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『ザ・キープ』 ポール・ウィルソン

映画はマイケル・マンが監督だったのに、原作を台無しにした駄作とか。怒りの作者が映画監督を殺す短編小説を書いたらしい(爆)


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1941年、ルーマニア。トランシルヴァニア地方の古い城塞へ、ドイツ軍小隊が派遣された。隊を率いるヴォーマン大尉は、壁に飾られる奇妙な十字架の存在を不審に思うが、その不安は的中。宝物探しに出た部下が地下の壁を崩したときに変死してからは、毎日のように喉を引き裂かれた兵士が発見されるように。本国へ増援に呼ぶと現れたのは、ヴォーマンと因縁深きケンプファー少佐親衛隊(SS)二小隊。さらに古城へ吸い込まれるようにユダヤ人の歴史学者クーザ娘マグダ謎の男グレンが集まって……

吸血鬼物と思いきや、予想外にハッテンしていく伝奇小説であった
ときは第二次世界大戦の真っただ中、ナチス・ドイツの全盛期。まさに悪がヨーロッパを包もうとする闇の時代を舞台に、闇の帝王が目覚めて人々を襲い対立させていくという、ダークにダークを重ねるモダンホラーなのである
吸血鬼に対抗させるべく、ユダヤ人の学者クーザは古城へ連れてこられるが、彼にとって吸血鬼もナチス・ドイツも同じ悪。いや、ユダヤ人を絶滅させようとするナチスのほうが絶対悪
彼は吸血鬼をしてナチスとヒトラーを潰そうと画策する。この悪をもって、悪を制しようとする攻防が上巻までの醍醐味である

下巻ではこの悪対悪の構図がダイナミックに崩れていく。ホラーの壁が崩れて、ヒロイックファンタジーが姿を現わす
闇の帝王モラサール(ラサロム)赤毛の男グレン(グレーケン)は、<混沌>と<光>を代表する神話的存在であり、その戦いは吸血鬼対人間の枠を超えての超人バトルへ突き進んでいく
ここまで来ると、ドイツ軍だナチス親衛隊だのは、塵芥のごとし(苦笑)。世界の存亡をかけた決戦がここで果たされるのだ。たまげたなあ
上巻であれだけ描かれたヴォーマンとケンプファーの確執が、斜め上の決着をみてしまうのに良くも悪くも圧倒されてしまったが、これもアメリカの作家が書いたゆえなのだろう
下巻の展開は人を選ぶが、高いレベルのファンタジーなのは間違いない


ザ・キープ [VHS]
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なんと、映画はDVD化されていない! どんだけ酷かったというのだろう
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『妖怪』 司馬遼太郎

今回の衆院選は応仁の乱?


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室町時代、足利義政の代。凋落する京の都へ、第六代将軍足利義教の落胤を称する熊野源四郎は上った。義政の「奥」では正妻の日野富子と側室の今参りの局が権勢を争っており、源四郎は怪しい術の使い手たちによってその渦中へと巻き込まれてしまう。東国で兵法を学んで幻術に対抗しようとする彼だったが、日野富子に嫡男が誕生したことで将軍の継嗣問題が表面化し、複雑怪奇な政情へ翻弄されていく

珍しい、応仁の乱前夜を舞台にした作品である
熊野源四郎は、母が熊野大社の巫女。参拝者の夜伽をすることもあって、息子に六代将軍・義教の落としだねだと吹き込んだ。義教は守護大名を次々に討伐して幕府の中央集権化に失敗した将軍であるともに、現将軍・義政、その継嗣となる義視の父親で、もし本当なら将軍の異母弟ということになる
もちろん、将軍家には相手にされないものの、関係者に利用価値を見出されて食客になったり刺客となったりする
司馬小説に珍しく、源四郎はそうした思惑に対して、逆らえずに流されていく。文字通りの狂言回しである。あくまで室町時代の一人物にとどまり、小さな英雄にすらなれないのだ

