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『邪神帝国』 朝松健

クトゥルフ界、屈指の短編集



ナチス・ドイツの第三帝国は、闇の勢力に支配されていた!? ナチスのオカルト趣味とクトゥルフ神話をつなげた邪悪なる短編集

なんと、洗練された怪奇小説なんだ!
ナチス「地球空洞説」などのトンデモ科学や魔術的儀式に傾倒していた史実を背景として、その黒幕にクトゥルフ神話の旧支配者をあてることで、リアルでおどろおどろしいホラーを作り上げている
世界観を同じくする連作ものなのだが、それぞれの章で主人公が違い、ナチス幹部などの有名人や一部の怪物たちを除いて共通するものはない。どの章も登場人物が怪奇に怯えるホラーとして完結しており、主人公が怪物を圧倒する英雄譚に堕ちないように計算されている
主人公が遭遇する怪物たちは、ときに極地を震動させる大怪物であり、潜水艦をひっくり返す大巨人であり、知らぬ間に人間と入れ替わる人形だったりと、内外の全ての世界に満ちている
「世界は知らぬ間に、怪物に支配されている!」と厨二病か誇大妄想かという状態を、第三帝国というリアルに狂っていた世界を通すことで、異様に実態を持ったものとして立ちあげてくるのだ。それを可能にした作者の博識と実力は恐るべし


<伍長の自画像>

舞台は現代の日本(イラン人に触れられているから、バブル期か?)。バーで飲んでいた“私”は、平田という画家志望の青年を介抱する。その後、画家を諦めた彼は、「星智教団(OSW)」というオカルト教団の秘儀で、本当の自分に目覚めたいという。作家としての好奇心から“私”は平田のアパートで、その秘儀を見に行くが……

作品のなかで、もっともオチがストレート。この連作で“伍長”といえば、平田はあの人であり、名字も微妙にもじっている(苦笑)
アーリア系のイラン人に人種論で噛みつくのが微妙だけど、それだけ人種論がその人、その集団のご都合で変わる難癖に過ぎないということでもあるのだろう
ラストもポピュリズムを皮肉るような、フツーのラストである

「聖智教団(OSW)」は、作者の他作品にも登場する架空の宗教団体。現実に似たような名前の団体もあるから、ややこしい


<ヨス・トラゴンの仮面>

日本外務省の書記官になりすましている情報将校・神門帯刀は、ドイツの対ソ政策を知るべく、親衛隊の指導者ハインリヒ・ヒムラーとパーティで会う。正体を見抜かれた帯刀は、ナチスが囚われている魔術師クリンゲン・メルゲンスハイムをあえて救出し、「ヨス・トラゴンの仮面」の在り処を探るように求められた。しかし、その当該の魔術師は監視者を殺して、自力で脱出し……

舞台は第二次大戦前夜で、連作の実質的なスタートライン。ヨス・トラゴンラヴクラフトアシュトン・クラーク・スミス宛ての手紙で言及していただけの邪神なのだが、作者はそれを拾い上げて自分の作品内で“育てた”ようだ
キリストを介錯した「ロンギヌスの槍」を持つルドルフ・ヘスが活劇を見せるなど、やってることは荒唐無稽なのに、なんか整合性がとれているのが素晴らしい!
実際のルドルフ・ヘスもオカルトに傾倒していて、イギリスへの飛行もそういう位置づけで見ることができるそうだ


<狂気大陸>

ハオゼン少佐は反ナチスの軍人と見なされて、アーリア人発祥の地“トゥーレ”と見なされた南極大陸の探検を命じられた。親衛隊の監視下、先遣隊の基地を目指すも、謎の怪物に襲われてしまう。しかし、その奥地には極地とは思えない、温暖で緑の生えた土地が広がっていた
が、探検隊は一線をすでに越えていた。「狂気山脈」の向こうから、不定形の怪物たちが押し寄せる!

前回の続きとなっていて、「ヨス・トラゴンの仮面」を手にしたヒムラーは、魔術師の家系の軍人ミュラーにつけさせて幻視を試し、南極大陸制圧を目指す
その探検隊を待ち受けるのが、不定形な宇宙外生命体「○ョゴス」。自らの支配者さえ滅ぼした彼らは、主人公の仲間を貪り食い、絶望的な状況に陥るのだ
ホラーなのだが、ナチスの野望を打ち砕く怪獣映画のようなカタルシスが味わえる


<1889年4月20日>

若きオカルティストのS・L・メイザースは、恋人のミナ・ベルグソンが見た悪夢と、巷を賑わす連続通り魔事件との類似に驚く。ミナの夢で見た犯人は、チョビ髭の小男で、イニシャルはA・H!
そして、古代エジプトに伝わる邪神ナイアルラトホテップが関わっていることを知って……

1889年の切り裂きジャック事件と、ヒトラーの生誕を絡ませたサスペンス・ホラー。S・L・メイザース本名サミュエル・リドル・マザーズ(メイザース)で、通称はマクレガー・メイザース」で知られる実在の人物妻のモイナ・メイザース(作中のミナ)とともにロンドンにおける「黄金の夜明け団」の首領となっている
アレイスター・クロウリーケネス・グラントも実在するオカルティストで、クロウリーはサイエントロジーの創設者ロン・ハバートにも影響を与えている
理性の時代に思われた19世紀末期、その世界の中心であるロンドンにうごめくオカルト思想にふれる一編である


