アンドロイドを狩る‟バウンティ・ハンター”リック・デッガードに、急な依頼が舞い降りた。サンフランシスコ警察の主任ハンターが負傷し、6人の最新アンドロイドの追跡を命じられたのだ。最新のタイプ「ネクサス6型」に既存の試験が通用するかを確かめに、製造元のローゼン社へと赴くリック。そこには社長の秘書を務める謎めいた美人、レイチェルがいた
往年の人気SF映画『ブレードランナー』の原作小説だが、ずいぶん趣きが違った
基本的な設定は同じものの、小説ではより大きい問題意識が見えてくるのだ
核戦争で放射能の灰が降り、すべてが‟キップス”(塵)に崩れていく世界で、模造品の技術だけは発達し、絶滅危惧のペットにほぼ人間の人造人間=アンドロイドが作られている
そのアンドロイドは火星への移民を補助するための労働力として使われており、そこから逃亡したアンドロイドを処分するのが‟バウンティ・ハンター”(映画の‟ブレードランナー”)だ
ここまでは同じだが、リック・デガードは小説では既婚で、レイチェルとの関係はロマンスというには淫靡なものになる。そして、その結末は……映画を知っていると衝撃!
SFながらハードボイルド風の文体(原文は知りませんけど)で、専門用語が出てくる他はさくさくと読めた
展開も誰がアンドロイドで、誰が人間か分からないドキドキ感が止まらない。何しろ真偽を確かめるには、ゆっくり検査にかけるか、殺して脳髄を調べるしかないのだ
人間同然のアンドロイドがいる世の中で、人間とアンドロイドを隔てるものは何なのか
それは「感情移入」「共感(シンパシー)」と作中ではっきり示される。人間は世紀末的世界でも、模造品であれ動物を可愛がろうとするし、他の人間にも入れ込んでしまう
作中の底辺労働者イジドアはアンドロイドたちに感情移入し、リックのようなバウンティ・ハンターから庇おうとする。が、守ろうとしたアンドロイドが貴重な自然生物「蜘蛛」の足をちぎろうとして驚愕し、その気が失せてしまうのだ
もっとも、この世界は病んでいる。人間の孤独を癒すために、まるでVRゲームのような「共感ボックス」が用意されていて、触れることで仮想現実に入り、ウィルバー・マーサーという聖人と一体化する。彼の人生に対する金言(?)から、マーサー教という宗教が人間社会に根を張る事態になっている
この構図はネット社会のオンラインゲームのようでもあり、フェイスブックが始める「メタ」のごとく、そろそろ実現してしまいそうだ