司馬小説の王道は、合理が不合理を破って時代の進歩として示すところにあるが、本作はそこから大きく踏み外している
熊野源四郎は都に巣くう「妖怪(=前時代的な価値観、権力闘争)に対抗すべく、東国で生まれた兵法(剣法)を学ぶ。兵法には肉体を合理的に分析し、何が強いか弱いか、生きるか死ぬかを追究する技術であり、その思想には神仏や物の怪を精神の脆弱さが原因であると否定する側面がある
しかし、源四郎はそうした兵法を身につけたにも関わらず、非合理の象徴である唐天子の幻術に流されて、結局はその謀略に利用されてしまう。なぜか
おそらくは応仁の乱前夜で、腐敗した体制が無政府状態へ陥っていく時代背景が関係している。兵法家、足軽(印地)、一向宗などの新興勢力が勃興しつつも、都の「妖怪」の力はいまだ強く、奇々怪々な政治状況を作ってしまうのである
主人公は唐天子に代表される非合理に飲み込まれて、同じく成り上がろうとした腹太夫ともに没落する。源四郎の物語として失敗しているのは、合理が次の秩序を作り出すのではなく、非合理が混沌を呼ぶ時代を題材にしたからなのだろう
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『ゼウスガーデン衰亡史』 小林恭二

日本から離れていたり、近づいたりする妙な作品


ゼウスガーデン衰亡史 (ハルキ文庫)
小林 恭二
角川春樹事務所
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1984年、下高井戸オリンピック遊戯場は、双子の天才・藤島兄弟に買収されたことにより急拡大を始める。「ゼウスガーデン」に名を変えて、国内外の一流デザイナーを集めて珍奇なアトラクションを次々に立て続け、人々の欲望を満たし続けて怪物のように日本全国を覆っていく。いつしか、「ゼウスガーデン」は治外法権を持つ一つの帝国となっていた。その狂騒の果てに何が待っているのか

十数年前だろうか、HPで強く推している人がいて、数年後に購入しつつも積読の中に眠っていた
小説は1980年代より始まる遊戯場「ゼウスガーデン」の歴史をたどる年代記である。解説にある筒井康隆と作者の対談によれば、『ローマ帝国衰亡史』からではなくモンタネッリの『ローマの歴史』を下敷きにしたらしく、ローマの偉人ぽい立ち位置の人がそれらしく出てきて、人間臭い歴史絵巻が展開される
作風はというと、80年代の日本からスタートしつつ、「リアリティ」という言葉をはねつけるように「ありえないフィクション」を上塗りしていくところだろう。特にそれが作中の新しいリアリティを確立するわけでもないのだが(管理人はのれなかった)、荒唐無稽、気ままに書いているように見せかけて、実は80年代から急成長するディズニーランドなどのテーマパークVRを生み出すいたるゲーム産業の未来を睨んでいて、20年以上経った今、現実とのリンクの仕方に驚かされるところもある

1984年はいわば、バブル景気が膨らんでいく黎明期であり、「ゼウスガーデン」という遊戯空間の拡大がこれに重ね合わさっているのは言うまでない
お立ち台に代表されるディスコブームを思い起こせば、作中に展開される過激なアトラクションもその延長線上のものとして理解できるし、各国の建造物をコピーした宴会場なども、雨後の筍のように地方に建てられた箱物事業や豪華リゾートを連想できる
ただゼウスガーデンのデザイナーたちの感性は、現実のリゾート開発よりはるかに洗練されていて、その悪趣味さえも芸術性を帯びている。バブル経済はここまで壮大な構想を実現できなかったし、渦中の日本人もここまで快楽主義になれなかった。なれれば、過労死の問題など消えてしまったことだろう
作品世界と展開が現実の日本とあまりにかい離して、日本人が読む物語としては「ありえた未来」ではなく、「ありえないフィクション」へ飛躍してしまい(その分、楽しいのだが)、他国の話のようにしか感じられなかった

