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『ラプラスの魔』 山本弘

昔のラノベの広告を見て、思うこと
20年前から、おっぱい押しだった。ただし、幼女はいない


ラプラスの魔 (角川文庫―スニーカー文庫)
山本 弘
角川書店
売り上げランキング: 339,704


1924年のアメリカ、マサチューセッツ州。ボストンの南にあるうらぶれた港町ニューカムには、誰も寄り付かぬウェザートップ家の幽霊屋敷があった。そこへ謎の東洋人の訪問、子供たちが惨殺された食屍鬼事件をきっかけに、事件を追う女記者と探偵、骨董品収集家、実験に訪れた発明家、恋人を探す霊能者が集結する。ウェザートップ家の当主ベネディクトはどこへ行ったのか、もう一つの世界を作る「ラプラスの魔」とは何者なのか

往年のRPGファンには懐かしい、ゴーストハンターシリーズの小説である
1987年発売のPCゲーム『ラプラスの魔』のノベライズであり、機種はPC-8801mk2SRフロッピーディスクが5インチの時代。今の若い人はそんなディスクの存在すら知るまい(苦笑)
それはさておき、本作はアメリカ東海岸の怪しい屋敷という、古典ホラーの王道を踏まえつつ、後半は実在の数学者ラプラスによる宿命論に貫かれたもうひとつの世界へ、文字通り飛躍する
そんな突飛な展開も、1920年代のアメリカを網羅するかのように当時の車や銃器が並べられ、ナポレオンとラプラスの関わりなど語られる世界史の蘊蓄が重厚な世界観を築いていて、虚実二つの世界をつなげている
惜しむらくは、レーベルの関係か枚数が少ない! この容量では作品世界の壮大さを表現しきれまい

登場人物が多い割に紙数が少ないせいか、段落ごとに視点が変わるなど文体に慌ただしい部分はある。それでも多少、類型的とはいえ、それぞれのキャラクターがしっかり存在感を出している
ゲームでは登場人物ごとにクエストがあって、詳しい事情はプレイヤーの想像に任せる部分が多かったが、うまい具合に作品の中で位置づけられているのだ
作者に愛されているのは、男なら草壁健一郎女ならモーガンだろうか
特にモーガンはサキュバスに男どもがやられるなか、素手で轟沈するなど活躍の場面が多く、アレックスとチョメチョメを匂わしつつ実は〇女らしいとか、作者の趣味を感じるところである
もっとも、アメリカの女性が性的に解放されるのは戦後のウーマンリブから急激に進んでからなので、まんざら出来過ぎなわけでもない
ラノベに過ぎたる知識量かつ、細部も行き届いた作品なのである


ラプラスの魔 【PCエンジン】
(1995-10-13)
売り上げランキング: 40,963


PCエンジンでも出てたようで
草薙健一郎の声が故・塩沢兼人さん! うぉ、やりてえ
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『ニューロマンサー』 ウィリアム・ギブスン

頭に電極以外の部分は、かなり実現しているかも


ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

早川書房
売り上げランキング: 14,483


ケイスは、電脳世界にジャックインする元‟カウボーイ”。闇の技術と混沌が支配する千葉シティーで身をやつしていた彼だったが、殺し屋の女モリイに誘われ、謎めいた依頼人アーミテイジと出会う。カウボーイとしての能力を復活させることと引き換えに、大企業の電脳世界へ突入し、そのAIと接触するが……

頭部に専用の電極を差し込むことで、現実とコンピュータの電脳世界を行き来するサイバーパンクの金字塔である
初出が1984年と、個人が使用するコンピュータ〝パソコン”が大衆へ普及し始めた時代であり、肉体に情報端末を埋め込むプログラマーがフリーの傭兵として活躍する
その〝カウボーイ”の戦場は単なる三次元のプログラム世界ではない。地球全体、というか宇宙植民地含めた人類社会全体が、コンピュータによって視覚化されたデータに描かれる「電脳世界」に覆われており、現実世界と並列し密接に関連している。例えば、主人公ケイスは電脳世界へジャックインすることで、ヒロイン格のモリイの視覚に張り付いて、情報と知覚を共有できたりする
世界が情報ネットワークの中に取り込まれ、身体のサイボーグ化など肉体が技術に圧迫された環境こそが、サイバーパンクの特徴を為すものなのだ
複雑な世界観ながらその文体は説明が最低限で、視点となるケイスの心境に殉じてときに無骨、ときに詩的と独特のリズムを刻む。淡々とした描写に油断していると、パラグラフの末尾にドロンと情感があふれ出す。SF要素を散りばめた、立派なハードボイルドなのである

