『太平天国』 第1巻 陳舜臣

イデオロギー政党の魁


太平天国〈1〉 (講談社文庫)太平天国〈1〉 (講談社文庫)
(1988/11)
陳 舜臣

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阿片戦争から七年後の中国。生活苦から流民が生まれ、華南を中心に白蓮教徒、任侠の徒が蜂起していた。貿易商・連維材の子、連理文は、父の命でキリスト教をもとにした拝上帝会へと潜入する。連維材は拝上帝会に資金援助し、清朝の打倒と新中国の夢を賭けていたのだ。創始者の洪秀全は、任侠系の天地会を利用しつつも、自身の軍隊を厳しい戒律で縛り、精鋭を養っていた

太平天国を題材にした陳舜臣の長編歴史小説
主人公(?)の連理文は、小説『阿片戦争』に登場した連維材の子で、悲劇のヒロイン・西玲さんなど、同作に登場したオリジナルキャラクターが登場する
単に史実の人物を出すだけではなく、史書に語られぬ場所にいたであろう人々に着目して、いろいろな視点から歴史空間を描くのが、氏の作風
その息子がどう太平天国に関わるかと思ったら、堂々と組織の一員として参加しギョッとしたが(失敗したら一族は処刑!)、それだけ太平天国が歴史の可能性を抱えた存在ということだろう
彼らを鎮圧すべく再び欽差大臣に命じられる林則徐が、改造された人間の集団として評価し、「中国の将来を託すに足る連中かもしれない」とこぼす場面が印象的だ

太平天国の母体となった宗教組織、拝上帝会は、キリスト教をもととしつつも、道教のイメージを流用したような神話を持つ
プロテスタントの牧師が配った『観世良現』を引用して、「GOD」=「上帝」と表現し、イエス・キリストを「天兄」とする
唯一神が「帝」なため、洪秀全は太平天国を建てたあとも「天王」と称さざるえず、イエス・キリストが長兄で皇太子扱いなので、跡継ぎも「幼主」と言わなければならなかった
組織の序列は、創始者の洪秀全が最上位で宗教的権威を背負い、馮雲山が組織運営に辣腕を振るったが、不気味なのが楊秀清という存在
楊秀清は文盲ながら機転に富んだ人物で、官憲の弾圧を受けて教団が危機に陥った際に、神やキリストを自らに降ろす「天父下凡」「天兄下凡」といった神がかりで鎮めた。英雄としての器といい、信者の掌握の仕方といい、洪秀全と並ぶ実力者なのだ
主人公たちも組織が二つに割れないか心配で、洪秀全に力を集めるように工作しているが……

拝上帝会の強みは、厳しい戒律による団結と革命的な世界観
信徒は入信する際に、「聖庫」と呼ばれる教団の倉庫に全財産を投じなければならず、軍隊では「男営」「女営」とたとえ夫婦であっても男女が別れて暮らさなければならなかった。ただし、これは清朝を打倒するまでとされていた
拝上帝会が広東で生まれた背景には、華北から流れてきた「客家」の存在があり、洪秀全自身も客家の出身。彼らは貧しい土地で暮らさざる得ず、現地の住人から数百年差別を受けてきたため、独自の習慣を保ち独立心が強かった。女性に纏足をする習慣がないため、拝上帝会には多くの女性兵士がいた
一番の特徴は、キリスト教を元としながらも、強烈な民族主義だろう
支配民族である満州族を「韃妖」と表現し、清朝の役人を「妖人」と呼ぶ。「妖」とは、地上の人間をむさぼる“妖魔”という意味合いがあり、イデオロギー上の敵である
清朝の関係者を同じ人間と見なさないことで、一切の妥協を許さない革命集団に育てたのだ
この構造、「妖人」を「富農」に置き換えると、そのまま共産党になるではないか
中国の歴史において、宗教は社会的な世界観を塗り替える力を持っていて、古今を通じて当局の監視と弾圧を受けるのはこうした歴史を持つからだろう


次巻 『太平天国』 第2巻

阿片戦争(上) 滄海編 (講談社文庫)阿片戦争(上) 滄海編 (講談社文庫)
(1973/08/29)
陳 舜臣

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