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『吸血鬼ジュヌヴィエーヴ』 ジャック・ヨーヴィル

京アニの一件は筆舌に尽くしがたし。管理人の住んでいる地域に近いのだ
なぜ……


ウォーハンマーノベル 吸血鬼ジュヌヴィエーヴ (HJ文庫G)
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ドラッケンフェルズ事件後、劇作家デトレフ吸血鬼ジュヌヴィエーヴと帝都アルトドルフに戻り、由緒ある劇場で新作『ジークヒル博士とカイダ氏』に取り組んでいた。しかし、ドラッケンフェルズ城の跡地から、その元主人の“遺志”を受け継ぐ仮面が人から人へ乗り移り、復讐を果たさんと迫るのであった。(見かけは)美少女吸血鬼ジュヌヴィエーヴの不思議な冒険の三編

この前読んだ『ドラッケンフェルズ』、『ベルベットビースト』の後日談となる三編が収められている
『ベルベットビースト』はまだ手に入れていないが、とりあえず『ドラッケンフェルズ』を読んでいればついていける内容だった
どの話もウォーハンマーの世界観を生かしつつ、独特の輝きを持つミステリーであり、意外な謎と結末が待ち構えている。ダークファンタジー好きにはたまらない、絶品である


<流血劇>

ドラッケンフェルズ城から生還したデトレフは劇作家として本格復帰。一座は伝説の魔術師を倒した名声から、帝国の貴顕を招けるほどの盛況を見せる
新作が『ジークヒル博士とカイダ氏』と元ネタがこれ以上なく分かりやすい(『ジキル博士とハイド氏』)。劇場の主であり異形の存在“落とし戸の悪魔は、新進女優エヴァに助言するなど『オペラ座の怪人』を彷彿とさせる存在であり、地下に謎の地下空間が広がるとか、これまた分かりやすい
ただしラストへの畳み方は、ドラッケンフェルズの復讐が絡まって怒涛の展開だ
『ドラッケンフェルズ』を読んだ人間なら、あの惨劇を生き残った者たちのその後の群像劇としても楽しめる


<永遠の闇の家>

ジュヌヴィエーヴが登場するものの、彼女の記憶が混乱しているので、出だしではいつの時代なのか分からない。管理人は最初、彼女が吸血鬼に成りたてのころと勘違いしてしまった(苦笑)
彼女が囚われているのは不思議な力を持つ館であり、中の住人は120歳を超える老人メルモス・ユードルフォの遺産を巡って血で血で洗う戦いを繰り広げていた。相続人たちは死んでは、何度でも蘇って戦い続ける
その不毛な惨劇に風穴を開けるのが、貴族出身ながら階級闘争を唱える革命家クロソウスキー大公と、かつてデトレフの劇団で女優もやっていたというアントニアで、この二人が主役を務める

訳者のあとがきによると、登場人物の多くは往年のゴシック小説から来ているとか。挙げられたところでは、アン・ラドクリフ『ユードルフォの謎』、C・R・マチューリン『放浪者メルモス』、マシュー・グレゴリー・ルイス『修道士(マンク)』
日本で需要が少ないからか、映画化された『マンク』ですらお高い! 参ったぜ


<ユニコーンの角>

ジュヌヴィエーヴは、不覚にも帝国の財務大臣ティバルトに囚われてしまった。自身のことだけでなく、かつての愛人デトレフを持ち出された彼女は、ティバルトの政敵であるルディゲル・フォン・ウンハイムリッヒ伯の暗殺を命じられる
傲岸な貴族であるルディゲル伯は、幻獣ユニコーンの“雌”を求めて狩りに出る。伯の息子ドレムス、親友のドレムス伯に、大臣の密偵バルトゥスとジュヌヴィエーヴが同行するが…

