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『胡蝶の夢』 第4巻 司馬遼太郎

徳島市には関寛斎の石像あり




戊辰の戦争は、蘭方医に数奇な運命をもたらす。鳥羽伏見の戦いに敗れた近藤勇は、江戸に帰り松本良順のもとで治療を受ける。その後も新選組に関わったことで、東軍へ身を投じて会津まで同行する
一方、徳島藩の侍医・関寛斎は、藩が官軍に転じたことから、野戦病院の病院長を務めることとなり、くしくも良順と対峙することに
そして、佐渡に帰らされた伊之助も、幕府瓦解の影響で職をなくし、横浜へと旅立つが……

小説としては、江戸時代が終わるまでを扱い、あとは後日譚として語る感じだった
解説にもある通り、当初は新選組に関わって、賊軍の軍医になったにも関わらず、維新政府に請われて軍医総監になった松本良順を主役にしたと思われるが、それに伴って現れたのが、長崎時代まで助手として関わった島倉伊之助(司馬凌海、父・佐藤泰然の弟子だった関寛斎
良順以上に、浮沈の激しい二人を見つけてしまったせいで、最終巻の後半は彼らの流転に紙数が割かれる
小説全体として見たときに、誰の話かブレてしまった感はあるものの、予想外の形で「胡蝶の夢」を発見してしまった以上、それに傾けざる得なかったのだろう


世間知らずの伊之助の結末

人間関係に不得手の伊之助は、佐渡でも医者として通用せず、鉱山を調べにきたアメリカ人技師の通訳ぐらいしかやることはない
幕府の崩壊から、佐渡奉行のともに紛れて横浜を目指し、良順の父・佐藤泰然と再会したことで、語学教室を開くように助言を受ける
こと、語学に関して伊之助の才能は天才的で、本場の人間と話したことがないにも関わらず、オランダ語はおろか、英語、ドイツ語、中国語を自由に会話できてしまう
しかし、近代的な生活・倫理についていけず、稼いだ金を遊郭につぎ込み生徒に教科書を高く売る、二日酔いで休んで授業を滞らせるなど、世間に敵を増やしてばかりだった
ヨーロッパの留学生が語学と知識を身に着けて帰り、外国人医官が帰国する時代になると用なしとなった

伊之助肺結核となるが、ポンペの治療を自流で解釈し、熱海の温泉へ出掛けた帰りに旅の疲労から客死してしまう
司馬のあとがきでは、佐渡は島を暖流が囲うように流れ込んで、北陸とは思えない温和な気候。江戸時代は幕府の直轄地で年貢も安く、日本海航路の要衝江戸・上方の優れた文化の影響を受ける、もっとも恵まれた土地だった
現地を訪れた司馬は、「こんな土地で生まれた伊之助は、佐渡を出るべきではなかった」と涙したという


農本主義者になった関寛斎

関寛斎も波の激しい人生を送った。官軍の軍医と獅子奮迅の働きをした寛斎だったが、医界の権力闘争に嫌気がさしたのか、すぐに徳島で町医者を始める
庶民に無料で種痘を施すなどして慕われるが、息子が農業学校へ行ったことから、一念発起して北海道へ移住し、広大な牧場を開拓する
しかしトルストイの影響で、土地を共に開拓した人々に譲渡しようとしたことから、米国流の牧場経営をしたい息子や家族と対立し、大正元年に服毒自殺を遂げる
その人柄は、明治の作家・徳富蘆花の評論に残っており、蘆花は「本来なら、(良順のように)男爵軍医総監でもおかしくなかった」と惜しんでいる
この時代の日本の医界は、短期間のうちに漢方→蘭学→イギリス式→ドイツ式と覇権が入れ替わった。その激しい流れは、蘭方医たちをあるときは蝶のように華やかに舞わせ、それが夢であったかのように庶民の海へ戻していく。それを見事に描いた、知られざる名作なのである


