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『武器製造業者』 A・E・ヴァン・ヴォークト

謎すぎる作者のバランス感覚


武器製造業者【新版】 (創元SF文庫)
A・E・ヴァン・ヴォークト
東京創元社
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“不死人”ヘドロックは、太陽系を統べる「イシャー帝国」とそれに対抗する「武器製造者ギルド(武器店)」の間が深刻化するのを防ぐべく、一人の帝国軍人として潜入していた。双方から裏切りを疑われた彼は姿を消しつつも、恒星間移動できる宇宙船が製造されたことを察知。その宇宙船を乗っ取って、小型宇宙船で外宇宙へ追っ手を逃れたが……

『イシャーの武器店』の時系列的には作品的続編。ただし、製作時期はこちらのほうが早い
『イシャーの武器店』にもでてきた“不死人”ヘドロックが主人公であり、ヒロインは女帝イネルダ。二人との関わりから、イシャー朝と武器店の誕生の秘密が明かされる
展開はこれも前作同様、短編集をまとめた“fixed-up”という手法ではないかと思うほど、ごったがえしている。女帝に死刑を宣告されそうになった直後に、武器店にも同じように処分を受けて逃走。その途中でとある武器店支部に訪れたギル・ニーランに出会って、その弟の行方不明を知ったことから恒星間移動できる宇宙船にたどりつくという忙しさである
そうした活劇を可能にするために、主人公には長い歴史を生き抜いた“不死人”という設定があり、不死身ではないものの過去に開発した秘密兵器を駆使して、ピンチを潜り抜けていく
というふうに、いろいろとぶっとんだ設定と展開が繰り広げられつつ、なんだかんだロマンスに落ちてまとまってしまうという、力技の作品である

これ以上書くといつものようにネタバレになってしまうのだが、書いてしまおう(苦笑)
ヘドロックはとんでもない長命であり、彼はイシャー朝と武器店の創設そのものに関わっている
現存の支配体制を作った、まさにの存在であり、“不死人”であることを隠しながらも、各時代のイシャー朝の女帝たちと関係をもってその血統を維持してきた
彼のデザインした武器店の役割は、国民ひとりひとりが武装する銃社会と、法律を盾に不合理と戦う訴訟社会を目指すもので、そのままアメリカ社会の理想でもある
もっとも、作品内でも理想どおりには進まない。武器店はヘドロックの秘密を明かそうと帝国の支配体制を崩すところにまで突き進んでしまい、ヘドロックはその“神の手”ともいえる科学技術を駆使して、是正せざるを得ない。まさか、巨人を進撃させるとか、たまげたなあ(笑)
冷静に考えると、一人の隠れた神=独裁者によって成り立つ体制であり、エルガイムのアマンダラ・カマンダラを思い出してしまった
ヘドロックのやりたい放題に思えるが、さらに恐るべき能力を持った“蜘蛛族”が彼の首根っこを押さえつけていて、かろうじて作品の均衡が保たれている
“蜘蛛族”はまさに機械仕掛けの神=デウス・エクス・マキナ神の上にさらに神がいて、その神も思い通りにはならないという、外が見えない入れ子構造であり、ぶっとんだ設定をさらなるぶっとんだ設定で帳尻を合わせるという、ほんとうに妙な作品だった


前作 『イシャーの武器店』

関連記事 『重戦機エルガイム』 第1話~第3話
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『ループ』 鈴木光司

安原顕の解説はスルーしよう


ループ (角川ホラー文庫)
鈴木 光司
角川書店
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科学者の父を持つ二見馨は、10歳のときに重力分布図と長寿村の関係を読み解き、アメリカへの旅を約束した。しかし、その後に父の幸彦が悪性のガンにかかり、約束は果たされないままだった。10年後、馨が医学生になったとき、世界には幸彦がかかったウィルス性のガンが蔓延し、それは樹木や動物にまで冒されていた。気に病む彼は父と同じ病院に息子を入院させている礼子と関係を持つが……