ルディゲル伯の城に招かれたオト・ヴァールニクは、アルトドルフ大学の学生クラブ“カール・フランツ盟友会議長”で、伯の息子ドレムスアルトドルフ大学の学生。二人は『ベルベットビースト』にも登場するらしい
本作も禁断のユニコーン狩りと、ドレムス出生の秘密、ジュヌヴィエーヴによる暗殺作戦が混じりあって、誰がどういう結末をたどるのか最後まで引き込まれた


関連記事 『ドラッケンフェルズ』

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『ドラッケンフェルズ』 ジャック・ヨーヴィル

ジュヌヴィエーヴ、16歳。コラコラ


ウォーハンマーノベル ドラッケンフェルズ (HJ文庫G)
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帝国に災いをなしてきた邪悪な大魔法使いドラッケンフェルズ。オストランド選帝侯の息子、オスヴァルト公太子は、吸血鬼の娘ジュヌヴィエーヴらとともにその居城で滅ぼした。その25年後、公太子はドラッケンフェルズ退治を劇にしようと、天才演劇家デトレフ・ジールックを債務者監獄から解放。かつて冒険を共にした仲間たちと、皇帝と皇太子をはじめとする貴顕を冒険の舞台だったドラッケンフェルズ城に招待するのだが……

昔から気になっていたファンタジー小説だった
海外では有名なウォーハンマーRPG(TRPG)のノベライズ作品で、HJ文庫の初版は2007年だが、たしかウォーハンマーが紹介された1990年代にも翻訳されていたと記憶する
ウォーハンマーはヨーロッパ中世の暗黒時代をモチーフにした「オールド・ワールド」を舞台とし、人間の「秩序」の中心である「帝国(エンパイア)」が、異形の「混沌」勢力に内外から脅かされるというダークファンタジーだ
本作のヒロインであるジュヌヴィエーヴは、吸血鬼という他のファンタジーならモンスター扱いされる不死の存在なのだが、「帝国」においてすらマイノリティーという位置づけで権力者とも付き合える
そんな清濁を入り乱れたアブノーマルな世界観なのである

物語は冒頭がオズヴァルト一行によるドラッケンフェルズ退治に始まり、いきなりクライマックスを見せられたかのようなインパクトがある
そこからデトレフが放り込まれた債務者監獄に行き、かつて冒険をともにした公太子の仲間がひとりひとり25年間の人生を軽く振り返りながら、集まっていく展開は成熟した喜劇と人間ドラマが詰まっている
ただファン向けのノベライズではなく、優れた幻想文学でもあるのだ
そして演劇家とその一座、オズヴァルトの仲間たちがドラッケンフェルズ城に集まり、演劇の準備が始まるとともに、「帝国」の運命を揺るがす陰謀が転がり始め、伏線を見事に収束させる様が鮮やかで、この文量でこの内容はなかなかお目にかかれない
ジュヌヴィエーヴの能力が想像より強いのは、ご都合だろうか(年齢が年齢だけに、キャラクターのレベルが高いのかもしれないが)

作者のジャック・ヨーヴィルは、ドラキュラ三部作で知られるキム・ニューマンと同一人物であり、そのドラキュラ三部作でもジュヌヴィエーヴという美少女(?)の吸血鬼が活躍する。彼女は作者の持ちキャラだったのだ
『ドラキュラ紀元』に始まる三部作は、ヴァン・ヘルシング教授がドラキュラに敗れてイギリスが吸血鬼に支配されたという世界であり、やはりダーク・ファンタジー
これは三部作のほうもチェックせずばなるまい


関連記事 『吸血鬼ジュヌヴィエーヴ』

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息の長いRTSシリーズであるトータルウォーに、ウォーハンマーを舞台にしたものが!
それだけ魅力的で深みのある世界観なのだ