*2023’8/29 加筆修正

前巻 『胡蝶の夢』 第3巻




【配信】『魔法少女まどか☆マジカ』  第10話~第12話

まどかは阿弥陀如来


<第10話 もう誰も頼らない>

心臓病を患う暁美ほむらは、転校初日に保健係の鹿目まどかに連れられ、初めて名前で呼び合う関係に喜ぶ。しかし「ワルプルギスの夜」を迎えた時に、まどか巴マミも失ってしまう
その結末にほむらきゅうべえと契約を交わし、タイムリープの能力を身につける
2周目のほむらは、まどかを守ろうと積極的に魔法少女として頑張るが、まどかは「夜」に勝利するも、魔女になってしまう
3周目以降は、きゅうべえの悪巧みに気づき、魔法少女同士で協力しようとするが、さやか魔女化したことから、マミが絶望し殺し合いに発展。「夜」相手にまどかと戦うも相討ちの形となって……

ほむらがいかにして、クールな魔法少女となったかが描かれる回
それぞれの周回で、他の4人の魔法少女と違った知り合い方をしていて、エピソードが凝縮されていて濃い!
きゅうべえソウルジェムを得る代わりに、叶える願いの種類は任意で選べないらしく、自分を出し抜く能力を許してしまったようだ
タイムリープものに関する問題の数々、なんで時間はもどっても記憶が保たれているのかとか、いろいろあるけれど、彼女の人格がいかに作られたかというドラマとしての完成度は見事


<第11話 最後に残った道しるべ>

きゅうべえは、ほむらがやってきたタイムリープを見抜き、それこそがまどかの秘める膨大なエネルギーの原因だと指摘する。「まどかを守りたい」ということを根拠に何度もタイムリープしたがゆえに、因果の鎖がうんぬんかんぬんなのだ
美樹さやかの葬式はしめやかに営まれ、周囲の人間にも衝撃を与える。ほむらまどか「ワルプルギスの夜」のことを告げて、ついに自らの秘密についても教えた
その夜、役所からスーパーセル(嵐)による避難指示が出て、まどか一家は学校へ避難。ほむらが一人で戦うことになるが……

まどかが世界を変える存在にすらなってしまうことには、こじつけの感は否めないが、それぐらいの理由づけをしなければ設定の空白は埋められない
ほむらが放っておけず、まどかは避難所を抜け出そうとするが、ここで母との対話。理想的な家族を描くのは、魔法少女物の伝統で、こういうシーンがはっきり描かれるから、まどかのその後の行動が趣深いものになる。伝統の強みである


<最終話 わたしの最高の友達>

「ワルプルギスの夜」ほむらは力尽きようとしていた。まどかの抱えるエネルギーを増やさないためにもタイムリープは使えない……といったところで、まどかきゅうべえと現れる。「私、魔法少女になる!」
彼女の願いは、全ての魔女を消し去りたい。過去、現在を含めた魔女をきゅうべえはそれを「ルールそのものを破壊しかねない」と言いつつ、契約してしまう
神々しいまでの存在になったまどかは、世界各地で苦しむ魔法少女へ手を差し伸べ、魔女になるまでにソウルジェムを回収していく
やがて、まどかは超越的な存在になって、世界中の祟りを引き受けて……

いわゆる神様エンドだった
魔女の源である魔法少女そのものを消さないのは、今までの社会の発展を否定できないことと、きゅうべえのエネルギー回収を認めるといった、各方面で角が立たないラインだからであり、周囲に気を遣うまどからしいベストな願いだったのではなかろうか
自分の存在をこの世から消すというのが味噌で、希望が絶望に代わって魔女を生むのであれば、希望を消すのではなく願う主体である自分の方を消すことで、最悪の魔女にならずに済ますという究極の解決法。ここまで自分を捨てきるヒーローは今どき、なかなかいない
超常的な立場から、衆生(他の魔法少女)を救うというのは、仏教の阿弥陀仏に近い
もっとも何から何までうまく行くわけでもなく、上条との可能性を失ったさやかは魔法少女として成仏(!)する。そして、ほむらたち魔法少女は、魔女の代わりに現れた魔獣と戦い続けることになり、きゅうべえは魔獣から出る祟りエネルギーを得ているようだ
その後、劇場版が作られたように、続編含みのラストなのであった


