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「社会・経済小説 」カテゴリ記事一覧


『空の城』 松本清張

最近、日本企業の海外の失敗が続いているので


空の城―長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)
松本 清張
文藝春秋
売り上げランキング: 391,499


日本の10大商社の末席にいた江坂産業は、一流商社を目指して石油業界へ打って出ようとしていた。アメリカ江坂の社長・上杉次郎は、本社の河井社長の了解を得てレバノン系の実業家サッシンと交渉。1973年にクイーンエリザベス2号にて、ニューファンドランド島の石油精製工場を運営するNRCの総代理店となる契約を結んだ。しかし、その契約には恐るべき条項が盛り込まれていたのであった

松本清張が現実にあった総合商社・安宅産業の破綻を題材に書いたノンフィクション経済小説。人物の名前やキャラクターについては脚色してあるが、その他のことは事実に基づいているという
江坂産業は、本社社長の河井が業務上の最高責任者だが、人事権はない。人事については創業者一族の江坂要蔵が“社主”として掌握しており、実務には深く関わらないものの、奨学金を出した若者をファミリー社員として社へ送り出していた
一方、サッシンとの契約をまとめた上杉次郎は、社がGHQによって財閥解体の指定を受けようとしたときに、得意の英語と外交能力で免除に成功した“英雄”。大変な功労者ながらハワイ出身という出自から、社内では「英語屋」と妬まれており、ニューファンドランドの大プロジェクトを成功させることで見返したいという気持ちが強かった
レバノン出身のサッシンとは、ロックフェラーやユダヤ系が強い石油業界で偏見をバネにしたという共通点があり、半ば同志として危険な道へと進んでいくのだ
しかし、上杉は社内で異端児とはいえ、ニクソンとつながりを持つ政商サッシンほどのキワモノにはなれない。日本と海外の常識の差に身を引き裂かれて、おろおろするうちに江坂産業も真っ二つになって沈んでいってしまう

なぜ安宅産業は破綻してしまったか
直接の原因は、もちろんニューファンドランド・リファイニング・カンパニー(NRC)との契約にある。NRCの総代理店として、原油の買取代金の面倒を見ることになっていたが、中東戦争によって事情が一変する。アラブ諸国が石油の値上げとユダヤ系石油会社との取引を渋ったことから、原油価格が高騰
NRCがイギリスの石油会社ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)に独占的に原油供給を受ける契約をしていたために、割高の原油を受け取らねばならず、精製した石油を捌こうにもアメリカやカナダの石油市場は自国の石油産業防衛のために門戸を閉じていた
さらに航空燃料などの“シロモノ”に精製する機械が故障を起こし、労働者のストライキもあいまって、NRCは赤字を垂れ流すようになる
引き上げようにも、NRCと安宅アメリカの間には「補助契約書」が結ばれており、NRCに4000万ドルを融資しつつも、その担保はなし! 取り返すためにNRCを破綻させるわけにはいかない
作中では上杉次郎(高杉重雄)がサッシン(シャヒーン)に何度も抵当権を要請する場面があり、金を出した商社側がなぜか「お願い」する立場になっているのが印象的だった。上杉のような海外通ですら、相手を信用するから最初に不利な材料を切り出さないという日本人同士の作法を無意識に行っていて、契約の文章を軽視してしまうのだ
東芝や郵政の失敗も、こうした希望的な観測から細かい契約に目を配らない点にあったのではないだろうか

清張が注目するのは、安宅産業の特異な体制である
社主である江坂要蔵(安宅英一)に人事権が掌握して、本社の社長が一社員を異動させるにも骨が折れる。安宅アメリカでは支社長には人事権がないから、部下は本国の社主や元上司を意識して統率がとれず、新任の支社長が就任しても問題の発覚が大きく遅れてしまった
上杉の独走は最終的に社主の了解を得ればまかりとおるという、独特の権力構造が生んだものといえよう
安宅英一は実業にはほとんど関わらない代わりに、会社の金で中国や朝鮮の陶磁器を収集し、オペラ歌手(実際はピアニスト?)を後援するなど公私混同が激しかった。清張は無茶な契約を結んだ上杉よりも、社主の要蔵に表舞台に立たない黒幕として責を重くみている。陶磁器の鑑定に「心眼」ともいえる才能を示した男が、会社経営にすこしでも目を向けていればどうであったか。最後にコレクションを褒め称える場面は、最高の皮肉である


