『家康、封印された過去―なぜ、長男と正妻を抹殺したのか』 典厩五郎

前から気になっている本でした


家康、封印された過去―なぜ、長男と正妻を抹殺したのか (PHPビジネスライブラリー)家康、封印された過去―なぜ、長男と正妻を抹殺したのか (PHPビジネスライブラリー)
(1998/12)
典厩 五郎

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徳川家康はなぜ、嫡男・信康正室・築山殿を殺すことになったのか。信長の差し金とする俗説を一蹴し、徳川家の黒歴史を暴露する
本書は、天正七年(1579年)に家康の長男、松平信康が切腹させられた事件に着目し、徳川家の歴史、人事構成から洗い流して、真相は信長の意志ではなく純粋に徳川家のお家騒動であったと断定する
著者は信長、秀吉に比べ、家康の事跡が神君として崇められたままゆえに、歪んで伝わっていることを指摘。歴史学者たちは大本営発表と分かっている史書に引きずられているとして、不信の念を強くしてゼロベースで事件の真実を追っていく
残念なのは、そうした既存の歴史観を打ち破る想いが強すぎて、文章が傲岸で雑なところだ。家康嫌いを前面に出すから、せっかくのいい推論が胡散臭く読めてしまう(苦笑)。徳富蘇峰の俗説を批判するのに、著者本人が蘇峰の講談調と似たり寄ったりではマズいだろう
とはいえ、松平氏の歴史から、家臣団の内輪もめなど、三河ローカルなネタを細かく拾いあげていて、本書は事件の印象を一新するものに違いない

徳川家康は桶狭間後に独立してから二家老制を敷き、東を酒井忠次に、西を石川数正に任せた。著者によると、酒井家が「武」、石川家が「和」の役割を求めるのは松平家の伝統だったらしい
この二家老制に変化が生じるのは、家康が今川家から遠江の国を奪い、浜松城に入ってからで、所領が東に広がったことで酒井忠次らの力が増した。戦闘集団を前線の浜松に引き抜かれていく岡崎衆は、“浜松衆”との格差に不満が生じ、嫡男・信康を擁してのクーデター計画が持ち上がったとするのが、著者の推理だ
信長が信康を恐れたという説は後付けであって、信長は徳姫の婿として敬意を払っていたとする。酒井忠次が信長の元へ訪れたのは、処断に対する報告だったのだ
そもそもこの時点の信長は本願寺と対峙して、東の抑えである徳川家に圧力をかけている余裕はなかった
ただし家康も即座に切腹させる気はなかったらしく、信康を2ヶ月ほど転々とさせ、処分を保留している。そして、信長が口にしなかった築山殿を先に殺してしまった
しかし、築山殿へ明確な殺意があったかも、実際は不明で、事件にはまだまだ謎が残っている
ここで著者は、家康が子供の自立を恐れる“精神異常者”と断定し、飛躍した小説的推論へ入っていく。築山殿になんの科もないというのも極端で、服部半蔵たちが生まれてまもない秀忠を後継者とすべく、母子を抹殺したというのもどうだろう(秀忠の母は服部家に近親だった)
成人した嫡男がいて、いつ死ぬか分からない幼児を後継者にするのは、あまりにリスクが高すぎる。事件後、徳川家に混乱がなかったことを考えると、母子ともに何らかの科があったと考えるべきだろう

本書は松平家の始祖・徳阿弥と伊賀者の服部家が同じ秦氏の末裔とおぼしきことなど、貴重な薀蓄を提供しつつも、珍説を挟んでくれる
武田家への内通絡みから、大賀弥四郎の謀反未遂と関連づけされるが、それに対して著者は、弥四郎は逆に武田家への調略を預かっていて、その標的はなんと穴山信君だっというのだ!
で、弥四郎一族の処刑は、信君への調略を隠すため。いやいや、それでは調略を引き受ける武将がいなくなるのではないだろうか
著者の人物鑑定は総じて、家康を異常者にしてしまうように、現代人の感覚で武将の行動を断定してしまうところがあって、微苦笑を禁じえない。親子の紛争は戦国時代に枚挙の暇もないし、武家の女性は政略の玩具でしたという言い方も当の女性にかえって失礼だろう
ここまで史料を調べ上げた人が常識にかけた判断するのが不思議だが、本書自体は徳川家の闇をさらけ出す意味では貴重といえる


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(1989/04)
不明

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コメント

No title
楽しくレビューを読ませていただきました。
前半はかなり「おー」と感じました。そして「精神異常者~」以降は苦笑しかないです(笑)。
Re: No title
いい仕事してらっしゃるのですけど、本人の推論が残念なことになってます(苦笑)
俗説の逆が真実なわけではないですからねえ
いちおう信康切腹の原因がお家騒動だという説は、評価されているようですよ

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