『炎の戦士クーフリン / 黄金の騎士フィン・マックール』 ローズマリー・サトクリフ

アマゾンの設定価格が高い件(ブログ投稿時)。書店購入なら、千円以下で




イギリスの作家ローズマリー・サトクリフによる、ケルト神話の物語である
本巻の題材となるのは、代表的な英雄であるクーフリンフィン・マックール。初出がそれぞれ1963年1967年で、いちおう児童向けの文学作品に分類されているが、実際の内容は普通の小説にそん色ない
ブンガク的に英雄たちの内面を描かず、あっさり風味なぐらいで、両英雄の伝承をそれぞれを栄枯盛衰の物語として再編している。読後感は吉川英治の講談小説に近いだろうか
舞台となるのは、まだエリンの古名で呼ばれる時代のアイルランド。ローマ帝国の支配が及ばなかった地域であり、小説ながら土着のケルト人たちの王国が統治してグレートブリテンやバイキングの勢力としのぎを削り、ときには名誉をかけて氏族間の抗争が行われた歴史を感じられる


<炎の戦士クーフリン>

クーフリン太陽神ルグとアルスター(北アイルランド)の王女デヒテラの間に生まれ、その名は氏族(clan)の猛犬に由来する
神族の血を引くことから、その容姿や能力は尋常ではない。ひとたび戦場に立つと筋肉が盛り上がって、顔は怪物のような異相になり、頭のてっぺんから怒髪冠を衝くどころか、体をたぎる黒い血が額から立ちのぼり霧となる(!)。そのモードに入ったクーフリンからは、赤いオーラ(英雄光)が噴き出して遠くからでもわかるほどなのだ。もはやラ王である

しかし、その性格は鼻っ柱の強く誇り高い、素朴で好色という、人間味のある戦士である。乳兄弟の「勝利のコナル」「栄光のライリー」ら赤枝騎士団とともに冒険や合戦を繰り広げていく
物語で特徴的なのは、マッチョな英雄譚なのに女性の存在が目立つところ。クーフリンの槍の師匠は「影の国」を治める女戦士スキサハであり、その宿敵であるアイフェとは恋仲になって、悲劇の子コンラをもうける
アルスター氏族のライバル、コナハトの女王メイヴは、武力ではアルスターにかなわないものの、その魔術によってクーフリンを何度も苦しめ、悲劇的な結末をもたらすのだ
クーフリンの時代には、ダナン神族や妖精が身近に存在し、魔術を振るうドルイドが王族と同等の地位についている


<黄金の騎士フィン・マックール>

フィン・マックール父クール・マックトレンモーフィアンナ騎士団長という、有力者の息子。しかし、クールは隻眼の戦士ゴル・マックモーナに殺されてしまい、フィンは隠れて育てられる
成長したフィンは毎年王宮を焼く「炎の息のアイレン」を倒すことでフィアンナ騎士団の団長の座を取り戻す。ここから彼の物語が始まる
面白いのは、父親の敵討ちに走らず、ゴル・マックモーナをそのまま頼れる部下として従えてしまうところ。武功と度量、自らの氏族の力で団長の地位を不動のものにしたのだ
このフィアンナ騎士団とは、エリンを外敵から守る氏族を越えて編成された防衛部隊であり、氏族の王国からの指示を受けず、その上に君臨するエリンの上王にのみ忠誠を誓う組織である
フィンの時代では、クーフリンの時代にはなかったある種の封建制が定着している

フィンの相手となるのは、巨人を別にすれば、たいがい普通の人間である。それはその出自がクーフリンと違い、神族に由来しないからだろう
それと対照的に魔法絡みの相手を務めるのが、ダナン族の血を引くディアミッド・オダイナ。どんな女性も惚れる超絶イケメンの彼は、窮地に陥ったフィンを何度を救い出す
しかし、ディアミッドがフィンの再婚相手グラーニアと駆け落ちしたことで決別。一度は和解したものの、彼はフィンの怨念が晴れないことから非業の死を遂げてしまう
解説では、ディアミッドとグラーニアの物語を「トリスタンとイゾルデ」の原型とされていて、管理人はこのカップルとフィンとの三角関係を、アーサー王とグィネヴィア、ランスロットを連想した
ちなみにフィンの物語には、ブリテンの王子アーサーが登場。フィンの騎士団に潜入しており、詭計を使っての侵略をもくろむが阻止されている。アイルランドからすれば、アーサーもヒールなのだろう
晩年のフィンは親の仇を許したころとは違い、自らの地位と実績にしがみつく老人と化しており、代替わりした上王との間で氏族を分けた内戦を引き起こしてしまう。その栄光からの転落は、まさに諸行無常を感じさせる


