『高い窓』 レイモンド・チャンドラー

翻訳家・清水俊二の遺作。病床で最期まで挑んでいたらしい
その後を戸田奈津子が引き継いだそうだ


高い窓 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
レイモンド チャンドラー
早川書房
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パサデナに住むマードック夫人は、亡き夫のコレクションが盗まれたとして、フィリップ・マーロウに見本コインの奪還を依頼してきた。夫人が犯人とみなすのは、愛息子の妻リンダ。彼女は結婚生活の不満で、屋敷から姿を消していたのだ。コインの件で電話をかけてきた故買商に接触した後、マーロウは麦わら帽子をかぶった男につけられ始める。その男フィリップスは、駆け出しの探偵で手に負えない事件を請け負った打ち明けてきて……

かなり難解な筋だった
裕福な未亡人から盗まれた珍しいコインを取り戻すように依頼されるのだが、息子のレズリーが借金漬けで怪しく、第一容疑者リンダの行方は中盤まで分からない。素人探偵フィリップスが絡んできたと思えば、ギャングと思しきモーニーとリンダの元同僚にしてモーニー夫人であるロイス、それにちょっかいを出すバニヤーが出てきて、なんだか良く分からないうちに謎のコインがマーロウの元へ送られてくる
管理人の拙い推理力では、まともに予想すら出来なかった(苦笑)
マーロウ自身も真偽の分からないコインと、関係者が次々に殺される展開に気が病んで、敏腕の刑事に珍しくやりこまれてしまう
作者自身も筋を複雑にし過ぎて、かなり悩んだのではないだろうか
タイトルの「高い窓」(原題もThe High Window)で、それはコイン騒動に隠された裏の事件に関わってくる。終盤に怒濤の展開で真相が明らかになるが、ヒントが少ないのでただただ圧倒されるだけしかなかった(苦笑)

あまり話すとネタバレになるのだが、ある程度書いてしまおう
純金のコインを偽造するのに、1930年代の歯医者が患者の義歯を仕上げる技術が使われるのが目から鱗。金歯の鋳型をコインに応用するわけだ
セメントの一種のなかに鋳型を作り、その鋳型にを流し込んでレプリカを製造。そこから高熱に耐えるセメントで包む型を取り、溶かした蝋をあらかじめ開けた穴から出せばコインの型が出来上がり。遠心分離機のるつぼにとりつけ、溶けた金を流し込んでその遠心力をもって型の中に注入する
そして、熱したセメントが冷めないうちに水をかけると、セメントは急激な温度変化で砕け、コインの複製が出来上がるという仕組みだ
硬貨の偽造はこのような手間がかかり、費用対効果から金貨でなければ採算が取れない
こんなことは想像もつかないから、故買商と同じビルにいた歯医者が事件に絡むとか到底読めないわ(笑)
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『敗戦真相記』 永野護

きな臭い人でもあるらしい


敗戦真相記―予告されていた平成日本の没落
永野 護
バジリコ
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日本はなぜ負けたのか、これからどうすればいいのか。敗戦直後に一経済人が語った戦後日本の出発点
著者はFSSの作者ではなく(笑)、渋沢栄一の秘書をしたのを皮切りに証券会社などの取締役を歴任、戦中・戦後に衆議院議員となり、第二次岸内閣で運輸大臣に就任した政財界の要人だ。弟たちも政財界で活躍したことから、「永野兄弟」の長兄として名高かったという
本書に元になったのは、なんと1945年9月に行われた講演!
終戦直後の混乱冷めやらぬ間に、冷静に敗戦の過程を分析し、ポツダム宣言から想像される日本の将来を驚くべき正確さで予見している

まず敗戦の原因に関しては、国策の基本理念からして間違っていたと指摘
自給自足主義を目指したのが間違いで、満州国で立派な近代都市を作っても、現地民の人人心を得ることはなかった。永野も日本語が上手い中国人の知人から、「ロシアと戦争になったら、ロシアにつくよ」と言われ絶句したという
いかに名分を語ろうと、植民地である以上は本国の利益が第一であり、現地人の福祉は二の次以下になるのだ
フィリピンにおいても、山下将軍が「フィリピン人の協力をまったく得られなかった」と語り、アメリカへつくものが多かったという。日本がアジアの解放に貢献した云々は、敗戦直後に否定されていたのである
戦争指導においても、陸海軍が様々な局面で張り合って、松根油のために松の木を争ってしまう。総力戦とはほど遠い状況証拠がいくつも示されて、ため息が出る
極めつけは、トロツキーの論文『噴火山上の日本』の引用。「日清戦争は日本が支那に勝ったのではない。腐敗せる清朝に勝ったに過ぎない。日露戦争は日本がロシアに勝ったのではない。腐敗せるロマノフ王朝に勝ったに過ぎない。要するに、これは一つの後進国が、さらに一層遅れた後進国に対する勝利に過ぎない」「日本は日清日露の成功に思い上がり、東洋制覇の事業に手を出し始めたが、これは早晩、アメリカかソビエトロシアに対する衝突を招くだろう。日本の生産と科学は果たしてこの大戦争に用意ができているかどうか。日本国民の神秘主義と精神論は、この大戦争によって冷酷にテストされるに違いない」

