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【プライム配信】『日本の夜と霧』

ジャケットの場面はない




60年安保闘争をきっかけに知り合った新聞記者・野沢(=渡辺文雄)女子学生・原田玲子(=桑野みゆき)の結婚式が行われていた。そこへ、同じ学生運動をしていた太田(=津川雅彦)が乱入。玲子と仲の良かった北見(=味岡亨)が、病院を飛び出してから行方不明だといい、なぜ気にしないのかとなじる
その事件に火がついたのか、野沢と同じ共産党系の学生組織にいた坂巻(=佐藤慶)宅見(=速水一郎)は、やはりある一件以来、行方をくらまして自殺した高尾(=左近充宏)のことを持ち出し、学生党員として寮を委員長として仕切っていた中山(吉沢京夫)に責任を迫るのだった

先日読み終わった『真説 日本左翼史』で取り上げられていたので
冒頭は60年安保闘争で知り合ったカップルの結婚式で始まるが、乱入者をきっかけに50年代の破防法闘争時代に遡るという重層的な構造になっている
野沢は学生時代に、今は中山の夫人である美佐子(=小山明子)と恋仲となるが、自殺した高尾もまた美佐子に気があるという3角関係があり、それは野沢と玲子、そして玲子に誘われて運動に出た北見との関係にも重なる
作品としては、これだけの役者が揃いながら、芝居臭すぎるというか文士劇のような調子で続く。しかし、これには事情がある
当時の松竹社長が政治色の強さから反対し、いつ制作中止になるか分からない状況で制作され、現に上映から4日間で打ち切られている。そうした事情のために短い製作期間で、長回しを多用役者が台詞を間違えても、そのままカメラを回したという
そうした過酷な環境が生んだ芝居臭さ、台詞を言えてない感が、革命気分の若者のリアリティを生んでいる
そして、学生運動全盛の時代なのに、BGMのギスギス感と暗さが、左翼運動の行く先を暗示しているようだった

公開が1960年10月とまさに60年代安保闘争直後に作られていて、俎上に上がっているのは、若者の首根っこを抑え続けて利用する“党”の体質
先日の記事に書いたように、1951年に共産党は武力闘争を開始し、学生ながら野沢たちも動員されて、学生寮も委員長の中山を中心に統制されていた
しかし、朝鮮戦争の終結と闘争の失敗を受けて、党は平和革命路線へ転換。学生に「歌と踊り」の“闘争”を命じ、女子学生を交えてダンスパーティとなる。その時流れるのが、「若者よ 体を鍛えておけ……」の『若者よ』の歌で、何度も繰り返し歌われる
体を鍛えるのは武装蜂起のためなのだが、やっていることは合コン三昧。真面目な坂巻宅見はこれについていけない
そうした時に起こったのが、スパイ脱走事件。忍び込んだ不審者を警察のスパイと見なして監禁していたところ、突然の警報に脱走されてしまう
もともとスパイと決めつける中山の判断へ疑義をもっていた高尾は、スパイを脱走させた罪を着せられて査問にかけられ、それが自殺の原因となるのだ
この査問の場面で、中山は中尾に反論を許さず断定し、組織を頼んでの陰険さが際立つ

*作中に何度も歌われる『若者よ』作詞は、「ぬやまひろし」こと西沢隆二司馬遼太郎とも親しく、『ひとびとの跫音』には正岡子規の研究に携わる主要人物として登場する

新左翼の太田にとって、こうした旧世代の行き詰まりは笑止千万。「ソ連のコミンフォルムの方針に振り回されて、スターリンの亡霊に怯えている」と一刀両断する
「既成の革新勢力はすでに前衛ではない」とまで言われると、非主流派の坂巻すら「党組織がないと、運動は継続しない」と反論するが迫力がない
むしろ、運動に熱心でなかった宅見が、「君は北見を利用して、俺たちに文句を言おうしている」「大きな政治もいいが、北見の問題のほうが大事なのではないかと太田の痛いところを突く。これが当時の学生たちに言いたかった、監督のメッセージではないだろうか
行方不明の北見は病院を抜け出して、再び国会へつめかけようとした。それを止めようとした玲子は、「なぜ行こうとしないのか」と言い返される。彼女はすでに学生運動の敗北を何度も経験していて、立ち上がる気力がない
そして、北見も現場の様子を見て玲子同様に無力感を味わう。結局、何も変わりはしない虚無が襲うのだ
一方で旧世代の野沢は安保闘争に昔の自分を取り戻し、中山と運動に参加しつつ途中で切り上げた美佐子はむしろ夫と党への幻滅を味わった
ネタバレしてしまうと、ラストは太田と玲子が北見のもとに戻ろうとしたところに、太田が警察に捕まる。そこで中山太田らを「極左冒険主義者」で革命の戦列を乱す者と見なし、自分と党を守るための空虚な演説を延々と続ける
言うことは代わっても指導者は変わらず、絶対に責任を取らない。日本の左翼運動はいまだに夜と霧に覆われているのだろうか


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