巻末に足された「ゼウスガーデンの秋」を読むに、ゼウスガーデンは作者自身の遊び場であり、それに関わった奇抜なデザイナー=権力者たちと楽しんでいるようでもなる。あまり大上段に社会ヒヒョウを期待して読まず、いっしょに楽しんで読めばいいのかもしれない


*2017’10/6 記事の原文を書いたのは、ネットがつながらない内なのだが、その後の政局(希望の党→民進党分裂)を見ると遊技場間の政争を思い起こしてしまった(笑)。小池百合子の矢内原夫人説
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『モナリザ・オーヴァードライブ』 ウィリアム・ギブスン

読み返さざる得ない入り組みよう


モナリザ・オーヴァドライヴ (ハヤカワ文庫SF)
ウィリアム・ギブスン
早川書房
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抗争の激化から大物‟ヤクザ”の娘・久美子は、ロンドンへと向かう。しかし、匿ってくれるはずのスウェインが、電脳世界の一件に噛んでしまったことで、危険な街へ飛び出す羽目に。一方で、タリィ・アイシャムに変わってネット・アイドルの頂点に登り詰めたアンジィ・ミッチェルは、自身をすり替える陰謀を察知してこちらも逃亡。意識不明の‟伯爵”ボビィ女殺し屋モリィまで絡んで、マトリックスの秘密へと迫る

『ニューロマンサー』『カウント・ゼロ』に続く三部作最終巻
前作は三つのプロットが絡み合ったが、本作は‟ヤクザ”の娘・久美子、電脳空間のアイドルになったアンジィ、それに少し似てるという16歳の少女モナ、ロボットを作るジャンク屋のスリックと、四人の視点で物語が同時並行していく
さすがに四つの筋でローテーションを組まれると、読者には把握しづらいし、どうしても展開が遅く感じてしまう。前作では挨拶代わりの派手なオープニングが用意されていたものだが、本作はどれも普通に盛り上がっていくので、背表紙に書かれたような疾走感は感じられなかった
読者の性格にもよるのだろうけど、同時並行するプロットは三本が限界かなと思える
ただ展開が中盤まで渋くとも、四つのプロットが収斂する山場は熱いロボットの活躍も日本人好みだ(笑)
前作とは違い、シリーズの最終巻という性質が強く、ぼんぼん説明もなく固有名詞が飛び出すので前々作、前作の既読が望ましい。ただ解説によると、本場のファンすら引用された日本語のせいでチンプンカンプンだったというから、本作から入り謎を追って遡る読み方もありだろう

本作のタイトル、『モナリザ・オーヴァードライヴ』とは何を意味するのだろう
視点となる三人の女性、久美子、アンジィ、モナはどれも騒動に対して巻き込まれていく。自己防衛のために戦ったり、自身や世界の謎を挑んだりするものの、「オーヴァードライヴ=暴走」するわけではない
暴走する女性といえばネタバレになるが(苦笑)、騒動を起こす「黒幕」3ジェイン・アシュプールしかない
3ジェインは、電脳世界=マトリックスを作ったティスエ・アシュプール社の一族。創業者夫妻の多数いるクローンの一人であったが、前々作の事件で財閥を潰したもののマトリックスの中で生きる‟半神”となっている
電脳世界が発達した本作の時代には、擬験(スティム)」と呼ばれる素人でも簡単にスターに成りきり体験ができる娯楽が流行していて、十数年君臨したタリィ・アイシャムに代わって、前作のヒロインであったアンジィ・ミッチェルが新しいアイドルとして頂点にいる。3ジェインがその彼女に嫉妬して、抹殺しようとしたのが今回の騒動の出発点なのだ
彼女の恋人である‟伯爵(カウント)”ボビィは、アンジィを守るために身を挺して3ジェインが籠る電脳空間の箱「アレフ」を確保し、キッド・アフリカ(容貌はプリンスがモデル?)に頼んで、ジャンク屋のスリックの元にジャックインしたまま運び込まれたようだ
3ジェインの暴走は、久美子が自殺した母の秘密に迫るきっかけを与えていて、騒動の外側にいる彼女の問題を上手く解決させている