焼け野原となった日本については、ポツダム宣言から国の建て直しを考える
日本は武装解除されたが、国家が分断されたドイツよりはマシ。むしろ、国家財政の過半をもっていった軍部がいなくなったことで、国民の教育と福祉に意を払えるとする
戦争犯罪人については、アメリカはパールハーバーの開戦責任にこだわるのは仕方なく、日本国民と軍部を分ける発想に注目。無条件降伏ではないことを強調する
進駐軍の方針が他国に戦争を仕掛ける軍勢力の除去と民主主義の確立を条件とするのなら、永野は日本にとって悪くない話と考えているのだ。敗戦革命的な発想自由主義者の経済人から飛び出すのは意外だ
ポツダム宣言の条文を読み直して行くと、日本国憲法の下地になっていることが分かる。良かれ悪しかれ連合軍の政策が元になっているのだ
日本が純粋な農業国でやっていくのでは、江戸時代の人口三千万人しか養えない。肥料も海外からの輸入が必要なので、必ず外国と付き合わざる得ない
日本には人が余っているので、単純な工業製品ではなく複雑な工程を経る時計などの精密機械の製造を目指すべきとする。高付加価値の製品を輸出して、物のない日本は必要なものを輸入するしかない。高付加価値産品の輸出は今でも求められていることで、現代日本の出発点は焼け野原の現実にあったのだ
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『信長の戦争 「信長公記」にみる戦国軍事学』 藤本正行

Gレコ劇場版は三部作という話。ならば∀劇場版のような超ダイジェストにはなるまい(あれはあれで神業だけど)
テレビ版を背負いつつ、どう表現が変わるかに注目


信長の戦争 『信長公記』に見る戦国軍事学 (講談社学術文庫)
藤本 正行
講談社
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戦国時代を終わらせた天才・織田信長。近代に到っても神秘性は消えず、さまざまな脚色が施された戦いの実際のところとは? 最も信頼される『信長公記』から読み解く
序章からしてこだわりが違う
『信長公記』信長の家臣・太田牛一が一代記としてまとまたものである。その写本は数十本あるとされ、太田牛一自身が依頼され写したものでも内容が微妙に異なるという
写した年代によって信長や家康への敬称が変化していて、渡す相手の御家の武功を書き足すなどサービスもある。著者はそうした細かい違いをただの誇張なのか、新たな史料から追加したのか精査していくのだ
桶狭間の奇襲、墨俣一夜城、長篠の三段撃ちは、『信長公記』ではなく、それを元にした小瀬甫庵の『甫庵信長記』に由来している。甫庵は胸躍る武勇伝を作るべく、架空の合戦の創作までしており資料性ははなはだ薄い
にも関わらず、明治の陸軍が『日本戦史』において史実扱いしてお墨付きを与えてしまい、それゆえに太平洋戦争の用兵にも影響を与え、今なお講談話が史実の顔をして一人歩きしている。そんな実状を覆すために書かれたのが本書なのだ

ある意味、もっとも後世の日本に影響を与えたといえるのが、桶狭間の奇襲説だろう
太平洋戦争において物量で圧倒的な米軍に対し、迂回・奇襲が奨励され様々な将官から「桶狭間」という言葉が飛び出したという。そして敵は大軍だからこそ油断しているに違いないという、近代戦にあるまじき希望的観測が生まれた
『信長公記』から読み解いた実際の桶狭間はというと、奇襲とは考えづらいという
今川義元は桶狭間という“谷間”ではなく、「おけはざま山」という高所に陣取っていたとされ、特別に油断したとは思えない。その大軍勢からして、いきなり本陣に辿りつけるはずもなく、信長が善照寺砦から大きく迂回したという根拠はない
こうなると、なぜ信長が大軍相手に勝利できたかが謎になる
著者がヒントとするのは、太平洋戦争のミッドウェー海戦だ。ミッドウェーの連合艦隊は、ミッドウェー島の攻略を第一目標としつつも、本当の目的は敵機動艦隊(空母)の撃滅だった
しかし敵機動部隊が発見できないまま、ミッドウェー攻略の爆撃機を飛ばしてしまい、発見したときには艦爆には地上攻撃用の爆弾が備え付けたまま。魚雷に武装を変更する間に、敵の航空機攻撃を受けて空母四隻を失う大敗北に到った
今川軍は大高城を包囲する丸根砦・鷲津砦への攻撃に傾注しており、それに対して信長は中嶋砦に入り、そこから義元本陣へ最短距離を正面から突き進んだ。劣勢のはずの織田軍が大将自ら野戦を挑むというのは今川軍の想定外であり、義元は安全策をとって旗本衆と退却したところ、追撃にあって討たれたというのが著者の描くストーリーだ
戦国時代において将兵を消耗させる野戦は珍しく、武将たちも歓迎しなかった。今川義元の「金持ち喧嘩せず」、最小の損害で勝利する常識的采配が裏目に出たというわけだ
が、管理人にも釈然としないものが残る(苦笑)。その「それにしても」を埋めるために生み出されたのが「奇襲説」なのだろう
この空隙を埋めるに、小林正信氏の唱える「意外に織田軍も大軍だった説」もありと思う