シリーズ全体を総括すると、サブカル界隈で話題になったのが分かる珠玉な作品というしかない
正直、管理人は少女を主役とした作品にのめり込めないタイプなのだが、いろんなヒーロー物が抱えていた課題に真摯に取り組んでいて、彼女たちの選択を追いかけざる得なかった
魔法少女が転じて魔女になるというのも、不死者が亡者に落ちていくゲーム『ダークソウル』のシリーズを想起させて、「繰り返し」「リピーター」という発想は、ゲーム世代からすれば身近なものだ。失敗を繰り返して突破口をみつける(トライアンドエラー)という、ほむらの戦いも、輪廻を突破して負の連鎖を断ち悟り(グッドエンド)に至るというゲーム体験と大乗仏教がリンクさせたかのようで、この作品はいろんな壁を突破している
惜しむらくは深夜アニメということで、本来届けるべき若年層が広まったのかどうなのか
スマホからアニメ外伝→新劇場版と展開されているけれども……


前回 【配信】『魔法少女まどか☆マギカ』 第7話~第9話

関連記事 【今さらレビュー】『ダークソウル リマスタード』



【配信】『魔法少女まどか☆マジカ』  第7話~第9話

きゅうべえ「大人は説明しない!」


<第7話 本当の気持ちと向き合えますか>

魔法少女の秘密を知った美樹さやかは、きゅうべえをなじるが、もはや元の体に戻れず寝込んで学校を休んでしまう
そこへ笹倉杏子が訪れて、さやかを教会跡に連れ出す。杏子は自らが魔法少女になった理由、教会を追放された父親が宗教指導者として復帰して欲しい願いだったことを告白する
良かれと思ってやったことだったが、真相を知った父親は絶望して、杏子を残して一家心中したという
その過去から、もう自分の力は自分にしか使わないと誓い、さやかにも「自業自得の生き方」を勧める
それを一種の開き直りと見抜いたさやかは、「人のためにしか使わない」と弾く
なんだかんだいい影響があったのか、さやかは翌日、学校へ行くが、友達の志筑仁美に幼なじみの上条恭介と付き合いたいと告白されて……

きゅうべえが徐々に本性を現した。ソウルジェムの秘密に関しては、「説明を省略した」「聞かれなかったから」と詐欺師のようなことを言い、戦いのために痛覚を軽減していることに対しては、実際の戦闘の痛みを体感させて、ソウルジェムの有り難みをさやかに思い知らせる。とんだサイコパスである
杏子さやかに心を開いたのは、言葉とは裏腹に仲間を欲しがったからだが、それを断るさやかの返しは、彼女のキャラクターからすると大人すぎるか
しかし、復帰したさやかに待っていたのが、友達の仁美上条に告白するという現実。先に告白することができないのは、魔法少女の秘密もさることながら、杏子の奇跡が他人を不幸にした話を聞いてしまったからだろう
さやかは壊れない肉体を生かして、力押しの戦いを仕掛けていくが…


<第8話 あたしって、ほんとバカ>

さやかはごり押しの戦いで魔女を倒した。しかし、杏子の助けを借りたことから、グリーフシードを杏子へ渡してしまう
上条との未来を失った彼女には、「魔女を殺すため以外に意味がない存在」と自分を貶める。それを慰めるまどかには、「私を助けないなら、私と同じ境遇になりなさい」と突き放してしまう
ほむらは自宅で、杏子ワルプルギスの夜について会談。そこにきゅうべえが侵入して、「美樹さやかの消耗が早い」と警告した
さやかは自宅に帰らず、上条と仁美のデートを見張っていた。そして、使い魔と戦っていたところでほむらと出会う
ソウルジェムの汚れを指摘するほむらに、さやか「あんたたちと違う魔法少女になる」と言い返し、「(ほむらが)何もかも諦めている」「私のために言っているんじゃない」ほむらもそれを認めて「まどかのため」と、汚れていくさやかを倒そうとするが……

