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『韓国の悲劇』 小室直樹

この時代に歯に衣着せぬ



なぜ日本と韓国は上手く行かないのか? 韓国独立の経緯、社会構造の違いから両国の異質さを指摘する

著者は経済学、社会科学、人類学と様々な分野に通暁してソ連の崩壊を予言、テレビでの発言で奇人評論家として有名になった小室直樹橋爪大三郎、大澤真幸、宮台真司の師でもある
本書は初出が1985年。韓国がNIES諸国としての台頭、日本との間に教科書問題が持ち上がった頃で、なぜ両国の認識がズレるのか、韓国人、日本人それぞれの立場に立って相手からはこう見えてしまう由縁を歴史、社会の性質から解き明かしていく
一般人向けのカッパブックスだからか、日韓の歴史問題というこれ以上ない堅苦しいテーマに、幅広い教養からウィットに飛んだ比喩を挟んでほぐし、時に胸がすくような毒舌を振るう。けっこうな文量だったが、一気読みしてしまった
アメリカはフィリピンで大したことをしていないとか(実際には独立運動の弾圧に数十万人の犠牲者を出した)、若干の事実認識の誤りはあるものの、問題の原理原則を押さえた、今なお輝きを失わない良書である


1.幻の解放記念日

韓国では太平洋戦争が終結した8月15日が、解放記念日として祝われる。著者いわく、ここから全て誤まりが始まるという
8月15日は日本がポツダム宣言を受諾した日だが、ただちに日本の朝鮮支配が終わったわけではなかった
朝鮮総督府はソ連の北朝鮮侵入を受けて、自発的に独立運動のリーダーである宋鎮禹、呂運亭たちと交渉し、統治権を渡して独立政府を作らせようとした。しかし、国外にいる李承晩、金九といった最高指導者が亡命中であり、日本側の要求を利用するか、しないかでおおもめに揉めた
とはいえ、8月17日には建国準備委員会によって、公共機関に太極旗が掲げられる
が、実は8月16日には連合軍によって、総督府に日本の統治機構を保全し引き渡すように極秘命令が下されていたため、18日にはふたたび日章旗が掲げられた

これに対して、朝鮮人民によるめだった抵抗はなく、9月9日にアメリカ軍は日本軍と降伏の調印式を行い、11日から軍政が開始された
韓国は自力で独立したわけではなく、日本からアメリカに引き渡されたのだ
著者は革命による新政権が正統性を得るには、実力で敵を打倒し、対外的な戦争状態を終結させねばならないという。大韓民国は対外的にも対内的にも、正統性の低い形でスタートした。それが韓国国内に日本の支配の名残を残し、日本に対する過剰な反応を呼んでいる


2.失われた日本側のリスペクト

世界史的に見れば、旧植民地と元宗主国は独立戦争の時期を越えると、良好になる例が多い。なぜ、日本と韓国でそうならないのか
著者は二つの理由をあげる。まず、朝鮮が17世紀にいたるまで日本の文化に影響を与え、日本側も相応の敬意を持っていたこと
三韓時代には中華文明の中継地として多くの渡来人が招かれ、特に百済人は日本で高官の待遇を受けた。近世にいたっても、朱子学を受容する際には、朝鮮の儒家・李退渓の思想を基礎とした。幕府公認の朱子学は朝鮮の儒教から始まったのだ
近代に入るとこうした評価は日本で忘却され、日韓の認識のズレを生んだ。近代に入ると、何が近代化に貢献したかで序列が決められるからだろう


3.日韓社会の違いと同化政策の失敗

二つ目の理由は、日本の植民地支配が、韓国社会の「同化」に手をつけてしまったこと。日本は村社会に代表される地縁を軸とし、従兄弟同士の結婚、養子相続など血縁意識は低いが、朝鮮では間逆。徹底した血縁社会であり、同姓で同じ地方(本貫)の婚姻は論外とされた
また朝鮮は論理性を重視する「宗教国家であり、朝鮮の仏教では僧が結婚するなどありえなかった。日本では比叡山を開いた最澄からして、菩薩戒から発達した“円戒”という概念を導入して僧ごとに戒律を容認することとし、浄土真宗では親鸞上人が妻帯したことから、公に結婚する僧まで現われた
朝鮮視点だと、こうした原理原則から外れた日本社会の在り様は軽侮されてしまう
こうした全く異質な社会に対して、日本の植民地統治は創氏改名等の「同化」を伴うこととなり、戦後において文化侵略という評価を下されることとなった。著者は「帝国」を名乗るなら、違う原則で暮らす民族を分割統治してみせろと批判する


本書では韓国社会の分析から、日本型の経済発展を遂げないことを予見するなど、本質を踏まえた議論がされている。差別問題解消のために、在日朝鮮人に完全な参政権を渡すべきというぶっとんだ提言もあるが、30年前の本にして読み応えたっぷりである


*23’4/12 加筆修正

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