墨俣一夜城は、信長が美濃攻めに際し一時的な拠点として使ったことに由来し、秀吉が当時どこかの城を預かっていたこととと合体して作られたらしい。一夜城ではなく、もともと城としてあったのを争奪したと考えられる
美濃攻めの決定打は美濃三人衆の調略で、そこから一気に稲葉山城の攻略へつなげている。武田攻めも木曾義昌・穴山梅雪の調略から始まっており、信長の戦略は敵勢力内に楔を打ってから攻め込む慎重なものである
長篠の戦いでは、鉄砲三段撃ちを空理空論と指摘。銃の扱いには個人差がかなりあり、遅いものに合わせていては間隔が空いて意味がなくなる。速い者からまちまちに撃つしかなく、それを三千挺の鉄砲で行うのは実戦的ではないのだ
ただ信長が馬防柵を巡らし鉄砲を重視する用兵をしたのは確かで、大和の筒井家には50人ばかりの鉄砲衆を拠出した記録が残っている。諸兵科が混在する戦国時代の軍隊において、鉄砲だけの部隊を運用しようとしたのはたしかに先進的といえよう
石山本願寺を降伏に追い込んだ鉄甲船に関しては、当時の技術からして鉄の船ではなく、要所に鉄で補強した大船であって、焙烙玉を完封できる代物ではないとする
ただし、木津川河口を封鎖する目的に特化していたので、大鉄砲を多く積み込んで毛利水軍の船を寄せ付けない効果があったと推察する
総じて信長が行った天才とされる戦略は、発想の勝利というよりその経済力をフルに動員したものであり、特に独創的というわけでもない。むしろ、その経済力を得るにいたる戦略に天才性が宿っているのだ


関連記事 『信長の大戦略 桶狭間の戦いと想定外の創出』
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『死の迷路』 フィリップ・K・ディック

精緻な世界観をオチで潰す!


死の迷路 (創元推理文庫)
フィリップ・K. ディック
東京創元社
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何の目的も知らされずに、男女14人惑星デルマク・Oに送り込まれた。片道切符の揚陸艇で到着した彼らは、居住地で指令の通信を受けるが、メッセージが途中で終わってしまう。我々はいったい何のために送られたのか。この星から出ることはできるのか。謎めいた生き物や建物に遭遇した彼らは、次々とメンバーを殺されて……

ディックらしいトリッキーな作品だった(苦笑)
登場人物たちが送られた惑星には、人間の持ち込んだ物をコピーする生命体“テンチ”が存在するなど、いつもの本物と模造品がテーマとなるかと思いきや、終盤で大ドン返し!
「何か現実で何が虚構かって、小説だからフィクションに決まっているだろ!」という作者の哄笑が聞こえてくるかのようだ
惑星での彼らはそれぞれが専門家であるものの、自分の世界に閉じこもり勝手に振舞うがゆえに集団行動が取れない。孤立した個人が次々に死んでいく様は、何か現代社会を批評するかのようではある
しかしオチがオチだけに、何か中途で放棄されたかのようなモヤモヤは残ってしまった
序文にネタ元が晒されているのは、上手く行かなかったゆえの開き直りなのかもしれない。ぶっ飛んだ展開を純粋に楽しむ作品である

訳者による解説がふるっていた
作品のオチに怒ったのか(笑)、ディックの作品が受ける理由皮肉たっぷりに書きだしている。いわく、社会的にダメな登場人物を出しつつ、アウトサイダーだからこそ「世界の真理」に辿りつけるという筋で、「ダメな人間でもエラい」という結論へ持っていく
ダメ人間がダメさゆえに成功する展開が、SFファンを慰めているというのだ
管理人からすると、それはかなり穿った見方のように思える。ディックの作品を読んでも、ダメな登場人物にそれほど共感を持ったことはない。それほどダメである(笑)
ディック自身がジャンキーであっただけに愛敬を持たせているものの、「ダメなものはダメだよな」とある程度突き放しているように思われる。でなきゃ、読めたものじゃないだろう
どんな本でも「この内容を知っている人間は知ってない人間よりエラい」と思わせる毒はあるのであって、ディック作品だけが非難されるものではない
本作の登場人物のダメさも、普通の人間がある程度抱えているダメさであり、彼らの醜態は他人事ではない。オチも暇を明かしてスマフォをいじる現代人に通底するもので、PS4と『Fallout4』の購入が待ち遠しい管理人にもグサりときた
富野監督は「ゲームは麻薬に近いもの」と喝破したが、本作はゲームジャンキーの実存を予見していたかのようだ