さやかへの最後のひと押し(?)となる、暗いバス内で男たちが交わす会話が、この作品の魔法少女というものの位置づけをメタ的に語っている
ホストとおぼしき男が、キャバ嬢に金を貢がせて自慢しているのだが、それはきゅうべえが魔法少女にしていることそのものだ。甘い言葉で勧誘し、ひとつの願い(お金)と引き換えに、きらびやかな衣装を着て“お仕事”するものの、いつか汚れて消えていく。魔法少女は風俗の世界と似たところがある。それが直接的に表明されたのに驚いた
男たちの語る女を利用し尽くす姿勢は、退院しても連絡ひとつしない上条と重なり、さやかは「こんな世の中を守る価値はあるのか」と絶望するのだ

さて、まどかきゅうべえに戻す方法はないかと聞くが、「まどかには宇宙の法則すら変える素質があるから」と魔法少女へと誘う。契約を交わそうとした矢先に、ほむらきゅうべえに銃弾を叩き込む
復活したきゅうべえは、ほむらの能力が「時間操作の魔術」と指摘。ほむらきゅうべえの本当の正体をインキュベーターとする

インキュベーターは、温度を一定に保つ装置で、孵卵器なども差す。宇宙のエネルギーを保つ魔法少女と魔女を生み出し続けることをかけているのだろうか


<第9話 そんなのあたしが許さない>

魔女となったさやかに不意打ちされた杏子を、ほむらは連れ戻す。そして、魔法少女の最後の秘密まどかへ告げる。ソウルジェムは汚れきると、グリーフシードへ変貌し魔法少女は魔女になる。「誰かを救った分、誰かの祟りがとりついてしまう」のだ
きゅうべえは、まどか「宇宙の寿命を延ばすために必要なこと」と語る。エントロピーの法則うんぬんを乗り越えるためというが、まどかは「私達、消耗品なの?」と真芯をつく。嫌われたきゅうべえは、「いつか君は最高の魔法少女となり、最悪の魔女となるよ」と捨て台詞を吐いて去る
杏子は必死にさやかの死体を保全し、きゅうべえソウルジェムを取り戻せる可能性を聞く。一縷の望みをかけた彼女はまどかを連れて、さやかの異界へ突入するが……

きゅうべえは、とうとう魔法少女を作りたがる理由を語る。枯渇する宇宙のエネルギー問題を乗り越えるため、異常なエネルギーをもつ人間の"感情に注目。特に思春期の少女が発する感情エネルギーは、効率が良い
なんだか、スパロボちっくなSFが始まった。ワンチャン、参戦あるのではなかろうか(笑)
杏子とさやかの結末に関しては、作り手の作為を感じてしまった。きゅうべえが語るように、魔法少女をほむら一人にして「ワルプルギスの夜」との戦いにまどかを巻き込むためだが、それは制作側の都合でもある(苦笑)
杏子とさやかにちゃんと心が通った時期がないから、動機は理解できても、その行動はイマイチ納得できなかった
こういうところは、1クール12話の罪だろうか


次回 【配信】『魔法少女まどか☆マギカ』 第10話~最終話
前回 【配信】『魔法少女まどか☆マギカ』 第4話~第6話



【配信】『魔法少女まどか☆マジカ』 第4話~第6話

さやかの家もでかかった


<第4話 奇跡も、魔法も、あるんだよ>

巴マミの死による衝撃から、鹿目まどかは朝食中に泣いてしまう。美樹さやかは空元気で明るく振る舞うが、幼なじみの上条恭介バイオリンを弾けなくなった境遇と、魔法少女との願いを秤にかけて考えている
授業後の屋上では、まどか「あんな死に方したくない」と泣き、きゅうべえも無理強いはできないとして、「もうお別れだね」
しかし、上条が医者からもう演奏はできないと宣告され、さやかに八つ当たりしたとき、窓にはきゅうべえがいたのだった

マミの死に様から、魔法少女になる危険を知った2人。彼女がいかに引き止めてくれていたかを知る
だが、さやか上条がバイオリニストとして復帰できるのを願いとして、魔法少女に志願。友達の志筑仁美たちを集団自殺させようとした魔女と戦って倒してしまう
そこに暁美ほむらが現れて、さやかに取り返しのつかないことをしたと指摘する
ラストでは、マミの後釜にきゅうべえが呼び寄せたとおぼしき、新たな魔法少女が登場。新参のさやかから、“縄張り”を奪うと宣言した