<夜の子の宴>

バルバロッサ作戦に加わろうとしたヒャルマー・ヴァイル少尉は、ルーマニアのトランシルヴァニアで隊全体が何者かに襲われる。部下が何人も死に、喉には牙を立てたような傷痕、生き残った部下も生気がない
唯一ドイツ語をしゃべれる司祭に、部下の死体に杭を立てろと言われて激昂し、少尉は射殺してしまう。村長からは、村の外れにある伯爵夫人の協力を仰ぐように言われるが……

トランシルヴァニアというと、もうアレである
ナチスに吸血鬼というと、ポール・ウィルソンの『ザ・キープ』を思い出すが、本作はホラーの王道を走る。ヴァイル少尉はひたすら、やっちゃいけないことをしでかして、吸血鬼どころか、旧支配者の眷属まで解放するのであった。めでたし、めでたし


<ギガントマキア1945>


敗色の濃いドイツ、情報部のエーリッヒ・ベルガー中尉は、ある人物について南米へ向かう潜水艦に乗っていた
高位の将軍から敬礼を受け、自らを“伝説”と呼ばせるに指示する黒づくめの男は、そのオカルト的予見に基づいて複雑な行程を指示。その行く先には奇怪な怪物がつきまとい、“伝説”の男は「ペリシテ人の火」で応戦するが……

ナチス幹部の南米亡命に基づく短編。“伝説”の正体は、チェコで暗殺されたはずのSS高官で、ヒトラーらが指示した内容もいい感じにぶっ飛んでいる
南米にはアルゼンチンなど親独政権が多く、「リヨンの虐殺者」クラウス・バルビーもボリビアに亡命している。ドイツの敗戦直後に、ヒトラーの亡命先として報じられたりもしたようだ(件の南極亡命説も!)

*欧米の説話から都市伝説には、実体化した悪魔として、黒尽くめの男が頻出し、研究者には「MIB=メン・イン・ブラック」とも言われる。どこかの映画と関係するように、UFO関連では宇宙人の使いにイメージされる


<怒りの日>

クラウス大佐は、ノルマンディーで指揮をとるはずのロンメル元帥から昼食に誘われる。そこで、ベック元帥(実際は上級大将?)ら反ヒトラーの重鎮が揃い、まさに総統暗殺計画が論じられていた
しかし、クラウスの周囲には、ヒトラーが呼び込んだ闇の勢力が見え隠れし、愛人のリル妻のグシーも何者かにすり替えられてしまう
追い詰められたクラウスは、ドイツと世界を救うため、自ら爆破計画の実行犯を申し出るが……

クラウス・フォン・シュタウフェンベルク大佐は、実際の7月20日事件(1944年の暗殺未遂)の実行犯
作中の彼は、連合軍の上陸予想地点のカレーに大要塞を築く計画など軍指導部の誇大な計画に疑問を持っていたが、それがチベット仏教の導師テッパ・ツェンポの差し金と気づく。当時のナチス指導層には、中央アジアをアーリア人の発祥地(トゥーラはどうした!)として、チベットの神秘主義にはまる傾向もあったそうだ
作中のテッパ師は黄衣をまとった怪人(ハス○ー!)であり、人々と取って替わるホムンクルス(錬金術で作られた人工生命体)、人を食い尽くすカニの鋏をもつ“何か”(ダゴンの親戚?)と、取り囲む状況は絶望的なほど闇に食いつかされている
敗戦への下り坂と、ユダヤ人虐殺の狂気が同居した第三帝国末期を象徴するような、闇の世界が広がっているのだ!
そして、その決着の付け方が、決して史実をひっくり返すものではなく、むしろ既存の歴史へ収束させるものとして位置づけられているのがお見事。完璧な着地である


<魔術的註釈>

連作の最終章は「怒りの日」だが、巻末の註釈もまた作品である
ナチス幹部、実在するオカルティストのなかに、ひょっこりとクトゥルフ世界の書籍を潜り込ませ、さらには解説の作家・井上雅彦が小説で創作した本の名前まで混ぜていたりと、やりたい放題
このどこまでが本当で、どこまで嘘なのか、調べてみないと分からない。アレイスター・クロウリーの魔術とラヴクラフトの作品に共通項が多いという話の真偽は……(クロウリーの弟子、ケネス・グラントの妄想といわれるが)
初出は1999年とネット環境のいい時代ではないので、実在を信じてしまった人も多いのではなかろうか。そうやって、人を惑わす魔力が本作にはある


作者の朝松健は、クトゥルフ神話のみならず、ファンタジーやその基礎となる西洋魔術の紹介を精力的に行ってきた第一人者で、召喚魔術の「召喚」などファンタジー関係の用語は訳出するなかで生み出されたものも多いという
魔術的な手並みでウンチクが語られるので、この人の作品は追いかけてみたい