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『悪の論理 地政学とは何か』 倉前盛通

かつてのベストセラーだって


悪の論理―地政学とは何か (角川文庫 白 267-1)
倉前 盛通
角川書店
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久々に地雷を読んでしまったかと思ったが……
地政学、地理的政治学とは、地理的な位置関係が国際政治に与える影響を研究する学問のこと。歴史的には時の政権の外交政策に追随して保証を与える側面があり、戦争の遠因にもなった
本書はそんな悪名高き学問を国際政治の常識として啓蒙しようというものながら、脇道があまりに多すぎる! マハンの海上権力史論から始まって、マリアナ沖海戦など太平洋戦争の解説に入り、地政学と直接関係ない海外情勢の薀蓄へと向かってしまう
その薀蓄も特に引用先が明示されないものが多いので与太話の域を出ず、アメリカの「影の権力者」を持ち出すなど陰謀論めいたオチもある
初出が1977年と冷戦たけなわであり、ネットもない時代。事情通(?)から得た限られた情報を手探りで推測していく他なかったのだろう
バブル前でロッキード事件が世間に取りざたされている頃の代物であり、今となっては懐かしい落合信彦的な語り口で冷戦時代の想像力が良くも悪くも堪能できる

いちおう、地政学のことにも触れているので収穫はあった
著者が地政学の先駆者として、アメリカのアルフレッド・セイヤー・マハンを挙げている。秋山真之も師事したマハンは『海上権力史論』によって、シー・パワー(Sea Power)が大国の覇権を決定ずけたことを証明し、アメリカが海洋大国になるために大海軍と海外基地の獲得、パナマ運河、ハワイ併合の四条件を掲げた
マハンの戦略そのままに、アメリカの帝国主義は展開され、今日に到っている
対する日本は第一次大戦に連合国として参戦し、ミクロネシアを得たことでアメリカのグアムやフィリピンを包囲することとなり、著者は日米対決の遠因が作られたとする
こうしたシーパワー重視の地政学に対し、イギリスのハルフォード・マッキンダーはドイツを警戒してハートランド論を展開した。歴史をシー・パワーとランド・パワー(Land Power)の衝突と説くマッキンダーは、海軍国の軍艦が遡行できない地域をハートランドと命名し、ランド・パワーの聖地とした。具体的にはユーラシア大陸中央部で、直接的にはロシアそのものといえる。かつて、ハートランドの遊牧民はユーラシア大陸の過半を制圧し、モンゴル帝国を築いている
マッキンダーはドイツによるハートランド制圧を恐れたが、現実にはソ連が「ハートランド論」を忠実に信奉して世界戦略を展開した。不毛とも思えるシベリア開発アフガンへの介入も「ハートランド信仰」ゆえなのだ

マッキンダーが警戒したドイツにも、地政学が発達する。フリードリッヒ・ラッツェルは、国家はひとつの生命体に喩えその国力に応じて成長するものとし、生存圏」(レーベンスラウム)という概念を持ち出した
スウェーデンのルドルフ・チェーレンは大陸国家の優勢を訴え、国家は自給自足(アウタルキー)を不可欠とした。チェーレンが初めて「ゲオポリティック」という名称を用い出したという
こうした研究を受けてドイツのカール・ハウスホーファーは、第一次世界大戦の敗因を分析し、「地政学会」を立ち上げる。ハウスホーファーの理論は、副官のルドルフ・ヘスがナチスの副総裁となったようにヒトラーの戦略に影響を与え、日本の「大東亜共栄圏」にも関係している。ハウスホーファーは、世界を四つの地域、「パン・アメリカ」「ユーロ・アフリカ」「パン・ロシア」「パン・アジア」に分かれる「統合地域論」を唱えており、松岡洋右の日独伊ソ四国同盟構想はこうした世界観によった
著者は海洋国家の本分を忘れ、ドイツ系の大陸地政学に酔ったのが日本の失敗としている

冷戦後には、従来の地政学を訂正する動きが起きる
アメリカの地政学者ニコラス・スパイクマンは、マッキンダーのハートランド編重を批判し、むしろその周辺地域(リムランド)を政治・経済・文化の先進地域が集まっているとして重視する
海軍の時代ならともかくも、航空機とミサイル技術の発達で、ハートランドは大陸国家の聖域とは言えなくなったのだ
また米ソが大陸間弾道ミサイルと原潜を持ち合ったことで、緩衝地帯だった北極海が隠れた激戦地に早変わり。ハンス・W・ワイガードは「極中心論」を掲げ、メルカトール図でははない極中心の世界地図で米ソ欧州を包む新・ハートランドを掲げた
とここまで観たところ、地政学は結局、超大国の陣取り合戦攻略本である。しかも大国のエゴを満たすように論理づけているだけに過ぎず、それを鵜呑みにした大国も破滅に到っている
著者も日本に地政学を取り戻そうというより、題名どおり「悪の論理」と認めており、国際社会に立ち向かうために大国の「悪の論理」を理解することの必要性を訴えている