あくまで神話は神話、それを作家によってアレンジされた物語であるのだが、節々の情景は日本の講談と比較したくなった
ケルトの戦士たちは討ち取った相手の首を戦功として持ち帰ったり、自らの陣地に飾って相手を威嚇したりする。『Fallout』のレイダーを思わせる血なまぐささであるが(苦笑)、平安時代の荒武者を連想してしまった
キリスト教以前の妖精が身近な世界は、同じ島国の日本人になじむのだ
ローズマリー・サトクリフの作品は何冊か翻訳されているので、手の届く範囲で読んでいくつもり


関連記事 『ケルトの白馬 / ケルトとローマの息子』

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『旧神郷エリシア』 ブライアン・ラムレイ

巻末にて、謎の解説者「鵺沼滑奴」の正体が明らかに


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旧神たちのいる世界、エリシアへ旅立ったド・マリニーモリーンだったが、三年かかってもたどり着くことができない。再びボレアに戻り、シルバーハットアルマンドラの歓迎を受けた彼に、古時計が輝く。エリシアにいるタイタス・クロウから、「クトゥルー復活の時が近い」という知らせが届けられたのだ。一刻も早くエリシアへたどり着くべく、時空を超えたド・マリニーの旅が続く

タイタス・クロウサーガの最終章である
ついにシリーズの名を刻むタイタス・クロウが満を持して再登場するが、実質的な主役は今回もド・マリニー彼のエリシアへの旅路が物語の大半を占めるのだ
普通に考えるファンタジーの筋だと、エリシアでタイタス・クロウとド・マリニーが合流して、クトゥルーへ反撃開始と予期してしまうから、なかなかエリシアへたどり着かないことにやきもきしてしまう
これだともう一巻ないと尺が絶対的に足りないのではないか、と思っているうちに、邪神大勝利エンドまで見えてきて……
が、これこそが作者の壮大な罠!!
実はド・マリニーの右往左往する旅こそが、唯一無二の解決策になってしまうのであった

いわゆるモダン・ホラーというジャンルから大きく逸脱した本シリーズも、ここまでスケールが大きくなり、かつ描ききられているとなれば、もう降参である。クトゥルーものに何を期待していたとしてもだ
旧神クタニドが住むエリシアに、人類の夢と悪夢が同居する<夢の国>は幻想的世界の極致であるし、クトゥルー、ハスター、ヨグ=ソトースらが集結した百鬼夜行ならぬ邪神夜行は、そうした世界をぶち壊す世紀末的迫力がある
<夢の国>でド・マリニーは、幻夢卿ヒーロー流浪卿エルディンという二人の男に出会う。この両者は作者の別シリーズ<Dreamlands>の主人公であり、死者を従える魔女ズーラに、蟲軍団の女王ラティはその敵役にあたる
また、エリシアへの血路を開くきっかけを作る魔術師クムールがいた古代大陸ティームフドラは、Primal Land>シリーズの舞台であり、アルダサ=エルも重要人物として登場する。いわば、作者が想像した世界の集合体が本作だったのだ
巻末の解説によると、<Dreamlands>シリーズは他の出版社で翻訳が始まっているとか、これは期待せざる得ない