『ツイン・ピークス クーパーは語る』 スコット・フロスト

ゲ○で痛恨の延滞! 料金で借りたDVDを買い取れそうなぐらいだったので、これからの映画鑑賞は配信中心にしたいと誓った今日このごろ




『ローラの日記』に続き、クーパー捜査官が自身の半生をテープとともに振り返る22年間
テープレコーダーをプレゼントしてもらった13歳(1967年)から、ローラ・パーマー殺人事件の解決に旅立つ1989年2月24日まで、テープに記録されたクーパーのモノローグとして、彼がその時々に体験したこと、学校生活、男女関係、怪奇現象、旅行、FBI、宿敵ウィンダム・アールとの出会いと暗闘が赤裸々に明かされる。著者はメインの脚本家マイク・フロストの実弟で、シーズン2の脚本にも参加したスコット・フロスト
シーズン2ですら明かされなかったFBIの助手、ダイアン・エヴァンスが実在の人物として姿を現すが、クーパーとはあくまで仕事上の関係にとどまり、言及は少ない。その点では肩透かしでも、やはり彼女あてに告白せずにいられない、困った女性を助けたがる騎士道に生きるクーパーをして、依存できる存在というのはたしかで、リミテッドシリーズでの重要な役割を担うのも分からぬでもない
本書は日本での発売が1991年で、劇場版の公開1992年に先立つもの。そのせいか、劇場版でのテレサ・バンクス事件の扱いと異なり、最初に捜査へ出たチェスター・デズモンド捜査官とフィリップ・ジェフリーズの存在は完全に割愛されている
その点が考察に扱う資料(!)としては、『ローラの日記』と同じで微妙なところなのだ
とはいえ、変人の貴公子クーパーがいかに生まれたか。偏執的な好奇心がニューエイジと結びつき、初恋の人がドラッグ中毒の果てに自殺するなど、その過程が興味深い


1.悪霊の夢

クーパーの少年時代にも、奇妙な悪夢を見ている
14歳のときに、自分の部屋に知らない男が押しかけてきて、「お前が欲しい」と大声で叫ぶという。彼の母親も同じ夢を見ており、夢見の能力を受け継いでいたのだろう
この時点で、“ボブ“のような悪霊に遭遇していたのである
また、母親が死んだ後に、若い母親が出てくる夢を見ており、彼女に金の指輪を渡される。これがツイン・ピークスで“巨人“に謎掛けとともに取られ、後に返ってきた指輪だ
誘拐事件で犯人を射殺せざる得なかった後には、夢で緑の椅子に座る“脚のない男”と対面し、「おまえは走れない。あいつはすぐ後ろに迫っていて、お前を殺そうとしている」と哄笑する
後のことを考えると、おそらくウィンダム・アールに殺されかかったことを暗示しているのだろう。ツイン・ピークス以外にも「赤い部屋」に相当する異界は存在し、精霊たちがうごめているのだ


2.アール夫妻との因縁


ウィンダム・アールとキャロラインを巡る因縁については、詳述されている
後ろ手を縛られた状態で両手を切断、頭に一発撃ち込んだ変死体が発見されたとき、アールは4日の間、姿を消す。キャロラインに対しては、電話で「おれは沈む、沈む」というメッセージを残していた
おそらく、ブラックロッジへの潜入するためのある種の儀式だったと考えられる
キャロラインいわく、これより前のある時点でアールの人柄は変わったらしく、ブラックロッジに触れて“ボブ”のような悪霊に取り憑かれたか、あるいはドッペルゲンガーにすり替わられたのか
本書には上述のとおり、劇場版での重要事項がすっぽり抜けている。逆にいうと、リンチ監督はシーズン2のラスト2話分と劇場版をもって、幻のシーズン3への設定を盛り込んだといえ、リミテッド・イベント・シリーズまでの全貌を捉えるには、それを重視すべきなのだろう


*23’4/10 加筆修正

関連記事 『ツイン・ピークス ローラの日記』



『ツイン・ピークス ファイナル・ドキュメント』

登場人物にとっての25年間




『ツイン・ピークス』脚本家マーク・フロストによる設定資料第二弾
“文書”を読み終えたタミー・プレストンが、クーパー捜査官の“第二の失踪”の後にツイン・ピークスに居残って、その住人たちを中心に調査した記録となっている
『シークレット・ヒストリー』アメリカの黒歴史を広げた壮大な前史であったとすると、本書はドラマには描ききれなかった登場人物の裏側に触れる、設定資料集らしい設定資料集といえるだろう
特に怒涛の展開の『シーズン2』の最終話に、『リミテッド・イベント・シリーズ』(シーズン3)に突如語られた1945年から1956年のモノクロシーン、といった分かりにくいシーンの補足になっている
正直言って、特に“シーズン3”は断片的なシーンが多くて、視聴者には提示される謎以上に見づらいところがあって、本書があってこそ、推測を確定な事実にし、それを踏まえた真相に向かうことができるのだ
まあ追い銭を払わないと分からないというのは、ドラマとしてどうかとは思う(苦笑)


1.ツイン・ピークスの住人たち

『シーズン2』から“シーズン3”の25年間、登場人物たちに何があったかについてはちゃんと明かされる
旧作でクーパーと結ばれかけて、新作にまったく出てこなかったアニー・ブラックバーンは、助け出された後に意識こそ回復したが、ブラック・ロッジで魂を奪われたのか、廃人同然になってしまった
最初は義姉ノーマが看病していたものの、精神病院に入り回復の見込みは薄いとか
銀行爆破事件に巻き込まれたオードリー・ホーンは、3週間ほどの昏睡状態から目覚めた後に、父ベンジャミン・ホーンから独立。妊娠していたが、ベンと離婚した母シルヴィアの手を借りつつも、1人息子リチャード・ホーンを育てる
父親の名は誰にも明かさず、DNA鑑定もせず、店にクーパーの写真を飾っていたという。その後、金銭目的付き合いの長かった会計士(チャーリー?)と結婚するも、酒浸りに不倫疑惑と荒れた生活を送り、いつのまにか公の場所から姿を消したという
ちなみにベンとオードリーが絶縁状態になった原因は、ベンがゴースト・ウッドの森にある私有地を売却し、民営の刑務所に迎えたことで、そこの所長には“シーズン3”で連邦刑務所に収監された黒クーパーを解放したドワイト・マーフィーも含まれている
黒クーパーの魔の手はツイン・ピークスにも及んでいて、リチャード・ホーンも見張られていたのかもしれない