<第5話 後悔なんて、あるわけない>

魔法少女としてデビューしたさやかは、「見滝原市の平和はガンガン守る」と息巻く。「早く魔法少女になっていたら、マミさんを助けられた」とも
願いにより腕が治った上条を屋上へ連れていき、家族からはバイオリンが手渡される。彼女はすべてが満たされたように思えた
しかしさやかまどかを連れて、夜のパトロールに向かうと、前回のラストに現れた魔法少女・佐倉杏子が登場。「魔女に成長する前の使い魔を斬ってもシードを落とさない」と、妨害してくるのだった

佐倉杏子魔法少女としてのエゴを全面に出したキャラクターで、自己犠牲的なさやかマミの行動を勘違いだと煽ってくる。ある部分でその認識はほむらとも近い
魔法少女としてソウルジェムを維持するには、グリーフシードを確保せねばならず、生きるために人助けだけしているわけにもいかないのだ
杏子にさやかが食い下がったことから、命のやり取りにまで発展する。そこできゅうべえは待っていたかのように、まどか魔法少女へ誘惑し、それを阻止するかのようにほむらが姿を現す


<第6話 こんなの絶対おかしいよ>

ほむらさやかを一瞬で気絶させ、佐倉杏子を引かせた。彼女はまどか「なんでまだ(魔法少女に)関わるのか」と怒りをにじませる
さやかきゅうべえと今後ことを相談。杏子に対抗するには、魔女狩りを続けてソウルジェムに余裕をもたせることが大事で、連続魔法が杏子の力の源という。そして、まどか魔法少女として即戦力かつ大物の素質があるとも。ピンチになったら、彼女を頼れとささやくが……
ほむら杏子と接触し、「街は任せるから、さやかのことを任せろ」と取引を持ち込む。ほむらが街に来た目的は、一週間後にやってくるというワルプルギスの夜を止めるためという

しかし、杏子さやかに直接の決着をつけにきた
まどか魔法少女同士の殺し合いを止めるため、さやかのソウルジェムを歩道橋の下の道路へ落としてしまう
すると、さやかは抜け殻のように倒れてしまう。魔法少女はきゅうべえと契約したときに、その魂をソウルジェムにこめており、それが100m以上離れると肉体が機能しなくなるのだ
その代わり、ソウルジェムさえ無事ならば、肉体はいくらでも再生する
それについて、佐倉杏子も知らなかったらしく、きゅうべえ「それじゃ、ゾンビにされたようなものじゃないか」と怒りをぶつけた
さやかのソウルジェムはトラックの上に乗っており、ほむらが拾い直して事なきを得た


敵役である魔女は、人型では描かれず、次々に姿を変えていく不定形な怪物となっている。“異界”と呼ばれる結界のなかに住んでおり、使い魔を放って人の魂を吸い取っていく
映像的には、いわゆる手描きのアニメではなく、背景である幻想的な異界と一体となっており、実写やCG画像などから起こしたもののようで、人間からはかけ離れた異物、非対称の敵として描かれている。常識の通用しない相手とひと目でわかるのだ
戦闘に下手な理屈が持ち込まれず、絵で爽快感を味あわせてくれるので、見やすく楽しめる!


次回 【配信】『魔法少女まどか☆マギカ』 第7話~第9話
前回 【配信】『魔法少女まどか☆マギカ』 第1話~第3話



【配信】『魔法少女まどか☆マジカ』 第1話~第3話

あんまりこの手のアニメには、まったく手を出して来なかったのだが、一種のチャレンジとして見てみた
『魔法少女まどか☆マギカ』は2011年に毎日系で放映された作品で、かなり反響になった作品と記憶している
なんの予備知識もなくも見たので、とっとと中身へ。どうやら、魔法少女物といっても、人助けというよりバトル物のようだが


<第1話 夢の中で遭った、ような……>

ヒロインの鹿目まどかは、白黒のオセロのような迷宮をかけていた。外へ出ると、そこはビルが崩れ世界が崩壊した世界で、謎の美少女が戦い力尽きようとしていた。そこに謎の猫(?)まどかに、「これが嫌なら僕と契約して…」と呼びかける
しかし、それは夢。優しい父親、仕事人間の母、幼い弟のいる平穏な日常に戻る
だが、中学校へ行くと、あの夢で見た美少女・暁美ほむらが転校生として同じクラスに入ってくるのだった