前巻 『ボレアの妖月』

『ボレアの妖月』 ブライアン・ラムレイ

作者の別作品シリーズと世界観がつながってるらしい。邦訳はないらしいけど


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ボレアの将軍となったシルバーハットは、温暖な南方への開拓に出ていた。そこへ上空から奇妙な落下物を目撃する。それは旧神が住むエリシアを目指すド・マリニーの時空往還機! “風の仔”の襲撃にお互いを救いあった両者だったが、肝心の古時計をイタカに奪われてしまう。それを奪還すべく、ボレアに浮かぶ月のひとつ、ヌミノスへ旅立つ

タイタス・クロウサーガの五巻目は今回も惑星ボレアが舞台
相変わらずタイタス・クロウは出てこないが、時空を旅していたド・マリニーが墜落して、シルバーハットと合流。奪われた古時計を取り戻すため、イタカの支配下であるボレアの月、ヌミノス、ドロモスへ旅立つというのが本巻の筋だ
まず、月への旅の仕方がぶっ飛んでいる。ド・マリニーの空飛ぶマントにシルバーハットが捕まりつつ、風の巫女アルマンドラが起こした竜巻によって、宇宙における障害を全て保護し突っ切ってしまう
なんだかSLG『プロジェクトクロスゾーン』の竜巻旋風脚を思い出してしまった(笑)
異世界ボレアから始まっているだけあって、全編に渡って科学的考証を投げっぱなしジャーマンする、豪快なファンタジーとなっている

ヌミノスには、邪神イタカによってノルマン人が攫われて暮らしている
彼らにとってイタカはその嵐を起こす力から、北欧神話のオーディンと見なしているらしい
ヌミノスの民の価値観はシルバーハットたちと相いれないのだが、邪神も違う側から見ると神には違いないという、作品に相対主義の視点を持ち込んでいて、ラストにおけるド・マリニーの意味深な決断につながっていく
とはいえ、イタカに従う民は主人公側の大事なものを奪ったり、ぶち壊そうとするので、両雄は盛大に暴れまわるわけだが(苦笑)
今回で惑星ボレア編は終了。次回、最終巻ではド・マリニーがタイタス・クロウと合流し旧支配者との一大決戦へ!


次巻 『旧神郷エリシア』
前巻 『風神の邪教』

『風神の邪教』 ブライアン・ラムレイ

コナン的ヒーロー、登場!


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クトゥルー神の脅威と戦うウィルマース・ファウンデーションの一員であるハンク・シルバーハットは、その精神感応(テレパス)能力を生かして、極北の邪神イタカの調査隊隊長を務めていた。しかし、邪神に対抗する旧神の道具“五芒星の石”を身に着けていなかったために、調査隊ごと宇宙の果ての惑星ボレアにまで連れ去られてしまう。極寒のボレアでは、イタカに従う“風の仔”とそれに抵抗する“風の巫女”の部族が争っているのだった

タイタス・クロウ・サーガの第四弾は、なんとタイタス・クロウが出てこない!
その相棒たるアンリ・ド・マリニーも出ず、主人公はテキサスの男、ハンク・シルバーハットシュワちゃん並の巨漢であると同時に、テレパシー能力があってリーダーとしての資質も高いスーパーマンだ
三巻までの連作と独立したような内容なのだが、解説によるシルバーハットの一件は第一巻『地を穿つ魔』に触れている箇所があり、作者にとって予定されていたヒーローなのだ
本巻でシルバーハットは邪神イタカの娘である宇宙人的美女、“風の巫女”アルマンドラと添い遂げて、邪神とそれに従う部族相手に大暴れ。まさにコナンの如しなのだが、山場の防衛戦は軍記物を思わせる合戦シーンもあり、そこから巨大な邪神相手の大活劇と、クトゥルフ物とは思えない血沸き肉躍る英雄譚が展開される