物語のオチについては、リアルより「電脳世界」が上位である世界観に忠実なものだった
第一作『ニューロマンサー』において、高度に発達したAIがマトリックスの世界では「半ば神」、人間同然の存在となったが、本作ではリアルで死んだ3ジェインが力を示したように、人間もまた電脳世界に身を投じ切ることで同じく「半神」となる
身体すら人為的に作れてしまうサイバーパンク的未来において、人間が人間たる所以は精神的なもの、「意識」しか残らないという思想がリアリティを持ってくる。本作では攻殻機動隊ほどの逡巡もなく、主要人物が電脳世界だけの存在に身を投じてしまう
ギブスンはアップルコンピュータの広告から未来をイメージしたといわれ、当時はまだ見ぬネット社会に対してかなり楽観的な時代だったのだ。それにしても、身体を捨てるのに抵抗がなさ過ぎるぞ(苦笑)
作品内で言及されているように、ネットの中の「神」といっても、電気のない場所では存在すら許されない。インターネットが現実化しいろんな歴史を持ってしまった今となっては、出来過ぎに見えてしまうだろう


前巻 『カウント・ゼロ』
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『山本五十六』 阿川弘之

阿川佐和子のお父さん


山本五十六 (上巻) (新潮文庫)
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山本五十六 (下) (新潮文庫 (あ-3-4))
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日米戦争に反対しながら、その口火を切らざる得なかった山本五十六とはいかなる人物だったのか。その出生からブーゲンビルで戦死するまでを詳細に描く
膨大な取材と資料を駆使した山本五十六の記録文学である
海戦における航空母艦を中心とした機動戦術の優勢を確立した名将である一方、戦前においては日米戦争に最後まで反対し続けたことでも知られているが、本作で強調されるのは生々しい人間としての姿
愛人である梅龍の千代子との逢瀬、「海軍を辞めたらモナコでカジノでもやる」というほどの博打・勝負好き、どこでも逆立ちして見せる茶目っ気と、戦争のドキュメント番組などからは想像しにくい、軽快な人柄が偲ばれる

上巻では、ロンドン軍縮会議など‟条約派”軍人としての活動が中心となる
1929年のロンドン軍縮会議は、日米英での建艦競争を阻止すべく、特にアメリカの台頭を恐れるイギリスが主導で行われた。日本は西海岸側の米艦隊を牽制できる「対米7割」を主張してアメリカと対立し、イギリスは条約の決裂を恐れた
山本は最初、大使付きの中佐という立場で参加しつつも、各国の大物にその存在を認められる。作中では山口多聞と強硬に「対米7割」を主張したことは描かれないが、条約そのものをその工業力の格差からアメリカを縛るものとして評価していた
1936年には海軍次官に就任。海相となった米内光政とのコンビで、陸軍参謀部に触発された軍令部の政治化を抑え込み、害しかない日独伊三国同盟の実現を阻止しようとした
ただし作者は軍人が政治に口を挟まないという海軍の良識が、この非常時において大人し過ぎたのではないかとも指摘する

下巻は真珠湾作戦の計画から、ブーゲンビル島で散るまで
真珠湾攻撃に関しては、本人以外のほとんどの人間から反対を受ける。しかし、日米戦をするならハワイ作戦は必要不可欠として、山本は自身の進退をかけて突っぱねる
山本からすると「南方に進出している間に、東京が空襲されたらどうするのか」という懸念があり、後のミッドウェー海戦につながる着眼点である
ただし、航空母艦を撃ち漏らしたにも関わらず、航空隊が当然あるものと思っていた第二次爆撃を決行せず、ハワイの軍事施設の多くが残存した
ミッドウェーの曖昧化していった作戦目的といい、艦隊保全主義で攻撃に徹底しきれない海軍の性質が異端児の山本五十六にすらあったといえるし、いかにも日本人らしいあっさりさだと作者は評する
話は山本の死だけで終わらず、遺体回収から国葬、知人や近親者たちがいかに振舞ったかまでに及ぶ。赤裸々な記述は訴訟騒動まで起こしたそうだが、後世に語り継がれるべき労作である


