『世に棲む日日』 第3巻 司馬遼太郎

人は過ちを繰り返す


世に棲む日日〈3〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎
文藝春秋
売り上げランキング: 1,033


上海から戻った高杉晋作は、幕府を倒すべく攘夷運動を再開した。御殿山に建設中のイギリス公使館を焼き討ちし、京都に上洛した将軍・家茂の暗殺まで計画する。暗殺計画が流れた後、長州に戻って東行と称して山に籠もるも、外国船への砲撃をきっかけに藩の要職につくことに。攘夷に燃える体制の中、庶民の職業別軍隊「奇兵隊」を創設する

第三巻もめまぐるしい大転回を遂げる
高杉たちの御楯組による英国公使館焼き討ちに、薩摩と会津による長州を追い落とす八月十八日のの政変、それに対する禁門の変、馬関の外国船砲撃に始まる下関戦争4ヶ国連合艦隊の報復、そして第一次長州征伐と、長州は天国と地獄を味わうことになる
高杉の革命思想は日本であれ長州であれ、戦争で滅亡の淵に突き落とすことで体制を変えるという凄まじいもの。その敗戦革命論は、松陰の「死地」解釈にも通底し、師の思想を引き継いだといえる(『井伊直弼の首 戦国バトル・ロワイヤル』
しかしその裏腹に、上士身分として育った高杉は、藩主父子への忠誠心も強い。御輿のように利用する普通の藩士たちに比べ、張り裂けそうな悲痛を抱えていた

長州藩は長井雅楽の開国論が藩論となったのも束の間、坂下門外の変で藩内の公武合体論が力を失い、周布正之助を首班とする攘夷派が優勢となる
桂小五郎久坂玄瑞を中心に京都政界に盛んに政治工作を行われ、将軍が京都に上洛して攘夷を約束するという異常事態を起こして見せた。高杉はこの時に将軍暗殺を狙い、一部露見したことで僧に身をやつす
幕府が攘夷を約束した5月10日に、長州は下関に航行する外国船に砲撃を開始。一躍、尊皇攘夷の雄藩として知られることとなる
しかし長州の独走に危機感を覚えた薩摩は、京都守護を預かる会津藩と手を組んで、8月18日にクーデターを決行。七公卿の都落ちとともに、影響力を失ってしまう
来島又兵衛らの強硬派は藩主の冤罪を認めさせようと朝廷への強訴を決め、周布や久坂玄瑞が止めるのも聞かず、禁門の変に到るのだった
小説で高杉は来島に煽られて京都へ様子を見に行くが、強硬派を止められない憂鬱を中岡慎太郎に知られ、島津久光の暗殺を企てている。結局、国に呼び出されて禁門の変の圏外に逃れるが、斜め上に見えてありうる話だから困る(苦笑)

高杉に並んで活躍するのが、意外にも井上聞多(のちの井上馨)!
井上家はかつて毛利家と並ぶ安芸国人の名家であり、藩主・敬親の小姓として愛されて「聞多」の名をもらっている
攘夷の正義派に属しながら、攘夷の限界をわきまえていた周布政之助は、イギリスへの留学生派遣を決めており、早耳の井上友人の伊藤利助(のちの博文)ともにその人員へ入り込んだ
イギリスの社会を直に接した井上と伊藤は、四カ国艦隊との戦争を知って、急遽帰国。戦争の回避に奔走する。小説ではここの紆余曲折を生き生きと活写される
開戦前に講和論を蹴られた井上は、開戦直後に敗戦が悟った首脳部に、停戦交渉を命令される。それに井上は手のひら返しに怒る怒る! 一度戦争が始まったら、途中で止まるものではない
一通り、長州側が粉砕されてから、架空の家老・宍戸刑馬を名乗る高杉の通訳として、井上は講和交渉に参加。幕府に賠償金を押し付け、彦島の租借を回避する形で決着する
しかし、講和を実現した高杉と井上に対し、攘夷派は裏切り者とし刺客を差し向ける。さらに第一次長州征伐から復活した俗論派(佐幕派)の壮士が二人を狙い、聞多は瀕死の重傷を負い、正義派の首領・周布政之助は自殺に追い込まれたのだった
島国の人間は外国と直に接しないゆえに、観念で外国を捉えて極端な好意と恐怖にぶれる。そして身体的に外国に接した人間の正論が抹殺される
観念先行で内輪優先で始まった戦争、空気の読めない少数派へのテロと粛清、結果に責任をもたないヤクニン、敗戦後のけろりとしたレジームチェンジに、司馬はその70余年先の敗戦した日本を見る。司馬は昭和の戦争を小説の題材にしなかったが、ある意味その必要はなかったのだ


次巻 『世に棲む日日』 第4巻
前巻 『世に棲む日日』 第2巻

関連記事 『井伊直弼の首 幕末バトル・ロワイヤル』
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

コメント

コメントの投稿

非公開コメント


(この一行は、各ページ下部に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
カテゴリ
SF (22)
RSSリンクの表示
リンク
FC2 Blog Ranking
ランキング
アクセスアップ!?
検索フォーム
はてな
この日記のはてなブックマーク数
タグランキング

サイドバー背後固定表示サンプル

サイドバーの背後(下部)に固定表示して、スペースを有効活用できます。(ie6は非対応で固定されません。)

広告を固定表示させる場合、それぞれの規約に抵触しないようご注意ください。

テンプレートを編集すれば、この文章を消去できます。