リングシリーズの完結編としては、やや外してしまっただろうか
『リング』『らせん』は、『らせん』内に小説『リング』が登場するように、入れ子構造になっていた。本作と『らせん』も同じように入れ子構造となっている
『らせん』によって『リング』の意味が変わったように、『ループ』によって『らせん』の意味が変わってしまうが、変わり方がどうもよろしくない。あまりにぶっ飛び過ぎて、『リング』の続編である必要がないのだ。関連付けはなされても、前作・前々作を矮小化してしまっている
前々作のホラーから前作はサイエンス・ホラーに化けたが、今回は完全なSF。ガンとの絶望的な戦い、患者とその家族の辛さは執拗に描かれているし、アメリカの砂漠の描写は迫真であるが、シリーズとして意識したときに貞子が出てこないのが寂しい

勢いよくネタバレしてしまおう。『らせん』の世界は、本作の世界にあるスーパーコンピューターに作られた仮想空間『ループ』である!
前作までの話を読んでいると、ガンのウィルスがリング・ウィルスであることはすぐ分かるし、仮想空間で人工生命の研究がなされていたこととつなげると、わりあい連想しやすい
小説としても、これほど巨大なプロジェクトで予算が割かれて、かつ関係者が不審な死を遂げているのに、日米の国家機関がまったく為す術がないというのが不思議で、エリオットが行った非人道的な実験をどこにも漏れていないというのも解せない
作者が書きたいこと以外を簡略化し過ぎていて、終盤に近づくごとにリアリティが落ちていくのは残念だった
主人公の自己犠牲的なラストも、「正攻法だと時間が足りないから」というも切ない。殺す気まんまんじゃないすか

と、ネチネチ書いてしまったが、読後感は悪くない。作者の文章力が力強く、すがすがしい気分にさせられるのである。すごい腕力だ


前作 『らせん』




ドリームキャストで発売された『リング』というゲーム
一見、クソゲーだが、じつは『ループ』の設定が生かされたシリーズを総括する内容でもあったらしい
まあ、やりたいかというと……
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『イシャーの武器店』 A・E・ヴァン・ヴォークト

銀河黙示録ケイル


イシャーの武器店 (創元SF文庫)
A.E.ヴァン・ヴォークト
東京創元社
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7000年の未来、地球は女帝イネルダを戴くイシャー王朝に支配されていた。その圧政に対抗すべく、数千年に渡って戦い続けてきたのが武器製造者ギルド。様々な特殊武器と科学装置によって、帝政の腐敗を是正してきた。だが、帝国側がギルドが予期せぬエネルギー兵器を使用したことで、時空に歪みが生じてしまい1951年から新聞記者が未来に流れ着いてしまう。ギルドは彼に蓄積した膨大な時間エネルギーを利用しようとするが……

なにかのSFの解説に名前が出ていたので、読んでみた
作者のA・E・ヴァン・ヴォークトは、SF小説における「ワイドスクリーン・バロック」という手法を確立した作家いわれる。wikiの定義を見ても良く分からないのだが(苦笑)、SFの条件を満たしながら社会風刺ともに冒険小説であり、政治小説にも純文学的でもあるという、ひとつの作品に様々な輝きを放つことの喩えのようだ
代表例として挙げられる、アルフレッド・ベスターの『虎よ! 虎よ!』には数冊分のプロットが一冊に放り込まれたような濃度を感じたものだが、本作も同様の濃さがある
もっともこの作品は、同じ世界観で書かれた短編を一冊の長編小説としてリライトする、作者いわく“fixed-up”という手法を用いていて、本当に元は複数の物語だったのだ

そんなわけで、1951年の新聞記者マカリスターが、7000年代の武器製造者ギルドに迷い込んだかと思いきや、次の章ではケイル・クラークの物語が始まってしまう
ケイルは田舎町に住んでいて、「オラ、こんな街いやだ」と店を継がずイシャー朝の都へと旅立つ。軍人さんに渡りをつけて、ここから銀英伝でも始まるかと思えば、急転直下の展開で地下王国へ送られるカイジのような状態に陥ってしまう(笑)。福本ファンなら、イシャー朝=帝愛と連想してしまう
武器製造者ギルドの面白いところは、帝国の圧政と戦いながらも、帝国そのものを倒さないこと。あくまでその腐敗を正すのみで、政治体制の変更は求めない。市民オンブズマンのようなNGOなのだ
そのイデオロギーは、人間は自分でその身を守らねばならぬと自衛専用の武器を販売し、不正に関しても市民自らがそれを正そうとする自覚を求める。どんな政体であろうと、そうした市民の意思がなければ腐敗はなくならないというのだ
解説いわく、アメリカのリバタリアン=自由主義の精神なのである
武器を所持するところは合衆国の伝統そのものであり、イシャーの若き女帝は大英帝国の歴代女王を彷彿とさせる。舞台は超未来でも、きわめて新大陸の歴史を感じる作品である


