『韓国の悲劇』 小室直樹

この時代に歯に衣着せぬ


韓国の悲劇―誰も書かなかった真実 (カッパ・ビジネス)
小室 直樹
光文社
売り上げランキング: 169,530


なぜ日本と韓国は上手く行かないのか? 韓国独立の経緯、社会構造の違いから両国の異質さを指摘する
著者は経済学、社会科学、人類学と様々な分野に通暁してソ連の崩壊を予言、テレビでの発言で奇人評論家として有名になった小室直樹橋爪大三郎、大澤真幸、宮台真司の師でもある
本書は初出が1985年。韓国がNIES諸国としての台頭、日本との間に教科書問題が持ち上がった頃で、なぜ両国の認識がズレるのか、韓国人、日本人それぞれの立場に立って相手からはこう見えてしまう由縁を歴史、社会の性質から解き明かしていく
一般人向けのカッパブックスだからか、日韓の歴史問題というこれ以上ない堅苦しいテーマに、幅広い教養からウィットに飛んだ比喩を挟んでほぐし、時に胸がすくような毒舌を振るう。けっこうな文量だったが、一気読みしてしまった
アメリカはフィリピンで大したことをしていないとか(実際には独立運動の弾圧に数十万人の犠牲者を出した)、若干の事実認識の誤りはあるものの、問題の原理原則を押さえた、今なお輝きを失わない良書である

韓国では太平洋戦争が終結した8月15日が、解放記念日として祝われる。著者いわく、ここから全て誤まりが始まるという
8月15日は日本がポツダム宣言を受諾した日だが、ただちに日本の朝鮮支配が終わったわけではなかった
朝鮮総督府はソ連の北朝鮮侵入を受けて、自発的に独立運動のリーダーである宋鎮禹、呂運亭たちと交渉し、統治権を渡して独立政府を作らせようとした。しかし、国外にいる李承晩、金九といった最高指導者が亡命中であり、日本側の要求を利用するか、しないかでおおもめに揉めた
とはいえ、8月17日には建国準備委員会によって、公共機関に太極旗が掲げられる
が、実は8月16日には連合軍によって、総督府に日本の統治機構を保全し引き渡すように極秘命令が下されていたため、18日にはふたたび日章旗が掲げられた
これに対して、朝鮮人民によるめだった抵抗はなく、9月9日にアメリカ軍は日本軍と降伏の調印式を行い、11日から軍政が開始された
韓国は自力で独立したわけではなく、日本からアメリカに引き渡されたのだ
著者は革命による新政権が正統性を得るには、実力で敵を打倒し、対外的な戦争状態を終結させねばならないという。大韓民国は対外的にも対内的にも、正統性の低い形でスタートした。それが韓国国内に日本の支配の名残を残し、日本に対する過剰な反応を呼んでいる

世界史的に見れば、旧植民地と元宗主国は独立戦争の時期を越えると、良好になる例が多い。なぜ、日本と韓国でそうならないのか
著者は二つの理由をあげる。まず、朝鮮が17世紀にいたるまで日本の文化に影響を与え、日本側も相応の敬意を持っていたこと
三韓時代には中華文明の中継地として多くの渡来人が招かれ、特に百済人は日本で高官の待遇を受けた。近世にいたっても、朱子学を受容する際には、朝鮮の儒家・李退渓の思想を基礎とした。幕府公認の朱子学は朝鮮の儒教から始まったのだ
近代に入るとこうした評価は日本で忘却され、日韓の認識のズレを生んだ。近代に入ると、何が近代化に貢献したかで序列が決められるからだろう
二つ目の理由は、日本の植民地支配が、韓国社会の「同化」に手をつけてしまったこと。日本は村社会に代表される地縁を軸とし、従兄弟同士の結婚、養子相続など血縁意識は低いが、朝鮮では間逆。徹底した血縁社会であり、同姓で同じ地方(本貫)の婚姻は論外とされた
また朝鮮は論理性を重視する「宗教国家であり、朝鮮の仏教では僧が結婚するなどありえなかった。日本では比叡山を開いた最澄からして、菩薩戒から発達した“円戒”という概念を導入して僧ごとに戒律を容認することとし、浄土真宗では親鸞上人が妻帯したことから、結婚する僧まで現われた
朝鮮視点だと、こうした原理原則から外れた日本社会の在り様は軽侮されてしまう
こうした全く異質な社会に対して、日本の植民地統治は創氏改名等の「同化」を伴うこととなり、戦後において文化侵略という評価を下されることとなった。著者は「帝国」を名乗るなら、違う原則で暮らす民族を分割統治してみせろと批判する
本書では韓国社会の分析から、日本型の経済発展を遂げないことを予見するなど、本質を踏まえた議論がされている。差別問題解消のために、在日朝鮮人に完全な参政権を渡すべきというぶっとんだ提言もあるが、30年前の本にして読み応えたっぷりである
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『東京アウトサイダーズ』 ロバート・ホワイティング

