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『ノドン強奪』 トム・クランシー スティーヴ・ピチェニック

オカンと姉貴に呼ばれて、夜の二条城へ花見へ。六時からライトアップしていたのだ
また、そのうち記事にします


ノドン強奪 (新潮文庫)
トム クランシー スティーヴ ピチェニック
新潮社
売り上げランキング: 844,106


大統領就任式に沸く韓国で、無差別爆弾テロが起こった。北朝鮮が疑われるも、地元の情報部のキム・ホアンは韓国内部の犯人を疑い、北朝鮮の女スパイと接触することで確信する。一方、情報機関としてスタートしたばかりのオプ・センターは、同時刻にサイバーテロをくらいコンピューターがダウン、アメリカの軍事衛星には事実と異なる画像が挿入された。誰かが第二次朝鮮戦争をもくろみ、ノドンミサイルを日本へ向けていた!

オプ・センター・シリーズの第一作
1995年初出で、この年の韓国は金泳三政権一年目二人の大統領経験者が逮捕される事態となり、北朝鮮では前年に金日成が亡くなり最高権力者の代替わりしたばかり。日本では地下鉄サリン事件が世情をにぎわせていて、北朝鮮による拉致事件に関しては一般人には疑惑の段階に留まっていた時代だ
本作は、半島の最高指導部が変わったばかりで権力基盤が安定していないと仮定して起こる、両国の過激派分子が手を組んでの騒乱をタネとしている
主役であるオプ・センターは、複数の情報機関を横断する、大統領が使いやすい組織として発足し、トップには文民である元ロサンゼルス市長ポール・フッドが座る。優秀ながら寄せ集めの集団であり、実力を信頼し合いつつの微妙なチームワークが特徴となっている。みんな、良かれと思って勝手に動き、読者をハラハラさせるのである
取って代わりたい野心的な副官マーサ・マッコール、ポールに惚れて不倫を夢見る広報官アン・ファリス、実戦部隊に同行してしまう猪少将マイク・ロジャーズ……ライアンシリーズがハリウッドなら、オプセンターはテレビドラマのような距離の近さがある
こうした個性的な連中が組織の上下関係ではなく、高い意識の連帯で危機を乗り越えていく

拉致事件を経て、日本人の北朝鮮への理解と関心が深くなった今となっては、本作には乗りづらいかもしれない
アメリカ人の両作者にはベトナム戦争へのトラウマから、冷戦後に悲劇的な衝突を避けることが第一にシナリオを組み立てている
北朝鮮のような全体主義体制は、党が軍を支配・コントロールしているのであって、軍先主義でも首領の支持ありき。ホン・グーのような前線の武官が自立的な判断と行動が簡単には取りきれない。本作の北朝鮮には、最高権力者の存在が希薄過ぎて、この点まったくリアルではない
アメリカ大使や特殊部隊と北朝鮮軍との連携も、何やら米軍とベトコンの仲直りのような牧歌的な光景だ。弾道ミサイルの飛距離を伸ばし続け、トランプ政権がそれを撃ち落とそうという今となっては、隔世の感がある


次作 『ソ連帝国再建』
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『メタルギア ソリッド2 サンズオブリバティ』 レイモンド・ベンソン

小説でも頼りないデン


メタルギア ソリッド2   サンズ オブ リバティ   (角川文庫)
レイモンド・ベンソン
角川書店(角川グループパブリッシング) (2011-02-25)
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シャドー・モセス島事件から2年後、スネークオタコンともに反メタルギア財団「フィランソロピー」を結成し、新型メタルギアを搭載したタンカーへ潜入した。ハドソン河を下るタンカーには、メタルギアを開発した海兵隊にロシア私兵部隊が襲撃し、大混乱の末に……。そして、そのさらに二年後、沈没したタンカーの後には環境悪化を食い止めるための施設『ビッグシェル』が建造されていたが、スネークを名乗る男が大統領視察中に占拠した。フォックスハウンドの新兵「雷電」は、大統領救出のために乗り込むが……