2.ドナとジェームズ

旧作の登場人物でもっとも華々しく活躍したのは、意外にもドナ・ヘイワード
シーズン2最終話で家庭が崩壊した後、ニューヨークへ移って、バイトでやっていたモデル業が大ヒット。セレブと浮き名を流すほどに上り詰める
IT企業の創業者と結婚して順風満帆とおもいきや、ダグラス・ミルフォードの未亡人ラナと遭遇してからは、ドラッグとアルコール中毒で転落してしまう
絶縁していた母アイリーンの死をきっかけに、存命していたウィル・ヘイワードと和解し、ウィルの助手として看護師の勉強に励んでいるとか
ちなみに、ラナは次々と金持ちと結婚し、それに翡翠の指輪(緑の指輪)を送って早死させていたらしい
ドナの恋人、ジェームズ・ハーリーはローラの事件のショックで、長らくツイン・ピークスに戻らず。メキシコの麻薬カルテルの整備工をしていたときに捕り物に巻き込まれ、ツイン・ピークスの保安官事務所預かりとして戻ってくる
そこからエド・ハーリーのガソリンスタンド、グレート・ノーザン・ホテルの警備員として落ち着いたようだ


3.シーズン3のその後

意外だったのは、クーパーの“第2の失踪”での変化だろう
クーパーは異界のフィリップ・ジェフリーズを訪ね、ローラ事件の当日夜に転移し、ローラを連れ出すことで彼女の死なない未来を作り出してしまった
しかし、そこで世界が2つに分岐したわけでなく、ローラが死ななかった場合として世界が再構成されているのだ
ツイン・ピークスではローラ殺人事件はローラ失踪事件へと代わり、一年後にリーランド・パーマーがピストル自殺している。クーパーは失踪事件の捜査にやってきて、数週間滞在したことになっている
不思議なのは、調査しているタミー・プレストンが、ローラの殺人事件がかつてあったことを知っていること! ツイン・ピークスの人間の記憶は調整されても、彼女には及んでいないのだ。及んでいると、語り部としての役目が果たせないからだろうが、精霊たちの采配も雑である(苦笑)


まだ『クーパーは語る』は読んでいないけれど、最低限の材料は揃ったのは、過去の記事に追記しつつ、なにか記事をあげたいと思ってます。浅く雑なものになるだろうけど


*23’4/10 加筆修正

関連記事 『ツイン・ピークス シークレット・ヒストリー』

シーズン1 『ツイン・ピークス シーズン1』 序章・EP2

『ツイン・ピークス シークレット・ヒストリー』

『ファイナル・ドキュメント』とセットな感じ



ツイン・ピークスの町に何が起こっていたのか。全米をにぎわしたUFO騒動に、インディアン移住問題までもが関わってくる町の裏面史

『ツイン・ピークス』脚本家マーク・フロストによる設定資料第一弾
未解決事件(ルース・ダヴェンポート殺人事件)の現場から発見された文書とされていて、ゴードン・コールの許可を受けたタミー・プレストン文書の「管理者」を読み進めながら特定するミステリーともなっている
内容は19世紀前半のアメリカ政府によるツイン・ピークスの“発見”から始まって、ネイティブ・アメリカンへの迫害、アメリカ全土を揺るがしたUFO騒動と政府の対応、ロケット科学者とオカルト教団と大きく迂回しながら、その奔流を再びツイン・ピークスに流し込む構成で、シーズン3の壮大な物語を補足するものになっている


1.アメリカの黒歴史

前半は特にツイン・ピークスにかこつけて、アメリカの闇の歴史に触れているといっていい
第3代大統領トマス・ジェファーソンの政権を転覆せんとした副大統領アーロン・バーのクーデター計画ジェームス・ウィルキンソン将軍の裏切りなどは、なかなか日本人の耳に入らない史実だし、ロズウェル事件などのUFO騒動に国家予算を割いて調査と収拾を迫られたことや、イギリスの神秘家アレイスター・クロウリー→ロケット工学者“ジャック”・パーソンズ→サイエントロジーの教祖ロナルド・ハバードと続くカルト教団の系譜も興味深い


2.新聞社の社長とブルーブック計画

そうした歴史的事実に関わっていくのが、シーズン2でただのにぎやかしだと思われたツイン・ピークス・ガゼット新聞社の社長ダグラス・ミルフォード
彼は第二次大戦中の不祥事から、マンハッタン計画の特殊部隊を経て、1947年のロズウェル事件などから生まれたUFO調査の「プロジェクト・サイン」へ参加する。そこからUFO騒動の火消しをする「プロジェクト・グラッジ」から、科学的調査をするブルーブックも参画し続けた
そして、ニクソン政権下の1969年に「ブルーブック」が終結しかかったが、大統領の肝いりでダグラス・ミルフォードは、FBIの協力者ゴードン・コールらと極秘に活動する組織(「ブルーローズ」?)を結成し、空軍からガーランド・ブリッグス少佐を呼んでツイン・ピークスにレーダー基地を建設したのだ
ドラマでは孫ほど年の離れた新妻ラナに鼻を伸ばしていた御仁が、これほどの重要人物だと誰が思おうか(笑)。そうなると、彼の急死がラナによる暗殺説も浮上しそうだ