作者は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を原作をしたはずの映画『ブレードランナー』を観て、映画館を飛び出したという。映画の未来都市があまりに、自分の作品のイメージに近かったからだ(映画の製作より、ギヴスンの作品が先)
進みすぎた技術に倫理が追い付かず、欲望のままサイボーグ化した人間が溢れる未来都市像は、同時代以降の作品にあまりに大きな影響を与えた。千葉シティは妻が教える日本人を見て想像をたくましくしたそうだが、タルコフスキーの『惑星ソラリス』にもあったように、日本の東京都心は80年代まで近未来のイメージを発散していたものだ
管理人の世代でサイバーパンクというと、攻殻機動隊あたりになるのだが、技術に対するスタンスがかなり違う。攻殻だと頭部に情報端末を埋め込む自体に「そうやる前にもっと考えるべきだった」と、無秩序に導入される技術への警句がちりばめられている
しかし本作には全体化したネットワーク社会に対する反骨心はあるものの、人間のサイボーグ化には違和を表明しない。身体への浸食にきわめて楽観的なのだ
技術の進歩に対する説教がないところが、良くも悪くもイケイケの80年代を感じたる次第である


関連記事 【DVD】『惑星ソラリス』


シャドウラン 4th Edition 上級ルールブック ランナーズ・コンパニオン (Role&Roll RPG)
アーロン パヴァオ
新紀元社
売り上げランキング: 292,252


RPGでサイバーパンクというと、コレ
元ネタのはずの『ニューロマンサー』からして、TRPGのような役割分担があったりもして
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『避暑地の猫』 宮本輝

パソコンが壊れてブログをいじれなかったんだけど、ようやく買い替えられた( ^ω^ )
しばらくは法事がらみで忙しいので、徐行運転です


新装版 避暑地の猫 (講談社文庫)
宮本 輝
講談社
売り上げランキング: 295,433


軽井沢の別荘番の息子として育った久保修平は12歳のとき、二つ上の美しい姉・美保に恋をしてしまう。別荘の主・布施金次郎は修平の家族に親切だったが、夫人に辛く当たるのだった。ある年の夏、別荘の門柱に乗用車が衝突した際に、修平は事故を利用して思いがけない行動をとってしまう……昭和20年代の軽井沢で咲いて散る怪しい悪の華

とんでもない小説に出会ってしまった
戦前からの上流階級に加え、焼け跡から這い上がった成り金が流入する軽井沢を舞台に、大人になった修平の独白という形で、彼が体験した怪しい夏の日々とその結末が語られる
避暑地の洋館、意味ありげに隠された地下室、美し過ぎる少女、と古典ミステリーの要素がふんだんに盛り込まれて、それぞれの登場人物が独特の光彩を放つ。そうしていて、大人になってしまった修平の、人間の欲望に対する考察が鋭く、一流のミステリーでありながら高い文学性も兼ね備えているのだ
視点となる修平自身も含めて、重要人物はなにかしらの悪行に身を任せてしまうピカレスロマンで、誰かに感情移入できる小説ではない。人を選ぶのは間違いないが、それだけ人間の暗黒面を見せてくれる作品なのである

宮本輝の作品には社会的弱者は出ても、悪人が出てこないという定評があったそうだが本作はその例外で、解説いわく作風が変わるひとつの転機になったらしい
修平が独白とともに問いかけるのは、「悪」とは何かである。「悪」は“我欲”から生じるが、それは人間である以上避けられない。その“我欲”を肥大化させるともに、相手をそれに合わせた青写真を当てはめてしまうことが始まりとする
なぜ、そうなってしまうからというと、人間は自分自身を見つめることができないから。鏡を見ないと、眉毛すら把握できないのだ
本作にはそれぞれの人物が「悪」を抱える。修平は大事な女性を奪われたことへの復讐、そして裏切りへの怒りという、思春期の少年らしくストレートに突っ走った
美保の行動は、母の裏切りへの当てつけから始まり、貧乏人の子供が身一つで階級の壁を越える。もっとも華麗なる悪女であり、人の間をすり抜けていくまさに「避暑地の猫」だろう
それに比べて、母は修平から見た“聖女”を演じきるのに疲れて堕ちていった陳腐な悪女であり、父は息子の将来のために打算しつつも、悪人になりきれないからこそああいう結末を迎えた
読み始めたときは、独白する修平と少年時代の人格にギャップを感じたものの、壮絶な過程を踏まえればその変貌にも合点がいく。作中の時間は数年なのだが、まるでひと夏の悪夢のような幻想的な作品だった
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『完全なるチェス ボビー・フィッシャーの生涯』 フランク・ブレイディー

