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『ザ・ロード』 コーマック・マッカーシー

2008年に映画化も。ポストアポカリプス系のゲームにも影響を与えてそう




核戦争後とおぼしきアメリカ。動物や植物も灰のなかに絶たれ、生存者同士が共食いする世界で、冬の寒さを凌ぐべく、親子は南を目指す
国境三部作、『血と暴力の国』の作者コーマック・マッカーシーによるポストアポカリプス

読むのに時間がかかってしまった。元の文体の特徴なのだろう、段落がやけに長くて日本語と相性が悪いのだ
それに加えて滅んだ世界の陰鬱とした調子が続くので、廃墟好きの人間でなければ、なかなかに辛い内容だ
具体的に何で世界が滅んだのか、親子に何があったのかは直接は触れられず、思い出されたかのように差し込まれる過去のついての断章などから読解していくしかない
SFではポストアポカリプスをテーマにした名作が多くあり、本作はそれを隠し味として引き継ぎつつ、過酷な環境で人がどうやって生きていくのか、精神を狂わせないのには何が必要か、そして、何のために生きるのかを問うサバイバルが主眼となっている
しかし、いくら頑張っても文明が滅んだ世界には限界が……人間が人間たるには何が必要かを突きつける作品だ

親子の過去については、断片的にしか語られない。親は“彼”子は“少年”という人称で呼ばれる
破局からはけっこう年数が経っているらしく、“少年”は廃墟のなかで医者もいないところで生まれ、滅びた世界しか知らない
その母親は、ならず者たちと肉体関係をもって食糧を調達していたらしく、いたたまれなくなった彼女は二人から離れてしまう(自殺がほのめかされている)
“彼”は“少年”に対して、滅びる前の世界のことを教えるが、たえずそれを教える意味があるのかという想いに襲われる。もはや戻ってくるはずのない世界を教えて何になるのかというか

そこでこだわるのは“善きこと”であり、善き者”でなければならないということ。まともな植物が生えない灰色の世界で、食糧として動けない人間や子供が食われる時代人間としての倫理にこだわる
それは火を運ぶ”という言葉にもつながり、文明の火で滅んだ今となっては、プロメテウスの意味ではなく、命の灯火、良心の灯火を示しているのだろう
高齢で子供をもうけており、我が子へのメッセージが動機なので、この作家さんの割に、ラストにご都合感のあるのも致し方なしか
ピュリッツァー賞を受賞した高い評価を受けて売れた作品なのだけど、鬱状態がベースなので個人的には辛かった(苦笑)。訳者のあとがきとしては、日本の『子連れ狼』の影響なども指摘されているのだけど、暗いんだ……


関連記事 『血と暴力の国』



『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』 フィリップ・K・ディック

映画も観直そうか



アンドロイドを狩る‟バウンティ・ハンター”リック・デッガードに、急な依頼が舞い降りた。サンフランシスコ警察の主任ハンターが負傷し、6人の最新アンドロイドの追跡を命じられたのだ。最新のタイプ「ネクサス6型」に既存の試験が通用するかを確かめに、製造元のローゼン社へと赴くリック。そこには社長の秘書を務める謎めいた美人、レイチェルがいた

往年の人気SF映画『ブレードランナー』の原作小説だが、ずいぶん趣きが違った
基本的な設定は同じものの、小説ではより大きい問題意識が見えてくるのだ
核戦争で放射能の灰が降り、すべてが‟キップス”(塵)に崩れていく世界で、模造品の技術だけは発達し、絶滅危惧のペットほぼ人間の人造人間=アンドロイドが作られている
そのアンドロイドは火星への移民を補助するための労働力として使われており、そこから逃亡したアンドロイドを処分するのが‟バウンティ・ハンター”(映画の‟ブレードランナー”)
ここまでは同じだが、リック・デガードは小説では既婚で、レイチェルとの関係はロマンスというには淫靡なものになる。そして、その結末は……映画を知っていると衝撃!