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『産霊山秘録』 半村良

産霊山=イデオン説


産霊山(むすびのやま)秘録 (ハルキ文庫)
半村 良
角川春樹事務所
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日本の歴史は古代から、秘密の一族によって動かされてきた! かつては皇族の上位に位置し、いつしか皇室のために働いてきた“ヒ”の一族は、「御鏡・依玉・伊吹」の三種の神器を駆使することでテレパシーやテレポートなど超能力を使うことができる。戦国時代の“ヒ”の首長・随風は、信長の天下取りを後押しすることで乱世を終わらせようとした。しかし信長は“ヒ”の聖地・比叡山を焼き払い、随風の計算は狂っていく

400年の時を越える壮大な物語
“ヒ”の一族の物語は戦国時代に始まり、関ヶ原の戦いから江戸時代の黎明期、水野忠邦の天保年間、幕末、太平洋戦争末期、戦後に及び、明智光秀、南光坊天海、藤堂高虎、猿飛佐助、坂本竜馬、新撰組などが“ヒ”の一族として活躍していく
本作は“ヒ”が介入することで歴史が再解釈される「歴史小説」であり、忍術と超能力の戦闘描写に「オシラサマ」のような異形の者が登場する「伝奇小説」でもあり、それを統括する世界観は宇宙規模と「SF」要素もある。解説によると、「歴史」「伝奇」「SF」の三要素をかき混ぜて伝奇ロマン」というジャンルを確立したのは、半村良であり80年代の夢枕獏・菊池秀行による「超伝奇バイオレンス」ブームへと通じていくという
半村良は本作のように、独自の宇宙大の設定から世界が再構築する手法を得意として『妖星伝』という大シリーズもある
本作は主人公である“ヒ”の一族が異常な力を持つものの、並外れて強いわけでもないというバランスが絶妙で、自分たちの思うようにはならず、より多くの人々によって歴史は違う方向に流れて行く。彼らは自分の存在意義に悩み、様々な末路を辿る。超常者にも関わらず、極めて人間的で等身大なのだ
章ごとの物語も絶品でそれぞれの独特の味がある。あえて重箱の隅をつつくと、幕末の坂本竜馬が尻切れトンボだろうか(苦笑)
幕末編だけで一本の長編が作れる濃密さがあるので、もっと先が読みたかった

天皇家を守る“ヒ”の一族と、何でも願いを叶える「産霊山」と荒唐無稽、嘘八百の極北を目指しているように見えて、意外にテーマがあるような
“ヒ”の一族は、人々の願いを叶え世間を平穏にするために真の「産霊山」、“芯の山”を探すのが使命であり、表舞台に立つ天皇家もそれを求めて遷都を重ね、それを影から助けるのが“ヒ”の役目だった
“ヒ”は天皇家を守るために明智光秀をして信長を刺させるが、近代になって天皇の役割が変化していく
小説では“ヒ”の飛雅が、比叡山焼き討ちの業火から大空襲を受ける東京にタイムリープする
戦国時代と同様に戦災孤児ともに戦後を迎えた飛雅は、天皇が人間宣言をしたことに激怒した。なんで戦の大将が切腹して責任を取らないのか、人間になれば今までのことはなかったことになるのか
この結末のために、“ヒ”は、人々は死んでいったのか。軍国少年だった年代の人間の雄たけびが聞こえてくるのかのようだ
「産霊山」も個人の願いを聞いてくれるほど単純なものでもなく、今を生きる多くの人々の願いを聞く存在であり、歴史は人間たちの最大公約数によって動かされてきたことへの暗喩となっている
そして、人の願いは所詮、欲望であり、再現なく願いを叶え続けると、結局は他人の不幸、自身への破滅へとつながるという仏教的諦観も語られる
とはいえ、最後のオチのように基調となるのは荒唐無稽の伝奇ロマンであり、妙な文学に堕ちず華麗なエンターテイメントとして完結する

個人的には山科と東山の境にある「日ノ岡に、新しい価値が捏造されたのに爆笑した。人家が乏しい山深い場所で、路面電車の時代には地味な無人駅があるだけという、自然しかなさそうな土地なのである
まして、「比叡山」が「ヒの山」とか(笑)。初詣に行った、日吉大社の巨岩「金大巖」にも言及されていて抱腹絶倒。思わず産霊山巡りをしたくなるがな


関連記事 2016初詣は日吉大社
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『ボルジア家 悪徳の策謀の一族』 マリオン・ジョンソン

