社会にあるすべてのモノは、誰かの仕事の結果である。いい仕事とは何なのか、そのために何が必要かを問う
「いい仕事」は何かを求めて、デザイン関係を中心に取材を続けるが、インタビュー集ではない
著者は「働き方研究家」としてワークスタイルの提案、研究をしている方で、本書はデザイン誌『AXIS』における「レッツ・ワーク!」を元にしており、1995年から1999年の連載に、文庫化において数年後の再インタビューで構成されている
元の連載がどういうものだったかは分からないが、取材先のインタビューからスタートしつつも、いわばその上澄みを抽出して、一種のエッセイとして持論が展開されている
インタビューの部分がかなり短いので、取材対象が理想のワークスタイルを至るまでの過程が分からず、それまでにどういう障害や問題に出くわしたのかを、読者は知ることができない
なので著者の理想はよく分かっても、その実践については手が回っていないと感じた
ただ、普通にエッセイとして文章が達者で、立て板に水が流れるごとし。引っ張り出される蘊蓄も面白いので、すっと読まされてしまった
自分の欲求から「いい仕事」は生まれる
「いい仕事」とは何なのか
20世紀末の先進国では、大量消費・大量消費の時代が終わりつげ、日本でも過剰生産が問題になっていた。玉石混交の商品市場のなかには、儲けを出すためにコストを切り詰めた「安かろう、悪かろう」なものがある一方、触れるだけで心地よさを感じる優れたものもある
その差はどこで生まれるのか。というのが本書の問いかけであり、著者のライフワークだ
「いい仕事」の条件について、取材先での体験や他の研究者の文献から引き出されている。「自分のやりたくない仕事はしない」「"儲ける”ところから始めない」という理想主義、貴族的な態度にも思えるが、著者や取材先はいわゆるデザイン業界
何よりも高品質が求められる、知的産業においては望ましい姿勢かもしれない。やりたいことを仕事にしきれる人は強いし、客であればそういう人に携わって欲しい!
一般労働者との齟齬
ただし、「自分のやりたいこと」「社会(会社)に求められること」の間に逡巡する多くの人々にとって、超然としたものに見えてしまうのも事実
そのことは著者も実感していて、あとがきでは、送られてきた異論のメールについて取り上げている
「仕事のための仕事」から抜けさせない人は多いし、「質の悪い仕事」をやりきることにも意味はある。悪条件の仕事でもやりきらないと、他にしわ寄せがいくし、やらなければ食べられない。そうした状況や仕事について、著者もリスペクトはしている
著者は、そうした悪いスパイラルに陥っている職場が多くていいのか、なるたけ「やりたい仕事」を見つけるべきではないかと言いたいだけなのだ
とはいえ、仕事を選べる、フリーランスのように動ける人は強者であり、現状なかなか踏み込めるものではない。それに自由には責任というか、危険が伴うものだ
管理人にひとつ引っかかったのは、著者の「誰しもが“いい仕事”をしたい」という性善説
水準以下の仕事をしてもいいとは思わないが、仕事はそこそこに趣味にいそしむというのが、今の人間の精神性ではなかろうか
それでも「自分の仕事をつくる」という姿勢そのものは、何に取り組むにしても大事には違いない