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『毎日が日曜日』 城山三郎

ある意味、今の私も……


毎日が日曜日 (新潮文庫)毎日が日曜日 (新潮文庫)
(1979/11/25)
城山 三郎

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オイルショック後の日本。総合商社で海外を転々としていたは、コンピュータではじき出された適合者として、京都支店長を命じられる。見送りにきた同期の十文字には、「海外に比べれば、毎日が日曜日さ」とからかわれてしまう。しかし、京都行きの新幹線に乗り込んできた元上司の笹上には、「京都は上役たちの接待が中心。定年後のためにゴマすれ」とアドバイスを受ける。商社マンとして、あるいは人間としてどう生きるべきか、沖の心は揺れ続ける

硬い話かと思いきや、読みやすい。一気に読んでしまった
タイトルの「毎日が日曜日」とは、京都支店の仕事が暇なことと、もう一つ意味がある。沖の元上司、笹上は老後に備えて四つの店のオーナーとなり、悠々自適の定年を迎える。彼の束縛されない日々を喩えているのだ
笹上もう一人の主人公といえる存在で、慣れない京都で多忙な沖と対照的な日々を送りつつも、お互いを助け合う
登場人物が非常に魅力的で、笹上は何事にも唸ってばかりで「うーさん」と呼ばれ、同期の十文字はニヒルで相手の胸を射抜く毒舌家、京都に半隠居状態ながら豪快な前社長金丸、京都通で代々の支店長をイビってきた副支店長・藤林などなど
分かりやすい敵役はおらず、降りかかってくるのは、会社の業務・人間関係から発した自然で理不尽な苦労ばかり。沖は主役らしくロマンチックな理想を持ち続けるか、これでもかと報われない。「人生で不運を避ける通ることはできない」、作者は不運に立ち向かう姿こそ、美しいと言いたげだ

商社マンとしての仕事のことも詳しく触れられているが、家族のことにも重点が置かれている
経済小説に珍しく、商社マンの家族が仕事に巻き込まれて、回復不能に被った傷まで用意されているのだ
沖の長男・は、アメリカで育ちバイクで通学していたため、日本の満員電車にパニックを起こしてしまう。基礎教育の違いから、日本の高校にも溶け込めない。そして憂さ晴らしにバイクを乗り回した末に、大変なことに
長女のあけみは、教育面で忍以上に混乱し、言語を体で覚えていく段階で日本に戻ったものだから、日本語が上手く話せない。帰国子女の学校に通うが、昭和50年代は文部省の認可が下りていないらしく、義務教育違反の謗りを受けてしまう
そうした教育問題で一身に非難されるのは、妻の和代であり、仕事一辺倒の沖とはいつも喧嘩になってしまう
笹上の存在といい、作者は必ずしも日本企業の滅私奉公を称揚していない。ただ、そうした無名戦士の尊い犠牲の上に、日本が世界に進出し経済大国となったことを訴えている