SFながらハードボイルド風の文体(原文は知りませんけど)で、専門用語が出てくる他はさくさくと読めた
展開も誰がアンドロイドで、誰が人間か分からないドキドキ感が止まらない。何しろ真偽を確かめるには、ゆっくり検査にかけるか、殺して脳髄を調べるしかないのだ
人間同然のアンドロイドがいる世の中で、人間とアンドロイドを隔てるものは何なのか
それは「感情移入」「共感(シンパシー)」と作中ではっきり示される。人間は世紀末的世界でも、模造品であれ動物を可愛がろうとするし、他の人間にも入れ込んでしまう
作中の底辺労働者イジドアアンドロイドたちに感情移入し、リックのようなバウンティ・ハンターから庇おうとする。が、守ろうとしたアンドロイドが貴重な自然生物「蜘蛛」の足をちぎろうとして驚愕し、その気が失せてしまうのだ
もっとも、この世界は病んでいる。人間の孤独を癒すために、まるでVRゲームのような「共感ボックスが用意されていて、触れることで仮想現実に入り、ウィルバー・マーサーという聖人と一体化する。彼の人生に対する金言(?)から、マーサー教という宗教が人間社会に根を張る事態になっている
この構図はネット社会のオンラインゲームのようでもあり、フェイスブックが始める「メタ」のごとく、そろそろ実現してしまいそうだ

『七瀬ふたたび』 筒井康隆

読む順番、間違えた……


七瀬ふたたび (新潮文庫)
筒井 康隆
新潮社
売り上げランキング: 31,257


生まれながらに精神感応(テレパス)の超能力を持つ火田七瀬は、能力者であることを悟られないために、お手伝いの仕事を辞め夜汽車に乗っていた。そこで汽車が土砂崩れで脱線するただならぬ悪夢を見る。同じ電車には七瀬と同じテレパシーの能力を持つ子供ノリオと、未来予知者の画家・岩淵恒夫が乗っていたのだった

筒井康隆の七瀬シリーズの最終巻二巻目。知らずに実家にあるのを持って帰ったら、こうだったのだから仕方ない
最初の章、「邂逅」こそ、三人の超能力者の出会いといった穏やかな立ち上がりだが(裏では脱線事故があるのだけど)、「邪悪の視線」以降は超能力者の孤独と戦いがテーマのハードボイルドの世界へ突入する
シリーズを終わらせたかったのか、「ヘニーデ姫」から超能力者を抹殺する謎の組織が現れ、せっかく出会った七瀬の仲間たちを一人、また一人と殺されていくのだ
そして、最後は……。謎の組織については脈絡を得ないのだが、シリーズを遡れば多少は納得できるのだろうか

七瀬は超能力者であることを、かなり悲観的に考えている
超能力者でない「普通人」に知られれば、化け物扱いされ同じ人間とは見なされない。この作品世界には、普通人の理解者というのは現れない
一方、超能力者同士であっても、必ずしも同志になるわけでもない。「邪悪の視線」では強力な透視能力を持つ悪役が登場する。超能力者同士であっても自分の能力を知られること自体が、非常に危険であり死にすらつながるのだ
そんなわけで、七瀬はその邪悪な透視能力者に対して、殺害すら躊躇しない。落ち着いた知性派美人だけに、このギャップにはギョッとする
なぜ、超能力者として生まれてしまったのか。その理解されない苦しみもかなり彫り込んで描写されていて、ニューシネマのような悲劇的な結末を引き立てている。年代的に学園闘争が左翼の武力闘争に収束し、反体制がヒーローとなる時代の終焉を反映しているのかもしれない
平岡正明の解説によると、七瀬シリーズは異能力の対決を先に知ったほうが有利になる「情報」を根源の力として持ち込んだとしており、能力者同士の対決をパズルのように収束させる山田風太郎の忍法帖を破った(?)とする。漫画の超能力バトル物にも通じるものがありそうだ


七瀬ふたたび [DVD]
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『モナリザ・オーヴァードライブ』 ウィリアム・ギブスン

読み返さざる得ない入り組みよう


モナリザ・オーヴァドライヴ (ハヤカワ文庫SF)
ウィリアム・ギブスン
早川書房
売り上げランキング: 307,404


抗争の激化から大物‟ヤクザ”の娘・久美子は、ロンドンへと向かう。しかし、匿ってくれるはずのスウェインが、電脳世界の一件に噛んでしまったことで、危険な街へ飛び出す羽目に。一方で、タリィ・アイシャムに変わってネット・アイドルの頂点に登り詰めたアンジィ・ミッチェルは、自身をすり替える陰謀を察知してこちらも逃亡。意識不明の‟伯爵”ボビィ女殺し屋モリィまで絡んで、マトリックスの秘密へと迫る