3.丸太おばさんの過去

ツイン・ピークスの前史として気になるのは、"丸太おばさん”こと、マーガレット・ランターマン
1947年9月3人の小学生が謎の失踪を遂げていて、無事に帰ってきたものの右膝にフクロウのタトゥーが彫り込まれていた(残りの2人の子供のうち、1人がトレーラーハウスの管理人であるカール・ロッド
その後、パッカード製材所の職人サムと結婚するが、直後の山火事で婚約者をなくし、告白を受けたグラストンベリー・グローヴ近く(ブラックロッジの入り口!)であの丸太を見つけるのだ。丸太が彼女を通して発していたのは、「赤い部屋」からのメッセージなのだろうか
そのほか、ハンク・ジェニングスが刑務所でルノー一家に刺されて、死の淵ですべての罪を告白したとか、銀行爆破事件でアンドルーとピートを失ったキャサリンは製材所を廃業してベンジャミン・ホーンに権利を譲ったとか、リミテッド・イベント・シリーズに登場しなかった人々についても触れている
まだまだ謎は残るものの、ファンなら買って損のない資料集といえよう


*23’4/10 加筆修正

関連記事 『ツイン・ピークス ファイナル・ドキュメント』

シーズン1 『ツイン・ピークス シーズン1』 序章・EP1

『ツイン・ピークス ローラの日記』 ジェニファー・リンチ

アマゾンで注文して届かなったので(物がなかったのだろう)、珍しくキンドルで『シークレット・ヒストリー』と『ファイナル・ドキュメント』を入手。ページ数が多いので、読むのに時間がかかりそう




『ツイン・ピークス』で事件の真相に迫る重要な証拠となった「ローラの日記」を書籍化したもの
著者がデヴィッド・リンチの娘、ジェニファー・リンチであり、ローラの視点から闇に堕ちていった女子高生の孤独と悲劇が語られている。その赤裸々な告白は、ぶっちゃけ官能小説の色彩すら帯びる
テレビシリーズや劇場版で触れられなかった人間関係やエピソードが知れる一方で、重大な欠点もある
なんとローラが殺された以降にも、日記が書かれているのだ(爆)
彼女が殺された日は1989年2月23日なのだが、日付ありのページの最後が1989年10月31日で、「片目のジャック」をやめたので女支配人のブラッキーの妹ナンシーから最後の給金と荷物を受け取ったことが書かれている
テレビでは「今夜、Jに会うのが心配」というのが最後の記入となっているのだが、そういった記述は一切ない
そんなわけで、本書で書かれた内容をすべて字義どおり受け止めていいかは微妙なところだ


1.12歳からの出来事

日記は彼女の12歳の誕生日、1984年7月22日から始まる
彼女が生まれたのは1972年、親友ドナ・ヘイワードの父、ウィル・ヘイワードによって取り上げられた
12歳の誕生日には、父リーランド・パーマーのお得意さんであるベンジャミン・ホーンから一頭のポニーがプレゼントされ、トロイと名付けられる。後にトロイは病んだローラによって野に話されたが、野生で暮らした経験のないトロイは無惨な死を遂げて、彼女を精神に大きなダメージを与える
ベンジャミンの娘オードリーは、自分との扱いの差に嫉妬して、ローラと距離を置くようになったようだ
また、ジュピターという猫を買っていたが、不幸な交通事故死を遂げた。彼女が薬物中毒になった際、自身がトラックで猫を轢いてしまい、これまた大きな衝撃を与える


2.悪霊ボブとコカイン中毒

彼女がコカインへ手を出す原因は、悪霊“ボブ”から逃れるためだった
ラリっている間は“ボブ”が姿を見せないので、売人であるレオとボビー・ブリッグスから手に入れるために肉体関係を持つことに
それでも“ボブ”はつきまとうので、不特定多数との性交妊娠中絶(!)『片目のジャック』での売春と、鬼神も退くような悪女街道を突き進んでいく
その一方で、RRダイナーのノーマとともに、家から出られない人々に食事を届ける「ミールズ・オン・ウィールズ」に協力し、「第二の日記」を託すハロルド・スミスと知り合っている。ハロルドには強引に関係を迫ったが、逆にパニックを起こさせてしまったと反省している
また、パッカード製材所の未亡人ジョシーに英語を教えたり(香港の水商売上がりと把握している)、オードリーの兄で知的障害者のジョニー(シーズン3にようやく登場!)に絵本を読んであげたりと、評判どおりの天使の側面も残していた


“ボブ”の名前は当初から出てくるが、シリーズを見通してしまうと、12歳の誕生日翌日(1984年7月23日)のところが気になる
夢の中の“ボブ”はシーズン2のりーランドのように歌い続け、ローラに悪戯したあとにセーラ・パーマーが好きな「ワルツィング・マチルダ」(オーストラリアの民謡)を歌い、その声は途中で母の声となる!
シーズン3に露呈したセーラの正体を知れば、家に“ボブ”を入れたのは……
ちなみに、ワルツィング・マチルダは放浪者の歌であり、羊を盗んで追われ湖の溺死を選ぶという内容で、それが暗示するのはローラの行く末なのか





