『高い城の男』 フィリップ・K・ディック

『ブレードランナー』の原作が一番有名?


高い城の男高い城の男
(2012/11/30)
フィリップ・K・ディック

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第二次世界大戦をドイツと日本が勝利した戦後。合衆国は戦勝国に分割統治され、アメリカ人は傀儡政府に支配され、枢軸国の人間に平身低頭する生活を送っていた。西海岸に住む故買商のロバート・チルデンは、日本人相手に戦前のアメリカ製品を骨董品として売ることで生計を立てていて……。様々な立場の男女が変貌した世界をサバイヴする!

「天才」と言われたSF作家フィリップ・K・ディックの代表作
ユダヤ人の職人フランク・フリンク(フィンク)、フランクの妻ジュリアナ、故買商ロバート・チルデン、日本の通商代表部田上信輔といった、架空の東海岸に住む人々が巻き起こす悲喜劇を描いている
現実の歴史と逆の結末をたどった戦後を描くことで、アメリカにおける日本人の印象、人種差別を赤裸々に暴いてみせているが、それは枝葉にすぎない
本物と偽物を対置させ、よく出来た偽物=模造品が本物を超えてしまうというテーマを中心にすえ、最後には近代的個人の自由意志、作家性まで否定するに到る
そうした高尚なテーマを抱えながらも、過酷な世界を生きる人々の情感も丁寧に掬い上げていて、なるほどSF史に残る傑作なわけだ

本作品の世界は、枢軸国が勝利した戦後
支配階層である日本人は、アメリカの骨董品を嬉々として買い集めバブル時代のロックフェラービル買収などを思い起こさせる。作品が出版された60年代では、まだ日本製品が安かろう悪かろうの時代のはずだが、西ドイツとともに旧枢軸国の復興が将来の脅威になりつつあったのだろう
故買商のロバート・チルデンはフランクの作った装具品が、日本人の容赦ないエコノミック・アニマルぶりに舌打ちし、模倣ばかりが得意と罵る
しかしフランクの装具品はその歴史性の無さから、田上の胸を打つ。今度はアメリカ人がより優れた模造品を作ることで、敗戦から立ち直るのだ。これも戦後日本の似姿のようだ
物語の世界は、ドイツと日本の核戦争を匂わせて終わる。冷戦の時代では、核戦争の世紀末はSFで散見されるもので、偽の世界の結末もそれにもれないわけだ

本作を重層的にしているのは、枢軸国が勝利する世界の中で、ソ連を除く連合国が勝利した架空戦記『イナゴ身重く横たわる』の存在である
その小説ではアメリカとイギリスが勝利し、両国の最終決戦でユニオン・ジャックが勝つ。本作の世界観に対応するような斜め上の結末である。しかし占領下の人々には、枢軸国勝利の現実より小説の虚構が勇気を与える
ネタバレをすると、タイトルの“高い城の男”とはこの小説の作者アベンゼンであり、彼は要所で『易経』を用いてプロットを決定していた。『易経』とは、古代中国から伝わる細い竹数十本を使う占い、占筮のバイブルであり、八卦と八卦の組み合わせより六十四卦のパターンから将来を占う
職人フランクや日本人田上も困ったときには『易経』で占っており、アベンゼンも例外ではなかった。この世界で読みつがれる名作(?)は、実は作家性を放棄したところで作られていたのだ
ここにおいて、近代小説におけるオリジナル=作家性の神話は否定される。まったくの模造品が、世界に流通し人の心を救ってしまう
驚愕すべきは、解説で明かされる真実である。この『高い城の男』は、本当に『易経』を用いて作られていた!!
登場人物たちが占筮するところでは、ディック本人が占筮して展開が決まったという。その発想がオリジナルである
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