アクの強い同作品の忠実なノベライズだった
前段となるタンカー沈没事件と本編のビッグシェル占拠事件二段構えの構成で、小学生で原爆を完成させた爆弾魔ファットマン、銃弾を弾く不幸な女フォーチュン、何度でも蘇る吸血鬼ヴァンプと、ファンタジーな敵役が原作同様のパフォーマンスを見せくれる
前作にも超常的な敵役がいたものだが、一つのテロ事件として現実世界に近い形で終息した。本作では、アメリカの歴史を支配する『愛国者達』、デジタル情報を統制するGWシステム、個人の感情を数値化し意のままに誘導する3S計画と、陰謀論的世界観がぶっぱなされていく
ゲームだと全体の整合性などより、クライマックスに向かっての勢いでプレイヤーは乗っていけるものだが、小説として冷静に読んでしまうと「おっ、おう」と立ち止まってしまう。現実に投げかけるテーマがあるにも関わらず、計画とそれに対する費用対効果とかアラの部分が目についてしまうのだ
それをフォローするための設定改変、後付けもなく、本当に忠実なノベライズなのである
作者のやり込みは万全で、終盤になって狂う大佐、フナムシを嫌がるエマを気絶させようかと思う雷電など、プレイ経験があればニヤリとする場面も多い。その点は期待どおりだ

秀逸なのは、編集者による解説である。MGSシリーズを通したテーマを丁寧に触れられているのだ
ゲームに登場する専門用語、コードネームには、それぞれにアメリカの歴史に関わる由来がある
例えば、サブタイトル「サンズオブリバティ」はアメリカ独立戦争のきっかけとなったボストン茶会事件を起こした組織の名称であり、情報を統制・検閲するGWシステムは、アメリカ政界で神格化されているGW=ジョージ・ワシントンの存在から来ている
ビッグボスとそれを受け継ぐ子供と反抗する子供、父と子の葛藤という『メタルギア』から初代『MGS』のテーマに対して、本作ではさらに管理する者と管理される側の相克が加えられ、人間にとっての自由とは何かが突きつけられる。アメリカで人気を二分した『GTA』シリーズの「freedom『MGS』シリーズの「liberty、二つの“自由”を巡る分析は読み応えがあった
くしくもゲームの開発中に9・11が起こり、ニューヨークにアーセナルギアが突っ込む描写が割愛されるという事情もあった。時代と寝たゲームシリーズなのである


前作 『メタルギア ソリッド』
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『米朝開戦』 第3巻・第4巻 マーク・グリーニー

「ザ・キャンパス」の物語は続く


米朝開戦(3) (新潮文庫)
マーク グリーニー
新潮社 (2016-03-27)
売り上げランキング: 3,302

米朝開戦(4) (新潮文庫)
マーク グリーニー
新潮社 (2016-03-27)
売り上げランキング: 3,929


アメリカ西海岸に到達する弾道ミサイルの開発と、その資金源となるレアアース鉱山の採掘と精錬。北朝鮮はその野望の妨げとなるジャック・ライアン合衆国大統領の暗殺作戦に乗り出す。一方、CIAは鉱山開発の実態を暴くべく、中国系工作員アダム・ヤオを北朝鮮に潜入させる。ジャック・ジュニアも北朝鮮に協力する民間情報機関を探るために、ヴェトナムで会った美女ヴェロニカ・マルテルに接触を試みるが……

熱いスパイ小説である
北朝鮮に『米中開戦』で活躍したアダム・ヤオを潜入させたと思いきや、ジャック・ジュニア元フランス工作員の美女にお近づきとなり、もう一歩でウッフンなところまで行く。スパイ同士が騙しあう二重三重の頭脳戦が展開され、「ザ・キャンパス」の面々も不測の事態に七転八倒して先を読ませない。まさに痺れる
リアリティはともかくも、純正グリーニーの本作は娯楽性に富んでいるのだ
第3巻のラストにはジャック・ライアン暗殺を狙った大規模テロが起こされ、第4巻ではその真犯人への「ザ・キャンパス」の総力(五人だけど)を上げた追撃、重要人物を亡命させるべく、収容所国家を相手にしたアダム・ヤオの逃走劇が怒濤のように展開される。彼の救出に意外な専門家の分析がものを言うとか、計算され尽くしたプロットには感動した
最後の決着のつけ方に、現実から逸脱する嫌いがあって、今後の国際情勢との整合性に疑問が残るものの、エンターテイメントとしては一級品だ