暗黒街から見る日本社会


東京アウトサイダーズ ― 東京アンダーワールド2
ロバート・ホワイティング
角川書店
売り上げランキング: 450,610


太平洋戦争終了後にアメリカ軍が進駐して以降、闇の世界でも日本とアメリカ、世界との交流が深まった。50年代から21世紀の現代まで、暗黒街で踊った紳士淑女を追う
だいぶ前に読んだ『東京アンダーワールド』の続編である
『東京アンダーワールド』の時点で膨大な資料を集めたものの、編集の段階でだいぶ削ぎ落とされたという。本書では前作で入りきらなかった、ニック・ザペッティ、児玉誉士夫、力道山といったメジャーではない、数奇な運命を辿った山師、娼婦たちが取り上げられている
不良外国人の殿堂ともいえる内容なのだが、本書のテーマは前作と同じく闇の業界から見えてくる日本人とガイジンの関係史外国人犯罪の多くはほとんど日本の暴力団絡みであり、外国人の犯罪率は日本人よりも少ない
本書で紹介される外国人犯罪者の暗躍は日本社会の闇を映し、日米の力関係の変化をも表している

今も沖縄で問題となる米兵の犯罪は、敗戦から50年代が頂点だった
特に1957年に起きた「ジラード事件は、日米安保条約を根底から揺るがした
事件は群馬県相馬ヶ原にあるキャンプ・ウィアでの射撃場で起きた。ここでは米兵たちが射撃訓練後には、地元の「金属回収協同組合」の数百人が入り、薬莢を廃品業者に売っていた。こうした慣習は、旧日本軍時代から暗黙の了解で認められていて、米兵も黙認していたという
21歳のウィリアム・S・ジラードは、訓練の最中に薬莢を拾いに来た日本人に対して発砲し、主婦の一人を射殺してしまう
敗戦さめやらぬ時期だけに世論は激昂し、それを受けた日本政府がアメリカに米兵の裁判を日本で行うことを求める要請を行った。そして、アメリカ政府はアイゼンハワー大統領の了承のもと、国務省と国防省がジラードの行動を「救いようがない」と声明を出した
しかし、これにアメリカの世論は二分し、連邦裁判所の最高裁まで昇ってようやく日本での裁判が認められた
が、大問題になったこの裁判の結末は、執行猶予4年、禁固3年という軽い処分に終わる。1995年に公開された資料によると、アメリカ政府は極秘に引き渡しの条件として「殺人罪」ではなく「傷害致死」とするように申し入れていたのだ
とはいえ、このジラード事件をきっかけに基地撤廃運動が過熱し、全国の米軍が撤退するきっかけとなる
60年近く前に、今の沖縄のような状況に日本全体があったのである

日本人の外国人観を端的に示しているのが、2000年に起きたルーシー・ブラックマン殺害事件
当初、日本の警察は観光ビザでホステスになった被害者の捜査に熱心ではなかった
しかし、被害者の父親が運動した結果、沖縄サミットで来日していたトニー・ブレア首相に届き、当時の森首相が警視庁へ介入した
そこから地下鉄サリン事件並みの捜査体制へ以降し、織原城二の逮捕につながる
そもそも日本の歓楽街では、白人女性が重宝されていた。アメリカの進駐以来、白人女性をはべらすことは客のステータスとなり、著者いわくお座敷遊びからの伝統で、必ずしも肉体関係をともなわずに高収入を得られるホステスの仕事は、外国人女性にとって魅力だった
そうした事情の一方で、著者が指摘するのは、東南アジアから来る女性たちの存在だ。白人女性の事件は過熱するのに、人身売買同然に送られてくる彼女たちについて、日本のマスコミは一切触れない。東南アジアから母国のマフィアに騙されて渡航した女性たちは、地方都市の歓楽街で奴隷同然の状態に置かれているにも関わらずだ
相手国が先進国か途上国かで、日本政府の対応は様変わりする。それは日本人の価値観をそのまま映している。アジア経済の台頭で、はたしてどこまで改善されているだろうか