次作 『武器製造業者』

関連記事 『虎よ! 虎よ!』
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『宇宙のランデヴー』 アーサー・C・クラーク

なるほど、これぞSFという傑作


宇宙のランデヴー
宇宙のランデヴー
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2130年、太陽系に突如、謎の天体が現われた。ラーマと名づけられた天体は、自転する円筒型であり、人工の建造物としては驚異的な大きさを誇っていた。太陽系の人類を代表する「惑星連合」に選ばれたノートン中佐は、探査チームの隊長として宇宙船エンデヴァー号へ乗り込む。ラーマで彼らを待っていたのは、巨大な海と謎の機械文明だった

素朴で力強い冒険物語だった
22世紀の未来でも、小惑星クラスの人工天体は超科学。特に敵対する存在がでてこずとも、その未知の空間を手探りで歩くだけで立派な冒険となる
ラーマという巨大構造物、太陽に近づいて激変する気候、役割を持った機械生物……そのひとつひとつと出会い分析することから、異星の高度文明の姿が明らかになっていく過程が巨大なミステリーなのである
解説では、アーサー・C・クラークの作品の特徴として、異星人が理性的で話せそうな相手あること、未来に楽観的であると孫引きで指摘されているが、果たしてそれはどうか
人間を歯牙にもかけず通り抜ける本作の宇宙人は、理性的と同時に怜悧であり、宇宙に人間の及びもつかないものがいるという、背筋の寒くなる世界観である

ラーマは自転する円筒型であり、遠心力によって擬似重力を作り、内部に地面を生み出す
そう、この形態はガンダムのコロニーに似ているのだ
シリンダー型のスペースコロニーの先駆者は、素粒子研究者ジェラード・K・オニール。地球と月の引力で安定する地点「ラグランジュポイント」に設置し、地球上と同じ環境を再現させる構想は、ガンダムにそのまま引き継がれている
ラーマではさらに飛躍した科学が備わっていて(あっ、完全なネタバレになる……)、そこでは全ての根源となる水が海として存在していて、必要に応じて機械生物を組み立てて動員し、役割を終えれば解体して水に戻す
そして、それら秩序だったプログラムを生み出した超然としたラーマ人が存在するのだ
「ラーマ人は何ごとも、三つ一組にしないと気がすまない」。そんな謎めいた言葉で締めくくられる本書だが、その後、ジェントリー・リーとの共作という形でシリーズ化されているそうだ。そこでラーマ文明の謎が説き明かされるのかもしれない


宇宙のランデヴー2〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
アーサー・C. クラーク ジェントリー リー
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『ノヴァ』 サミュエル・R・ディレイニー

いっぱい聞けていっぱいしゃべれる……ではなくて


ノヴァ (ハヤカワ文庫SF)
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32世紀。人類文明そのものといえる超大国ドレイコに対して、プレアデス連邦は独立し両者の軋轢は頂点に達していた。希少資源イリュリオンを握るドレイコに対して、プレアデスの実力者ローク・フォン・レイは、恒星の爆発からイリュリオンを大量採取しようとクルーを募っていた。そこへジプシーのマウス作家志望のカティンらが乗り込み出航するが、その後をロークの宿敵プリンスルビー・レッドが追っていた

ちょいと、読みにくかった
読みにくい原因は、プレアデス連邦の方言が片言として表現されているためで、そのプレアデス弁の会話が多いせいで、なかなか頭に入ってくれないのだ
訳者のあとがきによると、それは原文の持ち味を損なわないための工夫であり、「作者も途中で煩雑なのに気づいていた」らしい(苦笑)。逐語訳の大事さは分かるものの、タロー(タロットカード)の解釈など、大事な部分が片言で語られるのは、読んでてしんどかった
物語の大筋は、遠い超未来に爆発する恒星の中心に向かってレアメタルを採取するというシンプルな冒険物ながら、作者の分身ともいえる感性のマウスと理屈のカティンの哲学談義に、物語の裏には聖杯伝説が隠されているという。こうした重層的な構造と進化する文明に対する人間への信頼から、作者の最高傑作の呼び声が高いらしいが、管理人的には上手く整理できてなくて無駄に難解になっている気がする