完全なる伝記


完全なるチェス 天才ボビー・フィッシャーの生涯 (文春文庫)
フランク ブレイディー
文藝春秋 (2015-08-04)
売り上げランキング: 170,773


チェスのチャンピオンをソ連が独占していた冷戦時代、それを覆す天才がアメリカに現われた。その名はボビー・フィッシャー。ほんの幼いときから頭角を現し、15歳にして史上最年少のグランドマスターとなる。そして、1972年にアイスランドでの世界チャンピオンをかけた戦いで、ボリス・スパスキーから歴史的勝利を挙げたのだが……

チェスの世界で疾風のごとく現われて、去っていった大天才の伝記
大学時代を将棋部で過ごしていた管理人は、カスパロフとディープブルーの対戦した際、ボビー・フィッシャーの代役にアメリカはIBMのスパコンを持ち出したと、囁かれていたことを覚えている。すでに隠遁して久しいながら、現役チャンピオンとの対戦が望まれるほどのビッグネームだったのである
1943年生まれのフィッシャーはユダヤ人の母を持ち、反ユダヤ主義の風潮に振り回されて各国を転々としていた。チェスプレイヤーになってからの彼も特定の居を定めず、そのときの志向や状況によって、各国の友人たちの家を渡り歩いた
性格は生まれながらの王様で、反ユダヤ主義の言動で周囲を呆れさせ続けたにも関わらず、必ず彼を助ける人間が現われる。フィッシャーの威名もさることながら、チェスの世界には国境がなく大らかなのである

プロの戦いにおける将棋とチェスの違いは、引き分けの多さである
グランドマスター級(国際試合)の勝負では、白番(先手番)が有利で、黒番(後手番)は引き分けを目指すのが基本。白番が引き分けを意識したら、黒番がそれを覆すのが難しいのがチェスなのだ
フィッシャーが初めて国際試合に出たときは、ソ連のチェスプレイヤーが実力的にも制度的にも有利だった。ソ連ではプロとしての環境が整備されて選手層が厚いのもしかり、世界チャンピオンの挑戦者決定戦では、ソ連のプレイヤー同士が引き分けを重ねることで、着実にポイントを引き離すことができた
またプロのチェスでは、プレイヤーは練習相手や研究・分析を担うセコンドを雇うことができ、ソ連のプレイヤーは自国の優れたプロの助言を受けることができた
世界チャンピオンをかける戦いは、冷戦時代において超大国の面子をかけた戦いにもなり、純粋な強者を決める決戦ではありえず、きわめて政治的でフェアな舞台ではなかった
フィッシャーはマスコミを通じて、ソ連有利の挑戦者決定戦の制度を変更させ、ソ連一強の時代に見事、風穴を開けて見せたのだ

どうしてフィッシャーは、ユダヤ系でありながら反ユダヤ主義にのめりこんだのだろう
管理人が思うにチェスにのめりこんで、白黒のはっきりした単純な世界を好んだのではなかろうか。選手時代には、ワールドワイド・チャーチ・オブ・ゴッドというカルト宗教にはまっており、かなりの額を寄付している。もちろん、幼少期にユダヤ人であるがために苦労したことが影響したことだろう
ソ連のプレイヤーと国際試合を重ねる頃には、自分が暗殺されるという脅迫観念を持ち始め、世界チャンピオンになった後も最初の防衛戦に様々な条件をつけて拒否してしまうのであった
冷戦時代は英雄だった彼も、1992年にサラエボでスパスキーとの再戦を受けたことから暗転する。アメリカがボスニア紛争からセルビアに経済制裁を行っており、フィッシャーの試合がそれを破るものと見なされたのだ。激怒したアメリカ政府は過去の脱税問題も蒸し返して、フィッシャーは失意のうちにアイスランドで客死する
その名声から周囲には必ずファンがいたが、勝負の世界こそが本来の居場所だったのだろう
カスパロフがコンピュータに負けたときのリアクションを書いて欲しかったけど(ないなら仕方ないけど)、本書は真摯で緻密な記述に羽生善治の解説と、読み応えたっぷりの伝記である


新装版 ボビー・フィッシャーのチェス入門
ボビー・フィッシャー
河出書房新社
売り上げランキング: 157,262
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『宵山万華鏡』 森見登美彦