前作 『東京アンダーワールド』
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『真田太平記 (九) 二条城』 池波正太郎

草の者の深刻な高齢化


真田太平記(九)二条城 (新潮文庫)
池波 正太郎
新潮社
売り上げランキング: 16,077


九度山に流された真田昌幸は、十余年の月日を送るうちに静かに老いを重ねていた。徳川家康は嫡子・秀忠に征夷大将軍を譲り、自分の眼の黒いうちに徳川の天下を磐石なものにしようと動き出す。後陽成天皇から後水尾天皇への譲位にともなう御所の改築を契機に、豊臣秀頼の上洛を要請。淀君は難色を示すが、加藤清正に説得される形で、家康との対面を済ませるのだった

忍者たちの高齢化を感じざる得ない巻であった(苦笑)
ヒロインともいえるお江が50代で、その宿敵たる猫田与助は70代! 草の者のエースである佐助は30代であるものの、お江をフォローする者たちは80代から90代までのジジイという……もう少し世代交代があってもいいのではなかろうか
甲賀忍者側は頭領すら代替わりし、良くも悪くも組織的な忍者たちが台頭している。草の者に真田十勇士ぽいのが、佐助ぐらいしか出て来ていないのも淋しい
ただ年齢さえ度外視すれば、戦国最後の生き残りともいえる忍者たちの攻防は熱い!

この小説を読むと関ヶ原後の豊臣家を支えていたのが、加藤清正ら豊臣恩顧の大名だったことが分かる
加藤清正難攻不落の名城・熊本城を築いて九州に割拠しており、浅野長政・幸長父子は大坂に間近の紀伊和歌山37万石を治めている。両氏とも家康との対決は望んでいないが、いざともなれば西国に固まる豊臣系の大名を巻き込んで対抗できる勢威を誇っていた
石田三成と加藤清正が割れなければ、天下はどういう形になっただろうか
大坂の陣の数年前に、加藤清正、浅野長政・幸長父子がいなくなったのは、徳川にとって非常に都合がいいことであって、小説のような展開にもリアリティがあってしまう
真田父子が流された九度山は紀州浅野家のお膝元であり、この始末そのものが関ヶ原後も徳川家の勢威に限界があったことを示している


次巻 『真田太平記 (十) 大坂入城』
前巻 『真田太平記 (八) 紀州九度山』
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『キャリー』 スティーヴン・キング

ぱみゅぱみゅ


キャリー (新潮文庫)
キャリー (新潮文庫)
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スティーヴン キング
新潮社
売り上げランキング: 112,100


謎めいた少女キャリーには、隠された能力があった。カルト的信仰の母親に苦しめられ、高校では執拗ないじめを受けながらも、自身の意のままに物体を動かす能力、テレキネシスに目覚めていく。いじめを反省したスーザン・スネルの好意によって、その彼氏のイケメン、トミー・ロスと舞踏会に出席することとなったキャリーだったが、いじめグループの魔の手が伸びようとしていた

ホラー小説の巨匠スティーヴン・キングの処女作
超能力少女を主人公とする創作の元祖ともいえ、『サイレントヒル』『F.E.A.R.』といったホラーゲームにもその影響は甚大だ
構成は登場人物の視点ともに、キャリーが引き起こした大事件のノンフィクション、生存者の暴露本が引用する形で語られ、手記で語るブラム・ストーカー以来の伝統を踏襲、洗練した手法が用いられている。最初はやや取っ付きにくいかもしれないが、原則は時系列で事件を追いそれぞれ違う角度からの語りがなされるので、徐々に明らかになる事件の全貌、真実にひきつけられざるえない
そして、なんといっても本作の魅力は、天国から地獄へと跳ね飛ぶ急転直下の展開である。普通ならもうしばらく様々な段階を踏んで紙数を重ねるところを一気に跳躍してしまう
このダイナミックさは、怖いものなしの処女作ならではといえよう