アダム・ヤオは中国の非公式開発業者を経て、レアアース鉱山へ潜入する
北朝鮮側の責任者・黄珉鎬は開明的な人物ながら、いやだからこそ、警察国家で生まれ育った人間の苦悩を代表している
三代目の独裁者から無茶な要求を出されて亡命を余儀なくされても、独裁者一族への忠誠が洗脳教育として植えつけられている。逃亡中にヤオが崔智勲を非難すると、思わずカッとなって反論し、ヤオを蒼ざめさせるほどだ
そして、黄の両親を脱出させようとして、逆に「裏切り者扱い」されるところなど、洗脳の怖さを物語っている
朝鮮戦争における中国の協力を北朝鮮は国内的に説明しておらず、むしろ中国の革命に北朝鮮が貢献したと夜郎自大な革命観を公式なものとしている。結果、中国人と北朝鮮人の関係は友好とは程遠い
こういった同国の閉鎖性を考えると、小説のオチは中国の影響力を過大視しているように思える


前巻 『米朝開戦』 第1巻・第2巻

関連記事 『米中開戦』 第1巻・第2巻
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『米朝開戦』 第1巻・第2巻 マーク・グリーニー

原題はFULL FORCE AND EFFECT直訳だと「勢揃いと効果」という、分からない意味になるが、英語の契約用語に「In full force and effectというのがあって、これは契約後も効力を持つ」という意味があるそうだ
北朝鮮と取引すると、その後も拘束されるということ?


米朝開戦(1) (新潮文庫)
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新潮社 (2016-02-27)
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米朝開戦(2) (新潮文庫)
マーク グリーニー
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ベトナムで元CIAの男が殺された。現場を張っていた“ザ・キャンパス”の面々は、刺客を北朝鮮の工作員と見て、彼の雇い主である民間情報機関“シャープス”とその工作に関わったチェコの外務省職員を追う。一方、北朝鮮では父親の跡を継いだ新指導者が、独自色を発揮しようとレアアース鉱山から中国の公社を追い出し、アメリカに届くICBMへの研究に邁進していた。3年以内の成功を義務づけられた北の偵察総局長は、起死回生の謀略を仕掛けるのだった

亡きトム・クランシーから、マーク・グリーニーが引き継いだジャック・ライアンシリーズ
今回のテーマは北朝鮮のミサイル開発で、代替わりした指導者が中国離れとアメリカへの強硬路線を追究するという、かなり現実に近いというか、現実が近づいてしまった情勢が展開していく
ジャック・ライアン・シニアがアメリカ大統領であるというフィクションに対応して、北朝鮮の指導者が崔智勲と設定されているものの、それが誰に当たるかは明らか。北朝鮮がアメリカと渡り合うためのミサイル開発にともなって、どこまでの手段をとるのか、その最悪のシナリオがシミュレートされている
トム・クランシーから純正マーク・グリーニーになって感じたのは、映画的な華である。2巻の最後にキャンパスのメンバーと北朝鮮の暗殺者が2対2でかち合うが、お互いに向けられた拳銃と腕がX字を作る熱い構図。リュック・ベッソン製作のアクション映画を彷彿とさせる