関連記事 『聯合艦隊司令長官 山本五十六』(半藤一利)
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『カウント・ゼロ』 ウィリアム・ギブスン

キャラの立っていた人たちが、あっけなく瞬殺されるのだけがアレ(苦笑)


カウント・ゼロ (ハヤカワ文庫SF)
ウィリアム・ギブスン
早川書房
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ハッカー志望の少年ボビイは、電脳空間へ初めてのジャックインした。経験不足から防御ソフト=アイスに捕らわれてしまうが、不思議な少女の声を聞くや離脱することができた。その一方、ニューデリーで身体を破壊された傭兵ターナーは、大企業マーズの施設から研究者を連れ出す仕事を請け負わされる。そして、失敗したばかりの画商マルディは、大富豪ヨゼフ・ウィレクから謎めいた「箱」の作り手を探すことを依頼されて……

『ニューロマンサー』と世界観が共通する続編的作品である
初心者ハッカーのボビイと、失意の画商マルディ、全身を破壊された状態から再生したガチムチ傭兵ターナーの三人が主人公で、それぞれの物語が並列して展開される
普通こうした構成だと、半ばも過ぎれば収斂されるものだが、これが中々交わらない!
中盤でもボビイが電脳世界で聞いた少女の声と、ターナーが救った謎の少女が淡い共通項として浮上するのみで、マルディは二人の話から全編を通して独立していて、ウィレクの口からターナーが連れ出そうとする研究員の会社マーズの生体チップが話題に出るのみだ
というわけで、いつ交わるのかと期待を胸に読み進まざるえず、最終盤でようやくカタルシスを味わえるのだ
洗練された文体に、読者を釣りに釣る構成、さらには前作『ニューロマンサー』の後日談もあって、エンターテイメントとして至高の出来栄えなのである

前作と同様に、全世界を覆う電脳世界脳みその一部から全体を再生する医療技術クローン技術で生み出されるニンジャ、そうした進み過ぎた技術や頽廃した社会については特に批評性はない
あくまでそうした世界に生きる主人公に寄り添っていて、SFというよりSF的世界で展開されるファンタジーである
ただし本作に限っては、アンジイという特別な脳を持った少女がヒロインたることで、それを使って生命維持装置から抜け出し不老不死を保とうという老人の野望は悪と見なされる。なんでもありの世界でも、老人が先行きのある少年少女の邪魔をしてはならないのだ
もっとも不老不死的な存在は電脳世界に漂っていて、半ば神として現れて主人公たちに訓示を与えていく。彼らの正体こそ、『ニューロマンサー』の結果として生まれた、AIがマトリックスに融合した‟半神”とおぼしい
オリジナルとコピーの境目どころか、創造者と被造物の境目すら氷解してしまうという、なんとも奇怪な世界が描かれているのである


次作 『モナリザ・オーヴァードライブ』
前作 『ニューロマンサー』
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『ラプラスの魔』 山本弘

昔のラノベの広告を見て、思うこと
20年前から、おっぱい押しだった。ただし、幼女はいない


ラプラスの魔 (角川文庫―スニーカー文庫)
山本 弘
角川書店
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1924年のアメリカ、マサチューセッツ州。ボストンの南にあるうらぶれた港町ニューカムには、誰も寄り付かぬウェザートップ家の幽霊屋敷があった。そこへ謎の東洋人の訪問、子供たちが惨殺された食屍鬼事件をきっかけに、事件を追う女記者と探偵、骨董品収集家、実験に訪れた発明家、恋人を探す霊能者が集結する。ウェザートップ家の当主ベネディクトはどこへ行ったのか、もう一つの世界を作る「ラプラスの魔」とは何者なのか

