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『勇魚』 下巻 C・W・ニコル

『盟約』『捜敵海域』『特務艦隊』の三つの作品へ続く


勇魚(いさな)〈下巻〉
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琉球から上海に渡った甚助は、イギリス人船長フォガティーの信用を得て、一流の船乗り“ジム・スカイ”として活躍していく。その一方で、日本は風雲を急を告げ、大老・井伊直弼が暗殺されたことで松平定頼は再び浪人の身となり、攘夷の同志・伊藤をすすめで薩摩に身を寄せることとなる。絵師として有名になった三郎は太地村の不漁から仕事が激減し、慣れない船仕事に取り組むこととなった

上巻は片腕を失った刃刺・甚助の悪戦苦闘が中心だったが、下巻では甚助が栄光の階段を登っていくのと対照的に、時代の波に取り残されていく定頼と三郎の悲哀が目立つ
定頼は長州過激派の暴走による禁門の変を、体制を守る薩摩藩士として参加するが、戊辰戦争では官軍として幕府軍と戦う。松平定信の子孫である彼にとって、自らのアイデンティティを破壊する行為であり、外国から流入した銃器で日本人同士が殺し合った現実に打ちのめされて心に深い傷を残した
西南戦争のとき、定頼は新政府についていけない伊藤ともに、西郷のもとを目指す。その旅路を運ぶのは、ジム・スカイ”こと、かつての甚助。いつ交わるかと期待した二人がまさか、こんな邂逅を果たすとは……

太地村は海流の変化、外国の捕鯨船の活動から、鯨の獲れ高が下がり寂れていく
絵師として生計を立てていた三郎も、描く船がなくなってきたことから、自ら鯨取りとして船上の人となる
甚助への遠慮から、妻のおよしと距離を置いていた彼だったが、絵を通して愛情が高まり二人の子をもうけるように
そこに来て甚助が突然の里帰り!
甚助は三郎とおよしの関係にショックを受けるが、およしが三郎を立て、三郎が甚助の生き方を認めたことで、兄弟の溝は一瞬で埋まる。甚助はフォガティー家のスーザンと結婚すること決め、アメリカ国籍をとることを決意したのだった
しかし、その十数年後に太地村に悲劇が襲う。不漁からタブーである鯨の母子をとりに出かけたことから嵐に巻き込まれ、太地の鯨取りは壊滅する。1878年(明治11年)の大背美流れである
太地村は400年続いた古式捕鯨の担い手を失い、近代捕鯨に転換せざる得なくなった。そして、三助は……(泣

下巻における甚助は、ジム・スカイの名を得たことで日本人離れした活躍を見せる。まるでメジャーへ行ったプロ野球選手の如し
その豪快な生き様は、作中にも登場するジョン万次郎に近く、同時代に外国へ出たまま帰れなかった者もいたことだろうし、各国を渡り歩いた作者の人生とも重なって見えた
甚助の不屈の闘志は、イギリス的なのである
それとは対照的に、伝統を重んじる弟の三助や定頼は桜のようにはかなく散っていく。この二つの精神を雄大に描き切ったことが何より素晴らしい


前巻 『勇魚』 上巻

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太地村と大背美流れに触れた小説
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『勇魚』 上巻 C・W・ニコル

シリアスながら、アクションシーンもあって娯楽性も高い


勇魚(いさな)〈上巻〉
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幕末の紀州、太地の村鯨取りで知られていた。鯨を仕留める刃刺を継ぐと目された甚助は、アメリカの捕鯨船との遭遇に胸を躍らせるもつかの間、鮫に襲われて片腕を失ってしまう。外国船打ち払いの切り札として鯨取りに眼をつけていた、紀州藩士・松平定頼は、やさぐれる甚助に外国の鯨取りになる代わりに、個人的なスパイとなるように求められるが……

