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『漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972-2022』 池上彰 佐藤優

もはや左翼は絶滅!?



学生運動が衰退したなか、左翼政党は労働問題に存在価値を見出す。その衰退と今後の展望は

あさま山荘事件の72年から、2022年現在の状況まで
72年のあさま山荘事件の後でも、過激派のテロは続く。戦前から続く日本の帝国主義を清算するとして、東アジア反日武装戦線“狼”」が三菱重工などの旧財閥系企業に爆弾テロを仕掛けた
佐藤氏によると、彼らには体制を倒したあとに何かをする構想はなく、その体質はアナキズムや右翼に近いという。あさま山荘事件の坂口や赤軍派にも右翼くさいところがあり、理性より感情を重視するナショナリズムの時代へ向かっていたことをうかがわせる
また、ノンポリの学生を後押ししたのが、吉本隆明『共同幻想論』国家や宗教は確固としたものではなく、人々の幻想に支えられたものだとした。そのことは、マルクス主義にもあてはまり、国家ともに思想も相対化してしまった
吉本はノンセクト・ラジカル、セクトに所属しない左翼青年のカリスマとなったが、その信奉者の気質も国家の関与を嫌うアナキズムに近く、後の新自由主義の下地を作ったともいえそうだ
本巻は50年をざっくり語る内容だし、他の巻で触れられたことは省略されたりもしているので、最初の『真説』から読むことをおすすめする


1.社会党による労働運動

その後のセクトや学生運動で唯一盛り上がったのは、成田国際空港を巡る三里塚闘争ぐらい。それも農民と左翼思想の相性が合わなくて、党派ごとに足並みがそろわず、自民党政権の切り崩しにあって分裂して取り込まれてしまう
一方で、70年代に社会党の影響のもとに、労働運動は盛り上がる
公務員にスト権はないとして、国鉄などの国営企業の労働者は悪条件、低賃金に甘んじていた。でありながら、国鉄で法を逸脱した運行が求められたことから、法律を遵守することで、実質的なストライキを行う「順法闘争が行われる
さらに1975年ILO(国際労働機関)の勧告をきっかけに、国営企業の労働者にスト権を付与する「スト権ストが唱えられる。当初は国民を支持を受けた「順法闘争」も、相次ぐ運休や遅延から利用者の反発を招き、上尾事件などの乗客による駅への暴動事件へも発展してしまう
その一方で、60年代は東京都知事に美濃部亮吉が当選するなど、各地で革新陣営の首長が生まれ、社会民主主義の機運がこれまでになく高まっていく


2.国鉄民営化による社会党の退潮

1970年、チリでは民選による初めての社会主義政権、アジェンデ政権が誕生して、国家規模でも社会民主主義の期待が高まった。しかし、アジェンデ政権は1973年にCIAの支援を受けたピノチェト将軍によるクーデターで崩壊、この一件が過激派の暴力革命論社会民主主義の衰退をもたらすこととなる
それでも、国鉄の国労を中心とする労働組合は左翼の牙城となったが、それに致命傷を与えたのが国鉄民営化
当時の首相・中曽根康弘社会主義革命の可能性を閉ざすために、莫大な赤字を口実に民営化を訴え、国民の支持をバックに断行した。革マル派の松崎明の影響が強い「国鉄動力車労働組合(動労本部)」は、労働者の待遇改善につながると民営化を後押しして「JR総連」となる一方、4万人の労働者がリストラされて社会党とのつながりは急激に弱まった。とはいえ、民営化への支持が集まったのも、「怠けるほど革命が近づく」とうそぶく国鉄の組合の堕落が原因でもあった
そして、自社さの村山内閣によりその命脈が断たれたのは、『真説』にもある通りだ


3.共産党の愛国路線とSEALD’sの新自由主義

さて、現在の左翼運動はどうなっているのだろう
唯一の左翼政党であるはずの日本共産党は、戦術上の都合(?)とはいえ、選挙ポスターに富士山を載せ、北方領土問題に千島列島も加えて沖縄基地問題への関わりにも愛国路線を全面に出している。佐藤氏が問題にするのは、ロシアのウクライナ侵攻に対するリアクションで、国境を越える労働者(あるいはプロレタリアート)の連帯を訴えるべき左翼政党が、普遍的な“反戦”ではなくウクライナを一方的に支持するのは、もはや左翼でなくなった証拠とする
また2015年に集団安全保障への参加が問題になったさいに、話題となった学生グループ「SEALD'sも佐藤氏は辛口で自由に集まって解散したところから、新自由主義的な組織とする。上層部が名前を売ってキャリアの肥やしとし、運動に参加した学生の多くは日本共産党の民青が刈り込んだのみ
結局、右も左も今は思想がなくメディアを含めて、ただ新自由主義で、椅子取りゲームが続いているだけという


3部作(!)の総括をすると、基本は対談の体裁ながら佐藤優氏がしゃべり続け、池上彰氏がインタビューアーとして話を引き出し補足をするといった内容だった。佐藤氏の解釈で覆われているところが多いので、他の方のご意見も聞いて差し引いていく必要はあるだろう
そして、これから左翼が台頭するから、過去の歴史を整理したいという動機から始まった企画ながら、最終巻の結論がもはや左翼と呼べる勢力は日本共産党含めて、今の日本にはないということになってしまった(笑)
格差問題から左翼思想は注目されるけれど、実際にそれを引き受ける左翼勢力はない。そんな奇妙な状況に陥っているらしい
しかし、菜食主義の「ヴィーガニズム」、動物保護の「アニマルライツ」など環境保護団体が先鋭的になっている部分はあり、それらを進める組織が昔の左翼のような問題に陥る可能性はある。セクトが過激化しないために、左翼の黒歴史を教訓とすることが大事だろう


*23’4/7 加筆修正

前巻 『激動 日本左翼史』

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