クライマックスのような激しい戦闘から始まるといった冒頭。そして、傷ついた美少女がいて、猫に戦いを迫られるなど、エヴァなどのロボットアニメと比較したくなる展開
それは未来の話と留保されたように、現実の世界に戻される
が、夢で見ただけの暁美ほむらには、それを見透かされたように「今と違う自分になろうとしないこと。でないと全てを失うことになる」と警告された
友達の美樹さやかと買い物(CD屋!)へ行くと、今度は夢で見た猫の声が響き、立入禁止のフロアへ駆け込むと、血まみれの猫と出会う
その“きゅうべえ”を抱いて、それを追ってきたほむらと対峙するが、そこへ違う“魔法少女”巴マミが現れて事なきを得るのだった
魔法少女ものだけど、第1話でヒロインが魔法を使わないというのも珍しい。ロボットアニメなら、スポンサーに乗せろと迫られるところだ


<第2話 それはとっても嬉しいなって>

謎の猫きゅうべえは、巴マミによって回復した。彼女はまどかと同じ見滝原中学校の3年生であり、きゅうべえと契約して魔法少女になったという
なぜか一人暮らしの彼女の家で、まどかさやか魔法少女の秘密を聞く。ソウルジェムがその力の源であり、きゅうべえとの契約で授かる。そして、願いをひとつ叶えるのと引き換えに、魔女と戦い続ける宿命を負うのだ
何でも願いが叶うというが、とりあえず満たされているまどかさやかは躊躇。マミの戦いを観戦していくことに

きゅうべえは不思議な存在で、普通の人間には見えないし、魔法少女の素質をもつ同士でテレパシーの媒介となる。異界での通話を可能にする設定なのだろう
彼はほむらがつけ狙う理由を「新しい魔法少女が生まれるの阻止するため」という
それを裏付けるのは、倒した魔女が落とすグリーフシードの存在で、ソウルジェムは魔法を使う度に消耗していき、グリーフシードを吸収しないと曇ってしまう
よって、魔法少女は魔女狩りを強いられ続け、ライバルを増やしたくないというのも分かる話だ


<第3話 もう何も恐くない>

巴マミとの魔法少女研修は続く。「願いごとは見つかった?」というマミに対して、満たされているまどかは答えられない。むしろ、魔法少女そのものが望みであり、他に執着がないのだ
ある日、まどかさやかは、建物にささるグリーフシードを発見。さやかきゅうべえとシードを見張ることにし、まどかマミを呼びに行くが、さやかは異界へと巻き込まれてしまって…

衝撃的な結末だが、細かい演出を積み重ねて破局を迎えており、不意打ちという感じではなかった。深夜放送のわりにグロテスクな表現もなく、配信時のことも考えられているようだ
巴マミ交通事故で助かるためにきゅうべえと契約を結んでおり、魔法少女という孤独な生き方を強いられている。そこにまどかという自分に憧れて肩を並べて戦ってくれそうな仲間を見つけ、タイトルどおりの精神で臨んだのだが……
友情パワーがマイナスになるというのが面白く、デレない強さをもつほむらがあっさり蹴りをつけるのは新鮮である
さて、この残酷な結末を見て、まどかさやかはどうする?


作品の舞台となる見滝原はなかなか不思議な街だ
いちおう、日本の地方都市(?)の体裁ながら、日本離れした広さをしている
主人公のまどかの家は、アメリカの大金持ちクラスの豪邸であり、4人家族にしては空間が有り余っている。さやかは中流以下くさいが、いわゆる貧乏人は出て来ない
また、学校のガラス張りの教室も近未来的で、屋上からはむしろ戦前の近代建築(というかバロック?)の外観を思わせる。ただの中学校が都庁よりもゴージャスに見える
魔法以上にそれが不思議で、バブルが弾けなければいつか到達した日本、物理的経済的限界を無視して描かれた理想郷が描かれているようにも感じた
こうした清浄すぎる現実(あるいは作品内でも架空か?)が作品のテーマに関わってくるかはは謎だけど、そういう世界観も楽しんでいきたいと思う