京都や祇園祭にくわしくなくても楽しめる


宵山万華鏡 (集英社文庫)
森見 登美彦
集英社 (2012-06-26)
売り上げランキング: 12,120


祇園祭の“宵山には、何かが潜む!? 山鉾と露店でにぎわう一日に、さまざまな人々の想いが交錯し、不思議な世界の扉が開く
祇園祭の“宵山”だけにちなんだ短編集
六つの話がひとつの世界を共有しており、ここの主人公が出会った謎の大坊主が、別の章でとある役割を背負っていたことが分かるとか、読み進むごとになんとなく世界の秘密が分かってくる構成であり、次の話に自然と楽しみになってくる
特徴的なのが、宵山を舞台とするだけあって、京都という都市空間の中からファンタジーを引き出しているところだ
京都は景観条例や経済力の問題もあって、都市開発できる地域は限られているし、家やビルの建て替えは進まない。結果、何が入っているか分からない古いビルがうらぶれたまま残っている
その建物のなかには何があるのか、屋上はどうなっておるのか、そんな更新されにくい町並みから、華やかさと怪しさと、ほんの少しの怖さが入り混じった幻想的な世界が立ち上るのだ


<宵山姉妹>

バレエ教室に通う小学生の姉妹が、宵山の夜に教室のあるビルの上階や、露店が出ている通りを探検する話
冒険好きの姉に引きづられる妹の視点であり、子供の立場に立った、初めて見る物事、風景への興奮と不安がみずみずしく描かれる
最初の話にふさわしく、後に登場する人々が派手に、あるいは地味に少女へ関わってくる


<宵山金魚>

今はサラリーマンとなった藤田が大学時代に過ごした京都で、謎めいた旧友の乙川「宵山」見物へ出かける。生まれながらのトリックスターといえる乙川が用意した、藤田への歓迎とは?
孫太郎虫(ヘビトンボの幼虫として実在する)や、「超金魚」の養殖と、直に祇園祭と関わらないところから始まるものの、祇園祭“いちげんさん”の藤田を視点にして、外部の人が京都へ抱く神秘性や幻想が乙川の罠として描かれる
知らない場所だと、なんか破ったら怒られるしきたりとか、ありそうで億劫になるもんである。京都人ですら


<宵山劇場>

乙川が藤田に仕掛けた罠の裏側には、どんなドラマがあったのかを明かす
元学生劇団の裏方である小長井を視点に、酔狂な乙川によって集められたメンバー、学生劇団の美術監督だった山田川、洲崎バレエ教室の岬先生、大坊主にさせられる大学院生の高藪らのドタバタが描かれるのだ。人の手間を考えず独創的な想像力を押し付ける山田川が暴れ回り、小長井は終始引きずられ続けて、なんだか昔懐かしい学園物のジュブナイル小説のようだ
ただ前話までが背負っていた幻想的な雰囲気が崩れてしまうので、読んでいるときは面白いけど浮いているように思ったが、読み終わって見ると最終話のフェイクとして機能していたのであった


<宵山回廊>

京都から離れたことのないOL千鶴は、画廊の柳さんに頼まれて、宵山に画家の叔父を訪ねる。叔父は自身が「今日でいなくなる」と宣言し、不思議な万華鏡をもらったことから陥った終わりのない“宵山”を話す
叔父には“宵山”の日に行方不明になった娘がおり、万華鏡の向こうにその娘が見えたことから手放せなくなり、げっそりと痩せ衰えてしまう
最初の話の少女が出会った赤い浴衣の少女画廊の柳さんが再登場し、「終わらない宵山」という設定が加わって、作品はいよいよ彼岸の世界へ踏み込んでいく


<宵山迷宮>

今回は画廊の柳さんが主人公。柳さんはなんら心当たりがないのに、千鶴の叔父のように「終わらない宵山」に巻き込まれる。一日、一日、違う“宵山”を過ごしつつ、毎日訪れるのが、杵塚協会の乙川だった
この話では視点キャラが「終わらない宵山」に巻き込まれる。海外の小説なら『リプレイ』を思い出させる展開だ
乙川の口からは、この「終わらない宵山」はある万華鏡から覗かれた世界だと明かされる


<宵山万華鏡>

最初の話に出てきたバレエ教室に通う姉妹の、が主人公。妹とはぐれた姉は探しつつも、不思議な“宵山”の世界に惹かれていく
そこに誘うのは、妹も会ったはずの大坊主。そして、岬先生らしい舞妓さんに出会うが、どうも勝手が違う。ビルの屋上同士がつながっていて、あの藤田を罠にはめた“宵山”よりも荒唐無稽なのだ。そして、登場する“宵山様”はというと……
古いビルの屋上には、植木鉢が置かれまくったり、おかしな置物があったりとそれぞれ謎の個性があるもの。まして祭の夜となれば