悪名高き一族の系譜


ボルジア家―悪徳と策謀の一族 (中公文庫)
マリオン ジョンソン
中央公論社
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15世紀末にイタリアを席巻したボルジア家。様々な悪徳を吹聴された稀代の一族は、イタリアに何を遺したのか。知られざるスペイン時代から、一族の系譜を追う
ボルジア家というと、ロドリゴ(アレクサンドル6世)チェーザレ、ルクレツィアの親子が注目されるが、本書ではロドリゴの叔父アロンゾスペインの郷士階級に生まれ聖職の階段を登るところから一族の興隆を描いている
毒殺、近親相姦、兄弟殺しと悪名高いボルジア家に対して、作者は当時の世評を冷静に精査し、教皇庁の儀典長ヨハン・ブルカルトの日記などを引いてその支配の実際を解き明かす。ロドリゴとチェーザレは、枢機卿とのパーティに娼婦を招いて乱痴気騒ぎするなど聖職者として最低だったが、教会組織や政治に対しては卓越した手腕を示した
この父子のおかげで法王庁は、ルネサンス君主としての実力を手にしイタリア統一まで教皇領を維持することができた。しかし聖職売買などの徹底した世俗化は、ルターによる宗教改革運動を招くこととなる

ボルジア家の発祥には自称他称の様々な出自が語られるが、スペイン北部の土着の郷士階級でボルハの町に由来する。その祖先は13世紀、アラゴン王ハイメ1世がムーア人よりバレンシア地方を奪還する遠征に参加し、その功によってバレンシア南のハティバに広大な領地を得た。後にロドリゴの次子ホアンがハティバの西にあるガンディア公に、チェーザレはバレンシアの大司教となっていて、ボルジア伝来の根拠地となる
ロドリゴの叔父アロンソ・デ・ボルハは、聖職者ながらアラゴン王アルフォンソ5世に仕え、王のナポリへの介入を助ける。法王庁内でもバレンシア大司教から枢機卿に、そして1455年には法王に選出されカリストゥス3世(位1455-1458年)となる
ロドリゴは法王となった叔父によって若くして枢機卿となり、兄のペドロ・ルイスは教皇軍司令官に累進し、兄弟で叔父の法王を支える体制となった。この構想は、アレクサンドル6世となってからチェーザレとホアンに与えた役割と似ている
法王の親族登用は恒例であり、スペイン人として孤立しがちなアロンソにとって有能な甥たちの登用は必須であった
法王としてのアロンソはオスマントルコによるコンスタンティノープル陥落に直面し、それに対する十字軍の計画に執念を燃やして、ときに以前の君主アルフォンソ五世とも対立。フランスのアヴィニョン捕囚に始まる「教会大分裂」(1378-1417年)冷めやらぬ時代であり、教皇権の再建に尽力した
このように、アレクサンドル6世以前にボルジア家の法王は実現していたのだ
ちなみにロドリゴのライバルとなるジュリアーノ・デッラ・ローヴェレも、シクストゥス4世(位1471-1484年)の甥。この法王は父親が貧農ともリグリアの漁師とも言われ、出自でいえばロドリゴより低かったりする

ボルジア以前の教皇領は、そのときの情勢で支配者が容易に入れ替わり荒廃していた。法王は高齢で就任するため、親族を任命しても長くは居座れない。封建制が成立しないのだ
そのため、地元のコロンナ家とオルシニ家、腕自慢の傭兵隊長が僭主となる世紀末的状況が生まれていた
チェーザレが権謀の限りを尽くしたのはこうした状況があったからであり、短期間でロマーニャ地方を征服し、ボルジア家の公国として教皇領を安定させる構想だった。チェーザレの民政はその荒療治に関わらず、既存の制度を温存する穏やかで公正なものだったという
こうした彼の業績は仇敵であるジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ=法王ユリウス2世に引き継がれ、組織化された教皇領をバックにヴェネツィア、フランス、スペインを相手に大立ち回りを見せることとなる。もっとも「戦争屋」と揶揄された法王が生んだ戦死者は、冷酷無比と言われたチェーザレのそれをはるかに上回ってしまったが
本書ではチェーザレの死後、フェラーラ公国に嫁いだルクレツィアが夫の代理人として公国を切り盛りしたことやホアンの息子フランチェスコがイエズス会の大学を築くのに尽力し、聖フランチェスコと称えられたことを紹介していて、知られざる一族の一面を伝えてくれる
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『永遠の0』 百田尚樹

太平洋戦争が時代小説になる時代


永遠の0 (講談社文庫)
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百田 尚樹
講談社
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実の祖父は特攻で死んでいた。母から祖父のことを調べてくれと頼まれた姉・慶子は、司法試験の勉強をずるけるぼくに取材への協力を頼まれる。元海軍のパイロットや整備士たちによると、宮部久蔵は凄腕のパイロットながら同僚たちから「臆病者」とも見られていた。その久蔵がなぜ特攻を志願したのか――

なるほど『壬生義士伝』に似ていた(苦笑)
百田尚樹は、関西のお化け番組『探偵!ナイトスクープ』の放送作家で、小説家に転じてもヒットを連発、本作は文庫本にして販売部数300万部を超えている
視点となる主人公・健太郎は、司法試験くずれのモラトリアムであり、姉・慶子はフリーライターで戦後教育の申し子ともいうべき価値観の持ち主と、現代人に入りやすく設定されている
宮部久蔵も、当時の人間の典型というより、もし自分が海軍のパイロットだったらどう考えどう行動するか、感情移入しやすい造型となっている。戦いを嫌いながら、一方で一流の腕前を持つという、まるでロボットアニメの主人公の如し
『壬生義士伝』のように、複数の証言によって浮かび上がらせる手法であり、前半では太平洋戦争の戦況についてこれでもかと語られる。当時者の証言という形で、作者の戦争観が吐露されている