本作の舞台は、作者の故郷メイン州のチェンバレン
作中の年代は1979年とされるが、実際の創作は1972年前後だからか「ベトコンを殺せ」などベトナム戦争の影響がそこかしこに残っている
キャリーの母親マーガレットは地元の教会を抜け出して、独自の信仰を持つにいたるカルト教団ひとり性的なものを悪と憎むあまり、自らの娘すら悪魔の産物とみなし、その女性としての成長の過程を踏みにじってしまう
その思想は最終的にキャリーをも拘束して、悲劇的な母殺しの物語へ導いてしまうのだ
この狂える母親こそが、裏の主役といえ、アメリカの個人主義から抜け出たリアルさがあって恐ろしい
と母子対決に運命的なものがあったとしても、ここまでの大事件になる必然性があるわけではなく、ある人間の好意、悪意が微妙に交錯して起きてしまったところに運命の残酷さを感じてしまう


キャリー [Blu-ray]
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20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (2015-12-18)
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『真田太平記 (八) 紀州九度山』 池波正太郎

表の戦より、裏の戦が面白い


真田太平記 (八) 紀州九度山(新潮文庫)
池波 正太郎
新潮社
売り上げランキング: 5,600


関ヶ原の戦いは西軍の敗北に終わった。戦場に遅参という恥をかかされた秀忠は、真田父子を恨みその切腹を訴えるが、信幸の岳父・本多忠勝の助命により紀伊の九度山送りが決まる。一方、家康暗殺に失敗し頭領・壺谷又五郎を失った“草の者”は、生き残った奥村弥五兵衛お江によって上方中心に再編され、来るべき真田父子の決起に備えるのだった

上田城攻防戦、関ヶ原の戦いが終わり、小説は休戦パートに入る
真田家としてはひとつの大きな見せ場が終わったのだが、この作者の場合だと史実の大戦よりも、忍者中心のほうがモチベーションが高いので、面白さは変わらなかったする(苦笑)
お江たちは、長曽我部盛親など元西軍の武将を偵察しつつ、上方に忍び小屋を増やしていく。沼田の真田家は徳川家の勢力圏で安泰なので、彼らは真田父子の決起に専念しているのだ
長曽我部盛親が通う女官“お通は、高い教養から朝廷や大阪方とも交際しながら、裏では徳川家にも通じる曲者。それを見張る草の者たちをさらに山中忍びが迫り、草の者の忍び小屋の隣にお互い知らずに甲賀忍びの小屋があるという、なんだかたまらないスパイ合戦が繰り広げられるのだ

前半に紹介されるのが、真田家の伏見屋敷を仕切る鈴木右近の師匠、柳生五郎右衛門宗章の最期
小早川家を経て城を東軍に明け渡した中村一忠に仕えるが、仕官を勧めてくれた筆頭家老横田村詮が一忠に討たれたことに激怒し、村詮の一派ともに城の一角に立て篭もる
柳生五郎右衛門は少ない手勢で奮戦するが、一忠の父、中村一氏の盟友である堀尾義晴が援軍に来たために、壮絶な討ち死を遂げるのだった。徳川家はキレ者・横田村詮の誅殺を怒るが、その責めは部下に留めて中村家は存続した。しかし、一忠はこの一件で家中の声望を失い20歳で急死。継子の存続が認められず、改易されている
小説では滝川一益の孫である滝川三九郎が一忠に仕えた形で、五郎右衛門が語られる。三九郎は昌幸と愛妾・お徳との間にできた娘・於菊を娶ったことで、真田家の姻戚になっている
ちなみに、大河ドラマだと柳生五郎右衛門の存在が手に余ったのか、滝川三九郎が鈴木右近の師匠扱いとなっているようだ


次巻 『真田太平記 (九) 二条城』
前巻 『真田太平記 (七) 関ヶ原』
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『関ヶ原合戦と大阪の陣 戦争の日本史17』 笠谷和比古