小説で北朝鮮の指導者がレアアース鉱山から中国の公社を追い出し、ミサイル開発の資金に回すが、まんざら根拠のない話でもない

中国を凌駕する北朝鮮のレアアース

レアアース自体が注目されるようになって歴史も浅いので、シェールオイルのようにいろんな国で鉱床が眠っているような気はするが、北朝鮮にもこういう調査結果もあるのだ
記事に書かれているとおり、北朝鮮が資源大国になる上での障害は、レアアースの精製技術輸出手段
本作では、メキシコの鉱山グループと協力して経済制裁を迂回する方策を探す一方、経済制裁そのものを消すべく大手新聞などのマスコミ国連関係者への工作活動を行う
もし北朝鮮がレアメタル輸出によって膨大な資金を手にすれば、大量破壊兵器の開発に必要な技術が簡単に手にできてしまう。そんな国際情勢のリスクなど知ったこっちゃないと、元スパイが集まる民間情報機関など、金目当てで動く人間が世界には山ほどいて、国家もまともな手段では止めようがないという、グローバル化した世界の困難さが突きつけられている


次巻 『米朝開戦』 第3巻・第4巻
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『メタルギア ソリッド』 レイモンド・ベンソン

リキッドが手加減し過ぎ


メタルギア ソリッド (角川文庫)
レイモンド・ベンソン
角川グループパブリッシング
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アラスカの孤島シャドーモセスにある核廃棄物処理施設で、次世代特殊部隊フォックスハウンドが蜂起。首謀者リキッド最強の戦士ビッグ・ボスのDNAと10億ドルを要求し、従わなければ核の使用を辞さないと米政府に通告した。アラスカに隠棲していた元フォックスハウンド隊員のソリッド・スネークは、かつての上司キャンベル大佐に単独潜入を命じられる。その島には、因縁の大量破壊兵器メタルギアが開発されていた

ステルスゲームの金字塔『メタルギア・ソリッド』のノベライズ
ゲームのシナリオを忠実に追いつつ、その硬派な世界観から本格的なミリタリー小説に仕立てられていた。要所にボスキャラがいるというゲームの構造を維持しながらも、渋くかつウィットに富んだ文章で締めているので、ゲームを知っている人間も小説が好きな人間も入りやすい作品だ
原作のゲームではスネーク視点で固定されているところを、マスター・ミラーがやられる場面、ナオミ・ハンターが拘束されながらもスネークで連絡をとる場面などが補完されていて、優性遺伝子と劣性遺伝子に対する誤解にも突っ込みが入れられている
作者のレイモンド・ベンソン007の世界的研究家で、そのノベライズを手がけている傍ら、『ウルティマ』シリーズのシナリオを手がけるなどゲーム業界にも深く関わっている人物らしい
「ゲノム兵が馬鹿で助かった!」「スネークは得意のパンチ・パンチ・キックを決めた」とか、ゲームをやり込んだからこそ分かる文章が散りばめられている。エレベーターに潜むステルス兵士に対して、フィギュアスケートの要領で両手をぐるぐる回して打開するとか、真面目な文体の中でのおふざけがたまらない(笑)
極めつけは

これまで遭遇した敵は、みな引き金を引く前に得意げに演説したものだ。問題は、いつその演説が終わり、戦いが始まるか、だ。これまでの経験と訓練のおかげで、スネークは敵の目に浮かぶ表情や声の調子を読むことができる。おしゃべりな相手に一歩先んずるのは、簡単なことだ。……(p359)

いくら何でもメタ過ぎる(苦笑)。ヒーローには必須の特技ですなあ

時代設定については、9・11を意識した比喩もあって、微妙に原作ゲームからずれているようだった
他はだいたい、ゲームに忠実だったと思う
ん? そういえば、メイ・リンの格言講座がなかったような


次作 『メタルギア ソリッド2 サンズオブリバティ』
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『宣戦布告』 麻生幾

今でも当たらずとも、遠からず?