経済的に心配のない「毎日が日曜日は本当に楽しいのだろうか
笹上は誰にも束縛されない老後を目指して、会社の仕事をそこそこに定年後の準備をして生きてきた
定年を怖がる会社人間を尻目に、「バンザイ」して迎えてやる。後の人生は労働とは無関係の「やじ馬」として、働く人間どもをからかいながら生きてやる、と意気込んでいたが、しばらくして楽しくないことに気づく
一つは、日本社会は仕事を中心に人間関係ができているので、働いていない人間はそのサークルに入れない。ゴルフ場で隠居した人間を見つけても、頭の中は「仕事」中心で笹上の同志にはならない
もう一つは、笹上自身が会社人としての習性が抜けないので、働いている人間に対して気後れしてしまう。会社を辞めたのに、肩書きで呼んでしまう
こうした悲しい習性は、世代間の差はあるとはいえ、会社組織に関わる上はつきまとうことだろう
本作は京都の魔境ぶりが見事に表現されていて(現地人としてすまぬと思うが)、会社や家族の微妙な心の機微まで拾われて感動した。解説に書かれたように、経済小説の枠から大きくはみ出た名作といえよう


毎日が日曜日Vol.3『毎日がミナハナミ [VHS]毎日が日曜日Vol.3『毎日がミナハナミ [VHS]
(1992/05/25)
高田裕三

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↑何これ(笑)

『青年社長』 高杉良

読む気をそそらない素材なので、一気読みしましたよ


青年社長〈上〉 (角川文庫)青年社長〈上〉 (角川文庫)
(2002/04/25)
高杉 良

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青年社長〈下〉 (角川文庫)青年社長〈下〉 (角川文庫)
(2002/04/25)
高杉 良

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少年時代、母親の死と父親の会社が倒産する悲運を経験した渡邉美樹は、小学生の卒業アルバムに「社長になる」という夢を記した。大学を卒業後、経理会社を経て佐川急便のセールスドライバーとして働き、起業資金を貯める。起業を誓った学生時代の仲間たちと合流し、居酒屋を開こうとした矢先、友人が“スパイ”として潜り込んだ「つぼ八」の社長、石井誠二に呼びつけられて……

いろんな意味で有名になってしまったワタミの創業者、渡邉美樹のサクセス・ストーリー
著者は『金融腐食列島』などで有名な高杉良で、同氏の企業家精神にほれ込み、全力応援するつもりで書いた小説のようだ
そのため主人公は、理想的好青年として描かれている。現実に男前だからといって、「美丈夫」とまで書かれては、本人も苦笑いだろう
後半になるほど、渡邉氏本人の日記や社内報の引用が増え、完全にワタミグループに寄り添ってかかれている
それでも、多角経営の失敗、独立を巡る恩人との葛藤、かつての同志との決別、店頭公開の苦労など会社の浮沈を、小説の筋として生かしきる筆力はさすが。何よりもほぼ実名で書ききってしまう迫力は、経済小説家としての実力と名望を示すものだといえる
ワタミに対して複雑な感情を持たなければ、一級の立志小説として読めてしまう

ブラック企業イメージから、佐川急便のセールスドライバーの経歴がクローズアップされがちだ
小説では“社長”になる前のキャリアとして、もうひとつ、大学時代のボランティア活動に紙数が割かれている
明治大学では、横浜在住の現役生を中心に「横浜会」という親睦団体がかつて存在し、マンドリンコンサートなどの活動で募金集めをしていた
渡邉氏が会長に就任するや、募金先だった身寄りのない子供たちに触れ合おうと、大規模な体育大会を実施。約400人の子供を招待して、大洋ホエールズ(現・横浜ベイスターズ)の選手にも協力してもらい、大成功をおさめた
さらに、森進一をゲストにした一万二千人のチャリティ演奏会も成功させてしまう。スピーチも振るっていて、この頃から学生離れしたカリスマ性とプレゼン能力を有していたのだ
この時、行動を共にした学生仲間がワタミ創業の同志として有力幹部となり、“ハマ会”のコネクションがグループ伸張の後押しとなる
それ以後、「つぼ八」のフランチャイズとして店舗経営に乗り出すまでの全ての行動は、「社長になる」という目的に向かっての合理的に計算されたものだった
ただボランティア活動は、渡邉氏にとって単なる慈善活動といえないウェイトを占めるらしく、作中にも新人社員の研修に取り入れたりして、後の諸問題の端緒が垣間見える

