『ローラの日記』に続き、クーパー捜査官が自身の半生をテープとともに振り返る22年間
テープレコーダーをプレゼントしてもらった13歳(1967年)から、ローラ・パーマー殺人事件の解決に旅立つ1989年2月24日まで、テープに記録されたクーパーのモノローグとして、彼がその時々に体験したこと、学校生活、男女関係、怪奇現象、旅行、FBI、宿敵ウィンダム・アールとの出会いと暗闘が赤裸々に明かされる。著者はメインの脚本家マイク・フロストの実弟で、シーズン2の脚本にも参加したスコット・フロスト
シーズン2ですら明かされなかったFBIの助手、ダイアン・エヴァンスが実在の人物として姿を現すが、クーパーとはあくまで仕事上の関係にとどまり、言及は少ない。その点では肩透かしでも、やはり彼女あてに告白せずにいられない、困った女性を助けたがる騎士道に生きるクーパーをして、依存できる存在というのはたしかで、リミテッドシリーズでの重要な役割を担うのも分からぬでもない
本書は日本での発売が1991年で、劇場版の公開1992年に先立つもの。そのせいか、劇場版でのテレサ・バンクス事件の扱いと異なり、最初に捜査へ出たチェスター・デズモンド捜査官とフィリップ・ジェフリーズの存在は完全に割愛されている
その点が考察に扱う資料(!)としては、『ローラの日記』と同じで微妙なところなのだ
とはいえ、変人の貴公子クーパーがいかに生まれたか。偏執的な好奇心がニューエイジと結びつき、初恋の人がドラッグ中毒の果てに自殺するなど、その過程が興味深い
クーパーの少年時代にも、奇妙な悪夢を見ている
14歳のときに、自分の部屋に知らない男が押しかけてきて、「お前が欲しい」と大声で叫ぶという。彼の母親も同じ夢を見ており、夢見の能力を受け継いでいたのだろう
この時点で、“ボブ“のような悪霊に遭遇していたのである
また、母親が死んだ後に、若い母親が出てくる夢を見ており、彼女に金の指輪を渡される。これがツイン・ピークスで“巨人“に謎掛けとともに取られ、後に返ってきた指輪だ
誘拐事件で犯人を射殺せざる得なかった後には、夢で緑の椅子に座る“脚のない男”と対面し、「おまえは走れない。あいつはすぐ後ろに迫っていて、お前を殺そうとしている」と哄笑する
後のことを考えると、おそらくウィンダム・アールに殺されかかったことを暗示しているのだろう。ツイン・ピークス以外にも「赤い部屋」に相当する異界は存在し、精霊たちがうごめているのだ
ウィンダム・アールとキャロラインを巡る因縁については、詳述されている
後ろ手を縛られた状態で両手を切断、頭に一発撃ち込んだ変死体が発見されたとき、アールは4日の間、姿を消す。キャロラインに対しては、電話で「おれは沈む、沈む」というメッセージを残していた
おそらく、ブラックロッジへの潜入するためのある種の儀式だったと考えられる
キャロラインいわく、これより前のある時点でアールの人柄は変わったらしく、ブラックロッジに触れて“ボブ”のような悪霊に取り憑かれたか、あるいはドッペルゲンガーにすり替わられたのか
本書には上述のとおり、劇場版での重要事項がすっぽり抜けている。逆にいうと、リンチ監督はシーズン2のラスト2話分と劇場版をもって、幻のシーズン3への設定を盛り込んだといえ、リミテッド・イベント・シリーズまでの全貌を捉えるには、それを重視すべきなのだろう
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