イタカは、オーガスト・ダーレスが生み出した風の邪神で、その姿は一言でいうとどでかい雪男!
ダーレスの設定では“黄衣の王”ハスターの眷属なのだが、本シリーズではイタカそのものが四柱の邪神のひとつとして扱われているようで、“風の仔”という狂信的な部族がいるとか、レン高原ではなく地球から遠く離れた惑星ボレアを住処とし、孤独を嫌って人をさらって人間の女性との間に子を為すなど、独自の神格を持っている
その娘が美人でかつ、イタカの属性を受け継いで雷や竜巻を起こせるとか、ヒロイックファンタジーばりばりの作風なのだが(苦笑)、それゆえに地球から遠く離れたボレアを舞台としたのだろう
次巻では、アンリ・ド・マリニーがボレアの地に降ってくるとか、ここからどう転がっていくかが楽しみである


次巻 『ボレアの妖月』
前巻 『幻夢の時計』

『ダーク・タワー 第3部 荒野』 下巻  スティーヴン・キング

FO4でガンスリンガー・プレイはできなくもない
映画のような二丁拳銃は無理ですが


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運命の三人目、少年ジェイクが仲間となり、いよいよ<闇の塔>を求める旅が始まった。‟ビーム”に沿って歩く旅路で、世界の変転で廃墟と化した街<ラド>へと入る一行。その入口で奇人ガッシャーの奇計により、ジェイクは野盗集団‟グレイ”のもとへ落ちてしまう。ローランドはガッシャーのあとを追いかけて、グレイのボス、チクタクマンに迫る。一方、エディとスザンナはジェイクの救出を信じて、<闇の塔>への道を走るという列車ブレインを探索する

下巻はタイトルどおり、ウェイストランドの冒険である
街の外側では<河の交差点>で善良な老人たちのコミュニティに出会ったものの、<ラド>の市街には弱肉強食の掟に支配された、‟グレイ”‟ピューブ”といった略奪者たちがうごめいている。悪党にしかいない、ならざる得ない廃墟はそれこそ『Fallout』のウェイストランドそのものなのだ
特に異彩を放つのが、ジェイクを連れ去った老人ガッシャー。グレイの特性である爆弾を使ったトリックが得意であり、行く先々に地雷で廃墟を崩す罠を残していく
そのボス、チクタクマンは時計を偏愛するキャラクターとそのガッシャーをも制する威圧感を持ち、マッドマックスか北斗の世界の住人のごとし(笑)。それを一蹴するガンスリンガーは、まさに救世主である

そんな<ラド>の街の、本当の主人といえるのが、エディとスザンナが見つける列車ブレイン
上巻でジェイクが購入した『シュッシュッポッポきかんしゃチャーリー』に出てくる機関車が、悪夢の世界で転生してきたかのようで、街の運命を左右するほどの力をも持つ。ジェイクが「きかんしゃチャーリー」について裏読みしていたように、人間に近い知能を持つブレインは、街の住人のように悪辣に振る舞って、主人公一行をびびらせてくる
しかし謎かけが好きで、それが隙にもなる。まさかのジェイクが購入した謎々の本がここで拾われると思わなかった。ガンスリンガーの謎かけ遊びの習慣といい、二重にも三重にも伏線が回収されていき、おそらく新しい伏線が生み出されているだろうことも分かる。これが本読みにはたまらない
ラストがあまりにいいところで終わり過ぎて、そのあとが非常に気になる。というか、読みたいんですが……(苦笑)
あとがきが言い訳がましくて草


前巻 『ダーク・タワー 第3部 荒地』 上巻

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『ダーク・タワー 第3部 荒地』 上巻  スティーヴン・キング

Waste Landsの訳は荒野のほうが雰囲気が……


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元ヤク中のエディ車椅子の女スザンナを仲間にしたローランドは、ダーク・タワーに向かって果て無き旅を続ける。タワーに向かって伸びる‟ビーム”に沿って森を進むうちに、熊の‟守護者”に遭遇し、死闘の末に三人は打ち倒す。熊は本来、<門>の守護者であり、行く手に現実世界への扉を暗示していた。一方、ローランドがモートを殺したことで交通事故死を免れた少年ジェイクは、別世界からの声に混乱し家出を決意する