次回 【配信】『魔法少女まどか☆マギカ』 第4話~第6話



『日本解体 「真相箱」に見るアメリカの洗脳工作』 保阪正康

わりと正論



GHQはいかに日本人を情報操作しようとしたか。ラジオ宣伝番組から読み解くアメリカの洗脳工作

他の著書では護憲派よりに見えたけど……
ポツダム宣言受諾から占領軍の統治が始まっていた1945年12月9月に、眞相はかうだの番組が日本放送協会(現・NHK)から放送された。脚本を書いたのはGHQのスタッフで、満州事変以降の軍国主義の実態をドラマ仕立てで暴露するものだった
それに続いて始まったのが、眞相箱一般の日本人から質問に答えるという形式の番組だった。もちろん、質問も答えもGHQのスタッフか、その指示を受けた関係者が作成していた
その目的は、(アメリカから見た)太平洋戦争の要因となった軍国主義精神の排除に、新憲法の定着、反米感情の鎮静にある
"あの戦争”の責任を、一部の軍国主義者に求め、天皇の戦争責任を免責し、アメリカの高度な科学技術と物量には敵わないと思わせることだった
ラジオのテープは日本に残っていないが、本書は書物として残る「眞相箱」から統治下の情報工作を追及する


1.実は受け入れやすかったGHQ史観

意外なことに、GHQの語る近代日本への評価は、司馬史観に近い
黒船来航から始まる明治維新から、日清・日露戦争までの国造りを褒め、それ以降の、特に満州事変以降の軍国主義化を批判する
連合国も植民地を持つ国が多いせいか、「帝国主義」や「侵略」に対する定義もぼかしていて、自分たちにブーメランが返ってこないように配慮している。手が込んでいるのは、「帝国主義」に関する質問に、アメリカからではなくイギリスの百科事典などから引用すること。後で突っ込まれないように、「それイギリスの意見だから」と言い逃れできるようにしているのだ
「侵略」に関しても、戦争末期のソ連の参戦が絡むので深く追及していない
太平洋戦争に対する評価では、個々の日本人兵士の勇敢さを湛えつつも、上層部が愚かだったことを強調。戦争の責任を一部の軍国主義者に求めて、天皇や国民を除外している。自分たちの思うとおり誘導するために、当時の日本人が受け入れられやすい史観を提供しているのだ
実際のところ、GHQの用意した史観は、保守派を含めて日本人の大半に受け入れられているように思える。こうした史観がすぐに浸透した背景には、戦中の大本営発表が現実とあまりに乖離して、欲していた情報をGHQから供給されたためなのだろう


2.9割の真実と巧妙なプロパガンダ

GHQの史観は一見、かなり妥当に思えるのが巧妙で、多くを事実から引きながら、特定の結論へたどり着かせるために細部を曲げたり、噂としてエピソードを挟んだりする
最大の問題点は、民間人含む無差別爆撃、特に原爆投下についてで、アメリカでの論争を紹介しながらも、「戦争を早く終わらせるための止む得ない」と結論する。そして、一番の文明国であるアメリカが核爆弾を最初に手にしたことにより、世界の平和が保たれるという自己中心的な主張が展開されている
「これを戦争を避けるために使う」という考え方も、冷戦時代の核戦略に通じるものがあるのだ


著者の保阪正康は、半藤一利と絡みが多い人ながら、単独の著作だと護憲派の主張が強かったのだけど、本書では「押し付けられた歴史観でいいのか」と右派のような問題提起の仕方をしているのが面白い。これはただ親米の保守派はおろか、既存の護憲派をも脅かすものであり、場合によっては自らに襲いかかるブーメランになりかねない
他国や他人の意見ではなく、自分で"あの戦争”は、“あの時代”は何だったのか、と問いかけて、はじめて日本人の歴史観はもちうるし、それを踏まえて判断を下せる。著者自身の歴史観はともかく、このメッセージは普遍性があると思う
本書は「眞相箱」の作為を紐解くことで、プロパガンダの巧妙な手口に触れられ、歴史はある指向性をもって作れてしまう事実を教えてくれる