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原子力発電所が並ぶ敦賀半島に、北朝鮮の潜水艦が漂着した。潜水艦内に残された資料から、特殊部隊による原発占拠作戦が裏づけられるが、有事を想定しない法律と国内事情からまず警察が出動する。しかしロケットランチャーによる攻撃で、SATの精鋭一名が死亡、重軽傷多数で、警察は第一線から退く。代わって前線に出る自衛隊だったが、厳重な交戦規則と高度な政治判断に縛られて……

ガチ過ぎるシミュレーション小説だった
冒頭が精密な写真の照合に始まり、次の章では帝国ホテルに来るフランス大統領夫妻とそれを守る要人警護の体制がリアルに描かれる。作者は元週刊文春の事件記者で、神戸の震災を題材にした『情報、官邸に達せず』麻生幾。本作は初めての長編小説であり、あまり後先考えずに豊富な取材経験が放り込まれていて、圧倒されてしまった
防衛庁高官から半島へ情報を流す画廊の営業マンと美人局、凄腕工作員を追う警察外事課、潜水艦の漂着に右往左往する福井県警、法律と政情に縛られて身動きが取れない官邸、直接撃たれるまで反撃させてもらえない前線の兵士たち……
あまりに登場人物が多く筋が錯綜して、回収されない筋もあるなどエンタメ的に優しいとはいえないものの、硬派に徹した筋書きに唸らされる。帝国ホテルの厳重さと日本の安全保障が、悪い意味で対照的なのだ

作品の初出は1997年の文藝春秋テポドンが日本列島を横断したのは1998年、北朝鮮が拉致事件を謝罪したのは2002年、とまさに時代を先取りしている
2001年の9・11も受けて、有事法制が整備されたものの、小説のような事態にならないかはなんともいえない
有事法制以前から「防衛出動」という概念はあって、冷戦時代もソ連が北海道に軍事侵攻することは、いちおう想定されていた
小説では、特殊部隊が少人数で侵入したために、国内の騒擾を対象にした「治安出動」という概念で出動することとなり、どこまでが「正当防衛」か「過剰防衛」かで警察も自衛隊もてんやわんやし、前線の人間が発砲するしないに官邸の政治判断が必要になってしまう
まるで『パトレイバー2』のような状況も、現場の「正当防衛」を政治家が認めれば、回避可能な気はする。今なら強硬的な措置も、国民の理解を得られるのではなかろうか
逆にいえば、いくら法整備が進んでも、時の政治家次第で大きく対応が変わってしまうことだろう
作者は必ずしも武力編重のタカ派を推奨しているわけでもなく、オチで情報戦略の大切さをアピールしている


関連記事 『情報、官邸に達せず』

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『さらばカタロニア戦線』 スティーヴン・ハンター

主人公も読者も騙される


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元植民地警察官のロバート・フローリーは、出版社を窓口にイギリス諜報部から“要請”を受けた。イートン校時代の旧友、ジュリアン・レインズをソ連のスパイであるとして、阻止して欲しいというのだ。ジュリアンのいるスペインへ向かう船で左翼かぶれの美女シルヴィア、奇妙な老水夫と出会うが、イタリアの潜水艦に沈められてしまう。上陸したカタロニアは、ファシストとアナーキストとスターリニストが角突き合う地獄が待っていた

原題は、「Tapestory of Spies」スペイン内戦を舞台にしたスパイ小説である
この手の小説の主人公は出来過ぎが常道だが(出なきゃ生き残れない!)、本作のフローリーくんは元警官ながらスパイの世界ではど素人。ある殺人事件での偽証からMI6に型にはめられ、スパイの嫌疑のかかる人物が旧友というだけで鉄砲玉に仕立て上げたにすぎない
詩人・作家願望もあって、読者からすると等身大で入りやすい人物なのだ。植民地官僚らしいオリエンタリズムの持ち主なのが珠に瑕で、あまりに時代に忠実過ぎる気もするが(苦笑)
彼を振り回すのが、MI6のこわもて少佐、ソ連の伝説的スパイ“悪魔御自身”、左翼かぶれの美女、バルセロナを牛耳るソ連保安部、そして主人公と隔絶した才能を持つ親友と、それぞれの意図をもって主人公を利用し、地獄の戦場で暗躍する
いったい誰が信じられるのか。熾烈な騙しあいを繰り広げながら、底流には男の友情とその復活がテーマという、単なるスパイ小説を超えた傑作である