第三部はページ数が多く、うまく内容が分かれているので、上下巻ずつ感想を書く
第二部のタイトルが「運命の三人」だったのに二人しか仲間にならなかった(三人目の殺人鬼は死亡した)が、第三部でその三人目が出てくる。それはローランドが黒衣の男を追いかけるのを優先して、犠牲にした少年ジェイク
ジェイクは現実の世界で、ジャック・モートに背中を押されて車にはねられて死亡し、ローランドの世界へ飛ばされた。しかし第二部でローランドがモートに乗り移って電車に轢死させたことにより、ジェイクは現実の世界で生き続けることになったのだ
本巻では、<門>の鍵が頭に浮かんで木で彫り始めるエディと、死ななかった人生に混乱するジェイクが主役となって、現実世界と中間世界が交互に物語を進めていく

ジェイクの世界は1970年代のニューヨークであり、エディは1980年代、スザンナは1960年代の間の時代である
ジェイクの年代では、エディも少年であり兄のヘンリーとともに登場する。ジェイクはエディに誘われる形で、現実世界の<門>へ向かっていく
ジェイクは多忙のテレビマンを父に持ち、神経症気味の母に、友達感覚で接してくれるメイドさんと暮らしていて、中産階級の子弟が通うパイパー・スクールへ就学している。経済的には恵まれていながら、型にはめられた環境が面白くなく、本や外界に自由を感じる思春期の少年の心情を、小説では精緻に描かれている。年代は違うが、作者の経験とあてはまるのだろうか
映画では黒衣の男に追い込まれる形だったが、小説では自らの意志で<門>のある屋敷へ出かけた。これだけ遠大なドラマとなると、映画でかなり省略されてしまうのも止む無しだろう(一時間半では無理だって…)


次巻 『ダーク・タワー 第3部 荒地』 下巻
前巻 『ダーク・タワー 第2部 運命の三人』

『ダーク・タワー 第2部 運命の三人』

単なる仲間探しにあらず


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黒衣の男の予言から、ローランドは西の海を目指す。海辺にはロブスターに似た奇怪な怪物に、謎のドアが浮かんでいた。ドアの向こうにあるのは、ヘロイン中毒者の男、両脚を失った黒人女性、子供を突き落とす快楽殺人鬼の人生。片手の指を失い、敗血症にかかったローランドは、現代の人間世界の住人に乗り移り、生き延びることができるのか

第一巻とは、まったく違った冒険が待っていた
冒頭にローランドは黒衣の男が言っていた海に到着するが、ロブスターのような化け物に片手の指を落とされて、両手拳銃ができなくなってしまう。劇場版のような神がかりアクションが、いきなりできなくなってしまったのだ
そこから始まるのは、新しいガンスリンガーを募る旅である。海辺に佇む三つのドアを通じて、現代の世界でそれぞれとある人間に乗り移って、自分の世界に引き込んでいく
特徴的のは、細かく視点を切り分けているところで、章ごとにローランドと乗り移る対象のみならず、端役の視点にも立ってどう見えるかまで描かれている。上巻は少しかったるいぐらい細かいが、作家の腕力を感じる趣向である

ひとつ目のドアの向こうでは、薬の運び屋をやるヘロイン中毒者エディーに乗り移り、彼のピンチを切り抜けることで仲間にする
しかし、二つ目のドアにいたのは両脚を失って車椅子の乗る黒人女性だったが、これが二重人格。電車に突き落とされたのをきっかけに、淑女のオデッタ悪女のデッタに人格が分かれた多重人格者であり、デッタが万引きで追いかけられているときにローランドは連れ込んでしまった
……と、どれも一筋縄ではいかないし、そもそも味方にしてどうするんだという人物ばかりなのだ

