『太平洋戦争と十人の提督』 下巻 奥宮正武

南雲中将の名誉回復


太平洋戦争と十人の提督〈下〉 (学研M文庫)太平洋戦争と十人の提督〈下〉 (学研M文庫)
(2001/09)
奥宮 正武

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下巻は「絶望の戦い」と題した、台湾沖航空戦、フィリピン沖海戦(レイテ沖海戦)から沖縄戦、そして日本軍の本土防空体制、潜水部隊の戦い、海上護衛部隊の活動を取り上げる。最後には、タイトルにある通り、著者が接した10人の指揮官の戦いぶりを評論する
すでにマリアナ沖海戦で連合艦隊を事実上失っていた日本軍は、基地航空部隊をもってアメリカの機動艦隊と戦う。質量ともにアメリカに突き放されたため、虎の子のT攻撃部隊を台湾沖航空戦で失われ、神風特攻作戦に追い込まれていく
著者はマリアナ沖以降の戦いを、何かのためではなく、「戦いのための戦いと評する。山本五十六の死後、どう負けるかという筋書きを欠いたまま、日本海軍は戦い続けて特攻作戦までやってしまった
その原因を、陸海軍(参謀部、軍令部)、政府が一致しなければ何も決まらない政治システム、「統帥権の独立」とする。明確なリーダーを欠いたまま、戦争に突入したのは参戦国の中で日本だけだったのだ
海軍にどっぷり浸かった人なので、軍の体質そのものにはやや甘いが、南方作戦を立てるわりに補給線防衛を軽視、あるいは潜水部隊の育成を怠るなど、軍事技術の面では手厳しい
戦う前に負けていたという結論には、身もふたもないが納得である

10人の提督への批評が面白い。何人かは評価が180度変わってしまった
ミッドウェイの敗将というイメージが強い南雲忠一中将だが、著者の評価は高い
ミッドウェイはそもそも作戦自体、山本五十六大将がリスクのあるものと考えており、予測しがたい不運が重なったとする。そして、連合艦隊司令部がアメリカの空母が真珠湾を出港したことを連絡しなかったこと、旗艦大和を中心とする戦艦部隊が後方すぎて南雲艦隊を支援できなかったことなど、実は山本五十六にも瑕疵があったとする
最近の映画でも、山本五十六が南雲中将を許す場面が作られたりしているが、その構図には山本大将を神聖視する力が働いているのだろう
南雲中将自身はガナルカナルの南太平洋海戦において、ミッドウェイのリベンジに成功している

真珠湾攻撃以来、南雲中将とともに空母部隊を指揮した小沢治三郎中将は、海外でも評価が高い。しかし著者はこれを買いかぶりとし、マリアナ沖海戦においてメッキが剥がれたとする
マリアナ沖では古賀峯一大将の戦死により急遽、豊田副武大将が連合艦隊司令長官に就任していて、悪名高い「アウトレンジ戦法」をとらせたのは、小沢中将の影響で間違えないらしい
米航空機の優秀さと数量、訓練も数も足りない自軍の航空戦力を、この段階で見誤るのは、度し難いというわけだ
山本五十六、米内光政と「海軍左派トリオ」と言われた井上成美は、軍政では海上輸送の護衛艦隊を提言するなど良識派とされたが、実戦ではミスが多い
開戦当初の快進撃の時点で、ウェーク島の占領に失敗し、珊瑚礁海戦では米空母ヨークタウンを追い詰めたのに航空攻撃を徹底せず、逃している
後にヨークタウンの航空機はミッドウェイ海戦時に、南雲中将の旗艦・赤城を撃沈させ、山口少将の飛龍を大破させた。逃した魚を大きかったのだ
部下を煽るわりに、自身が指揮する段になると優柔不断な指揮官が多かったと著者は愚痴る

フィリピン沖海戦で湾内に突入しなかった栗田健男中将は、作戦を不意にしたと批判されることが多い。著者によれば、これは大きな的外れ
栗田艦隊の任務は湾内の米艦隊と輸送団の撃破だが、湾内の情報をまったく知らされず、伝えられたのは西村艦隊がスリガオ海峡で全滅したことだけだった。すでに連日、敵艦隊との予期せぬ激戦を続けていたわけで、果たして制空権を完全にとられた段階での突入にいかなる成果が上げられたか
この海戦では、初めて特攻作戦が取られた。著者はその起源について、とりあえず大西中将とその部下からとしている(実際には軍令部が有力)
出撃する飛行機が次々に撃墜される現実があり、どうせ撃墜されるなら刺し違えるつもりで、という気運もあったようだ。作戦当初に護衛空母を撃沈させるなど、普通攻撃よりも戦果を上げたことから、渋っていた他の部隊にも広がり作戦として定着したようだ
本書では海上や水中からの特攻作戦にも淡々と触れていて、普通の船で近づけない状態でなんでそんな作戦を立てたかと愕然とさせられる。やらせる軍の体質もさることながら、それを受け入れてしまった村社会的な空気、日本人の生命観があって、それが過労死を生む今の社会にもつながっている


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