32世紀の超未来では、機械文明の進歩による管理する人間の無責任さ、無気力を解消するために、23世紀の哲学・心理学者アシュトン・クラークの提唱によって、人間にソケットが植え込まれて機械と直につながる神経プラグが開発された
これにより、人間はつながった機械を自らの手足のように使えて、機械文明のなかでの人間性の問題、精神病の大部分が解決したという
地球に住むジプシーたちはそれを拒否し続ける存在ながら、主要人物のマウスはソケットをつけてサイボーグ化(!)しつつも、アナクロの感性を持ち続けるハイブリッドな新人類として好意的に描かれる
『攻殻機動隊』などと比べると、ずいぶんテクノロジーに対して楽観的である
聖杯伝説の関連では、ローク・フォン・レイの怨敵にして最愛の女性であるルビー・レッドを豪快にやっつけてしまったことに違和感が残った。一説によっては、手に入れる聖杯は女性を表すともいう
プレアデスが沈むかドレイコが沈むかという冷戦構造のような二項対立を、一方の勝利によって肩をつけるのは、聖杯伝説にそぐわない。プレアデスはドレイコ=グレートブリテンから独立するアメリカのような存在なので、資源の独占を打ち砕くレボリューションこそが大正義なのかもしれないが
と、引っかかる部分はあるものの、マウスが映像楽器“シリンクス”を駆使して披露するファンタジー、クライマックスの畳み掛け方は爽快だ
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『砂漠の惑星』 スタニスワフ・レム

ル・グウィンが「レムの小説は女性性を欠いている」と言っていたが


砂漠の惑星 (ハヤカワ文庫 SF1566)
スタニスワフ レム
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宇宙船「無敵号」は、琴座星系のレギス第三惑星に着陸した。消息を断った同型艦「コンドル号」を捜索するためだ。地球に近い環境を持つこの星は、なぜか海にしか生命が存在しなかった。探検隊の隊長として謎の黒い金属の柱群に向かっていたロハンは、発見されたコンドル号にも立ち寄る。ほぼ以前の姿を留めた同船では、船員たちが謎の餓死を遂げていた。いったい、彼らに何が襲ったのか

完成され過ぎた作品だった
遭難した宇宙船を捜索し、謎の金属の“森”に出くわして、探していた船員たちは謎の怪死体となっている。映画『エイリアン』を思わせるような、コズミック・ホラーの王道を行く展開である
「無敵号」にも最初の犠牲者が出て、事件の真相が明らかになっていく。専門家の討論で犯人の正体が推定されていくが、彼らの犠牲によって証明されるのがなんともシュールだ
中盤まで盛り上がっていくドンパチも人間側にとって不毛の結果に終わる。絶望の色が濃くなるも、ラストに発想を転換することでようやく夜明けがやってくる構成は完璧だ
ただし、専門家たちが都合よく、ストライクな仮説を立てるとか、大量破壊兵器を使った隊長ホルパフがロハンの辿りついた結論に先回りしているとか、わざわざドラマ性を薄くしているのが謎。完成度が高過ぎて、読者の想像力が働かせにくい作品なのである

