『武器製造業者』 A・E・ヴァン・ヴォークト

謎すぎる作者のバランス感覚


武器製造業者【新版】 (創元SF文庫)
A・E・ヴァン・ヴォークト
東京創元社
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“不死人”ヘドロックは、太陽系を統べる「イシャー帝国」とそれに対抗する「武器製造者ギルド(武器店)」の間が深刻化するのを防ぐべく、一人の帝国軍人として潜入していた。双方から裏切りを疑われた彼は姿を消しつつも、恒星間移動できる宇宙船が製造されたことを察知。その宇宙船を乗っ取って、小型宇宙船で外宇宙へ追っ手を逃れたが……

『イシャーの武器店』の時系列的には作品的続編。ただし、製作時期はこちらのほうが早い
『イシャーの武器店』にもでてきた“不死人”ヘドロックが主人公であり、ヒロインは女帝イネルダ。二人との関わりから、イシャー朝と武器店の誕生の秘密が明かされる
展開はこれも前作同様、短編集をまとめた“fixed-up”という手法ではないかと思うほど、ごったがえしている。女帝に死刑を宣告されそうになった直後に、武器店にも同じように処分を受けて逃走。その途中でとある武器店支部に訪れたギル・ニーランに出会って、その弟の行方不明を知ったことから恒星間移動できる宇宙船にたどりつくという忙しさである
そうした活劇を可能にするために、主人公には長い歴史を生き抜いた“不死人”という設定があり、不死身ではないものの過去に開発した秘密兵器を駆使して、ピンチを潜り抜けていく
というふうに、いろいろとぶっとんだ設定と展開が繰り広げられつつ、なんだかんだロマンスに落ちてまとまってしまうという、力技の作品である

これ以上書くといつものようにネタバレになってしまうのだが、書いてしまおう(苦笑)
ヘドロックはとんでもない長命であり、彼はイシャー朝と武器店の創設そのものに関わっている
現存の支配体制を作った、まさにの存在であり、“不死人”であることを隠しながらも、各時代のイシャー朝の女帝たちと関係をもってその血統を維持してきた
彼のデザインした武器店の役割は、国民ひとりひとりが武装する銃社会と、法律を盾に不合理と戦う訴訟社会を目指すもので、そのままアメリカ社会の理想でもある
もっとも、作品内でも理想どおりには進まない。武器店はヘドロックの秘密を明かそうと帝国の支配体制を崩すところにまで突き進んでしまい、ヘドロックはその“神の手”ともいえる科学技術を駆使して、是正せざるを得ない。まさか、巨人を進撃させるとか、たまげたなあ(笑)
冷静に考えると、一人の隠れた神=独裁者によって成り立つ体制であり、エルガイムのアマンダラ・カマンダラを思い出してしまった
ヘドロックのやりたい放題に思えるが、さらに恐るべき能力を持った“蜘蛛族”が彼の首根っこを押さえつけていて、かろうじて作品の均衡が保たれている
“蜘蛛族”はまさに機械仕掛けの神=デウス・エクス・マキナ神の上にさらに神がいて、その神も思い通りにはならないという、外が見えない入れ子構造であり、ぶっとんだ設定をさらなるぶっとんだ設定で帳尻を合わせるという、ほんとうに妙な作品だった


前作 『イシャーの武器店』

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