立志伝的な作りをされているから当然といえるけども、主人公としての渡邉氏には影というものが見当たらない
しかしあえて、ブラック企業といわれる由縁を探すなら、あまりに強い指導力体制だろうか
学生時代に知り合った創業メンバーは、サークル時代から渡邉氏が圧倒的なリーダーシップを発揮した故に、序列が決まってしまっている
戦略レベルの決定は、渡邉氏個人により、作中に他の者が意見して覆ったケースは少ない。そして独断で決定する場合があっても、創業メンバーは逆らわない
もっとも会社の創業者が独裁的でモーレツというのは、ままあることである
ただ、ワタミの労働環境については、正社員の退職者が多いなど店頭公開から突っ込みは入っていた

 労働組合が結成されていませんが、ベースアップ・賞与の決定手順等の交渉方法を教えてください。また、過去に組合がないことにより、労務環境・従業員の要望の対応等に不都合が生じた場合は、その内容を教えてください(p331)

この店頭公開に必要な質問に対し、ワタミ側は労使協調をアピールする。作中でも渡邉氏が弱っている幹部との面談を定期的に行うなど、社長とサシの関係を強調するが、解説の中沢孝夫氏

 それが可能なのは一人一人のカオが見える間だろう。大きくなると「仕組み」が必要になる。つまりある種の「官僚制」が登場するのだ。そうでなければリーダーにカリスマ性が求められる。渡邉美樹の特徴はカリスマ性にある。それは重要な経営資源である。(p424)

とカリスマ性で解決できるとしているが、解決できないほど会社の規模が大きくなったのは間違いない
ましてボランティア活動から出発した「ふれあい」「こころ」重視の価値観を、青天井の奉仕精神として店員へ求めていけば、ブラック企業になるのは必然。一直線の拡張路線とボランティア精神といった自分を疑わない“大正義”が、誰にも責められない無謬な独裁体制と結びついたことが、ワタミを巡る様々な騒動の原因だろう
もっとも、少ない給料を自己啓発的な手法でごまかすのは、外食産業に蔓延しているやり方なので、業界全体の問題でもある


関連記事 高杉良・渡邉美樹 特別対談(司会:佐高信)

『不毛地帯』 第5巻 山崎豊子

盆休み中の大雨には驚いた
管理人は京都府宇治市に住んでいて、アパート周辺は無事だったが、醍醐よりの五ヶ庄などは水浸しになったらしい
職場でも家の一階が流されてしまった人がいた
大雨も集中した地域とそうでない地域と落差がありすぎて驚く

不毛地帯 第5巻 (新潮文庫 や 5-44)不毛地帯 第5巻 (新潮文庫 や 5-44)
(2009/03)
山崎 豊子

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壱岐はイランでの油田開発を戦前・戦中の経験から日本の将来を賭けた仕事だと考えていた。しかし、五菱商事を中心とした財閥グループは近畿商事の動きに割りこみ、経済界の序列どおり末席に追いやられてしまう。そこで壱岐はアメリカの独立系石油会社と手を組み、搦め手から開発権争いに食い込もうとする。壱岐の決意を受けて、腹心の部下兵頭は、イラン国王へ特別なコネクションを作ろうと目論むが・・・

最終巻は壱岐が最後の仕事と位置づけた、イランでの油田開発が中心だ
イスラム革命が起こる前のイランは、パフレヴィー朝のシャーによる専制政治体制で、全ては王とその周辺のロイヤルファミリーによって事は運ぶ
出入りする商社マンには絶えずロイヤルファミリーのコネクションをちらつかせた情報屋、山師がいて、いろいろな口実を設けたは金を巻き上げようと待ち構える
小説では、こうした中東の独裁政権の腐敗ぶりとその現実に真っ向から挑む商社マンの姿が描かれる
表向きの主役は壱岐だが、もっとも活動的なのは部下の兵頭だ。作者は壱岐の顔を立てる形で、ストーリーを展開させてしまうが、もう少し兵頭を旨い目に会わせて欲しかったかな