作者がNHKの経営委員に就任し、その発言が物議をかもしたが、本作で語られる太平洋戦争はわりあい通説に近い
少し違和感を感じるのは、搭乗員の犠牲を前提にする「特攻」を否定しつつも、それを受け入れて飛び立った特攻隊員たちを「立派な男たち」を美化しているぐらいだろうか
特攻隊員が作戦が決まってからの逸話は様々にあるので、みな従容と受け入れたでは少し物足りなかった。そこに本当のドラマがあったはずなのである
朝日新聞社の記者とおぼしき高山という男に「特攻隊員はテロリスト」と言わせるあたりは、いかにも作者らしい因縁のつけ方(苦笑)。探せばおかしい記者はいるだろうが、いくら何でも無理筋で、多くはむしろ元特攻隊員を取り込んで政府批判をしたいと考えているはずだ
ネットで叩かれやすい朝日新聞を仮想敵に仕立てるのは、論壇的な戦略と思える
ともあれ、文体は文章が短く区切られて読みやすく、参考文献から引用された説明も良く整理されて頭に入りやすい。『壬生義士伝』がこれぐらい抑制された文章で書かれていれば読みやすかったと思うぐらい(失礼)
ただしその反面、宮部久蔵のテクニックを酒井三郎から拝借するなどアレンジされている部分もあり、当事者の証言という体裁から当事者の主観、勘違いを免れないという逃げ道もある
後半の展開はいかにも小説的なミステリーが入り込むし、あくまでノンフィクションを装った小説と心すべきだろう


関連記事 『壬生義士伝』

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『オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史』 パトリック・マシアス

おたくって、もう死語かな?


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日本のマンガやアニメはアメリカでいかに受容されているのか? アメリカの“オタク”である著者が日本のサブカルチャーの展開とそこから生まれた“オタク”たちを追う
本書は『フィギュア王』と『映画秘宝』で連載されたコラムを集めたもので、映画評論家の町山智浩がそれぞれ翻訳と編集を担当していた。あとがきから想像される力関係と内容から、町山氏がかなり踏み込んだ意訳をして読める文章にしたようだ
アメリカにおいて“オタク”(otaku)とは、日本のマンガやアニメに耽溺する人のこと。日本語のオタクにあたる言葉は、ネガティヴな言い方で「need」熱狂的なマニアな意味で「geek」という
著者によると、アメリカで“オタク”という言葉が広まったのは、ガイナックスのOVA『おたくのビデオ』がきっかけらしい

アメリカへは60年代末から、ゴジラをはじめ様々な作品が持ち込まれた。が、その性表現、暴力性(!)、政治的事情、そしてジャンルそのものへの侮りから、まともな形で放送されたものは少ない
ゴジラサパスタインというプロデューサーを得て、東宝と提携しアメリカ版ゴジラが何本も製作された。サパスタインはスターウォーズが大成功を収める前に、版権ビジネスとグッズ商品が一大産業を生むと読んだ先駆者で、ゴジラの名前がアメリカで定着したのは彼のおかげと言っていい
ただし、アメリカ版ゴジラは核爆弾への怒りという要素は排除され、単なる怪獣のプロレスになった(日本のも後半はそうだけど)
成功したゴジラに対して、ウルトラマンは初代こそヒットしたものの、ウルトラセブンはシリアスなところでギャグ台詞に吹き替えられたせいで大沈没。暴力規制からアイスラッシャーはカットされた
アニメは名前が変えられることが多く、『宇宙戦艦ヤマト』は『スター・ブレイザーズ』となり船の名前は“アルゴ”に。『ガッチャマン』は『バトル・オブ・プラネッツ』として放映され、様々な改悪が施されたものの、白鳥のジュンのパンチラ・キックだけは何故か健在で(笑)、子供たちの股間を刺激したという

さて、それではガンダム・シリーズはというと、良く知られているように『ガンダムW』しか成功していない
そもそも初めてテレビで流されたのが、2000年の『ガンダムW』であり、最近のことなのだ。マニアにはZやZZで入って、ファースト・ガンダムを経て宇宙世紀の信者と化す王道ルートが確立されているものの、一般層には年代の落差が厳しいらしい
『ガンダムW』の人気を支えているのは日本同様に女性たちであり、その影響力は大きい。『セーラームーン』がジェンダー問題で打ち切りの危機に立った際には、女性ファンの抗議が殺到して復活させたという
男性中心のアメコミに対して、日本のマンガには少女マンガの歴史が長く、日本のサブカルチャーは女性に開かれていたのだ
日本のクールジャパン戦略にもこうした視点が必要だろう。まあ、クールジャパンそのものがいるかという話もあるが