*23’4/11 加筆修正

TVシリーズ 【DVD】『ツイン・ピークス シーズン1』 序章・EP1



『ザ・スタンド』 第5巻 スティーヴン・キング

主要メンバーのほとんどが……まさかこんな結末になるなんて




ファリス、デイナ、トム・アレンの偵察隊には、早くも魔の手が迫る。しかし、ファリスとデイナの自己犠牲的精神により、<闇の男>の意図は挫かれその力にも綻びが生じた
<闇の男>打倒のために出立した4人の委員は、スチューが怪我により離脱。ラリー、ラルフ、グレンはベガスの街へ連行されてしまう。はたして彼らに待ち受けるものとは……

最終巻は斜め上の展開だった
それまで何度か『指輪物語』の名が出てきたので、そういう展開なのかと思いきや、物語はむしろキリスト教の黙示録なのであった
バトル物として読むと、悪の側が自壊していくので、やや物足りないか
<闇の男>は超自然的な力を持つものの、あくまで‟個”に過ぎず、広域化した自らの勢力を統率しきれない
幹部候補生となりそうなハロルドを斬り捨てたのも解せず、支配したはずのナディーンにもカッとなってホテルから放り投げるなど、後先を考えない小悪党な行動を取ってしまう
<闇の男>自体は神と対抗する堕天使ではなく、せいぜい人間をたぶらかす悪魔に過ぎないのだ


1.ラスボスは負の遺産

じつのところ、<闇の男>は‟ラスボス”といえる存在とはいえない
この作品で本当の敵といえそうなのは、むしろ<文明>そのもの<闇の男>は<フリーゾーン>を焼き払おうとしていたが、その手段は飛行機による空爆だった
ネバダ砂漠には核爆弾に、合衆国を滅亡に追いやった細菌兵器までもが眠っている
こうした<文明>の負の遺産こそが、『指輪物語』の「一つの指輪」といえ、マザー・アバゲイルが委員会のメンバーに警告したかったのは、<フリーゾーン>が文明の牙を尖らせて<闇の男>の陣営と戦争状態になることではなかったろうか
委員会のメンバーを無謀にもラスベガスへ乗り込ませたのは、同じ生身の人間であることを示し、人類の‟分断”を乗り越えさせようとしたと思える


2.<闇の男>は神の試練か?

さらにネタバレしていくと、<闇の男>に従ったラスベガスの街は悲劇的な終焉を遂げる。ベガスの住人は『北斗の拳』のモヒカンとは違い、恐怖によって統率の取れた集団であり、偵察隊のデイナもナチスに喩える
彼らの特徴は強者に対する従順さであり、わが身可愛さにどんな残虐なことが起ころうと反抗しようとしない
そんな専制に対する隷従も裁きの対象であり、ベガスの民は神の制裁を受けるのだ
しかし<闇の男>は受肉した肉体を失っても、また違った形で蘇る。人類を試すように、他の地域で活動を再開するのであった
そんな顛末も知らずに生き残った<フリーゾーン>は、人口が1万人に達するようになり、保安官の拳銃装備が検討されるなど、不気味な気配が漂う
人は過ちを繰り返す!? ベガスへの殉教(!)、制裁は納得できないのだが、敵は我にありというところは確かに『指輪物語』だった


*23’4/11 加筆修正

前巻 『ザ・スタンド』 第4巻





『ザ・スタンド』 第4巻 スティーヴン・キング

プロ野球開幕も、阪神悔しい大逆転負け
ケラーの調整不足はありありで、一番の問題はやはりベンチワークか




人々が集い拡大していく<フリーゾーン>に激震が走った。精神的支柱であるマザー・アバゲイルが失踪したのだ。衝撃をうけつつも共同体を主導する7人の委員会メンバーは、<闇の男>が支配する西部への偵察を計画し、彼らの親しい人間3名を派遣する。しかし、<闇の男>の側もその‟使徒”たちが<フリーゾーン>へのテロを計画するのだった

本巻では<フリーゾーン>内部での問題が中心となる
まずは共同体の精神的礎、マザー・アバゲイルの失踪である。彼女は<神>から「高慢の罪」を犯していると指摘されて、荒野へと旅立つ
それによって期ぜずして、共同体の全権を託されたのがニック、ラリー、スチュー、フランら7人の委員会メンバー。マザーがいなくなったことで道徳的な判断基準が緩くなったのか、<闇の男>の陣営を偵察するため、その本拠であるラスベガスへ3人の偵察隊を送り込むこととなる
メンバーはそれぞれ委員に従って旅した仲間であり、ニックの相棒だった知的障碍者のトム・アレン、判事ファリス、性的マイノリティのデイナ。委員が直接出向くことは共同体の崩壊につながると、彼らなりに厳選したつもりなのだが、彼らへの申し渡しは苦渋に満ちたものとなる