『ニューロマンサー』『カウント・ゼロ』に続く三部作最終巻
前作は三つのプロットが絡み合ったが、本作は‟ヤクザ”の娘・久美子、電脳空間のアイドルになったアンジィ、それに少し似てるという16歳の少女モナ、ロボットを作るジャンク屋のスリックと、四人の視点で物語が同時並行していく
さすがに四つの筋でローテーションを組まれると、読者には把握しづらいし、どうしても展開が遅く感じてしまう。前作では挨拶代わりの派手なオープニングが用意されていたものだが、本作はどれも普通に盛り上がっていくので、背表紙に書かれたような疾走感は感じられなかった
読者の性格にもよるのだろうけど、同時並行するプロットは三本が限界かなと思った
ただ展開が中盤まで渋くとも、四つのプロットが収斂する山場は熱いロボットの活躍も日本人好みだ(笑)
前作とは違い、シリーズの最終巻という性質が強く、ぼんぼん説明もなく固有名詞が飛び出すので前々作、前作の既読が望ましい。ただ解説によると、本場のファンすら引用された日本語のせいでチンプンカンプンだったというから、本作から入り謎を追って遡る読み方もありだろう


神となったAIの暴走

本作のタイトル、『モナリザ・オーヴァードライヴ』とは何を意味するのだろう
視点となる三人の女性、久美子、アンジィ、モナはどれも騒動に対して巻き込まれていく。自己防衛のために戦ったり、自身や世界の謎を挑んだりするものの、「オーヴァードライヴ=暴走」するわけではない
暴走する女性といえばネタバレになるが(苦笑)、騒動を起こす「黒幕」3ジェイン・アシュプールしかない
3ジェインは、電脳世界=マトリックスを作ったティスエ・アシュプール社の一族。創業者夫妻の多数いるクローンの一人であったが、前々作の事件で財閥を潰したもののマトリックスの中で生きる‟半神”となっている
電脳世界が発達した本作の時代には、擬験(スティム)」と呼ばれる素人でも簡単にスターに成りきり体験ができる娯楽が流行していて、十数年君臨したタリィ・アイシャムに代わって、前作のヒロインであったアンジィ・ミッチェルが新しいアイドルとして頂点にいる。3ジェインがその彼女に嫉妬して、抹殺しようとしたのが今回の騒動の出発点なのだ
彼女の恋人である‟伯爵(カウント)”ボビィは、アンジィを守るために身を挺して3ジェインが籠る電脳空間の箱「アレフ」を確保し、キッド・アフリカ(容貌はプリンスがモデル?)に頼んで、ジャンク屋のスリックの元にジャックインしたまま運び込まれたようだ
3ジェインの暴走は、久美子が自殺した母の秘密に迫るきっかけを与えていて、騒動の外側にいる彼女の問題を上手く解決させている


サイバーパンク=意識上位の世界

物語のオチについては、リアルより「電脳世界」が上位である世界観に忠実なものだった
第一作『ニューロマンサー』において、高度に発達したAIがマトリックスの世界では「半ば神」、人間同然の存在となったが、本作ではリアルで死んだ3ジェインが力を示したように、人間もまた電脳世界に身を投じ切ることで同じく「半神」となる
身体すら人為的に作れてしまうサイバーパンク的未来において、人間が人間たる所以は精神的なもの、「意識」しか残らないという思想がリアリティを持ってくる。本作では攻殻機動隊ほどの逡巡もなく、主要人物が電脳世界だけの存在に身を投じてしまう
ギブスンはアップルコンピュータの広告から未来をイメージしたといわれ、当時はまだ見ぬネット社会に対してかなり楽観的な時代だったのだ。それにしても、身体を捨てるのに抵抗がなさ過ぎるぞ(苦笑)
作品内で言及されているように、ネットの中の「神」といっても、電気のない場所では存在すら許されない。インターネットが現実化しいろんな歴史を持ってしまった今となっては、出来過ぎに見えてしまうだろう


*23’6/17 加筆修正

前巻 『カウント・ゼロ』



『カウント・ゼロ』 ウィリアム・ギブスン

キャラの立っていた人たちが、あっけなく瞬殺されるのだけがアレ(苦笑)




