免れ、イランのシーア派民兵の支援を受けて維持され、サウジアラビアはスンニ派の反政府勢力を援助しており、周辺各国の思惑が入り乱れた鉄火場となっている

著者は「ISIL」の基盤はあくまでイラクのスンニ派地域であって、イラクやシリア全域を制圧する力はないという。しかし、なぜ手強いのか
まず、イスラムの教義を使って、上手く理論武装できていること
元来、イスラムのジハードとは自発性を根本とするが、イスラム教徒が異教徒の支配に屈した際に戦う義務が生じる
「ISIL」は、現在の国境が第一次大戦の列強による分割「サイクス=ピコ協定」に由来するものとして、現政権をいわば異教徒の支配されたものとして否定する。報道において、「ISIL」に参加する兵士が「貧困」を原因とすると語られるが、実際には強い宗教的心情に支えられている。「ISIL」の兵士たちは渡航を自弁に強いられ、決して待遇がいいわけではないのだ
悪名高い奴隷制導入も、実はイスラムの終末論に絡んだ解釈で正当化されていて、実に注意深く伝統的な教義を引用して世界観を形作っている。カルトといえるほど、極端な解釈でもないから厄介で、穏健派から近代的価値観と相容れるような理論が立てられることが期待されるが……

もう一つは巧みな宣伝工作。先進国の人間を人質したり、処刑したりするときに、オレンジ色の服を着せるのは定番化しているが、これはアブグレイブ刑務所での虐待された捕虜たちが同じ色の囚人服を着せられたことに由来する
斬首する映像には、あえてその瞬間を写さない、映画のような演出を意図している。ネットの視聴者が目を背けずに、かつ許容できる範囲でかつ拡散したくなるほど刺激的なラインを狙っていて、流通を意識した編集がなされているのだ
実のところ、現地人も大量に処刑されているのだが、欧米人の処刑を流すことで「ISIL」が反欧米であることを訴え、他国のアル・カイーダ系組織との連携を演出し、潜在的志願者の支持を確保している
日本には日本赤軍からの伝統か、イスラム主義を欧米型近代のカウンターとして見る嫌いもあるので、「ISIL」がアラブの圧政が生み出した現象であって、解決策でないことを再認識するべきだろう


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