前巻から、タグに「瀬島龍三」を入れるのを止めた
なぜかというと、近畿商事のモデルである伊藤忠商事はイランの石油開発に関わったことはなく、瀬島が直接関わることはなかったはずだからだ
いすゞ自動車とゼネラル・モーターズの提携には関わっているものの、それ以後の瀬島は中曽根政権のブレーンとなり第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参加し、政界の指南役と呼ばれる存在に上りつめた
小説では田中角栄をモデルにしただみ声の田淵総理児玉誉士夫とおぼしき“鎌倉の男”との取り引きは描かれるものの、実際の瀬島龍三とは乖離していくのだ
伊藤忠はインドネシアの油田開発に参加していて、それは小説にも反映しているが、イランで開発を行なったのは帝人が旗振り役となって三井物産などのグループで、場所はサルベスタンではなくロレスターン鉱区
(→参考記事 総合エネルギー調査会総合部会第2回 議事録〈経済産業省〉)
記事によれば小説のようにハッピーエンドではなく、何千億と四人の社員を犠牲にした大失敗だったようだ
論客として有名な寺島実郎のハーバード・ビジネス・スクールのカントリーリスクの失敗案件のケーススタディーに必ずモデルケースとして出てくる(笑声)ものでして、革命が起こり、戦争が起こり、踏んだりけったりのプロジェクトとしてです。」という答弁は泣ける
日本に石油を届けるために戦った商社マンは確かにいたのだ

あとがきによると、作者は前半をシベリアを中心とした“白い不毛地帯”後半を石油開発を中心の“赤い不毛地帯”とする構想だったらしい
シベリアまでの壱岐の半生は不毛地帯に相応しい。が、その後の商社マンとしての人生を不毛地帯とはいえない
なるほど軍隊しか知らない人間が畑違いの商社に入っていく苦労はあったかもしれない
それでも、信頼に値する上司、心情が通じる元軍人の部下や戦友たち、堪え忍んでくれた妻子に、無聊を慰めてくれる愛人がいた。人間の縁ではかなり恵まれているし、世間的にも位人臣を極めたといっていい
精神的に“不毛地帯”というのなら、シベリアの傷が常につきまとう繊細なキャラクターが似合うが、これだと商社で成功するリアリティがないか
作者は力不足を口にしているものの、あまりに抑えなければならない範囲が多すぎた。結果的に瀬島龍三を必要以上に持ち上げテーマが散漫になった嫌いがあって名作とは言えないけれど、高度成長期の各業界を知る上で参考になる大作だと思う

毎日が日曜日 (新潮文庫)毎日が日曜日 (新潮文庫)
(1979/11)
城山 三郎

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空の城―長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)空の城―長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)
(2009/11/10)
松本 清張

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解説にあげられていた商社を取り扱った小説がこの二本
上の二本は商社を批判的に書いていて、『不毛地帯』は、商社の活動に積極的な意味を見出したことに意義があるらしい
商社の世界は国家の利害と深く関わっていて、奥がある


前巻 『不毛地帯』 第4巻

『不毛地帯』 第4巻 山崎豊子

読みやすいけど、全体としては散漫かも

不毛地帯 第4巻 (新潮文庫 や 5-43)不毛地帯 第4巻 (新潮文庫 や 5-43)
(2009/03)
山崎 豊子

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千代田自動車との提携を巡って、フォーク社との熾烈な駆け引きが続く。その間にも壱岐は、総合商社として石油産業に飛び込もうとしていた。戦前の日本が資源の乏しさから戦争に踏み込んだ歴史を意識してのことであった。腹心の部下である兵頭は、イラン、リビアに飛び、新たな油田を探して回る