激しくネタバレになってしまうが、「コンドル号」に襲いかかったのは、蝿にも喩えられる極小の機械生命体である
“やつら”は大群であるだけでなく、相手によって対応手段を変えて脅威を排除しようとする。専門家の分析によれば、最初に陸地の生物との戦い、次に自動化された機械同士の戦いに勝利した存在なのだ
「無敵号」は最強の自動戦車キュクロペスを送り出すが、群れを四散することで反物質砲の威力を逃れつつ、戦車の人工知能を狂わせるほどの磁気を浴びせて狂わせてしまう
コンドル号の乗員に対しても脳に型破りの磁気を浴びせることで、幼児退行させたのだった
レギス第三惑星の砂漠は、機械が究極まで進化したゆえにもたらされた不毛であり、そこにはその本来の使用者だった人間すら生存できない蝿の群れから降る黒い雨は原爆を連想させ、ここが核実験場といわんばかりだ
その一方で砂漠を作る原因は、理解できない存在を敵と見なし排除しようとする人間側にもあり、終盤のロハンたちが取ったような機械同士の不毛な戦いに踏み込まない戦略もとりうるのだ
機械文明の未来を悲観しつつ、人間の柔軟性に希望を託すSFの王道を行く作品といえよう
……と、らしいことを書いているが、上遠野浩平の対話式解説の、半ば受け入りである(苦笑)。感じたことをだいたい形にして書かれてしまっていて参ったがな
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『虎よ、虎よ!』 アルフレッド・ベスター

今年こそ、優勝


虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2)
アルフレッド・ベスター
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25世紀の未来。人々はジョウントと呼ばれる瞬間移動の能力を身につけ、世界は大きく変貌した。瞬間移動の超能力は距離の概念を変え、社会は搾取と犯罪に満ちて、地球を中心とした内惑星連合と、土星・木星の衛星を中心とした外衛星連合との惑星間戦争をも生み出した。この情勢のなか、輸送艦「ノーマッド」船員ガリー・フォイルは、通りかかった船に見捨てられ、奇怪な惑星の住人に虎の刺青を彫られてしまう。男の世界への復讐が始まった

なんともいえない、カオスな小説だった
冒頭はロビンソン・クルーソーのような漂流する男の物語である。近づいてきた宇宙船に見捨てられたために、とある惑星の原住民(!)不思議な刺青を彫られてしまう。顔を奪われた主人公は、見捨てた輸送船とその船員へ復讐するために地球へと向かうのだ
基調は復讐譚なのだが、“部”が変わるごとに主人公の人格が変貌していく
第一部では、船そのものに復讐しようとする狂人であり、地下牢でジスベラという女性に会うことでようやく知恵を身につけ始める。それまで、まるで因果関係を考えない復讐鬼なのである
第二部では復讐の対象を船の関係者となり、大変な努力をはらってサーカスの団長に扮して探索していく。身体をサイボーグ化することで、超絶な戦闘力を身につけ、まるで映画『マトリックス』のような戦いぶりを見せる。このあたり、作者がアメコミのストーリーを担当していた経験がうかがえる
しかし、星間戦争の激しさと宇宙船「ヴォーグ」が自分を見捨てた理由を知ったことで、復讐の空しさを覚えて、自分が取ってきた悪漢ぶりに罪悪感を覚えるのだ
正直、数冊分の小説のプロットを放り込んだ濃縮ぶりに、読者は消化できないのだが(苦笑)、そのジェットコースターの展開、あっと驚く伏線、主人公の辿りつく境地には圧倒される。おそらくシリーズ物にするのが、最善手だったのではなかろうか

瞬間移動の能力“ジョイント”は何を表しているのだろう?
本作のテレポテーションは科学技術ではなく、人間に隠された精神の力とされていて、作者が直接何かに喩えているとは思えないが、それによって起こされる社会変化は現代的である
ジョイントにより、社会がより個人の意志に引きずられることとなり、そのスピード感に人間たち自身が振り回されていく
個人差はあれど、誰もが思い描く場所に向かう能力は、誰もが世界に言葉を発せられるネット社会に通じるし、犯罪者天国であるジョイント社会の刹那ぶりは、匿名を楯に暴れまわるネット犯罪に似ている
人は新しい力を手に入れた時に、どう振るうのか。SFの基本的命題が貫かれているのだ
ただし、主人公は禁忌ともいえる「新しい力」を民衆へ分け与え、独占しようとする特権階級の人々の選民主義を批判している。大衆を圧倒的に信用してしまうのだ
今のネット社会は、その「新しい力」を無秩序に振りまいた結果ともいえて、小説ほど世界は上手く回らないのである
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『死の迷路』 フィリップ・K・ディック

精緻な世界観をオチで潰す!


