『太平天国』 第4巻 陳舜臣

ひとつの小説で語れない題材

太平天国〈4〉 (講談社文庫)太平天国〈4〉 (講談社文庫)
(1988/12)
陳 舜臣

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南京を制した太平天国は、北京を目指し北伐の軍を発した。快進撃を続けるも、北京を目前に満州・蒙古騎兵の決死の抵抗に遭い、冬将軍を受けて壊滅してしまう。長江上流からは、曽国藩によって組織された新軍隊「湘軍」が迫り、消耗戦へ突入した。前線で存亡を賭けた戦いが続くなか、首都・天京では東王・楊秀清の専横に対する内紛が勃発、血で血を洗う大政変で太平天国は傾いていく

太平天国は16年間も頑張った。そのおかげで、最終巻はかなり駆け足気味だった
貿易商「金順記」の主人・連維材は、外へ目を向けない太平天国に中立を保つも、愛人である西玲は一方的に肩入れし、北京に天京(南京)にと奔走する。急に現れて歴史を動かすのだから、びっくりである(苦笑)
第3巻まで視点キャラを務めていた連理文は、恋人の李新妹と共に南京を避けて上海へ。上海では、太平天国を契機に天地会系の小刀会が反清朝の兵を挙げ、英仏租界をバックに抵抗を続けていたのだった
小刀会は一年で鎮圧されたものの、清朝の弱体に気づいたイギリスはアロー号事件をふっかけ、北京近郊に迫って新たな条約で権益を拡大した
太平天国は単なる中国大陸の内乱ではなく、イギリス、フランス、アメリカといった列強の帝国主義が絡んだグレート・ゲームとなったのだ
ここまで話が大きくなると、オリジナルキャラを太平天国に出入りさせるだけでは、手に余ってしまう。小説として成功しているとは言い難いが、太平天国の実態を描ききった作品として、非常に貴重である

太平天国の前に立ちはだかったのは、まず新しい軍隊だった
曽国藩が築いた「湘軍は、羅沢南の私塾を中核として生まれ、単なる義勇兵ではなく学問の師弟関係を基礎としていた。そこから将校と兵士の区分けが生まれ、指揮系統が明確な軍が生まれた
また、地方政府や北京から独立した司法組織「審案局を創設し、密告をも奨励して厳正な法で粛軍を徹底した
ただし、「湘軍」は王朝から由来しないため、曽国藩個人にしか忠誠を誓わない危険があった。ゆえに中国最初の近代軍閥といわれた
もうひとつは、ウォード、ゴードンら外国人部隊
フレデリック・タウンゼンド・ウォードは、上海商人の要請で水兵中心の洋式軍隊「常勝軍を編成、現地の中国人を吸収しつつ上海の戦線を担った
チャールズ・ジョージ・ゴードンはイギリスの将校ながら、淮軍の李鴻章と協力し太平天国の滅亡まで活躍する
千歳丸で上海に来ていた高杉晋作は、「常勝軍」の活躍から「奇兵隊」を考案したといわれる

しかし、太平天国の息の根を止めたのは、主要幹部の大粛清、「天京事変だろう
実質上のトップだった東王・楊秀清が、天王・洪秀全からの禅譲を計画したことから、洪秀全は有力な二王、北王・韋昌輝、翼王・石達開に密使を派遣。先行した韋昌輝の軍によってまず、楊秀清が血祭りに上げられて、天京は東王派への大虐殺で血に染まる
次に、大虐殺に反感が集まった韋昌輝を、翼王・石達開が粛清し、ひとまず惨劇に幕が下りる
権力の地位に舞い戻った洪秀全は、愚かな二人の兄を信認し、身内による側近政治を始めたに過ぎなかった。著者はこの展開に、権力の狂気であると呻かざる得ない
なぜ太平天国は自滅したか
ひとつは宗教組織の枠組みを維持したから。組織が大きくなっても、楊秀清は開祖である洪秀全をトップの地位から引きずり降ろせなかった
そして、洪秀全があくまで宗教家にすぎなかったこと。楊秀清がいなくなってから、権力者として露出すると、無能な身内で固めた側近政治しかできなかった
楊秀清も拝上帝会の宗教性を解体できず、前近代の英雄らしい強引な政治手法で寝首をかかれる羽目になった
洪秀全が象徴的地位にいて、楊秀清が実権を握る二重権力体制がもっとも安定していたように思えるが……

著者が連維材の口を借りてつけくわえるのは、海外へ目を向けていないこと
上海を目前しながら、アヘン交易を理由に小刀会を見殺しにし、結果的に上海発の外国人部隊「常勝軍」の進撃を許した。アヘン貿易を許せないのは分かるとしても、もう少し柔軟な対応はできなかったのか
第1巻に大久保一蔵(後の大久保利通)を登場させたのは、日本の読者へのサービスではない。太平天国の旗揚げから滅亡の間に、日本は黒船来航→王政復古を経ているのだ
日本の王政復古が、古い権威である天皇を薩長土肥の志士が担ぐ二重権力体制で上手くいったのは、文化と歴史の違いというしかない
それでも、古びた王朝政治を終わらせたという点で、太平天国の意義は大きい
太平天国の生き残りから話を聞いた孫文は、“第二の洪秀全”を目指し革命の道を突き進んだのだ


前巻 『太平天国』 第3巻
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