*23’4/5 加筆修正



『胡蝶の夢』 第3巻 司馬遼太郎

幕府の瓦解へ




1862年11月1日ポンペはオランダへ帰国する。松本良順を本国に連れ帰ろうとするが、良順は他の塾生を推薦し、江戸に戻り医学所頭取(東京大学医学部の前身)となる
当時は反りの合わない伊東玄朴が江戸の蘭方医学を仕切っていたが、スキャンダルで失脚。要職についた良順は“将軍後見職”の一橋慶喜、ひいては第14第将軍・徳川家茂の治療も扱うことに
一方の、島倉伊之助はポンペに長崎を追われたあと、平戸の藩医・岡崎等伝に逗留し、その娘を妊娠させてしまう。そこへ祖父・伊右衛門がやってきて、無理やり連れ戻してしまい……

ポンペが帰国するとともに、良順の身辺にも政治の波が押し寄せる
江戸に帰った良順は、医道の風上のおけないと嫌う伊東玄朴に冷や飯を食わされる。しかし、玄朴が養子に花を持たせようと、偽って翻訳者に名を連ねさせたことで失脚し、良順は奥医師へ復帰できた
長崎帰りの名声から、一橋慶喜の治療に呼ばれ、さらには江戸にいる時に新選組局長・近藤勇の知遇を得るなど、一気に政治の世界へ関わっていく
京都では、壬生や西本願寺にいる新選組を訪ね、その衛生習慣の改善を指導。近藤とは一種の侠客としての付き合いで、幕府の衰亡を予測しつつも佐幕派へ肩入れしてしまう
将軍・家茂との関係は、「医者はよるべなき病者の友である」というポンペの教えどおりで、本作の最大のドラマシーンといえよう


蝶のようにひらひら飛ぶ伊之助

島倉伊之助はというと、きわめて動物的に欲望を満たすように行動していく。世間知は一欠片も持ち合わせず、そのときの状況でゴロゴロと流れていく
同じポンペの講義を受けた佐賀平戸藩の岡崎等伝の家に転がり込んで、娘の佳代を妊娠させてしまう。驚いた等伝が伊之助を養子に取ろうとしていたところへ、祖父・島倉伊右衛門が現れて、格上の藩医に掛け合って無理やり佐渡へ帰す
このときの、伊之助のリアクションは人並み外れて薄い!
「胡蝶の夢」のタイトルどおり、佐渡と長崎のとぢらが現実で夢なのか、分からぬ風情であり、どこか他人事なのでる。平戸では学問的な興味を見いだせず、旺盛な性欲をカタギの娘に向けてしまったらしい(苦笑)
ただ知りたいという好奇心が彼の中心であり、岡崎家に捨てられてしまえば、平戸へなんの未練もないといったところ。本作はこの奇人への描写が微細である


強権支配の阿波徳島藩

その伊之助と仲の良かった関寛斎は、請われて阿波徳島藩の蜂須賀家侍医として召し抱えられる。生涯、町医でいたかった寛斎にはありがた迷惑で、大藩であるだけに他の侍医との付き合いに苦労する
徳島藩東海出身の蜂須賀家が支配者層として君臨して、元三好家の郷士たちへ強権的な支配をしているように描かれるが、『功名が辻』のこともあるのでどこまで真実なのか誇張なのかは分からない
ただ、戦国の三好家の時代に、阿波は上方文化に浴しており、成り上がりの蜂須賀家と反りが合わなかったのはあるかもしれない


*2023’8/29 加筆修正。『菜の花の沖』でも、高田屋嘉兵衛の出身である淡路を領したことから、阿波徳島藩の支配が少し取り上げられている

次巻 『胡蝶の夢』 第4巻
前巻 『胡蝶の夢』 第2巻

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サイドバー背後固定表示サンプル

サイドバーの背後(下部)に固定表示して、スペースを有効活用できます。(ie6は非対応で固定されません。)

広告を固定表示させる場合、それぞれの規約に抵触しないようご注意ください。

テンプレートを編集すれば、この文章を消去できます。