死の迷路 (創元推理文庫)
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何の目的も知らされずに、男女14人惑星デルマク・Oに送り込まれた。片道切符の揚陸艇で到着した彼らは、居住地で指令の通信を受けるが、メッセージが途中で終わってしまう。我々はいったい何のために送られたのか。この星から出ることはできるのか。謎めいた生き物や建物に遭遇した彼らは、次々とメンバーを殺されて……

ディックらしいトリッキーな作品だった(苦笑)
登場人物たちが送られた惑星には、人間の持ち込んだ物をコピーする生命体“テンチ”が存在するなど、いつもの本物と模造品がテーマとなるかと思いきや、終盤で大ドン返し!
「何か現実で何が虚構かって、小説だからフィクションに決まっているだろ!」という作者の哄笑が聞こえてくるかのようだ
惑星での彼らはそれぞれが専門家であるものの、自分の世界に閉じこもり勝手に振舞うがゆえに集団行動が取れない。孤立した個人が次々に死んでいく様は、何か現代社会を批評するかのようではある
しかしオチがオチだけに、何か中途で放棄されたかのようなモヤモヤは残ってしまった
序文にネタ元が晒されているのは、上手く行かなかったゆえの開き直りなのかもしれない。ぶっ飛んだ展開を純粋に楽しむ作品である

訳者による解説がふるっていた
作品のオチに怒ったのか(笑)、ディックの作品が受ける理由皮肉たっぷりに書きだしている。いわく、社会的にダメな登場人物を出しつつ、アウトサイダーだからこそ「世界の真理」に辿りつけるという筋で、「ダメな人間でもエラい」という結論へ持っていく
ダメ人間がダメさゆえに成功する展開が、SFファンを慰めているというのだ
管理人からすると、それはかなり穿った見方のように思える。ディックの作品を読んでも、ダメな登場人物にそれほど共感を持ったことはない。それほどダメである(笑)
ディック自身がジャンキーであっただけに愛敬を持たせているものの、「ダメなものはダメだよな」とある程度突き放しているように思われる。でなきゃ、読めたものじゃないだろう
どんな本でも「この内容を知っている人間は知ってない人間よりエラい」と思わせる毒はあるのであって、ディック作品だけが非難されるものではない
本作の登場人物のダメさも、普通の人間がある程度抱えているダメさであり、彼らの醜態は他人事ではない。オチも暇を明かしてスマフォをいじる現代人に通底するもので、PS4と『Fallout4』の購入が待ち遠しい管理人にもグサりときた
富野監督は「ゲームは麻薬に近いもの」と喝破したが、本作はゲームジャンキーの実存を予見していたかのようだ


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『暗闇のスキャナー』 フィリップ・K・ディック

あまりにガチすぎる


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近未来のアメリカでは、物質Dと呼ばれる麻薬が蔓延していた。麻薬捜査官フレッドは、大物売人を捕らえるために物質Dを自ら服用し、アークターの偽名で中毒者のグループへ潜入操作する。フレッドの家には、画像と音声を認識するスキャナーが備え付けれられ、入り浸るジャンキーを観察することとなった。しかし物質Dの中毒が進むなか、自らが麻薬捜査官なのか、ジャンキーなのか、定かでなくなって……

ジャンキーによるジャンキーのための小説か
作者自身が薬物に溺れた過去(ハインラインに救われた!)があり、ジャンキー特有の混乱した思考と会話が真に迫りすぎて読みにくかった(苦笑)
しかしストーリーは最高級。フレッドが麻薬捜査官かジャンキーか自我が混乱し、酷い中毒者の恋人ドナをいかに救い、愛せるかで苦悩するところ、とんでもないどんでん返しが待っている
バイスの裏切りでさんざん盛り上げておいて、それが陽動なんだから手が込んでいる。まんまと乗せられてしまったよ(笑)
解説で触れられるように、作者があまりにドラッグに嵌り、ジャンキー仲間に近づきすぎたゆえに、薬物批判というには手ぬるい部分もある
しかし、ディック作品のテーマ、何が真で何が虚かが強烈に貫かれた名作である

