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『闇の公子』 タニス・リー

久しぶりに海外ファンタジーを読んでみた

闇の公子 (ハヤカワ文庫FT)闇の公子 (ハヤカワ文庫FT)
(2008/09/05)
タニス・リー

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欧米のファンタジーは本場だけあって、風景やモノの描写が緻密で世界観がしっかりしている。この作品はそれに加えて、訳された文体が詩的でいわゆる美文調。まるで昔から伝えれた物語を読んでいるようなのだ
話は闇の公子アズュラーンが己が欲するままに、地上の人間どもに残酷な悪戯を仕掛けていくもの。章ごとに独立したエピソードからなっているが、背景世界は共通している。一応時系列に並んでいて、前の章に登場した人や事柄が何気なく絡んでくる。またこの絡ませ方がうまい
女性ならでは感性か、向こうのファンタジーにしては、人間側の主人公たちははかなくたおやめ調で源氏物語に近いものを感じる。特に男主人公たちが皆、控えめでどこか、か弱いのだ(逆に女性では世界を制する女帝が登場する!)
何かアズュラーンがいじめたくなるのも分かる気がする(笑)。ただそういうか弱い人たちが逆境にささやかな抵抗していくところは、心打たれるものがある
最初は完全無欠で反則に見えるアズュラーンも、章を経るごとに徐々にその弱点が見えてくる。限界とともに彼のポリシーも分かってきて親しみも湧いてくる。そして最後は自分が散々もてあそんできた人類のために・・・(ここまでのもって行き方がとても上手い!)
男・アズュラーンである

世界背景のモデルは、古代ギリシャやオリエント、地中海世界というところなのかな。アズュラーンは海の世界には力を及ぼせないというところ、ギリシャ神話のポセイドンとハデスの関係を想起させる。キリスト教以前の多神教の世界
妖魔が主人公だけあって、地下世界の描写が充実。宝石が散りばめられた宮殿などの風景描写もピカ一だけど、面白いのが闇の住人たちの生活まで詳細に描かれていること。地下世界の妖魔関係(!)がもう見てきたかのように書いてある
特に、作者は闇の住人たちの官能について、人間側もそうだけど躊躇がない。最初の方にアズュラーンは若者にアーッしちゃうし(笑)、闇のこびとと蜘蛛のご婦人(!)との濡れ場まで・・・。ここまで妖魔たちの社会生活を生き生きと書いた作品ってないのではないだろうか

人間側がもてあそばれる話で、特に熱血漢にみたいな人が出て話を盛り上げることもない。基本は昔話を語るような視点で物語は進んでいくので、ヒロイックな話を期待する人には余り向いていないかもしれない
が、ここに語られる物語は紛れもなく一級品。美しい言葉の響きが詰まった名作だ

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