『風を見た少年』などで有名なC・W・ニコルの長編歴史小説
ジュブナイル向けの小説や自然に関するエッセイしか読んだことがなかったから、こんな本格小説を書いているとは知らなかった。昔のホーキンスのCMに出ていて、靴はホーキンスと決めているほどなのだが(苦笑)
主人公は紀州太地村に暮らす兄弟。たくましい刃刺の兄・甚助に、船を華やかに彩る絵師となる弟の三郎で、兄は松平定頼の密偵として江戸、琉球、上海と旅して、弟は村に残って度重なる災害から家族を守っていく
驚くべきはほとんどの場面が日本人の視点で描かれていて、なんら違和感がないことだ。1年間、太地村に住んで取材を重ねたといっても、これだけ当時の捕鯨の様子、日本人の価値観を捉えきる透徹した視線には恐れ入る
当然ながら、アメリカ、イギリスから見た日本人の在り様も、ややひいき気味ながらも語られていて、多面的、重層的に幕末日本を眺められる労作なのである

鎖国か通商開国か、佐幕か尊王か政局で語られる幕末維新を、捕鯨という日米の共通点から切りこんでいるのが新鮮だ
ペリーが浦賀にやってきたのは、直接的には捕鯨船の寄港地が欲しいから。当時のアメリカは工業化が始まり、機械の潤滑油や照明用のランプの需要が激増していた
アメリカの捕鯨は鯨油の採取専門であり、鯨油を抽出するために大量の薪木と水を必要となったのだ
アメリカ人が巨大な帆船とカッターで追いつめるのに比べ、太地村の鯨取りは組織力で仕留めにいく。勢子役の船が鯨を網へ誘導して動きを止めさせ、銛を投げ入れて生命力を削っていく
鯨は必死に逃げようとするので、トドメとして「鼻切り」をしなければならない。鯨の鼻とは潮を吹く噴気孔のことで、ここを傷つけると呼吸ができなくなるから一気に弱っていくのだ
この鼻切りはたいへん危険であり、銛を刺す「刃刺」の中でも最も名誉な役目である
日本人は鯨の各部位を使い切った。鯨肉はいうまでもなく、臓物も珍味で腸は「龍涎香」という高価な香料となる。髭や骨は手工芸品となった
そんな日米の捕鯨が血なまぐさくも大迫力で描かれるのが本作である。到底、映像化は不可能だろうが(苦笑)
片腕を失った甚助は定頼の密偵となることで、琉球、そして海外へ旅立っていく。欧米の文化にのめりこんだ甚助、攘夷主義者でありながら、松平定信の子息、次期将軍の紀州藩士という立場から井伊直弼に仕えるはめになる松平定頼、幼子の名誉のため兄の残した恋人と結婚した三郎がどうなっていくか。史実の流れは分かっても、物語の結末は読めない


次巻 『勇魚』 下巻
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『薄桜記』 五味康祐

NHKの時代劇は、大河以外に名作多し


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中山安兵衛丹下典膳は同じ一刀流堀内道場の同門。浪人の安兵衛にとって、旗本で達人の典膳は仰ぎ見る存在だった。しかし、典膳は妻の不貞騒動から、左腕を失って零落。一方、安兵衛は高田馬場の仇討に助太刀して名を上げ、播州赤穂藩の堀部弥兵衛の婿養子となり、明暗を分ける。が時の流れはさらなる浮沈を生み、赤穂藩の浅野内匠頭が殿中での狼藉で切腹。安兵衛は大石内蔵助らと共に吉良上野介への襲撃を企て、典膳は吉良家に剣客として養われることとなるが……

NHKでドラマ化もされた、五味康祐の代表作のひとつ。初出は昭和33年で、文庫で三十○刷と語り継がれてきた作品だ
主役の中山安兵衛は、忠臣蔵の堀部安兵衛として有名な史実の剣豪。もう一人の主役、丹下典膳は、林不忘の連載小説から生まれた右腕と右目がない剣客「丹下左膳」と、『鞍馬天狗』の倉田典膳を組み合わせたとおぼしきネーミングのオリジナルキャラだ
安兵衛の経歴は史実どおり、浪人から江戸留守居役の婿養子になるのに対して、典膳は不倫をした妻を守るために片腕を失い、浪人に身を落とす
しかし、安兵衛は典膳に対して尊敬の念を忘れず、典膳も陰で気遣ってくれる安兵衛に親愛の情を抱き続ける。そんな男と男の友情、美意識がテーマの剣豪小説なのである