ハッカー志望の少年ボビイは、電脳空間へ初めてのジャックインした。経験不足から防御ソフト=アイスに捕らわれてしまうが、不思議な少女の声を聞くや離脱することができた。その一方、ニューデリーで身体を破壊された傭兵ターナーは、大企業マーズの施設から研究者を連れ出す仕事を請け負わされる。そして、失敗したばかりの画商マルディは、大富豪ヨゼフ・ウィレクから謎めいた「箱」の作り手を探すことを依頼されて……

『ニューロマンサー』と世界観が共通する続編的作品である
初心者ハッカーのボビイと、失意の画商マルディ、全身を破壊された状態から再生したガチムチ傭兵ターナーの三人が主人公で、それぞれの物語が並列して展開される
普通こうした構成だと、半ばも過ぎれば収斂されるものだが、これが中々交わらない!
中盤でもボビイが電脳世界で聞いた少女の声と、ターナーが救った謎の少女が淡い共通項として浮上するのみで、マルディは二人の話から全編を通して独立していて、ウィレクの口からターナーが連れ出そうとする研究員の会社マーズの生体チップが話題に出るのみだ
というわけで、いつ交わるのかと期待を胸に読み進まざるえず、最終盤でようやくカタルシスを味わえるのだ
洗練された文体に、読者を釣りに釣る構成、さらには前作『ニューロマンサー』の後日談もあって、エンターテイメントとして至高の出来栄えなのである

前作と同様に、全世界を覆う電脳世界脳みその一部から全体を再生する医療技術クローン技術で生み出されるニンジャ、そうした進み過ぎた技術や頽廃した社会については特に批評性はない
あくまでそうした世界に生きる主人公に寄り添っていて、SFというよりSF的世界で展開されるファンタジーである
ただし本作に限っては、アンジイという特別な脳を持った少女がヒロインたることで、それを使って生命維持装置から抜け出し不老不死を保とうという老人の野望は悪と見なされる。なんでもありの世界でも、老人が先行きのある少年少女の邪魔をしてはならないのだ
もっとも不老不死的な存在は電脳世界に漂っていて、半ば神として現れて主人公たちに訓示を与えていく。彼らの正体こそ、『ニューロマンサー』の結果として生まれた、AIがマトリックスに融合した‟半神”とおぼしい
オリジナルとコピーの境目どころか、創造者と被造物の境目すら氷解してしまうという、なんとも奇怪な世界が描かれているのである


次作 『モナリザ・オーヴァードライブ』
前作 『ニューロマンサー』



『ニューロマンサー』 ウィリアム・ギブスン

頭に電極以外の部分は、かなり実現しているかも




ケイスは、電脳世界にジャックインする元‟カウボーイ”。闇の技術と混沌が支配する千葉シティーで身をやつしていた彼だったが、殺し屋の女モリイに誘われ、謎めいた依頼人アーミテイジと出会う。カウボーイとしての能力を復活させることと引き換えに、大企業の電脳世界へ突入し、そのAIと接触するが……

頭部に専用の電極を差し込むことで、現実とコンピュータの電脳世界を行き来するサイバーパンクの金字塔である
初出が1984年と、個人が使用するコンピュータ〝パソコン”が大衆へ普及し始めた時代であり、肉体に情報端末を埋め込むプログラマーがフリーの傭兵として活躍する
その〝カウボーイ”の戦場は単なる三次元のプログラム世界ではない。地球全体、というか宇宙植民地含めた人類社会全体が、コンピュータによって視覚化されたデータに描かれる「電脳世界」に覆われており、現実世界と並列し密接に関連している。例えば、主人公ケイスは電脳世界へジャックインすることで、ヒロイン格のモリイの視覚に張り付いて、情報と知覚を共有できたりする
世界が情報ネットワークの中に取り込まれ、身体のサイボーグ化など肉体が技術に圧迫された環境こそが、サイバーパンクの特徴を為すものなのだ
複雑な世界観ながらその文体は説明が最低限で、視点となるケイスの心境に殉じてときに無骨、ときに詩的と独特のリズムを刻む。淡々とした描写に油断していると、パラグラフの末尾にドロンと情感があふれ出す。SF要素を散りばめた、立派なハードボイルドなのである


