『ヒットメーカーの寿命―阿久悠に見る可能性と限界―』 高澤秀次

最先端から時代遅れの男まで


ヒットメーカーの寿命―阿久悠に見る可能性と限界―ヒットメーカーの寿命―阿久悠に見る可能性と限界―
(2008/12/19)
高澤 秀次

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多くのアイドル、スターを発掘し、数え切れないヒット曲を送り出した作詞家、阿久悠。昭和歌謡にもたらした新しい可能性とその限界を探る
本書は阿久悠の著作や対談、ヒット曲の歌詞から、いかに市場=視聴者の要求を読んだか、時代の思潮に乗ったものだったかを論じている
山本リンダの『どうにも止まらない』ピンク・レディーの『UFO』から歌の世界で定番だった「忍ぶ女性」から、挑戦的で活発な新しい女性像を提示し、尾崎紀世彦の『また逢う日まで』で現代人のクールな別れを描き、沢田研二の楽曲で没落していく男の意地を語った、とする分析は鋭い
ただし、評論としては阿久悠に寄り添い過ぎていて、その限界に対しては語りきれておらず、デジタル化した環境や視聴者に押しつけている
今の音楽を小室哲哉に集約して語り呪う姿勢も残念で、最後の社会批評が著者が嫌う「自分語り」を終わっているのが皮肉だ

作者自身は阿久悠の限界を語りそこなっているが、それまで分析された内容でいろいろと推測できる
歌謡曲の世界では、男の作詞家は女の気持ちを想像、あるいは男の望む「おんなごころ」を描いてきたが、阿久悠は高まるウーマンパワーを読み取って従来と間逆な「前向きな女性」を生み出した
しかし女性自身が楽曲を作られてしまうと、男たちの作った「おんなごころ」の世界は色褪せ、阿久悠もそれを免れない。女性のシンガーソングライターにぶっちゃけられたら、男に何が言えるだろう
また90年代に入ると冷戦崩壊、社会のネット化で世界の距離が縮まり、アメリカやヨーロッパの流行がリアルタイムで視聴者を刺激してくる。これもまた、流行の洋楽をパロディし日本語の歌詞を載せてきた歌謡曲を動揺させた
TMネットワーク直撃世代からすると、小室哲哉は90年代に想像された未来(決して明るくない)を聴かせてくれたわけであり、若い世代に歌謡曲はテンポが遅過ぎた
とはいえ、歌謡曲の精神が滅んでしまったわけではない。テレビを媒介に国民的歌謡曲が生まれ続けることはないしても、アニソンやアイドルの歌に詩を聞かせる流れはあるし、由紀さおりがアメリカ経由で再評価されたり、たまに歌謡曲のカバーがヒットしたりする
近づき過ぎたゆえのアメリカへの幻滅もあるし、洋楽のリズムに違和を感じる層からすれば歌謡曲の需要はあるはずだ
阿久悠と作者が嘆く、90年代以降の「自分語り」は、自分が書いて自分で唄うシンガーソングライターが多過ぎるゆえで、歌手と作曲家の関係が見直されれば、お互いがお互いの意図を想像しあう歌謡曲が再生されることだろう
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コメント

No title
いつも楽しく拝読しております。
自分は阿久氏の友人、弟子筋にあたる井荻麟氏の作詞のことをたまに拙い評論を書いているものですが、この本は前から気になりました。海外から買うのが面倒くさいですが…。

私もいわゆる阿久悠氏の限界というものを気になっていますが、この書評を通して少しだけ分かったような気がしました。ありがとうございます。
Re: No title
これは、お久しぶりです
阿久悠に関しては、女性を代弁するのに限界があっても、男のダンディズムにはまだまだ惹かれるものがあります
阿久悠と富野監督の比較論は面白いと思うのですけど、本書ではどういう影響を受けたかは分からなかったですね
阿久悠は映画を意識して写実的な歌詞を作ったり(『津軽海峡・冬景色』とか)するんですけど、監督のはより詩的なイメージが強いんですよ
このあたりのことは、kaitoさんの記事に期待したいのですが(勝手)

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