アメリカ近畿商事社長としてフォーク社との提携を支援したい壱岐だったが、里井副社長との確執でこの案件から遠ざかることに
専務に昇進し東京に復帰してからも同様で、千代田自動車の件が片付かないうちに最終章ともいえる石油産業編に突入していく。結局は千代田-フォークの提携はライバルに潰され、自動車編は僅かな火だねを残しながらも幕を閉じる
演出的に壱岐は前に出ず、里井副社長に失敗を押しつける格好になっているので、自動車編はどうもすっきりしなかった。壱岐にまるで傷がつかないのだ
権力闘争であれ、経済戦争であれ、ライバル同士ちゃんとぶつかった方が展開が盛り上がる
業界の構図を眺めるには申し分ないほど調べられているけども、謀略小説としては壱岐が奇麗なままでいるのが出来すぎている本能剥き出しの鮫島の方が魅力的だ

ビジネス面では清廉でも、私生活の方ではアラアラな状況に
秋津千里と愛人関係を続けるはいいが、身を固めるわけでもないから、息子や娘に気付かれるとオロオロとせざる得ない。もう、みっともないったらない
代官山のマンションに亡き妻の遺影を運び込んだものだから、千里も遠慮し出す始末だ
娘はともかく、大人になった息子がここまでショックを受けるのは幼すぎる気はしたが、これは昔と今の家族に対する感覚のギャップなのかもしれない
自動車産業の件もそうだけど、私生活の展開でも余り先を詰めずに転がしたためか、上手くまとまっていないと思う
主人公の苦悩がまんま自業自得なので、「ざまあ」と思わざる得なかった(笑)

気を遣わなければならない範囲が広すぎて、作者の手に余る題材だったのだろう。細部は文章力でよく収まっても、それぞれが詰めのやや甘く突き抜けなかった
商社の件でも手一杯なのに、清輝の仏法修行、千里の陶器など、別の世界のことも入れたのは、小説として無理が過ぎたように思える。ここまで書けてしまうのは、作家の腕力ではあるけれど
ドラマ化されたように大作という評価は分かるものの、小説としてはバロック的に膨らみ過ぎて名作というには及ばないか


次巻 『不毛地帯』 第5巻
前巻 『不毛地帯』 第3巻

『不毛地帯』 第3巻 山崎豊子

なかなか打線が噴火しない我がタイガース
統一球+広いストライクゾーン+甲子園では、ホームランがまったく計算できないわけで、機動力中心の野球ができないと・・・

不毛地帯 第3巻 (新潮文庫 や 5-42)不毛地帯 第3巻 (新潮文庫 や 5-42)
(2009/03)
山崎 豊子

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次期戦闘機計画、第三次中東戦争と実績を積んだ壱岐は、常務に就任し近畿商事の総合商社化を提唱する。その推進のため、不振の千代田自動車にと米メジャー・フォーク社との外資提携を仕掛けるが、社内で千代田の国内合併を模索する里井副社長と対立することに。壱岐は社内融和と身内の不幸からアメリカ近畿商事の社長に異動するも、現地でフォーク会長と直に交渉し数年越しで外資提携を目指すのだった

業務部本部長から取締役の末席に昇進した壱岐だったが、入社数年での異例の出世から社内では嫉妬、特に里井副社長からは次期社長のライバルとして意識されるようになる
里井副社長は入社仕立ての壱岐を後押ししてくれた人間だった
外では抜け目のない外資や東京商事と熾烈な争いをしつつ、内ではかつての恩人が権力闘争しなければならないという、組織人としての苦みを感じさせる第三巻だ
千代田自動車、フォーク社と仮名が振ってあるが、モデルの名は全く違う
伊藤忠商事が実際に提携させたメーカーは、いすゞ自動車で相手はゼネラル・モーターズなのだ
あえて全く違う仮名をつけたのは、モデルとなった会社に言い訳できるようにするためで、私企業のことなのでFXの件よりは同情できる
フォーク会長とのコネを韓国の三星物産(=サムスン物産)社長につけてもらい、大統領と面会を果たすなど、陸軍の経歴を生かした人脈は、瀬島龍三そのまま

