『十一番目の志士』 司馬遼太郎

攘夷浪士の深層


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天堂晋助は長州の最下層出身だが、宮本武蔵直伝・二天一流の達人。最初は上士・栗屋庸蔵に仕えるも、その腕を高杉晋作に見込まれ奇兵隊へ入隊。やがて藩の運動を助けるために上京する。禁門の変後には、「たった一人の長州藩」として京に残り刺客として活動を続けた。その尋常でない働きに、新撰組の土方歳三は隊を挙げて探索にあたる内に、ある女と出会う。それは晋助に夫を殺された、栗屋庸蔵の娘・菊絵だった

幕末を揺るがす雄藩のなかで、長州にだけ有名な刺客がいない。もし、宮本武蔵のような使い手がいたら……というわけで生み出された主人公が天堂晋助
オリジナルキャラクターながら無名の剣士として終わらず、薩摩の中村半次郎、肥後の河上彦斎に匹敵する人斬りとして大暴れする
晋助は高杉の駒であり続け、まさに野獣のような男である。標的を躊躇なく斬るのはもちろんのこと、邪魔な人間を何人斬っても罪悪感はない。女が絡むとすぐに押し倒して、なし崩し的に取り込むという、レイパー紛いの悪漢!!
司馬小説でここまでの主人公がいたであろうか(困惑)
晋助を引き立てる高杉晋作に、ライバルに土方歳三をはじめとする新撰組の面々、最大のターゲットとなる小栗上野介、他に勝海舟、坂本竜馬、桂小五郎、広沢平助、伊藤俊輔、井上聞多と幕末の著名人が次々に登場し、緊迫感ある殺陣大人数を回した逃亡劇、そしてめくるめく濡れ場。悪が悪を利用する怒涛のピカレスクロマンなのである

司馬小説というと、合理が非合理を破る物語、理詰めの主人公が典型だが、本作の晋助はその正反対。高杉の論を疑わず、刹那的に立ち回る
なんでこんな主人公を出したかというと、維新回天を押し進めた尊皇攘夷という狂気への探求ではないだろうか
言われたとおりに人を斬り続けた晋助も、故郷が近く百姓出身の赤根武人を追う内に、人間への哀れみと革命への疑いを抱くようになる。赤根武人は同じ奇兵隊であり、路線対立で新撰組に近づいたが、その名のとおり軍人として有用な人物だった
高杉は赤根を生かして連れ帰った晋助に対し、その切腹の介錯を命じる

「こういう時勢は、人を殺すことが大事だ。時勢の進むのを邪魔だてするやつは殺さねばならぬ。殺すにあたいするやつは、むろん尋常なやつではない。赤根武人も尋常な男ではなく、おぬしを魅了したように万人に傑出したやつだ。それはわかっている。生かしておけばかならず次の世に役に立つだろう」(中略)
「しかし殺さねばならぬ。あすに有能かもしれぬが、こんにちの毒物だからだ。いま、時勢は百世に一度の秋である。唐土でいう革命のときにある。それをはばむ者は毒物として殺さねば、日本そのものが万丈の断崖からころげおちる。殺すことは新しい世を生むことだ」(中略)
「殺せ。かつ、殺せ。なおも、殺せ。それが天が命じている天堂晋助の職だ。織田右府をみろ。叡山の僧五千を殺し、伊勢長島の一向宗徒を二万人殺した。その者どもは時勢の打通に毒物だとみたからであり、信長はそれを殺すことを天命だと信じた。天堂晋助は信長ほどに殺したか。殺さねば、あたらしい世は来ぬぞ」
(p290‐291)


フィクションとはいえ、なんちゅう台詞だろうか(苦笑)
非合理なテロを政治的な効果に結びつけるのが革命家・高杉であり、彼がいうに政治に善悪はないあるのは勝敗のみであり、勝つために政治的狂気を動員しなければならないのだ
その狂気を操作した高杉も、病に倒れ役割を終えるように逝く。晋助の刺客としての役目も終わり、実務家の時代が始まる
解説には赤根武人と同郷の奈良本辰也がささやかな修正と、悲劇の志士たちへの熱い思いを吐露している。これも必読である
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