往年のRPGファンには懐かしい、ゴーストハンターシリーズの小説である
1987年発売のPCゲーム『ラプラスの魔』のノベライズであり、機種はPC-8801mk2SRフロッピーディスクが5インチの時代。今の若い人はそんなディスクの存在すら知るまい(苦笑)
それはさておき、本作はアメリカ東海岸の怪しい屋敷という、古典ホラーの王道を踏まえつつ、後半は実在の数学者ラプラスによる宿命論に貫かれたもうひとつの世界へ、文字通り飛躍する
そんな突飛な展開も、1920年代のアメリカを網羅するかのように当時の車や銃器が並べられ、ナポレオンとラプラスの関わりなど語られる世界史の蘊蓄が重厚な世界観を築いていて、虚実二つの世界をつなげている
惜しむらくは、レーベルの関係か枚数が少ない! この容量では作品世界の壮大さを表現しきれまい

登場人物が多い割に紙数が少ないせいか、段落ごとに視点が変わるなど文体に慌ただしい部分はある。それでも多少、類型的とはいえ、それぞれのキャラクターがしっかり存在感を出している
ゲームでは登場人物ごとにクエストがあって、詳しい事情はプレイヤーの想像に任せる部分が多かったが、うまい具合に作品の中で位置づけられているのだ
作者に愛されているのは、男なら草壁健一郎女ならモーガンだろうか
特にモーガンはサキュバスに男どもがやられるなか、素手で轟沈するなど活躍の場面が多く、アレックスとチョメチョメを匂わしつつ実は〇女らしいとか、作者の趣味を感じるところである
もっとも、アメリカの女性が性的に解放されるのは戦後のウーマンリブから急激に進んでからなので、まんざら出来過ぎなわけでもない
ラノベに過ぎたる知識量かつ、細部も行き届いた作品なのである


ラプラスの魔 【PCエンジン】
(1995-10-13)
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PCエンジンでも出てたようで
草薙健一郎の声が故・塩沢兼人さん! うぉ、やりてえ
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『ニューロマンサー』 ウィリアム・ギブスン

頭に電極以外の部分は、かなり実現しているかも


ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

早川書房
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ケイスは、電脳世界にジャックインする元‟カウボーイ”。闇の技術と混沌が支配する千葉シティーで身をやつしていた彼だったが、殺し屋の女モリイに誘われ、謎めいた依頼人アーミテイジと出会う。カウボーイとしての能力を復活させることと引き換えに、大企業の電脳世界へ突入し、そのAIと接触するが……

頭部に専用の電極を差し込むことで、現実とコンピュータの電脳世界を行き来するサイバーパンクの金字塔である
初出が1984年と、個人が使用するコンピュータ〝パソコン”が大衆へ普及し始めた時代であり、肉体に情報端末を埋め込むプログラマーがフリーの傭兵として活躍する
その〝カウボーイ”の戦場は単なる三次元のプログラム世界ではない。地球全体、というか宇宙植民地含めた人類社会全体が、コンピュータによって視覚化されたデータに描かれる「電脳世界」に覆われており、現実世界と並列し密接に関連している。例えば、主人公ケイスは電脳世界へジャックインすることで、ヒロイン格のモリイの視覚に張り付いて、情報と知覚を共有できたりする
世界が情報ネットワークの中に取り込まれ、身体のサイボーグ化など肉体が技術に圧迫された環境こそが、サイバーパンクの特徴を為すものなのだ
複雑な世界観ながらその文体は説明が最低限で、視点となるケイスの心境に殉じてときに無骨、ときに詩的と独特のリズムを刻む。淡々とした描写に油断していると、パラグラフの末尾にドロンと情感があふれ出す。SF要素を散りばめた、立派なハードボイルドなのである