サイコロの目のように天下は決まる


関ヶ原合戦と大坂の陣 (戦争の日本史 17)
笠谷 和比古
吉川弘文館
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関ヶ原の戦いは本当に天下分け目の戦いだったのか? 豊臣から徳川政権への移行期を、俗説に囚われずに分析する「戦争の日本史」第17巻
『真田丸』も関ヶ原が近いので急いで読んだが、まさに目から鱗の一書だった
本書は関ヶ原の戦いが江戸幕府260年の礎となったという従来の見解に対して、戦後に大幅加増されたのが豊臣系の有力大名であることに着目して異を唱える
関ヶ原の論功行賞は徳川の優位を決定づけるものではなく、秀吉が家康に備えて東海道に配置していた子飼い大名を西国へ移すという、あくまで東国での優位を確立するものに過ぎなかった
豊臣家が65万石の中堅大名に転落したというのも真っ赤な嘘であり、実際には西国に御料地が点在していて隠然たる実力を誇っていた
二条城の会見の際にも、家康は秀頼を対等に近い存在として気を遣っており、関ヶ原後の大譜請にも豊臣家を狩り出さなかった。いや、狩りだせる立場にはなかった
関ヶ原の戦いは形式的に豊臣政権内での主導権争いなのであって、家康も豊臣政権の第一人者としての立場に縛られており、それから抜け出すために征夷大将軍が必要となった
著者は関ヶ原後の政治体制を、関白が約束された豊臣家と征夷大将軍の徳川家の、二つの公儀が並存する「二重公儀体制と見なしている

なぜ、関ヶ原の戦いで徳川の天下が確立できなかったか
それは実際の戦場において、豊臣系大名である福島正則や黒田長政らの存在が大きく、本多忠勝や井伊直政らの先遣隊を除けば、家康自身とその旗本衆がかろうじて参加したに過ぎなかったからだ
徳川の戦闘部隊は、中山道の秀忠隊に集中していて、秀忠の遅参が重要な一因となる
ただし、秀忠の遅参は彼個人の責任ではないと分析するところが本書の白眉である
そもそも、小山の評定の後、家康はなぜ江戸に留まっていたのか。直接的には上杉の南進への備え常陸(現・茨城県)の佐竹義宣の去就が定まらないこと。さらに大きな要因として、小山の評定の際に石田三成-大谷刑部ラインの謀反と見なされたことが、その後宇喜多秀家、毛利輝元をも巻き込んで政権を二分する事態にまで発展したことだ
秀頼の出陣まで想定すると、豊臣恩顧の将を中心とする先鋒がいつ旗幟を翻してもおかしくない。動きたくても、動けなかったのだ

家康は福島正則たちの反応を窺うこととし、秀忠にまず上田城攻略を命じていて、実は秀忠の行動にまったく落ち度はなかった
しかし、福島正則たちが進んで岐阜城へ落としてしまったことで状況は一変。もし、福島たちだけで決着がついては立場がないと、家康は急遽、西上する。この家康の臨機応変の行動が、結果的に秀忠遅参という状況を作ってしまったのである
吉川広家が東軍に通じたことで南宮山の毛利軍が動けないと知った家康は、関ヶ原に戦場を設定。あとは、小早川秀秋が予定どおりに裏切れば、勝利は手にしたも同然だった
しかし、石田軍が戦場で大砲を使用(榴弾?)するなど思わぬ健闘を見せたことから、秀秋は日和見を始めてしまう。もし、秀秋の内応が遅れて、南宮山の毛利軍が動き出してしまったら、東軍の勝利は危うかったという
小早川秀秋は越前転封から再び筑前30万石に復帰する際に、徳川家康の尽力を受けており、西軍のなかでも怪しいと評判になっていた。土壇場で事前の予定どおり、動いたことで東軍の勝利は決定づけられる
ただし、実戦場には豊臣系の大名が活躍しており、徳川家とその譜代大名は全国の3分の1の知行しか掌握できず、徳川の天下とは程遠い状況だった

家康は当初、関ヶ原後の政治体制を豊臣と徳川の「二重公儀体制」を目指した。西国における豊臣系大名の存在を考えるとそれが現実的であり、秀吉の遺言に沿って秀頼と秀忠の娘・千姫との婚姻も整えている
なぜ、そこから家康は豊臣家滅亡を考えるようになったか
それは始まったばかりの江戸幕府の体制が、家康個人の声望に頼ったものだったからだ
豊臣政権内の第一人者として、豊臣恩顧の大名は家康に従ってくれるが、後継者の秀忠に対してはそんな義理はない。もし、家康の死後に秀頼が関白に任官した場合、秀忠の影響力は相当、限られたものとなってしまう。下手すれば、室町幕府の関東公方扱いもありうる
転機になったのは豊臣系の有力大名である加藤清正、浅野幸長が相次いで亡くなったこと
降って湧いたように、方広寺の鐘銘事件が持ち上がり(徳川方の難癖ともいえないらしい)、これを機会に「二重公儀体制」の終焉を目指す
家康個人としては、織田家を秀信や信勝が継いでいるように、豊臣家の断絶を狙ったわけではなく、冬の陣後には大坂城からの立ち退きと一大名としての存続を和議の条件としている
和議では本丸を除く大坂城の破却が決まっており、徳川方が外堀だけでなく内堀を騙して埋めたというのは、俗説だそうだ
大阪の陣に関しては、従来どおりながら、真田勢の活躍に隠れがちな木村重成、毛利勝永、後藤基次(又兵衛)の働きも詳述され、読み応えたっぷり。これを読む限り、大阪の陣のMVPは、毛利勝永だと思う
本書は驚くべき事実が掘り返されているわけではないけれど、冷静な分析で講談的想像力に彩られた歴史像を一新してしまう名著である
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【BD】『フューリー』