作者は壱岐を理想の男性に仕立て上げたいのか、幾つかご都合の展開を用意していた
その最たるものが、シベリア抑留の11年を待った妻、佳子の死
ドラマにもなったので豪快にネタバレすると、交通事故で全くの突然に死んでしまうのである
現実にいくら交通事故で死ぬ人が多いとしても、小説でこの展開は芸がなさすぎる。展開上、邪魔になったから殺したというのが丸わかりではないか
結局、壱岐に恋いこがれる秋津千里との逢瀬が予定されていて、彼を不倫男にしないために妻を始末したということなのだ
それにしても、交通事故はヒドイ(笑)。せめて計画的に、病気などの設定を用意しておくべきだろう
僕がここまで書いてしまうのも、モデルである瀬島龍三の奥さんが90歳まで生きて、70年以上の結婚生活を送っていたからだ。奥さんが死んだ後、瀬島が後を追ったように亡くなるという、そういう夫婦なのだ
いや、この改変はえげつない。僕のなかで山崎豊子はヒールになったな

自動車産業に関しては、熾烈な国内の競争民族資本を守ろうとする通産省に、それに苛立つ米メジャーと、業界の構図が分かりやすく解説されていた
トヨタ、日産クラスは、外国で安い車を売って優位に立っているものの、国内の中小は外資が入ると戦えないという複雑な状況だったのだ
なにせい方々に気を遣った小説なので、細部に関してはそのまま正しいか保証しかねるが、参考にはなるだろう


次巻 『不毛地帯』第4巻
前巻 『不毛地帯』第2巻

『不毛地帯』 第2巻 山崎豊子

タイガースの貧打に涙
ストライクゾーンが広いとか、言い訳にならない

不毛地帯 第2巻 (新潮文庫 や 5-41)不毛地帯 第2巻 (新潮文庫 や 5-41)
(2009/03)
山崎 豊子

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商社マンとして生きる決意をした壱岐は、大門社長のたくらみで次期戦闘機のテストを見学することになる。そこには陸士、陸大で同期で、今は空幕防衛部長を務める川又伊佐雄がいた。川又から腐敗した政治家たちの都合で次期戦闘機が決まってしまう現状を知った壱岐は、自ら航空部に移り第一次FXの大商戦に関わっていく

第2巻は、第一次FX第三次中東戦争に関わる商戦の二本立て
次期戦闘機計画はほぼ史実に準じていて、ラッキード=ロッキードグラント=グラマンとモデルも分かりやすい。F104は、まんまF-104スターファイター
当時の首相、岸信介はグラマン社から機数あたりでリベートをもらっていたという疑惑があり、F-104に決まっていた次期戦闘機をF-11タイガー(作中はスーパードラゴン)するべく働きかけていた
その疑惑は表面化したものの、捜査の段階ではリベートの受け取りが行なわれていなかったということで、事件化されなかったという
小説での近畿商事(伊藤忠)と東京商事(日商岩井)の暗闘は、そうした第一次FX問題の舞台裏を取材、推測したものといえそうだ

第2巻はシベリアの回想がなくなり、政界、海外を巻き込んだ謀略戦が中心となる
そのため、前巻にあった終戦時の悲哀が薄れ、経済復興の上げ潮に推される形で娯楽色が強くなった
主人公、壱岐正のライバルで登場するのが、東京商事の鮫島辰三
壱岐のモデルである瀬島龍三をもじったような名前でありながら、文中にも「鮫のように獰猛な商社マン」なんて表現もなされている、絵に書いたような男なのだ
「シャーと来るからシャアなんです」ならぬ、「鮫のようだから鮫島です」と真っ向から来るのだから、新宿鮫も脱帽である
しかも、壱岐の娘と鮫島の息子が交際しているという、ありえないラブコメも重なるのだから、たまらない(苦笑)
この二人にロミオとジュリエットでもさせるのであろうか