明るいサイバーパンク

作者は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を原作をしたはずの映画『ブレードランナー』を観て、映画館を飛び出したという。映画の未来都市があまりに、自分の作品のイメージに近かったからだ(映画の製作より、ギヴスンの作品が先)
進みすぎた技術に倫理が追い付かず、欲望のままサイボーグ化した人間が溢れる未来都市像は、同時代以降の作品にあまりに大きな影響を与えた。千葉シティは妻が教える日本人を見て想像をたくましくしたそうだが、タルコフスキーの『惑星ソラリス』にもあったように、日本の東京都心は80年代まで近未来のイメージを発散していたものだ
管理人の世代でサイバーパンクというと、攻殻機動隊あたりになるのだが、技術に対するスタンスがかなり違う。攻殻だと頭部に情報端末を埋め込む自体に「そうやる前にもっと考えるべきだった」と、無秩序に導入される技術への警句がちりばめられている
しかし本作には全体化したネットワーク社会に対する反骨心はあるものの、人間のサイボーグ化には違和を表明しない。身体への浸食にきわめて楽観的なのだ
技術の進歩に対する説教がないところが、良くも悪くもイケイケの80年代を感じたる次第である


*23’6/17 加筆修正


次作 『カウント・ゼロ』

関連記事 【DVD】『惑星ソラリス』
     【BD】『マトリックス』



RPGでサイバーパンクというと、コレ
元ネタのはずの『ニューロマンサー』からして、TRPGのような役割分担があったりもして

『武器製造業者』 A・E・ヴァン・ヴォークト

謎すぎる作者のバランス感覚


武器製造業者【新版】 (創元SF文庫)
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“不死人”ヘドロックは、太陽系を統べる「イシャー帝国」とそれに対抗する「武器製造者ギルド(武器店)」の間が深刻化するのを防ぐべく、一人の帝国軍人として潜入していた。双方から裏切りを疑われた彼は姿を消しつつも、恒星間移動できる宇宙船が製造されたことを察知。その宇宙船を乗っ取って、小型宇宙船で外宇宙へ追っ手を逃れたが……

『イシャーの武器店』の時系列的には作品的続編。ただし、製作時期はこちらのほうが早い
『イシャーの武器店』にもでてきた“不死人”ヘドロックが主人公であり、ヒロインは女帝イネルダ。二人との関わりから、イシャー朝と武器店の誕生の秘密が明かされる
展開はこれも前作同様、短編集をまとめた“fixed-up”という手法ではないかと思うほど、ごったがえしている。女帝に死刑を宣告されそうになった直後に、武器店にも同じように処分を受けて逃走。その途中でとある武器店支部に訪れたギル・ニーランに出会って、その弟の行方不明を知ったことから恒星間移動できる宇宙船にたどりつくという忙しさである
そうした活劇を可能にするために、主人公には長い歴史を生き抜いた“不死人”という設定があり、不死身ではないものの過去に開発した秘密兵器を駆使して、ピンチを潜り抜けていく
というふうに、いろいろとぶっとんだ設定と展開が繰り広げられつつ、なんだかんだロマンスに落ちてまとまってしまうという、力技の作品である

これ以上書くといつものようにネタバレになってしまうのだが、書いてしまおう(苦笑)
ヘドロックはとんでもない長命であり、彼はイシャー朝と武器店の創設そのものに関わっている
現存の支配体制を作った、まさにの存在であり、“不死人”であることを隠しながらも、各時代のイシャー朝の女帝たちと関係をもってその血統を維持してきた
彼のデザインした武器店の役割は、国民ひとりひとりが武装する銃社会と、法律を盾に不合理と戦う訴訟社会を目指すもので、そのままアメリカ社会の理想でもある
もっとも、作品内でも理想どおりには進まない。武器店はヘドロックの秘密を明かそうと帝国の支配体制を崩すところにまで突き進んでしまい、ヘドロックはその“神の手”ともいえる科学技術を駆使して、是正せざるを得ない。まさか、巨人を進撃させるとか、たまげたなあ(笑)
冷静に考えると、一人の隠れた神=独裁者によって成り立つ体制であり、エルガイムのアマンダラ・カマンダラを思い出してしまった
ヘドロックのやりたい放題に思えるが、さらに恐るべき能力を持った“蜘蛛族”が彼の首根っこを押さえつけていて、かろうじて作品の均衡が保たれている
“蜘蛛族”はまさに機械仕掛けの神=デウス・エクス・マキナ神の上にさらに神がいて、その神も思い通りにはならないという、外が見えない入れ子構造であり、ぶっとんだ設定をさらなるぶっとんだ設定で帳尻を合わせるという、ほんとうに妙な作品だった