武装SS絶対殺すマン


フューリー [SPE BEST] [Blu-ray]
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント (2015-12-25)
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1945年4月。ドイツ本土に乗り込んだアメリカ軍は、総動員体制を引くナチスドイツの必死の抵抗を受けていた。副操縦士を失ったフューリー号のドン・コリアー軍曹(=ブラッド・ピット)のもとに、補充の新人ノーマン(=ローガン・ラーマン)がやってくる。戦場に慣れない彼に、ドンをはじめ先輩の戦車兵は荒々しく接する。激しい戦闘である街を陥落させたとき、ドンとノーマンは女性二人が潜む建物に潜入する。誤解が晴れた後、ノーマンと若いドイツ人の娘エマ(=アリシア・フォン・リットベルク)は仲良くなるが……

ナチスドイツの降伏間近での死闘を描いた戦争映画
戦車ゲーム『World of Tanks』とコラボして、パッケージの背表紙にティーガー戦車との対決が謳われていたことから、戦車戦が主体と思いきやそうでもなかった
ティーガー戦車との対決は中盤にあるものの、三台のシャーマン戦車でかかって一台のティーガーを仕留めるという、あまりにスペックに忠実な結末(苦笑)に終わる。それだけティーガーの脅威がアメリカ人の中で神話化しているのだろう
戦車同士の戦いはティーガー戦に限られていて、森に隠れる伏兵、敵がこもる市街戦、十字路での決死の攻防と、多彩な戦場が用意される一方、肉体が飛び散る戦争のえげつなさがしっかり描かれていて、『プライベート・ライアン』のドイツ本土バージョンともいえる作品なのである

戦場に慣れすぎた男たちと新人との葛藤という、戦争映画につきまとうテーマに本作は真っ向から取り組んでいる
対戦車兵器「パンツァーファウスト」を持つ女子供を容赦なく撃つことを要求されノーマンは必死に抵抗するが、ドンはチームや味方が生き残るためにノーマンを強引に引きこんで行く
転機になるのが、陥落した都市で知り合った娘エマと束の間に愛し合ったことで、占領した都市にドイツ軍が砲撃したことから、ノーマンは愛する者を奪った相手として武装SSを憎むようになる
その後は、完全にチームに溶け込んでドイツ兵に容赦なく応戦していくのだ
相手は武装SSだから遠慮する必要はない……そんな論理を見せつつも、ラストには軽いどんでん返しが待っている。戦車の下に逃れたノーマンは、相手の若い兵士に発見されるが、その慈悲によって見逃されるのだ
仇として殺しまくっていた相手によって、生を得てしまった。この矛盾を含めることで、戦争における正義の観念、戦車隊内の熱い友情と熱狂を相対化してしまう
ティーガー戦がリアルな反面、ラストの戦闘がヤクザ映画のような粘りを見せてしまうのがアレだったが、いろんな見所のある良作なのである


関連記事 【DVD】『ザ・フューリー 烈火の戦場』
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『宇宙のランデヴー』 アーサー・C・クラーク

なるほど、これぞSFという傑作


宇宙のランデヴー
宇宙のランデヴー
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早川書房 (2013-04-26)
売り上げランキング: 66,575


2130年、太陽系に突如、謎の天体が現われた。ラーマと名づけられた天体は、自転する円筒型であり、人工の建造物としては驚異的な大きさを誇っていた。太陽系の人類を代表する「惑星連合」に選ばれたノートン中佐は、探査チームの隊長として宇宙船エンデヴァー号へ乗り込む。ラーマで彼らを待っていたのは、巨大な海と謎の機械文明だった