<フリーゾーン>を襲うテロ

拡大する<フリーゾーン>とは裏腹に、ラリーにふられたナディーンは、‟<闇の男>の花嫁”として目覚め、同じく<闇の男>に誘われたハロルドと淫靡な関係に到り、委員会へのテロ計画を練る
委員会側もハロルドの黒さに気づいて、迫真の探り合いが続くのだが……まさか、あの主人公格の男が死んでしまうなんて! 人権キャラだと思っていたのだが
特に<闇の男>が大立ち回りすることもなく、起こっていることは等身大の人間の葛藤、憎悪なのに、ここまでハラハラさせられるとは。ホラー抜きにしても、作者は小説の帝王なのだ
右肩下がりの厳しい状況になっていく<フリーゾーン>だが、最後にはさらに厳しい裁き、というか査定が待っている
自らが先頭に立たず、3人の偵察隊を人身御供ように送り込み、共同体の為政者に収まっていることを<高慢の罪>と見なされるのである。そして激しくネタバレすると、委員会の生き残ったなかで4人の男が<闇の男>打倒のために旅立つのだ
超自然の<闇の男>が相手では、リアリズムの判断ではなく、『指輪物語』のような英雄的行動が求められるというのか。もう何が起こるか分からない


*23’4/11 加筆修正

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『ザ・スタンド』 第3巻 スティーヴン・キング

ロシアによるウクライナ侵攻、キエフ包囲という情勢は、『米露開戦』というトム・クランシーの遺作を思い出させる
まず起こらないはずの潜在的危機を書いた作品で、予見というより娯楽として消費されるべきものなのだが…




マザー・アバゲイルの元へ、様々な人が合流した。スチューと結ばれたフラニーは、亡き友達の弟ハロルド社会学者ベートマン、ならず者に囚われていたデイナたちと、言語障害者のニック知的障害者のトム・カレン工場労働者のラルフらとともに、元ミュージシャンのラリー元教師のナディーン無口な少年ジョーらを連れて集まり、ボールド―の街でアメリカの価値観に基づく共同体<フリーゾーン>を作り始める
一方、ラスベガスでは<闇の男>に誘われた男たちが集結。まったく新しい社会を作り始めていた

里見八犬伝のように老婆のもとへ、人々は集結した
妊婦のフラニーとスチューのカップル、共同体の軍師となっていくニック、心弱いゆえにリーダーの資質を備えるというラリーの、三つの集団の視点で物語は進行していく
それぞれがアバゲイルと<闇の男>の夢を見たことを共通項に協力し合っていく
しかし、人々のなかにもその範疇から外れるものもいて、フラニーにふられたハロルドは<闇の男>の誘惑に乗って裏切りを画策し、もともと<闇の男>に惚れ込んでいたナディーンはジョー(本名がリオと判明)がアバゲイルに懐いたことから、決定的に疎外感を感じてしまう
社会の再建がされながら、その裏で獅子身中の虫が育つという、嵐の前触れを思わせる第3巻なのだ


全体主義なモヒカンたち

理性ある社会が建設される一方で、元ラスベガスに建てられるのが悪のモヒカンワールド
ただ<闇の男>は自分の掟に背いたものを次々と磔にするものの、その罪はヘロイン吸引だったりとある種の秩序を感じさせ、単純な暴力と放埓な社会でもない
ある程度管理された暴力集団ナチスなどの全体主義のイメージなのだろうか
本巻でかなり紙数が割かれるのが、2巻から登場した放火魔<ごみ箱男>の流転である。<闇の男>の夢に従って伝説の都シボラことラスベガスを目指す途中、プレスリーを気取ったチンピラ<ザ・キッド>に捕まってしまう
<ザ・キッド>の南部訛りは訳だとべたなの関西弁(!)で表現され、さながら『ミナミの帝王』のノリだ(爆)。<闇の男>の社会を乗っ取ると吹聴した<ザ・キッド>だったが、闇の力により狼の群れに取り囲まれてジエンド。<ごみ箱男>は無事にベガスへ着くことができた
とはいえ<ザ・キッド>の最期の姿は描かれてないので、まさかの再登場にも期待したい



*23’4/11 加筆修正

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前巻 『ザ・スタンド』 第2巻

関連記事 『米露開戦』 第1巻・第2巻

『ザ・スタンド』 第2巻 スティーヴン・キング

破滅のなかでの出会い




アメリカはウイルスにより壊滅した。ウイルスに抗体を持ち、生き残った者たちには、孤独という名の第二の疫病が襲い掛かる。妊娠中のフラニーは両親を失い、言語障害を持つニックは世話になった保安官夫婦と死別し、ミュージシャンのラリーは母を失ったのち、知り合った恋人をも失う。そんな中、‟闇の男”が夢のなかに姿を現し、いろんな人間を恐怖の世界へ引きずりこむ

前巻はウイルスの流行からアメリカの壊滅までだったが、本巻ではその滅亡後の世界が舞台となる
大半の人間が病死した世界、ひとつの街に生存者が数人という状況では、生産者がいなくても物資には事欠かかない。消費者が圧倒的に減ってしまったため、保存できる食糧なら苦労しないし、店を壊せばいろんな物が手に入る
偏食や医者の不在など健康面は怖いものの、一人でなんとかならないでもないのだ
そこで問題となるのが精神であり、孤独であるということ。強盗殺人犯のロイドは、留置所で飢えから気が狂い、隣の囚人の死体を食べてしまう
それにつけこむのが、世紀末的世界に舞い降りた‟闇の男”であり、ロイドを苦もなく虜とする。このキリスト教の悪魔めいた男は、他の生存者の夢に登場して闇の世界へ引きずりこもうとしてくるのだ
対抗するように夢で出てくるのが、100歳を超える老婆マザー・アバゲイル。彼女の言葉が夢見るものに勇気を与える。現実の世界が壊滅するとともに、一気にファンタジーの間欠泉が噴き出した