物語は進むごとに、単なる仲間集めではなくなってくる
エディはまた、まともに協力するが(かなり毒づくのだけど)、オデッタ=デッタはどの人格が出るかで正反対。デッタのほうが出現するや、白人二人を悪党扱いして敵視するして、お荷物以上の爆弾と化す
そういう存在だと分かっているのに、頼れる相棒となったエディーがオデッタの人格に惚れてしまい、とんでもない窮地を呼んでしまうのだ
それを解決するのが、三人目の快楽殺人鬼。彼は第一部の少年ジェイクを殺して、オデッタを電車に突き落とした張本人なのである。彼のような人物をどう使って危機を乗り切るか、終盤のジェットコースターな展開が凄まじい
第一部が19歳の作品をリライトしたものだが、第二部は1987年、40歳と脂が乗りきったときに書かれたものであり、いよいよローランドの奇妙な冒険が始まるといったところだ


次巻 『ダーク・タワー 第3部 荒地』 上巻
前巻 『ダーク・タワー 第1部 ガンスリンガー』

『ダーク・タワー 第1部 ガンスリンガー』 スティーヴン・キング

クトルゥフ神話→スティーヴン・キング→村上春樹


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ただならぬ荒野で、一人の男が旅していた。男は最後の‟ガンスリンガー”=拳銃使いのローランド。彼は王国を滅亡させた<黒衣の男>を追いかけていた。<黒衣の男>の魔術によって散々いたぶられるも、謎の少年ジェイクと出会う。奇妙な洞窟を抜けた向こうで、いよいよ<黒衣の男>に追いつかんとするが……

原作を読むと、映画のことがある程度解せてきた
第一巻なので世界観のすべては掴めないものの、ローランドのいる世界は現実世界からの完全な別次元とはいえない。ローランドはガンスリンガーたちが王に仕える国に属していて、それが繁栄した時代もあったが、その一方で過去の遺物として現実世界の物体が存在している
その「現代」から流れ着いたとおぼしき少年ジェイクは、それをローランドに説明して見せるのだ
とはいえ、ガンスリンガーは西部劇のガンマンを超人化したような戦闘力の持ち主であり、タルの街では二丁拳銃で映画のような超絶アクションを見せる。物語の世界自体は開拓時代のウェスタンなのだ。日本人が戦国江戸の時代劇を好むように、アメリカ人にとっての心の故郷なのだろう

著者による序文が面白い。富野小説のあとがきのように、ぶっちゃけっている
本作は大学時代、19歳のころから書き出したもので、著者自身も後で振り返ると若気の至りで恥ずかしい内容だったそうだ
いろんなライターのセミナーに通っていたせいで、妙に凝った文学的な表現になってしまい、リライトしても第一巻にはその名残が残ってしまったという
映画で19」という数字が<中間世界>へのキーとなっていたのも、19歳という年齢に由来しており、大人の世界へと連れ去られていくイメージと重なっているようだ。本巻でも、アリスという女性が言ってはならなかった禁忌の数字が「19」である
著者の打ち明けるところ、19歳当時(1970年)はヒッピーの間で『指輪物語』が大流行しており、本作もキング版指輪物語といわれるほど甚大な影響を受けている。ガンスリンガーの王国が内部から崩壊したところなど、指輪の力が内面から<悪>を吹き込んでいくところと重なるし、人をたぶらかす<黒衣の男>はキリスト教世界の悪魔そのもの。なにせ、ラストにガンスリンガーと対峙する場所が、キリストが十字架にかけられた「ゴルゴダの丘」なのだ
<黒衣の男>が説く宇宙大の世界観と触れれば狂気の真理はクトゥルフ神話の影響も感じる。それを直接感じさせるところが、第一巻の若さなのかもしれない
『ダーク・タワー』シリーズはその青い設定(!)ゆえか、中編の連作として断続的に書かれては中断していたものの、末期がんの祖母から続きが気になるといわれたり、本人が交通事故に遭うなどの出来事を経て再開され、2002年を持ってようやく完結した
果たして、どう転がっていったのか、これから楽しみである


次巻 『ダーク・タワー 第2部 運命の三人』

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