素朴で力強い冒険物語だった
22世紀の未来でも、小惑星クラスの人工天体は超科学。特に敵対する存在がでてこずとも、その未知の空間を手探りで歩くだけで立派な冒険となる
ラーマという巨大構造物、太陽に近づいて激変する気候、役割を持った機械生物……そのひとつひとつと出会い分析することから、異星の高度文明の姿が明らかになっていく過程が巨大なミステリーなのである
解説では、アーサー・C・クラークの作品の特徴として、異星人が理性的で話せそうな相手あること、未来に楽観的であると孫引きで指摘されているが、果たしてそれはどうか
人間を歯牙にもかけず通り抜ける本作の宇宙人は、理性的と同時に怜悧であり、宇宙に人間の及びもつかないものがいるという、背筋の寒くなる世界観である

ラーマは自転する円筒型であり、遠心力によって擬似重力を作り、内部に地面を生み出す
そう、この形態はガンダムのコロニーに似ているのだ
シリンダー型のスペースコロニーの先駆者は、素粒子研究者ジェラード・K・オニール。地球と月の引力で安定する地点「ラグランジュポイント」に設置し、地球上と同じ環境を再現させる構想は、ガンダムにそのまま引き継がれている
ラーマではさらに飛躍した科学が備わっていて(あっ、完全なネタバレになる……)、そこでは全ての根源となる水が海として存在していて、必要に応じて機械生物を組み立てて動員し、役割を終えれば解体して水に戻す
そして、それら秩序だったプログラムを生み出した超然としたラーマ人が存在するのだ
「ラーマ人は何ごとも、三つ一組にしないと気がすまない」。そんな謎めいた言葉で締めくくられる本書だが、その後、ジェントリー・リーとの共作という形でシリーズ化されているそうだ。そこでラーマ文明の謎が説き明かされるのかもしれない


宇宙のランデヴー2〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
アーサー・C. クラーク ジェントリー リー
早川書房
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『ブッシュの戦争』 ボブ・ウッドワード

対テロ戦争の答えはいまだ見えず


ブッシュの戦争
ブッシュの戦争
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ボブ ウッドワード
日本経済新聞社
売り上げランキング: 562,026


9.11同時多発テロ事件から、ブッシュ政権はいかなる過程で対テロ戦争を計画したか。ウォータゲート事件をスクープした「調査報道」のレジェンドが、ブッシュ政権の要人を取材してその全貌を明らかにする
『攻撃計画(Plan of Attack)』イラク戦争への道程に焦点が当たっていたが、その前段である本書はアフガニスタンのタリバン政権への攻撃を扱っている
ラムズフェルド国防長官のように9.11直後にイラク攻撃を意識する人間はいたものの、他の“ネオコン”チェイニー副大統領、ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官はさすがに今の段階で結びつけるのは無理筋であり、アルカイダへの攻撃やテロ対策に集中すべき考えていた
コリン・パウエルやアーミテージの国務省の元軍人コンビと大統領の関係も、タリバン政権の転覆まではさほど問題ではなく、コンドリーザ・ライス大統領補佐官が見事なつなぎ役を果たしてた
9.11の報復であるアフガン戦争も、アフガンの歴史背景や周辺諸国の反応を重視して単独行動主義(ユニラテラリズム)に陥らない配慮がなされていたのだ

アフガニスタンのタリバン政権への攻撃で問題になったのは、アルカイダとタリバン政権の関係が不明なこと。アルカイダと一体化しているのが、最高指導者オマル師の周辺だけなのかが不鮮明で、当初はビンラディンとアルカイダの追討への協力がタリバン側に打診された
対抗勢力である北部同盟には主要民族のパシュトゥン人が含まれておらず肩入れし過ぎるとパシュトゥン人全体を敵に回す危険がある。タリバン政権から距離を置くパシュトゥン人の部族や後に大統領となるカルザイ氏の勢力を取り込む工作が行われた
北部同盟には首都カブールへの進撃を遅れさせ、北部の要衝であるマザリシャリフ攻略を優先させ、カブールの統治は国際的な枠組みでの管理が望まれた。アフガンにはイギリス、ソ連と外国の勢力による支配へ頑強に抵抗した歴史があり、アメリカが前面に立つことは避けたかったのだ