作者は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を原作をしたはずの映画『ブレードランナー』を観て、映画館を飛び出したという。映画の未来都市があまりに、自分の作品のイメージに近かったからだ(映画の製作より、ギヴスンの作品が先)
進みすぎた技術に倫理が追い付かず、欲望のままサイボーグ化した人間が溢れる未来都市像は、同時代以降の作品にあまりに大きな影響を与えた。千葉シティは妻が教える日本人を見て想像をたくましくしたそうだが、タルコフスキーの『惑星ソラリス』にもあったように、日本の東京都心は80年代まで近未来のイメージを発散していたものだ
管理人の世代でサイバーパンクというと、攻殻機動隊あたりになるのだが、技術に対するスタンスがかなり違う。攻殻だと頭部に情報端末を埋め込む自体に「そうやる前にもっと考えるべきだった」と、無秩序に導入される技術への警句がちりばめられている
しかし本作には全体化したネットワーク社会に対する反骨心はあるものの、人間のサイボーグ化には違和を表明しない。身体への浸食にきわめて楽観的なのだ
技術の進歩に対する説教がないところが、良くも悪くもイケイケの80年代を感じたる次第である


次作 『カウント・ゼロ』

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RPGでサイバーパンクというと、コレ
元ネタのはずの『ニューロマンサー』からして、TRPGのような役割分担があったりもして
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『避暑地の猫』 宮本輝

パソコンが壊れてブログをいじれなかったんだけど、ようやく買い替えられた( ^ω^ )
しばらくは法事がらみで忙しいので、徐行運転です


新装版 避暑地の猫 (講談社文庫)
宮本 輝
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軽井沢の別荘番の息子として育った久保修平は12歳のとき、二つ上の美しい姉・美保に恋をしてしまう。別荘の主・布施金次郎は修平の家族に親切だったが、夫人に辛く当たるのだった。ある年の夏、別荘の門柱に乗用車が衝突した際に、修平は事故を利用して思いがけない行動をとってしまう……昭和20年代の軽井沢で咲いて散る怪しい悪の華

とんでもない小説に出会ってしまった
戦前からの上流階級に加え、焼け跡から這い上がった成り金が流入する軽井沢を舞台に、大人になった修平の独白という形で、彼が体験した怪しい夏の日々とその結末が語られる
避暑地の洋館、意味ありげに隠された地下室、美し過ぎる少女、と古典ミステリーの要素がふんだんに盛り込まれて、それぞれの登場人物が独特の光彩を放つ。そうしていて、大人になってしまった修平の、人間の欲望に対する考察が鋭く、一流のミステリーでありながら高い文学性も兼ね備えているのだ
視点となる修平自身も含めて、重要人物はなにかしらの悪行に身を任せてしまうピカレスロマンで、誰かに感情移入できる小説ではない。人を選ぶのは間違いないが、それだけ人間の暗黒面を見せてくれる作品なのである

宮本輝の作品には社会的弱者は出ても、悪人が出てこないという定評があったそうだが本作はその例外で、解説いわく作風が変わるひとつの転機になったらしい
修平が独白とともに問いかけるのは、「悪」とは何かである。「悪」は“我欲”から生じるが、それは人間である以上避けられない。その“我欲”を肥大化させるともに、相手をそれに合わせた青写真を当てはめてしまうことが始まりとする
なぜ、そうなってしまうからというと、人間は自分自身を見つめることができないから。鏡を見ないと、眉毛すら把握できないのだ
本作にはそれぞれの人物が「悪」を抱える。修平は大事な女性を奪われたことへの復讐、そして裏切りへの怒りという、思春期の少年らしくストレートに突っ走った
美保の行動は、母の裏切りへの当てつけから始まり、貧乏人の子供が身一つで階級の壁を越える。もっとも華麗なる悪女であり、人の間をすり抜けていくまさに「避暑地の猫」だろう
それに比べて、母は修平から見た“聖女”を演じきるのに疲れて堕ちていった陳腐な悪女であり、父は息子の将来のために打算しつつも、悪人になりきれないからこそああいう結末を迎えた
読み始めたときは、独白する修平と少年時代の人格にギャップを感じたものの、壮絶な過程を踏まえればその変貌にも合点がいく。作中の時間は数年なのだが、まるでひと夏の悪夢のような幻想的な作品だった
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『完全なるチェス ボビー・フィッシャーの生涯』 フランク・ブレイディー