ひとつ不思議に思ったのは、本作の舞台が“宵山”に限られていることだ。祇園祭は準備期間から一月に渡るお祭りだし、“宵山”の翌日の山鉾巡幸こそが本番である
あとがきを読むと、それも氷解する。作者は山鉾巡幸に出かけたことがなかったのだ。それだけに“宵山”のうるささが頭に残ったのだろう。あるいは、「祭の前夜のにぎやかさ」が好きなのかもしれない
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『ホワイト・ジャズ』 ジェイムズ・エルロイ

悪党たちへのレクイエム


ホワイト・ジャズ (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋 (2014-06-10)
売り上げランキング: 421,124


ディヴィッド・クラインはロス市警の警部補の身で、弁護士資格を持ちつつ不動産業を営み、袖の下も怠らない多芸な汚職警官。麻薬課と深い関係を持つカフェジアン一家へ、変質的な強盗が押し入ったことから、刑事部長エドマンド・エクスリー直々に捜査を命じられる。麻薬課を中心に隠然とした勢力を持つ強盗課警部ダドリー・スミスを追い落とすためだ。クラインは一家の身辺を調べるうちに、相棒のステモンズ・ジュニアに不審を覚えて……

『ブラック・ダリア』に始まるLA暗黒街四部作の最終巻である
文体が特殊である。視点となる汚職刑事ディヴィッド・クラインに思考と完全にリンクしているがゆえに、やたらと文章の間に「‐」「;」「/」「=」と記号が使われて、詩のように短いセンテンスが積み重なっている
そこに余計な説明や冷静な分析はない。それだけ主人公クラインがしたたかながらも刹那的な世界に暮らしており、欲望に流されつつも鋭い勘でピンチをくぐり抜けていく。まるで暗黒街の住人をVR体験しているかのようだ
正直読みにくいことは、読みにくい(苦笑)。日本語と英語の記号が入り混じるがゆえで、原語ならばこそ生きる表現なのかもしれない
カフェジアン一家も単に犯罪者というだけでなく、人間関係も悪徳の極みといえるドロドロの世界にいる。そして、それに対峙するクラインもまた、それに匹敵するドロドロから這い上がった人物で、新しい悪事を働くことでそれを相対化していく狂気を持ち合わせる
はたして、人はどこまで堕ち続けていくことができるのか。堕ちた先に何が待っているのか
エクスリーが主役なら、もっと普通の文章になっただろう。しかし、打算と狂気を行き来するクラインだからこそ、巨悪ダドリーを刺せるのだろう

巻末の解説に乗るように、暗黒街四部作をダドリーの王国とその栄枯盛衰の物語と読むことができるが、それぞれがアメリカの変貌を映している
1958年を舞台とする本作では、マフィアの世界でも世代交代が起きる。ユダヤ系のミッキー・コーエンが脱税での収監をきっかけに没落し、イタリア系のサム・ジアンカーナが勢力を伸ばしていて、クラインもその仕事を受ける
その一方で、上院議員のジョン・F・ケネディが反マフィア運動に力を入れ、FBIを動かしてロス市警を揺るがし、エクスリーはダドリーを葬る口実に利用する
ダドリーのように薬の売人と釣るみながら、出る杭を打つ式に組織犯罪を押さえるという、犯罪者と警察の境界が曖昧な時代が終わり、エクスリーのような官僚が組織の利害を中心に動く時代が始まっていく。いつか見た映画、『県警対組織暴力』と同じテーマが隠れているのだ
当時、ニューヨークのブルックリンに本拠地にしていたドジャーズが、ロサンゼルスへ移転しホームグラウンド用地の立ち退きがワンシーンにあったりと、戦中戦後の混乱が良くも悪くもある種の秩序に収まっていくという時代の移り変わりを暗黒街シリーズは活写していた


前作 『LAコンフィデンシャル』

関連記事 【DVD】『県警対組織暴力』
     『アメリカを葬った男』
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『空の城』 松本清張

最近、日本企業の海外の失敗が続いているので


空の城―長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)
松本 清張
文藝春秋
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日本の10大商社の末席にいた江坂産業は、一流商社を目指して石油業界へ打って出ようとしていた。アメリカ江坂の社長・上杉次郎は、本社の河井社長の了解を得てレバノン系の実業家サッシンと交渉。1973年にクイーンエリザベス2号にて、ニューファンドランド島の石油精製工場を運営するNRCの総代理店となる契約を結んだ。しかし、その契約には恐るべき条項が盛り込まれていたのであった