前作 『イシャーの武器店』

関連記事 『重戦機エルガイム』 第1話~第3話

『ループ』 鈴木光司

安原顕の解説はスルーしよう


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科学者の父を持つ二見馨は、10歳のときに重力分布図と長寿村の関係を読み解き、アメリカへの旅を約束した。しかし、その後に父の幸彦が悪性のガンにかかり、約束は果たされないままだった。10年後、馨が医学生になったとき、世界には幸彦がかかったウィルス性のガンが蔓延し、それは樹木や動物にまで冒されていた。気に病む彼は父と同じ病院に息子を入院させている礼子と関係を持つが……

リングシリーズの完結編としては、やや外してしまっただろうか
『リング』『らせん』は、『らせん』内に小説『リング』が登場するように、入れ子構造になっていた。本作と『らせん』も同じように入れ子構造となっている
『らせん』によって『リング』の意味が変わったように、『ループ』によって『らせん』の意味が変わってしまうが、変わり方がどうもよろしくない。あまりにぶっ飛び過ぎて、『リング』の続編である必要がないのだ。関連付けはなされても、前作・前々作を矮小化してしまっている
前々作のホラーから前作はサイエンス・ホラーに化けたが、今回は完全なSF。ガンとの絶望的な戦い、患者とその家族の辛さは執拗に描かれているし、アメリカの砂漠の描写は迫真であるが、シリーズとして意識したときに貞子が出てこないのが寂しい

勢いよくネタバレしてしまおう。『らせん』の世界は、本作の世界にあるスーパーコンピューターに作られた仮想空間『ループ』である!
前作までの話を読んでいると、ガンのウィルスがリング・ウィルスであることはすぐ分かるし、仮想空間で人工生命の研究がなされていたこととつなげると、わりあい連想しやすい
小説としても、これほど巨大なプロジェクトで予算が割かれて、かつ関係者が不審な死を遂げているのに、日米の国家機関がまったく為す術がないというのが不思議で、エリオットが行った非人道的な実験をどこにも漏れていないというのも解せない
作者が書きたいこと以外を簡略化し過ぎていて、終盤に近づくごとにリアリティが落ちていくのは残念だった
主人公の自己犠牲的なラストも、「正攻法だと時間が足りないから」というも切ない。殺す気まんまんじゃないすか

と、ネチネチ書いてしまったが、読後感は悪くない。作者の文章力が力強く、すがすがしい気分にさせられるのである。すごい腕力だ


前作 『らせん』




ドリームキャストで発売された『リング』というゲーム
一見、クソゲーだが、じつは『ループ』の設定が生かされたシリーズを総括する内容でもあったらしい
まあ、やりたいかというと……

『イシャーの武器店』 A・E・ヴァン・ヴォークト

銀河黙示録ケイル


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7000年の未来、地球は女帝イネルダを戴くイシャー王朝に支配されていた。その圧政に対抗すべく、数千年に渡って戦い続けてきたのが武器製造者ギルド。様々な特殊武器と科学装置によって、帝政の腐敗を是正してきた。だが、帝国側がギルドが予期せぬエネルギー兵器を使用したことで、時空に歪みが生じてしまい1951年から新聞記者が未来に流れ着いてしまう。ギルドは彼に蓄積した膨大な時間エネルギーを利用しようとするが……

なにかのSFの解説に名前が出ていたので、読んでみた
作者のA・E・ヴァン・ヴォークトは、SF小説における「ワイドスクリーン・バロック」という手法を確立した作家いわれる。wikiの定義を見ても良く分からないのだが(苦笑)、SFの条件を満たしながら社会風刺ともに冒険小説であり、政治小説にも純文学的でもあるという、ひとつの作品に様々な輝きを放つことの喩えのようだ
代表例として挙げられる、アルフレッド・ベスターの『虎よ! 虎よ!』には数冊分のプロットが一冊に放り込まれたような濃度を感じたものだが、本作も同様の濃さがある
もっともこの作品は、同じ世界観で書かれた短編を一冊の長編小説としてリライトする、作者いわく“fixed-up”という手法を用いていて、本当に元は複数の物語だったのだ