麻薬戦争の深刻さもさることながら、近代社会のなかでの自我の分裂がテーマではなかろうか
麻薬捜査官とジャンキーの二重生活を送るフレッド(アークター)は、スキャナーに映った自分から「中毒者としての自分」を発見する。物質Dによる記憶の混乱から、あまりに違う自己イメージに、フレッドはアークターと自分は別人であると規定する。あえて多重人格とすることで正気を維持するのだ
薬物による近代的自我からの逃避と、テクノロジーの発達による自我の分裂。まるで危険ドラッグが蔓延し、リアルとネットで違う自分を持つ現代人の自我を映しているようではないか
そして分裂する人格の問題は、主人公本人のみに留まらず、愛する恋人にも及ぶ。二つ以上の人格を持ち合わす人間同士の付き合いは、どこまでが真実でどこまでが嘘になるのだろうか。はたして表に見えている人格を信用できるものなのか

しかし問題に直面しているはずの政府と社会は、逸脱した者をシステム的につまみ出すのみで、本質的には何も解決しようとしない。むしろ、邪魔を追い出し続けるシステムに問題があるかのようだ。主人公は逸脱したことすら当局の計算のうちで、警察行政の作戦に利用されていく
弱者がシステムのなかで使い倒されていくだけで、物質Dを作る組織も政府も変わんないという痛ましいラストには、ため息しか出ない
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『果てしなき流れの果に』 小松左京

アニメ化企画が復活しないか


果しなき流れの果に (ハルキ文庫)
小松 左京
角川春樹事務所
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理論物理研究所の助手・野々村は、研究所の大泉教授とその友人の番匠谷教授から、砂が落ち続けても減らない砂時計を見せられた。四次元が絡む大発見に、三人はそれが見つかった遺跡の発掘現場へ向かう。しかし謎の男に遭遇した後、大泉教授は変死、番匠谷教授は意識不明の重態、野々村はタクシーで移動中に行方不明になってしまう。野々村の恋人、佐世子は、遺跡のふもとの村で彼の帰りを待ちわびるが……

出だしからは想像もつかない、壮大な物語だった
なにせ構成が凄い。現代の事件としては、第一章、第二章で結末を迎え、早くもエンディングまで見せられてしまう
その後、地球が滅びようとする未来に話が飛んで、謎の宇宙人たちが来襲。地球人たちを時空を越えた過去や、地球から遠く離れた惑星へ強制移住させたりと、超展開を見せる
そして、タイムパラドックスを巡る管理サイドと反逆者の苛烈な戦い!
人間が宇宙へ飛び出して、量子学における多元宇宙を体感するまで認識を広げてしまったら、人間の存在はどうなるのか。そんな高尚な問いかけを突き詰めつつも、神の領域へ到ろうとした人間が、結局は記憶すら曖昧な存在へ転落し、最後はささやかなラブストーリーに収束していく
あれだけ思考実験を繰り返して、静かに終わりを受け入れ、自然の変化を楽しめる境地こそが高次の精神ではあるまいか、というまとめ方は作者の巨大さを感じずにはいられない

あんまり感動し過ぎて、これ以上何を書いていいか分からない
ひとつ書いておきたいのは、富野監督によってアニメ化する企画がかつてあって、それもわかるということである
ガンダムのニュータイプは、宇宙に上がった人類がその環境から認識力を高めたことから新しいセンスを得る。本作では科学テクノロジーの発達によって活動領域を広げた未来人(宇宙人?)が、それに基づいた高度な認識力からより低いランクの人類を差配していく
人類のなかで高い素質を発揮した松浦は、気が狂うような過程で未来人の仲間入りをするが、反乱軍Nと時空を超えた戦いを繰り返すうちに、より高次の意識に管理される自分に疑問を持つ
そして、その高い意識とはなんなのか? クライマックスではそれが突き詰められ、宇宙の法則と一体化したレベルまで示されるが、肉体の限界を超えてしまい、低い<階梯>の存在へと降りて行く
富野監督の描いたニュータイプにも、Zのカミーユのように認識力を研ぎ澄ませたゆえに精神が病むケースがあり、その後の作品では土着性(地球)、肉体への回帰がテーマとなった
本作の展開そのものが、ニュータイプ論の変遷にもいえるのだ
ちなみに本作は1965年の作品(!)。SFで展開された想像力が様々な方面に影響を与えていて、富野監督の宇宙世界はハインライン小松左京(+アーサー・C・クラーク?)がベースに思えるがどうだろう。いつか、それをネタに記事を書きたいものだが、致命的にSFを知らんのでねえ
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