松本清張が現実にあった総合商社・安宅産業の破綻を題材に書いたノンフィクション経済小説。人物の名前やキャラクターについては脚色してあるが、その他のことは事実に基づいているという
江坂産業は、本社社長の河井が業務上の最高責任者だが、人事権はない。人事については創業者一族の江坂要蔵が“社主”として掌握しており、実務には深く関わらないものの、奨学金を出した若者をファミリー社員として社へ送り出していた
一方、サッシンとの契約をまとめた上杉次郎は、社がGHQによって財閥解体の指定を受けようとしたときに、得意の英語と外交能力で免除に成功した“英雄”。大変な功労者ながらハワイ出身という出自から、社内では「英語屋」と妬まれており、ニューファンドランドの大プロジェクトを成功させることで見返したいという気持ちが強かった
レバノン出身のサッシンとは、ロックフェラーやユダヤ系が強い石油業界で偏見をバネにしたという共通点があり、半ば同志として危険な道へと進んでいくのだ
しかし、上杉は社内で異端児とはいえ、ニクソンとつながりを持つ政商サッシンほどのキワモノにはなれない。日本と海外の常識の差に身を引き裂かれて、おろおろするうちに江坂産業も真っ二つになって沈んでいってしまう

なぜ安宅産業は破綻してしまったか
直接の原因は、もちろんニューファンドランド・リファイニング・カンパニー(NRC)との契約にある。NRCの総代理店として、原油の買取代金の面倒を見ることになっていたが、中東戦争によって事情が一変する。アラブ諸国が石油の値上げとユダヤ系石油会社との取引を渋ったことから、原油価格が高騰
NRCがイギリスの石油会社ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)に独占的に原油供給を受ける契約をしていたために、割高の原油を受け取らねばならず、精製した石油を捌こうにもアメリカやカナダの石油市場は自国の石油産業防衛のために門戸を閉じていた
さらに航空燃料などの“シロモノ”に精製する機械が故障を起こし、労働者のストライキもあいまって、NRCは赤字を垂れ流すようになる
引き上げようにも、NRCと安宅アメリカの間には「補助契約書」が結ばれており、NRCに4000万ドルを融資しつつも、その担保はなし! 取り返すためにNRCを破綻させるわけにはいかない
作中では上杉次郎(高杉重雄)がサッシン(シャヒーン)に何度も抵当権を要請する場面があり、金を出した商社側がなぜか「お願い」する立場になっているのが印象的だった。上杉のような海外通ですら、相手を信用するから最初に不利な材料を切り出さないという日本人同士の作法を無意識に行っていて、契約の文章を軽視してしまうのだ
東芝や郵政の失敗も、こうした希望的な観測から細かい契約に目を配らない点にあったのではないだろうか

清張が注目するのは、安宅産業の特異な体制である
社主である江坂要蔵(安宅英一)に人事権が掌握して、本社の社長が一社員を異動させるにも骨が折れる。安宅アメリカでは支社長には人事権がないから、部下は本国の社主や元上司を意識して統率がとれず、新任の支社長が就任しても問題の発覚が大きく遅れてしまった
上杉の独走は最終的に社主の了解を得ればまかりとおるという、独特の権力構造が生んだものといえよう
安宅英一は実業にはほとんど関わらない代わりに、会社の金で中国や朝鮮の陶磁器を収集し、オペラ歌手(実際はピアニスト?)を後援するなど公私混同が激しかった。清張は無茶な契約を結んだ上杉よりも、社主の要蔵に表舞台に立たない黒幕として責を重くみている。陶磁器の鑑定に「心眼」ともいえる才能を示した男が、会社経営にすこしでも目を向けていればどうであったか。最後にコレクションを褒め称える場面は、最高の皮肉である


松本清張原作 ザ・商社 DVD-BOX 全2枚セット【NHKスクエア限定商品】
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『ノドン強奪』 トム・クランシー スティーヴ・ピチェニック

オカンと姉貴に呼ばれて、夜の二条城へ花見へ。六時からライトアップしていたのだ
また、そのうち記事にします


ノドン強奪 (新潮文庫)
トム クランシー スティーヴ ピチェニック
新潮社
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大統領就任式に沸く韓国で、無差別爆弾テロが起こった。北朝鮮が疑われるも、地元の情報部のキム・ホアンは韓国内部の犯人を疑い、北朝鮮の女スパイと接触することで確信する。一方、情報機関としてスタートしたばかりのオプ・センターは、同時刻にサイバーテロをくらいコンピューターがダウン、アメリカの軍事衛星には事実と異なる画像が挿入された。誰かが第二次朝鮮戦争をもくろみ、ノドンミサイルを日本へ向けていた!