1.唐突な小池一夫用語

どうでもいいことなのだが、こういう一節があって

 ジョーは結局のところ、それほど先へ行ってしまたわけではなかった。ふたりが追いついたときには、とある家のドライブウェイに停まった、ブルーのフォードの後部バンパーに腰かけ、どこかで見つけたらしいヌード雑誌を見ていた。彼の股間のものがエレクトしているのを認めて、ラリーは居心地の悪さを感じた。ちらりとナディーンを見やると、彼女はそっぽを向いていた――おそらく、故意にだろう。(P466)

突如として、小池一夫用語が登場したのだ(笑)
訳者の深町眞理子氏は御年91歳で、アガサ・クリスティーなど数々の翻訳を手がけたレジェンドなのだが、男子向けのハードボイルド漫画も読んでいたのであろうか


2.ポストアポカリプスの先駆者

そんな話はさておいて、そろそろアパラチアへ出撃しようか(ゲーム『Fallout76』のことですね)と思っている管理人からすると、スチューが出会う社会学者ベートマンの話が興味深い
教授は人々がその気になれば、文明を再興するのは容易いという。生存者のなかには必ずエンジニアがいて、街には動かされるのを待つ機械が待っている状態だからだ
その一方で、そんな豊かさを自ら生み出せず、世紀末の価値観に染まって略奪に乗り出す人々(Falloutのレイダー!)も現れるというのだ
この破壊と創造が対決する構図は、ポストアポカリプス物の定番。本作でも、夢のなかで歌う老婆マザー・アバゲイルのもとへ主人公たちが集まる一方、‟闇の男”は元犯罪者を束ねて襲撃者の一団を作ろうとする
文明崩壊後の世界で、単なるサバイバルのみならず、ダークファンタジーが展開されそうで、リアルとホラーがどう交錯するかが楽しみだ


*23’4/11 加筆修正

次巻 『ザ・スタンド』 第3巻
前巻 『ザ・スタンド』 第1巻

『ザ・スタンド』 第1巻 スティーヴン・キング

映像化はされてた




アメリカ合衆国で謎のインフルエンザが襲った! 未婚で妊娠してしまった学生フラニー、急な成功でパーティ漬けになった歌手ラリー、言葉を話せない障害を持つ苦労人の青年ニック、なぜか感染しない男スチュー……様々な人々が悲喜こもごもの日常を送るなか、社会そのものが病原体に犯されていく。あげくの果てに人間同士の抗争を起こして、合衆国が崩壊していく

スティーブン・キングの自他ともに認める傑作シリーズ
アメリカ各地に散らばった複数の主人公たちを視点に、それぞれに遭遇する悲劇が描かれる。だいたい時系列に沿って事態は動いていき、最初は個人の環境とそれに対する葛藤が中心に始まるが、そのうちにウイルス感染が進んでいって、否応なく嵐に呑み込まれていく
主人公たちの置かれた境遇がリアルに描写されていて、ウイルスが蔓延しなくても小説になりそうなほどの内容だ。だからこそ、自分と周囲の問題を克服しようとしている途中で襲い掛かる災厄が、恐ろしく感じられるのだ


Falloutな世界観

第1巻において、アメリカ合衆国は容赦なく崩れていく(爆)。コロナが蔓延する現在、当然書ける内容ではない
初出はベトナム戦争が終結してまもなく、新冷戦が始まる直前の1978年。原因はひそかに研究されていた生物兵器が事故によって漏れたことであり、当局は全力で隠蔽工作をはかる
まずウイルスを宿した逃亡兵の家族を追い、それと濃厚接触した人間を強制的に収容。流行が止められなかった街は州軍により閉鎖し、道を強行突破する者を射殺する
それでも大流行は止められず、政府は放送局に流行しているのはただのインフルエンザ(流感)であり、ワクチンは開発されていると宣伝工作してパニックを防ごうとする
が、治す薬はないので、各地の都市では大量の犠牲者が出て、死体は秘かに海へ捨てたり、焼却処分されるのだ
日本では都市のロックダウンはされてなかったが、コロナ禍で海外の人が読み直したらシャレにならない内容だったろう

流行が止まらず、都市に戒厳令がしかれて軍のみで掌握するようになると、悲劇も最終段階へ
物資の枯渇とストレスで暴徒化する市民へ、パニックになった部隊が発砲するようになると、それに怒った兵士が反乱を起こし銃撃戦を始める
ある放送局では、暴走した部隊が公開処刑ショーをテレビで放映し、それを討伐する部隊と戦闘に入るとか、各地で血みどろの事態となるのだ
『渚にて』『復活の日』は静かな滅びといった感じだったが、ゲーム『FALLOUT』のVaultを彷彿とさせる恐ろしい内容である
……ここまでの時点でパニック小説として完成している気もするのだが、ここからあと4巻ある。いったい何が始まるのか、まったく予想がつかない


*23’6/24 加筆修正

次巻 『ザ・スタンド』 第2巻

関連記事 『復活の日』
     【DVD】『渚にて』



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