スペイン内戦は、1930年代に成立したスペイン共和制に対して、1936年に軍隊が蜂起したことで始まる。共和派がソ連や各国の義勇兵を集めた国際旅団の支援を受け、フランコを首班としたファシスト党はドイツ、イタリアの強力な支援を受けて、泥沼の内戦が展開された
小説の舞台となる、共和派の牙城だったカタロニアとその中心都市バルセロナでは、イベリア・アナーキスト連合(CNT・FAI)、反スターリン親トロツキーのマルクス主義統一労働党(POUM)、ソ連に牛耳られたスペイン社会労働党(PSOE)がいて、反ファシズムの人民戦線が組まれていた
共和派を支援する国が実質的にソ連しかいないことから、ソ連の影響力が時を経るごとに増して行き、バルセロナの警察にはソ連から送り込まれた軍事調査局(SIM)により、本国ばりの恐怖政治が始まっていた
1937年の5月には、バルセロナの主導権を巡ってアナーキスト派とソ連派が衝突し数百人の犠牲者を出す「バルセロナ5月事件」が起きる。作中でも人民戦線内の内ゲバが要所で描かれ、自壊していく共和派の実態が痛々しいほどよく分かる

小説の争奪されるのは、いわゆるモスクワの金スペイン共和政府が外貨準備金として用意していた金塊や外貨が、内戦のどさくさにソ連に強奪されたという話で、ヒトラーがソ連や人民戦線を非難するときに格好のネタにされた
実際にファシスト陣営に取られるよりは、なんぼか引き渡されていたらしく、共和政府はこの不手際からソ連や国際社会に対する交渉能力を失ったようだ
ドイツから派遣された将校によって統率されたファシスト派は、その母体が軍隊であることからして実戦能力は高く、共和派は国際旅団などの素人の集まりでありかつ、残存した軍人への不信からまともな作戦を立てられなかった
前門にファシスト、後門にスターリニストという壮絶で救いのない政治状況が、本作では残酷なほど再現されている。まるで、今のシリア……
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『米中開戦』 第3巻・第4巻 トム・クランシー マーク・グリーニー

アメリカらしい解決法


米中開戦3 (新潮文庫)
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米中開戦4 (新潮文庫)
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ジャック・ジュニアはハッカー集団を追って、香港のCIA工作員アダム・ヤオと合流。天才ハッカー査殊海を追い詰め、国防省特殊部隊と香港マフィアの銃撃戦を乗り越えて捕えるが、アメリカで人民解放軍の特殊部隊に査を殺されてしまう。大統領ジャック・シニアは台湾に米軍パイロットを密かに送り込むも、中国側はついにサイバー攻撃で報復し、アメリカ軍を大混乱に陥れるのだった

中国の南シナ海進出を題材にしたシリーズの後半である
ジャック・ジュニアらの活躍によって香港のサイバー軍団は広州への移転を余儀なくされたが、中国のサイバー作戦はここからが本番。単にアメリカ軍の軍事衛星を無力化しハイテク兵器の精度を奪うのみならず、銃後の領域へも迫る
原子力発電所の冷却水までコントロールし原子炉の暴走を誘い、ウォール街の証券取引所を取引停止に追い込む。しかもサイバー攻撃は直接の証拠が残らないから、国として反撃することもできない
その証拠を掴むべく秘密チーム「ザ・キャンパス」が動きまわるわけだが、サイバー攻撃の脅威ハイテク社会がそれに対して脆弱なことを本シリーズは啓蒙してくれる
小説ではサイバー軍団の拠点が都合よく一か所に集中していて、爆弾で吹き飛ばすというアメリカらしい一発逆転が決まるものの、実際にどう対処するかフィクションのなかでも見えてこないから恐ろしい