オプ・センター・シリーズの第一作
1995年初出で、この年の韓国は金泳三政権一年目二人の大統領経験者が逮捕される事態となり、北朝鮮では前年に金日成が亡くなり最高権力者の代替わりしたばかり。日本では地下鉄サリン事件が世情をにぎわせていて、北朝鮮による拉致事件に関しては一般人には疑惑の段階に留まっていた時代だ
本作は、半島の最高指導部が変わったばかりで権力基盤が安定していないと仮定して起こる、両国の過激派分子が手を組んでの騒乱をタネとしている
主役であるオプ・センターは、複数の情報機関を横断する、大統領が使いやすい組織として発足し、トップには文民である元ロサンゼルス市長ポール・フッドが座る。優秀ながら寄せ集めの集団であり、実力を信頼し合いつつの微妙なチームワークが特徴となっている。みんな、良かれと思って勝手に動き、読者をハラハラさせるのである
取って代わりたい野心的な副官マーサ・マッコール、ポールに惚れて不倫を夢見る広報官アン・ファリス、実戦部隊に同行してしまう猪少将マイク・ロジャーズ……ライアンシリーズがハリウッドなら、オプセンターはテレビドラマのような距離の近さがある
こうした個性的な連中が組織の上下関係ではなく、高い意識の連帯で危機を乗り越えていく

拉致事件を経て、日本人の北朝鮮への理解と関心が深くなった今となっては、本作には乗りづらいかもしれない
アメリカ人の両作者にはベトナム戦争へのトラウマから、冷戦後に悲劇的な衝突を避けることが第一にシナリオを組み立てている
北朝鮮のような全体主義体制は、党が軍を支配・コントロールしているのであって、軍先主義でも首領の支持ありき。ホン・グーのような前線の武官が自立的な判断と行動が簡単には取りきれない。本作の北朝鮮には、最高権力者の存在が希薄過ぎて、この点まったくリアルではない
アメリカ大使や特殊部隊と北朝鮮軍との連携も、何やら米軍とベトコンの仲直りのような牧歌的な光景だ。弾道ミサイルの飛距離を伸ばし続け、トランプ政権がそれを撃ち落とそうという今となっては、隔世の感がある


次作 『ソ連帝国再建』
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『ヌメロ・ゼロ』 ウンベルト・エーコ

イタリア版松本清張
新聞の出資者コンメンダトール・ヴィメルカーテのモデルはベルルスコーニらしい


ヌメロ・ゼロ
ヌメロ・ゼロ
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ウンベルト・エーコ
河出書房新社
売り上げランキング: 167,155


売れないライターであるロマンナは、シナイという男に依頼され、新たに創刊される日刊紙『ドマーニ(明日)』に参加する。テレビに負けない情報で読者を揺さぶる方向性で動き出すも、出資者であるコンメンダトール・ヴィメルカーテの隠然とした意向にいつのまか左右されてしまう。そして同僚ブラッガドーチョから、教皇庁の秘密、ムッソリーニの生死の謎、対コミュニスト部隊ステイ・ビハインドを聞くに及んで、事態は急変して……

『薔薇の名前』などで知られるウンベルト・エーコの遺作である。管理人はエーコの作品がはじめてで、まさか遺作から読むことになるとは思わなかった(苦笑)
出版は2016年ながら、作品の年代は1992年の5月から6月の一月間。ソ連が崩壊して冷戦時代の緊張が良くも悪くも溶け始めた時代。ネットが一般的ではなく、記憶媒体はフロッピーディスクで、主人公たちの新聞が意識するライヴァルも週刊誌でありテレビである
冒頭は、主人公が寝ている間に水道を止められるという事案、本人にとって不気味でも他人にとっては取るに足りないアクシデントから始まる。主人公が病んでいるとしかいえない出だしだが、その後に日刊紙の準備に携わるところから、神経症気味になるに到った経緯が分かる
話の展開はどこか松本清張を思い起こしてしまうが、かつてイタリア共産党が大きな勢力を持ち、極左組織がマフィアを介して保守勢力と結びつき、元首相を誘拐暗殺するとか、百鬼夜行の裏社会を持つイタリアの風土からすれば、遠い昔のことではないのだ