と、本書が初出の2006年までは日本のサブカルチャーがアメリカで興隆を極めていたが、その後は逆風が吹いていた。文庫版あとがきによると、輸入マンガは粗製乱造が目立って部数は全盛期の三分の一に激減し、有名な全国チェーンの書店が潰れたことで扱う店そのものが減ってしまった。ネット社会が進んで流通形態そのものが変わってしまったのだ
これに続いて衰退しそうなのがDVD市場であり、ネット配信への移行が求められる。お金のないティーンズの読者は、ネットでの違法ダウンロードに頼らざる得ないのが現状のようだ
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『旋風に告げよ』 陳舜臣

鄭芝竜を主役にした作品もあるようで


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絵を学びに、明から渡来した逸然和尚を訪ねた林統太郎は、「統雲」という名をもらった帰り賊に襲われる。吉井多聞という医者に辛くも窮地を救われ、匿ってもらったクリスチャンのお蘭から、統太郎とお蘭が姉弟であること、親が福建の海賊・顔思斉であることを教わる。福建では顔思斉は死に、鄭一族が台頭して鄭芝竜が海を仕切っていた。鄭芝竜とその子鄭成功は南方に逃れてきた明の皇族を保護し、明朝の復興をかけた戦いを始める

日本では“国姓爺”で有名な鄭成功の物語
国姓爺“国姓”とは、亡命してきた皇族の一人、隆武帝から皇族のみに許される朱姓を賜ったことで、“爺”は老人ではなく日本語の「旦那」に近い意味を持つ。娘がいたら嫁がせたいと、平時なら破格の待遇を20代の青年に与えたられたのだ
本書の物語はオリジナルキャラクターである林統太郎の視点に始まり、鄭成功の獅子奮迅の戦いと、父・顔思斉の不審な死とその財宝を巡るミステリーが絡められる。が、史実の鄭成功を追うだけで話が煮詰まってしまったのか(苦笑)、途中で顔思斉関連はフェードアウト。みんなで仲良く台湾からオランダの東インド会社を追い出して、大団円を迎えた
ミステリーとしては失敗したものの、日本人と中国人が雑居していた時代の長崎、北京が落とされてからの明の亡命政権のありさま、など貴重な歴史風景が広がり、鄭成功があえて逆境の明に肩入れした理由が解き明かされている

鄭成功の父、鄭芝竜は亡命政権への応援を決めたものの、打算ありきのものだった。単に清朝に降りて大陸がすんなり統一されてしまったら、鄭一族の海上覇権が認められるか分からない
表向きは明朝を支持して、鄭一族の協力なしに統一できないという具合にすれば、一番恩に着せることができる。また、北方の満州人が南方をそのまま治められるかは未知数で、明清が南北を分ける可能性も視野に入れていた
それに対して鄭成功は、一族の後継者として南京で高等教育を受けており、父のような商売人より士大夫としての倫理性が植え付けられていた。そのため、戦いの途中で清に寝返ろうとする父に歯向かい、明朝復興の戦いを続行する
鄭成功には母親が日本人であるという弱みがあり、鄭一族を仕切るにはより中国人らしく振舞わなくてはならないという強迫観念もあった
地図上の支配領域を比べると無謀な戦いに思えるが、満州族の将軍が水戦にまったく不得手であり、清軍は投降した中国人の将軍に依存せざる得ないこと、辮髪を強要したばかりで人心が動揺していたことなど、清側にも不安要素が多く鄭成功は南京まで快進撃を続けることができた
しかし、補給線上に敵の砦を残したこと、速攻を企図しながら長期戦に方針転換したことなど、鄭成功の決断が裏目にでて南京奪還の夢は断たれることとなる

明朝末期の台湾はスペインとオランダの東インド会社によって支配されていた
オランダの東インド会社は、明朝との戦いに勝利し入植すると、高山族(日本でいう高砂族)と棲み分けしつつ、中国本土から移民を呼び寄せ農耕に取り組ませる
東インド会社の重税に苦しんだ移民者たちは、1652年に郭懐一をリーダーに反乱を起こすが失敗し、一万人以上の移民者が殺されてしまうのだった
南京攻略に失敗した鄭成功は、清側の「遷界令」、福建などの沿岸から30里を無人の地とする政策による大打撃を受けて、新たな戦略拠点を得るべく台湾へ目をつける
遠洋航海できるガレオン船に苦戦するものの、上陸後は移民者の協力を得てゼーランディア城を包囲。最強の船ヘクトル号を沈め、東インド会社を降伏に追い込んだ(1661年)
翌年に鄭成功は39歳で死去。鄭一族の政権は20年続き、清王朝に投降する
鄭成功の明朝復興は失敗に終わったが、初めて台湾独自の政権を建てたことから今日でも開発始祖と称えられているそうだ
鄭親子は江戸幕府の日本に度々軍事支援を要請していて断られていたが、その生き様は近松門左衛門の人形浄瑠璃『国姓爺合戦』により同時代の庶民にも知られていた
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