『風雲児』 下巻  白石一郎

いちおう、南部の国王になってました

風雲児〈下〉 (文春文庫)風雲児〈下〉 (文春文庫)
(1998/01)
白石 一郎

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シャムに渡った山田長政は、ソングダム国王に気に入られ、アユタヤの日本人町でなくてはならない存在に成長していった。西方のビルマ、スペイン海軍との戦闘に勝利し、日本人町の頭領と国王親衛隊隊長を兼ねるようになる。しかし、ソングダム王の寵臣プラオン・シーサラバの暗躍によって、王の代替わりが相次ぎ、長政ら日本人の立場が危うくなっていく

下巻はシャムに舞台が定まって、武将としての働きが多くなっていく
海外の日本人たちは、日本での前歴にこだわらず、馬鹿にされないように武士でない者も武士のような苗字を持つ。仁左衛門が“山田仁左衛門長政”を名乗ったのもそのためで、日本人町は頼りになりそうなものなら、豊臣の旧臣であろうと受け入れていく
流入する牢人の中に、駕籠かき仲間だった鬼熊がいて、実戦経験に乏しい長政を補佐する存在に。忘れそうなぐらい前半に登場した人物が拾ってくれるのは嬉しい
上巻より戦闘の場面は増え、象兵やガレオン船など巨大な敵との迫力ある戦いが描かれている。鬼熊を加えた日本人たちは決死の戦いで勢力を増していくが、奇々怪々なシャム王宮の暗闘に巻き込まれ、冷たく排斥されていく
日本人がまったくの異郷に入り込み、そのジャングルに飲み込まれていく『地獄の黙示録』のような物語でもあるのだ

シャムは仏教国ながら、国王そのものにも宗教的権威があり、たとえば国王の家族に国王以外の家族が触れることは死刑になる掟がある
また王宮はある種の神殿とも考えられていて、国王が王宮を失うのはその資格を失うこととされる
国王自身は都で直属の奴隷を率いるのみで軍隊をもたず、地方の豪族が州司令官を兼務して軍を養っている。王は宗教的権威をもって、豪族を動員し軍を集める
しかし日本の天皇制のように、象徴的な地位ではなく、臣下の生殺与奪を握る、れっきとした専制君主であって、反逆者には苛烈な粛清を行う
そうした国王の手から逃れられるのは、治外法権にある仏僧だけで、政争に敗れた王族は頭を丸めて世を忍ぶ。日本の戦国時代にもある光景だが、仏教の権威の重みが一味ちがうようで、元王族の僧侶を殺すためには一度自らの意思で還俗させねばならない
勇者的主人公である長政はこうした異質な慣習を持つ社会に、日本人であることを捨てきれずに苦しんでいく。シャムの女性と結婚し、子供にシャム名をつけてなお溶け込めないところに、移民の辛さがある
現代でも日本企業が東南アジアへ生産拠点をつくっていて、日本人が向こうの社会とかみ合うかは、普遍的なテーマだろう

シャムのアユタヤだけでなく、カンボジアのプノンペンにも日本人町があり、当地の日本人はカンボジア王室に仕えて、やはり用心棒的な役割を果たしていたようだ
当時のシャムは、西のビルマ(現ミャンマー)、東のカンボジア、安南(現ベトナム)といった四方の王朝と領土の争奪戦を繰り広げる一種の戦国時代であり、ビルマにはポルトガル人の砲兵が協力するなど、外国人も国同士の戦争に絡んでいた
こうした関わりが、近代の植民地につながっていくのは、想像に難くない
本作は、日本人からすると謎の地域である、中世の東南アジアを舞台にした貴重な小説なのである


前回 『風雲児』 上巻
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