殻を破ろうとして生まれたはずのメディアが、どうやって既存のもののような保守性、事なかれ主義に陥っていくかが、本作の焦点だろうか
編集長であるシナイは、主人公コロンナを参謀格に経験の薄い記者たちを指南していくが、読者に新しい刺激を与えるとしつつも、不愉快になることを書かない読者にあくまで印象だけを残して、一定の方向に誘導することを目的とする。想像を誘うだけで、その責任までは取らないのだ
主人公のように本来は独立心をもった人間でも、いったん組織に属してしまうと、ブラッガドーチョのようなはねっ返りを除き、その枠内でしか動かなくなってしまう。官僚を批判する側が官僚的になってしまうのは、日本だけではないらしい
保守層を敵に回すことが出資者の意向に沿うのか、マフィアを敵に回す覚悟があるのか、そこまでするほどの意味があるのか、そんな内輪への言い訳を言っている間に、外国のメディアに堂々と暴露されてしまう。この報道途上国あるあるが、物悲しい
もっとも根っこでは、どこのメディアも抱えている普遍的な問題でもあり、一流メディアの報道という触れ込みで、実はそれも情報操作されているという現実もあるわけだが
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『LAコンフィデンシャル』 ジェイムズ・エルロイ

先週は持病の発作を起こして、検査入院。稀勢の里の一番を、病院のテレビから眺めたのであった
照富士は、ずいぶん株を落としたな、おい


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著名な父を持つエクスリーは警察官の世界で出世すべく、監獄の暴力事件「血塗られたクリスマス」をきっかけにロス市警の警部にのしあがる。地方検事候補エリス・ローに可愛がられた彼だったが、娼婦殺しに異様な熱意を燃やすホワイトや芸能界に羽を伸ばすヴィンセンスらベテラン刑事の反感を買ってしまう。しかし謎の虐殺事件「ナイト・アウル」を契機に、宿敵の三人が奇妙に交錯する

ケヴィン・スペイシー、ラッセル・クロウの出世作としての有名な映画の原作小説。LA暗黒街シリーズの中では第三作目である
出世欲と正義感に板ばさみのエド・エクスリー、女殺しを許さない暴力的正義の体現者“バド”・ホワイト、麻薬と芸能界で遊泳するジャック・ヴィキンズの三者の視点で物語は進み、現在扱う事件と別件が絡むところは前作『ビッグ・ノーウェア』と似ているものの、その絡み方はより重層的へ深化している。いい格好しいのエドと暴れん坊刑事のバドが好対照をなして人物の位置関係は分かりやすいものの、ナイトアウル事件が並行して起こる猥褻本事件とつながるのみならず、かつての児童連続殺人事件の真相へもつながってしまうとか、ロサンゼルスという都市空間の歴史と因縁が群像劇として描きだされているのだ
シリーズとしても、前々作から登場の俗物検事エリス・ローに、最凶の悪徳警官ダドリー・スミス史実の大悪党ミッキー・コーエンに負けない存在感を見せており、暗黒街を仕切る彼らがどう関わっていくかも注目である
ねえ、読者のみなさん。あなたがたはこの話をこの誌面ではじめて知ったのだ――この話はオフレコだよ。内緒だ。まさにハッシュ、ハッシュ

主人公の一人、エクスリーの父プレストンは、優秀な警官でありながら実業家に転じて、大成功を治めている
プレストンが携わるのがディズニーランドをモデルにしたテーマパーク『ドリーム・ア・ドリーム・アワー』であり、ウォルト・ディズニーをモデルにしたレイモンド・ディータリングなる人物が登場する
なぜ、わざわざディズニーを別名に置き換えたのか
作中にはなんと、アニメ『ドリーム・ア・ドリーム・アワー』の関係者の間で麻薬が蔓延している描写があるのだ。主人公の一人ヴィンセンスはそれをお目こぼしする代わりに、ロス市警を描いたドラマ『名誉のバッチ』の考証を担当するなど甘い汁を吸ったりとか、芸能界と警察行政の癒着ぶりが本作の背景に取り上げられているのだ
次作の『ホワイトジャズ』には、しれっとした顔でディズニーランドをそのまま出しているようだから、本作の描写がどこまで本当かは分からないが、土地と年代的に充分ありえる話ではある
当然のことながら、レイモンド・ディターリングは劇場版にはいっさい登場していない。某諸悪の根源が生き残ったりと、映画とはずいぶん展開も結末も異なるので、違いを楽しみに読み進もう


次作 『ホワイト・ジャズ』
前作 『ビッグ・ノーウェア』

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