後半は当然ながら、一方的に弄ばれていたアメリカ側の反撃が始まる
アメリカ大統領ジャック・ライアン・シニアは、「アメリカに脅威を与える国の指導者を許さない=抹殺する」というライアン・ドクトリンを掲げる。ただし、今回は中国側と公式的には戦争になっていないので、簡単には動けない
しかしサイバー攻撃の拠点が広州にあると判明するや、迅速な作戦を指示した。なんと海兵隊戦闘機、F-18ホーネットによる本土空爆である!
通常兵器だけに限れば先制攻撃であり、そのまま全面戦争になりかねない選択だ
作者が国防長官に語らせるのは、「サイバー攻撃で原子力発電所を誤動作させることは、核爆弾を投下するに等しい」ということ。攻撃方法ではなく、その結果とリスクで判断すれば、本土攻撃も妥当というわけだ
何やらブッショ・ドクトリンを彷彿とさせる行動基準だが、これが小説で示されるサイバー戦を交えた現代戦の想定なのだ。冷戦が終わり核ミサイルが向き合う時代が終わったと思いきや、一皮むくとこういう恐ろしい可能性があるのである
中国が南シナ海で強引な作戦をとる動機として、経済低迷に中国共産党への求心力の低下とか、その想定にはフィクションとして可能性の薄いラインを持ってきて、民主化を求める過激な若者がアメリカの工作に協力するとかご都合もあるものの(公然と外国の暗殺作戦に乗るだろうか?)、サイバー戦争については迫真性が高かった


前巻 『米中開戦』 第1巻・第2巻
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『米中開戦』 第1巻・第2巻 トム・クランシー マーク・グリーニー

原題「Threat Vector」=脅威のベクトル


米中開戦1 (新潮文庫)
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米中開戦2 (新潮文庫)
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アメリカの極秘情報機関「ザ・キャンパス」は、旧カダフィ政権関係者に対する暗殺作戦をイスタンブールで展開していた。大統領の息子ジャック・ライアン・ジュニアが最後の標的を射殺したとき、何者かに監視されていることに気づく。一方、中国では韋真林国家主席が軍部の力を借りて政変を退け、強硬派の蘇克強が主導権を握る。経済の低迷から南シナ海・東シナ海への進出に舵を切るのだった

風雲急を告げる中国の南シナ海進出を題材にしたジャック・ライアン・シリーズ
冒頭は「ザ・キャンパス」のメンバーを紹介するように、五人の標的を様々な手段で暗殺していく。必殺仕事人だとクライマックスだが、本作はここからオープニング
暗殺する瞬間をことごとく監視されていたことから、大統領の直属ともいえる情報機関が沈黙を余儀なくされるのだ
それを待っていたかのように、中国政府は南シナ海の掌握へ乗りだして、国外で大規模なハッカー軍団を創設する。巨額の軍事費を海軍につぎ込みつつも、通常兵器では対抗できないのは百も承知で、唯一アドバンテージのあるサイバー戦に持ち込んで、無人戦闘機などハイテク兵器に頼るアメリカ軍を混乱させていく
そうした大情勢に、ライアン・ジュニアの恋人メラニーに対するFBI捜査官の脅迫、右手を潰された工作員クラークと潰した張本人コヴァレンコとの因縁、ハニー・トラップにかかったビジネスマン、一人香港で天才ハッカーを追う現地工作員が絡み合って、複数の筋が紆余曲折を経て、かすかなつながりを持ち始めて後半へ突入する

邦題は「米中開戦」という物騒なタイトルだが、前半まででぶつかりあうのはサイバー領域である
中国側はサイバー戦の天才を脱走犯という形で国外へ放流し、忠実な中国系ハッカーで軍団を作らせるとともに、遠隔操作を可能にするマルウェアソフトを蔓延させて、サイバーテロの戦力に加える。さらに個人の弱みを握り工作員に変え、どこの組織かも構成員に分からせない不可視の諜報組織を作り上げる
バレても国対国の対立とならないように工夫されているのだ
とはいえ、そのサイバー軍団の能力はプレデター、グローバルホークを乗っ取り遠隔操作して見せ、アメリカ軍を大混乱に陥れる
実際に米中の海軍が角突きあわせる情勢で、サイバー領域がどう使われるかというのが、後半のテーマとなるようだ
前半では、取引に足のつかない仮想通貨ビットコインを使用する、数え切れないほどのサーヴァーを経由するなど、上記のように身元を隠してネット上で活動するノウハウが詰まっていて、個人と犯罪組織と国家が同じレベルで入り乱れるサイバー・スペースのカオスさが露わになる。それはもう、様々な規模の海賊船が動き回るような世界なのだ
それはもう酷いインターネットですね、としか言えないが(苦笑)、それでもネットを使わざるえないんだよなあ