その他、夫婦のいさかいに娘が目を覚まして泣くとか、鮫島が壱岐と同じクラブをいきつけにして毎度嫌みを言うとか、王道すぎるドラマが展開されていく
こうしたベタさは作者の計算であって、雲の上、闇の奥の闘いばかりでは読者の気が削がれると、読みやすいようにバランスを取っているわけで、鮫島の設定にみる遊び心含めてこのサービス精神が多くの読者を取り込んでいるのだ
川又空将の自殺とか史実にあったか良く分からない事例もあったり、秋津中将の娘、千里が壱岐の不倫相手としてスタンバっていたりと刺激的な展開も含んでいて、事実かどうかと突きつめず『竜馬がゆく』を読むぐらいのスタンスで付きあうべきだろう
昭和の時代の出来事でここまで小説として遊ぶのは、凄い度胸だと思う


次巻 『不毛地帯』 第3巻
前巻 『不毛地帯』 第1巻

『不毛地帯』 第1巻 山崎豊子

私の経済状況のことか

不毛地帯 (第1巻) (新潮文庫 (や-5-40))不毛地帯 (第1巻) (新潮文庫 (や-5-40))
(2009/03)
山崎 豊子

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日本独立後の1950年代、元大本営参謀の壱岐正は、再就職先として商社の近畿商事から声をかけられる。商事の社長大門は、国費を投じて育成された参謀としての能力を、国際展開する大組織の中で生かして欲しいと言う。軍人に民間企業が勤まるのか、逡巡しながら11年間のシベリア抑留を回想する

会社でぼちぼち読んでいて、一月かかってしまった。一冊600項もあって長いのだ
初版は4巻構成で文字が小さかったらしいが、新版で5巻構成に代わり文字が大きめになったようだ。おかげで作者の文章力もあいまって、かなり読みやすかった
壱岐正のモデルが瀬島龍三で、大本営参謀→シベリア抑留→近畿商事(伊藤忠商事)の経歴は確かにそのまま
ただし、シベリア抑留時代など細部の行動に関しては、他の人間から持ってきているようで、小柄で虚弱な壱岐がソ連に転向した民主委員に乱暴するなど急に人が変わったような箇所がある
作者とすれば、シベリア抑留の過酷さを壱岐という人物を通して伝えたかったのだろう

山崎豊子というと盗作裁判なんてこともあったから、どこまでが創作でどこまでが借用(!)かと気になってしまうのだが、この作品については、あまり借用がないように思う
登場人物の行動がかなりドラマ仕立てなのだ
シベリア抑留時の英雄的行動もしかり、壱岐が商社の仕事を説明されるところなど、映画かNHKのドラマのような演出、場面展開を見せる
序盤に1950年代現在からシベリアを回想し、その回想の中の自分が終戦時の満州を回想させるという離れ業(苦笑)もあって、回想から現実へスリリングに物語は動いていく
ノンフィクションではなく、史実の話を総合して作ったフィクションとして昭和の裏側を語っていると考えるべきだろう

壱岐正以外の人物にも目が向けられている
シベリアに抑留され東京裁判のソ連側証人として東京で自殺した秋津中将。その息子清輝はフィリピンでの仲間の多くを死なせたことを苦にして、出家し比叡山で厳しい修行に挑む
娘の千里は、男ばかりの陶器職人の世界に身を投じ、品評会への出品にまでこぎ着けた
戦争に関わった、またはねじ曲げられた人たちの群像劇であり、戦後を生きる一人一人が光彩を放っている


次巻 『不毛地帯』 第2巻

関連記事 『沈黙のファイル-「瀬島龍三」とは何だったのか』
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サイドバーの背後(下部)に固定表示して、スペースを有効活用できます。(ie6は非対応で固定されません。)

広告を固定表示させる場合、それぞれの規約に抵触しないようご注意ください。

テンプレートを編集すれば、この文章を消去できます。