完全なる伝記


完全なるチェス 天才ボビー・フィッシャーの生涯 (文春文庫)
フランク ブレイディー
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チェスのチャンピオンをソ連が独占していた冷戦時代、それを覆す天才がアメリカに現われた。その名はボビー・フィッシャー。ほんの幼いときから頭角を現し、15歳にして史上最年少のグランドマスターとなる。そして、1972年にアイスランドでの世界チャンピオンをかけた戦いで、ボリス・スパスキーから歴史的勝利を挙げたのだが……

チェスの世界で疾風のごとく現われて、去っていった大天才の伝記
大学時代を将棋部で過ごしていた管理人は、カスパロフとディープブルーの対戦した際、ボビー・フィッシャーの代役にアメリカはIBMのスパコンを持ち出したと、囁かれていたことを覚えている。すでに隠遁して久しいながら、現役チャンピオンとの対戦が望まれるほどのビッグネームだったのである
1943年生まれのフィッシャーはユダヤ人の母を持ち、反ユダヤ主義の風潮に振り回されて各国を転々としていた。チェスプレイヤーになってからの彼も特定の居を定めず、そのときの志向や状況によって、各国の友人たちの家を渡り歩いた
性格は生まれながらの王様で、反ユダヤ主義の言動で周囲を呆れさせ続けたにも関わらず、必ず彼を助ける人間が現われる。フィッシャーの威名もさることながら、チェスの世界には国境がなく大らかなのである

プロの戦いにおける将棋とチェスの違いは、引き分けの多さである
グランドマスター級(国際試合)の勝負では、白番(先手番)が有利で、黒番(後手番)は引き分けを目指すのが基本。白番が引き分けを意識したら、黒番がそれを覆すのが難しいのがチェスなのだ
フィッシャーが初めて国際試合に出たときは、ソ連のチェスプレイヤーが実力的にも制度的にも有利だった。ソ連ではプロとしての環境が整備されて選手層が厚いのもしかり、世界チャンピオンの挑戦者決定戦では、ソ連のプレイヤー同士が引き分けを重ねることで、着実にポイントを引き離すことができた
またプロのチェスでは、プレイヤーは練習相手や研究・分析を担うセコンドを雇うことができ、ソ連のプレイヤーは自国の優れたプロの助言を受けることができた
世界チャンピオンをかける戦いは、冷戦時代において超大国の面子をかけた戦いにもなり、純粋な強者を決める決戦ではありえず、きわめて政治的でフェアな舞台ではなかった
フィッシャーはマスコミを通じて、ソ連有利の挑戦者決定戦の制度を変更させ、ソ連一強の時代に見事、風穴を開けて見せたのだ

どうしてフィッシャーは、ユダヤ系でありながら反ユダヤ主義にのめりこんだのだろう
管理人が思うにチェスにのめりこんで、白黒のはっきりした単純な世界を好んだのではなかろうか。選手時代には、ワールドワイド・チャーチ・オブ・ゴッドというカルト宗教にはまっており、かなりの額を寄付している。もちろん、幼少期にユダヤ人であるがために苦労したことが影響したことだろう
ソ連のプレイヤーと国際試合を重ねる頃には、自分が暗殺されるという脅迫観念を持ち始め、世界チャンピオンになった後も最初の防衛戦に様々な条件をつけて拒否してしまうのであった
冷戦時代は英雄だった彼も、1992年にサラエボでスパスキーとの再戦を受けたことから暗転する。アメリカがボスニア紛争からセルビアに経済制裁を行っており、フィッシャーの試合がそれを破るものと見なされたのだ。激怒したアメリカ政府は過去の脱税問題も蒸し返して、フィッシャーは失意のうちにアイスランドで客死する
その名声から周囲には必ずファンがいたが、勝負の世界こそが本来の居場所だったのだろう
カスパロフがコンピュータに負けたときのリアクションを書いて欲しかったけど(ないなら仕方ないけど)、本書は真摯で緻密な記述に羽生善治の解説と、読み応えたっぷりの伝記である


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ボビー・フィッシャー
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