次巻 『米中開戦』 第3巻・第4巻
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『米露開戦』 第3巻・第4巻 トム・クランシー マーク・グリーニー


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米露開戦4 (新潮文庫)
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新潮社 (2015-01-28)
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ロシアのヴォローディン大統領はウクライナへの軍事侵攻を前に、同国経由のパイプラインを一方的に閉鎖する。欧州向け天然ガスの75%がカットされたことになり、NATO加盟国への強力な牽制となった。それに対し「ザ・キャンパス」のメンバーはキエフでデルタ・フォースと合流し、隠密にウクライナ軍に協力を始める。一方、父の指示で「天頂」を探り出したジャック・ライアン・ジュニアは、元M15の工作員「地底」と出会い……

トム・クランシー最後の作品の後半
ついに、ロシアはウクライナ侵攻を開始した。自作自演の親ロ政治家の暗殺から、FSBと特殊部隊、ロシア・マフィアの結合によって起こされた騒擾を口実にした軍事介入と、現実とリンクするような展開に驚く
首都キエフを目標とする軍事行動は現実と乖離しているものの、その有様は実際のウクライナ東部を彷彿とされるもので、作品内の出来事との距離感の無さがいろんな意味でたまらない。小説のようなことが本当に起こっちゃいけないんだよ!
このロシア軍の侵攻を押し留める鍵となるのが、ジャック・ライアン(現大統領)が30年前に会った謎の暗殺者「天頂」を巡る事件であり、ジャック・ジュニアが父に代わってその謎を解き明かし、現FSB長官と結びつけることでヴォローディンの野望を後退させる
若干、オチには強引さは否めないものの、現実的紛争と冷戦下のスパイ物を絡ませて最終的な決着に結びつけるストーリーラインはさすがで、国際社会への切実な警告といいポリティカル・フィクションの巨匠に相応しい名作だった

はたしてロシアとウクライナ間で戦争になった際、アメリカはどこまで援助できるのだろうか
ウクライナ軍は、旧ソ連軍を引き継ぐロシア軍とは歴然とした差がある。動員兵力もさることながら、質もしかりで、戦車で比較すればロシア軍が最新鋭のT-90なら、ウクライナ軍は冷戦時代のT-72(湾岸戦争のイラク軍主力戦車)なのである
兵隊の士気も高いとはいえなくて、空軍が思ったほど差がないという程度。小説ではこれを生かして、デルタ・フォースを秘密裏に投入し、最新のレーダーでロシア軍の戦車を捕捉しウクライナ軍の戦車や攻撃ヘリ、攻撃機に位置を知らせ、その進軍を遅滞させている
ウクライナはNATOの機関EAPC(欧州・大西洋パートナーシップ理事会)に加盟しているものの、NATOそのものには加盟していない
中東などに強い影響力を持つロシアと正面から事を構えるわけにはいかず、有事にやれることといえばこの程度なのだ
本作では旧KGB関係者“シロヴィキ”による恐怖政治と新興財閥オリガリヒによる略奪資本主義が描かれる一方、美人すぎる親ロ政治家を持ち出したり(モデルはおそらくユーリヤ・ティモシェンコ。実際の彼女は欧米派)、冷戦時代のスパイ小説とCOD的アクションも味わえて、サービス精神も旺盛な作品だ


前回 『米露開戦』 第1巻・第2巻

関連記事 『ソ連帝国再建』
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