そんなわけで、1951年の新聞記者マカリスターが、7000年代の武器製造者ギルドに迷い込んだかと思いきや、次の章ではケイル・クラークの物語が始まってしまう
ケイルは田舎町に住んでいて、「オラ、こんな街いやだ」と店を継がずイシャー朝の都へと旅立つ。軍人さんに渡りをつけて、ここから銀英伝でも始まるかと思えば、急転直下の展開で地下王国へ送られるカイジのような状態に陥ってしまう(笑)。福本ファンなら、イシャー朝=帝愛と連想してしまう
武器製造者ギルドの面白いところは、帝国の圧政と戦いながらも、帝国そのものを倒さないこと。あくまでその腐敗を正すのみで、政治体制の変更は求めない。市民オンブズマンのようなNGOなのだ
そのイデオロギーは、人間は自分でその身を守らねばならぬと自衛専用の武器を販売し、不正に関しても市民自らがそれを正そうとする自覚を求める。どんな政体であろうと、そうした市民の意思がなければ腐敗はなくならないというのだ
解説いわく、アメリカのリバタリアン=自由主義の精神なのである
武器を所持するところは合衆国の伝統そのものであり、イシャーの若き女帝は大英帝国の歴代女王を彷彿とさせる。舞台は超未来でも、きわめて新大陸の歴史を感じる作品である


次作 『武器製造業者』

関連記事 『虎よ! 虎よ!』

『宇宙のランデヴー』 アーサー・C・クラーク

なるほど、これぞSFという傑作


宇宙のランデヴー
宇宙のランデヴー
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2130年、太陽系に突如、謎の天体が現われた。ラーマと名づけられた天体は、自転する円筒型であり、人工の建造物としては驚異的な大きさを誇っていた。太陽系の人類を代表する「惑星連合」に選ばれたノートン中佐は、探査チームの隊長として宇宙船エンデヴァー号へ乗り込む。ラーマで彼らを待っていたのは、巨大な海と謎の機械文明だった

素朴で力強い冒険物語だった
22世紀の未来でも、小惑星クラスの人工天体は超科学。特に敵対する存在がでてこずとも、その未知の空間を手探りで歩くだけで立派な冒険となる
ラーマという巨大構造物、太陽に近づいて激変する気候、役割を持った機械生物……そのひとつひとつと出会い分析することから、異星の高度文明の姿が明らかになっていく過程が巨大なミステリーなのである
解説では、アーサー・C・クラークの作品の特徴として、異星人が理性的で話せそうな相手あること、未来に楽観的であると孫引きで指摘されているが、果たしてそれはどうか
人間を歯牙にもかけず通り抜ける本作の宇宙人は、理性的と同時に怜悧であり、宇宙に人間の及びもつかないものがいるという、背筋の寒くなる世界観である

ラーマは自転する円筒型であり、遠心力によって擬似重力を作り、内部に地面を生み出す
そう、この形態はガンダムのコロニーに似ているのだ
シリンダー型のスペースコロニーの先駆者は、素粒子研究者ジェラード・K・オニール。地球と月の引力で安定する地点「ラグランジュポイント」に設置し、地球上と同じ環境を再現させる構想は、ガンダムにそのまま引き継がれている
ラーマではさらに飛躍した科学が備わっていて(あっ、完全なネタバレになる……)、そこでは全ての根源となる水が海として存在していて、必要に応じて機械生物を組み立てて動員し、役割を終えれば解体して水に戻す
そして、それら秩序だったプログラムを生み出した超然としたラーマ人が存在するのだ
「ラーマ人は何ごとも、三つ一組にしないと気がすまない」。そんな謎めいた言葉で締めくくられる本書だが、その後、ジェントリー・リーとの共作という形でシリーズ化されているそうだ。そこでラーマ文明の謎が説き明かされるのかもしれない


宇宙のランデヴー2〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
アーサー・C. クラーク ジェントリー リー
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