どのタイミングで見ようかな?
ロシアにリトアニア侵攻の兆しあり……しかし、NATO首脳会議では、立場によって反応は大きく分かれてしまう。ジャック・ライアン大統領は、秘密裡に海兵隊や特殊部隊をリトアニアへ派遣、中立国のスウェーデンや危機感の強いポーランドとの連携を強める。一方、ヴォローディン大統領の資産隠しを追っていた‟ザ・キャンパス”は、ジョン・クラークが怪しまれてヴァージン諸島で船ごと沈められて……
多くのことが同時進行で進んいたが、意外にあっさり終わってしまった
ジャック・ライアン・シニアがNATO諸国との会議にのぞんで苦杯を舐めるも、美しすぎるロシア人キャスターのメッセージを完全拒絶。核をちらつかされての秘密外交を否定した
焦点のリトアニアでは、シャベスとドミニクが偽装したロシア民兵‟緑の小人”とも違う、外人部隊を察知してその攪乱を防いでみせる
ヴァージン諸島でビットコインでの資金洗浄を追うジョン・クラークは、手持ちの船に事故を装って沈めれ大ピンチ。てっきり、こちらにジュニアが援軍に向かうと思いきや、だいたい一人で対応してしまうのであった。すごいぞ、67歳(笑)
リトアニアでの海兵隊とロシア軍の戦い、ヴァージン諸島での人質救出、バルト海でのロシア潜水艦とアメリカ駆逐艦の攻防、そしてジュニアが遭遇するブリュッセルでの偽装テロ。最終巻では、そうした様々な場所で並行して解決していくのはさすがだが、さくさくと片づき過ぎて拍子抜けしてしまった
ここらへんが、トム・クランシーが抜けてマーク・グリーニー単独になったゆえの作風だろうか。はたまた、編集者に削られたのか
ちなみに、マーク・グリーニーは次作で、ジャック・ライアンのシリーズが最後になるとか
第4巻で、ロシア軍はリトアニアへ侵攻を開始するが、召集されたNATO首脳会議の反応は、一枚岩にはならない
もともとバルト三国はソ連の解体によって独立した国家であり、生粋のヨーロッパとみなしていいのか? 旧ソ連圏の国を守るために世界大戦の危険を犯せるのかと、ちょうどウクライナ侵攻に対するリアクションに近い反応が見られる
そのためにNATOの即応部隊すら事前に動けず、アメリカがほぼ単独でリトアニア防衛に向かわざる得ない。天然ガスを供給するロシアと一戦を交えるという想定をEU諸国はしておらず、経済優先で国防費はおざなりと他国を助けられる余力などないのだ
実質のNATOはアメリカがヨーロッパを守る体制だったということが本作でよく分かる(もっとも、今年のウクライナ侵攻でEU諸国も政策転換を迫られたようだが)
その一方で、多勢を相手にする海兵隊をフォローするのが、<早期歩哨>というシステム。リトアニア情勢における様々なデータをコンピュータに放り込み、大隊長から末端の兵士に到るまでに必要な情報を提供するというもので、相手の狙撃手が隠れそうな場所に、相手の車両を撃破するための位置取りを図式化して伝える
‟ザ・キャンパス”のスタッフであるシャベスとドミニクが危険な国境地帯に送られたのは、戦場の地理をデータ取りするためだったのだ
実戦ではもちろん、現場の指揮官に指示が託されるが、AIが人間を指示する未来を予感させる設定だ
実際のロシアの侵攻に対抗するためにウクライナ軍で使われているのは、「GISArta」で、敵発見後の1分以内で最適な攻撃手段を選択できるというもの。それは偵察用ドローンやGPSから戦場のデータをとって、敵の位置を確認するもので、「大砲のウーパー」とも称される
このシステムはウクライナのプログラマーがイギリスの民間企業と開発し、テスラ自動車のイーロン・マスクがインターネット網で協力して活用されているという
民間からこんな技術が立ち上がってくるのだから、これもこれで小説以上に恐ろしい話である
前巻 『欧州開戦』 第1巻・第2巻