『かわいい女』 レイモンド・チャンドラー

氷かきはアイスピックと書いてくれたほうが。これも時代か


かわいい女 (創元推理文庫 131-2)
レイモンド・チャンドラー
東京創元社
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マーロウのもとに、カンザスから少女が訪ねてきた。依頼人オファメイ・クェストは、行方不明になったオリンを探して欲しいという。オリンの下宿先だったベイ・シティのアパートを訪ね、がさ入れしている最中に、管理人クローゼンが氷かきで殺されてしまった。その後、マーロウを呼び出したアパートの住人も、氷かきで殺された。殺害現場で出会った謎の美女はいったい……

今回は作者自身が深く関わったハリウッドが舞台
原題が「THE LITTLE SISTER」は冒頭の依頼人オファメイ・クェストを指していて、オチを暗示しているけれども、邦題の「かわいい女メイヴィスやドロレスという女優たちも含んでいるようで、より作品の本質に表している
ならず者が住むベイシティにしろ、映画の楽園ハリウッドにしろ、登場人物は一癖二癖あるものばかりで、誰が本当のことを言っているか全く分からない。マーロウ以外は根拠のない流説で済ませ、それが常識として世間が回って行く
本作ではハリウッドをお互いがいいように騙しあうことを前提の、嘘を嘘で塗り固めた魔境として描いている
そうした虚飾を引き剥がす、クライマックスの畳み掛け方が圧巻である。全体としてハードボイルド小説特有の、情を押し殺した端的な文章で作り上げているから、登場人物の内面を暴く場面が非常に映えるのだ
ぶっきらぼうなマーロウくんが、実はこんな緻密を推理していたか、と素で驚けてしまう

中島河太郎の解説によると、ハードボイルド物は推理小説の中でも亜流だったらしい
その元祖はハーメットに始まり、チャンドラーらは既存の推理小説のアンチテーゼとして打ち立てたという
チャンドラーは、従来の推理小説はそのトリックの奇抜さに焦点が当たり、登場人物の背景や世界のリアリティがおざなりになっていると批判している。要約すると「緻密な殺す仕掛けを作って、なんのアクシデントも起きないのはなぜか? それには神の摂理がいる」
推理小説という形式への限界を痛切に感じていて、たとえ文学的に血の通った人間を書けたとしても、推理小説のお約束に吸い込まれればただの木偶になる
「不朽の傑作を書こうなんて大それたことを夢にも思ったことはない」。そんな諦観(韜晦?)のもとに書かれた作品世界がなんと豊饒なこと
本作でも欲望が渦巻くハリウッドの魔境ぶりに、戦前の素朴なロスへの思いが吐露されて、極上の玩具に留まってはいない


かわいい女 / Marlowe
かわいい女 / Marlowe
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