軍事的な問題としては、空爆を加えるにしても拠点となる空港が必要とともに、パイロットを救出するための特殊部隊を配置せねばならず、北部への攻撃にはウズベキスタンやタジキスタンと交渉せねばならない。ウズベキスタンはロシアと対立する傾向があり、タジキスタンは親ロシアなので、これまた一方に肩入れし過ぎるわけにはいかない微妙な外交が必要となる
南部への空爆は空母からのみとなり、か細いものとならざる得なかった。パキスタン国境付近の山岳地帯の制圧には限界があり、後のタリバン復活につながっていく
とはいえ、300名余りの特殊部隊とCIA工作員が北部同盟の支援、パシュトゥン人への工作に潜入して着実に現地勢力の協力者を増やし、大規模な地上軍の派遣なしでタリバン政権に首都カブールを放棄させることに成功した
本書のなかの範囲ではアフガン戦争は緻密な外交、軍事作戦、秘密工作で、最低限の投資・損失でアメリカが成果をあげたものとされている。イラク戦争のガバガバさに比べると、確かに信じられないぐらいリスクが管理されていた
ただ、その後のアフガンではタリバン政権が息を吹き返し、オバマ政権では数万人の米軍が駐留せねばならないようになった。ビンラディンは死んだけど、何が最善手だったかはイラク戦争に比べはるかに難解である


関連記事 『攻撃計画(Plan of Attack)-ブッシュのイラク戦争』
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【映画】『シン・ゴジラ』

落し物を受け取るついでに、観にいった。ネタバレ気味なので、観にいく予定の人はご注意を


東京湾に一隻の漂流船があった。海上保安庁の船が調査したところ、遺書ともとれる書類と靴が並べられていたが、そこに水蒸気の噴射が隊員たちを襲う。東京湾で起きた異常現象に内閣官房副長官・矢口蘭堂(=長谷川博己)は、ネットの動画からUMO(未確認生物)の可能性を口にするが、会議では一笑に付される。しかし、巨大な尻尾がテレビ映像に流れるや、空気は一変。蘭堂は内閣総理大臣補佐官・赤坂秀樹(=竹野内豊)と連携し、巨大不明生物特設災害対策本部を立ち上げる

でこぼこしているものの、いい特撮映画だった
謎の怪物ゴジラに対して、日本人が存亡を賭けて立ち向かう内容であり、名高い初代への原点回帰といえる。主役は文句なしにゴジラで、この一作のなかで何段階も進化を遂げ、“新ゴジラ”に相応しい様々な驚異を見せてくれた
対する人間側は、政府要人、官僚、自衛隊といった上層部に焦点が当たっていて、前半は彼らの想定外の事態に対する形式的な対応、報告の繰りかえしに終始してしまって、主人公格の蘭堂はそうした群像の一人に隠れてしまうほど
しかし中盤以降、ゴジラが首都中枢への脅威となることで、蘭堂ら対策本部のチームが直接の被害者となり、ようやくギアが入る。アメリカが破局的な解決法を決めたことで、蘭堂たちが東京の、日本の命運を背負うこととなるのだ
最後の作戦に向けての、蘭堂の訓示は役者さんの演技もあってまさに迫真である

膨大な情報を2時間以内に収めるためか、ひとつひとつの場面が小さく刻まれ過ぎて、その消化に視聴者はけっこうな負担を強いられる。特に対策本部の尾頭ヒロミは短い尺の長台詞が多く、市川実日子の中の人も大変である(てっきり田畑智子だと思ってました)
監督が監督だけあってか、普通の民間人の視点が綺麗に欠けていて、前半は特に他人事のような距離感がある。ニコニコ動画やツイッターを通して把握するようなリアルさがある反面、蘭堂が守るとする「国民」の姿が見えないという難点もある
途中でアメリカの特命大使として石原さとみが出てきて、邦画特撮の伝統的な緩さ(!)を見せつつも、特に恋愛要素もなく終わるとか、自分の不得意な部分は徹底的にそぎ落としていくという潔さは、良くも悪くも監督の個性を感じさせる
第一形態の使徒のような暴れ方、ゴジラの背中から出る驚きの対空ビーム、切り裂かれる高層ビルに、張り飛ばされる電車と、映像的な見所満載であり、その点では劇場でこそ観るべき作品である
ラストには、ゴジラの尻尾に絡み合った異形の姿もあって、作品内で単性生殖の可能性に触れられるなど続編への伏線がたっぷり。このテンションで新エヴァも完結させて欲しいものだ


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