解説によると、五味康祐は貧窮の末に新妻を実家に帰し、芥川賞の受賞記念の時計まで質に入れたとあり、食うために心ならずも剣豪小説を書くはめになったという
その作品には転落する悲運の英雄と、右肩上がりに駆け上がる英雄、対照的な二人の主人公を中心に据え、そんな陰と陽の存在が五分にぶつかりあうものが多いとか。文学者としての挫折と、戦後の剣豪小説を確立した成功の体験が入り混じっているのだろうか
本作は中盤に、作者が露出して忠臣蔵に対する見解を長々と語るのに閉口したが(忠臣蔵を見たい読者を納得させるためだろうか)、紀伊国屋文左衛門などの著名人に花街大名火消し、普請のための口入屋など元禄の江戸が目に浮かぶように再現されていて、噂通りの名作だった
女性にクールすぎる嫌いはあるけども、幻想的なほど美しい情義の世界である


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『関ケ原連判状』 安部龍太郎

隆慶一郎の後継者!?


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秀吉が死んだ豊臣政権では、五大老筆頭の徳川家康が天下取りの野望を明らかにし、他の大老である前田家、上杉家に圧力をかけていた。芳春院(利家の妻)を江戸へ人質に出した前田家では、反徳川派の不満が収まらず、親徳川の家老・横山大膳は、細川家の隠居・幽斎に助けを求める。皇室の伝統「古今伝授」の継承者である幽斎は、朝廷を軽視する石田三成や東国中心の国造りを目指す家康に対して、ある構想を練っていた

張り巡らされた陰謀に作者の史観が光る名作であった
細川幽斎(藤孝)は、幕臣の三淵家に生まれ和泉・細川家の養子となり、13代将軍足利義輝に仕えて、15代将軍・義昭の上洛を成功させた立役者。義昭が信長と決裂してからは長岡姓を名乗って信長に仕え、秀吉・家康と天下人を渡り歩いて九州の大藩となった近世細川家の祖である
関ケ原の戦いの際に、細川家が東軍についたことから、幽斎は丹後の田辺城に籠城し30倍の大軍に包囲された。しかし古今和歌集の解釈を伝承した『古今伝授ができなくなるのを恐れた朝廷は開城の使者を送り、ついには正式な勅使まで送るにいたった
幽斎は『古今伝授』を時間稼ぎに使ったともいわれるが、この史実に様々な俗説や仮説をつぎこんで、一大エンターテイメントとして膨らませたのが本作なのである
幽斎ともに主役を務めるのが、加賀一向一揆ともに消えた牛首の一族出身の、謎の武芸者・石堂多門『花の慶次』に出てきそうな傾奇者で、大刀「鉈正宗」を振るう
その強敵として立ちはだかるのが、実在の武将・蒲生源兵衛で、その配下には小物臭あふれる青ぶさの伊助や人間くさい悪役・小月春光が脇を固め、味方には女性であることを隠す鷹匠がいて、謎めいた侍女もつきまとう……と、往年の時代劇映画を彷彿とさせられる殺陣とドラマが展開されていくのだ

ここからは、激しくネタバレ気味に
本作の初出は1996年。90年代には本能寺の変について、朝廷陰謀説がまことしやかに語られていた。信長は朝廷を廃して独裁者を目指す、あるいは天皇をすげ替える、都を安土城へ遷すなど、朝廷の禁忌を犯したがゆえに明智光秀に討たれたとする説である
小説ではこの陰謀説を拡大して転がしていく。豊臣秀吉が明智光秀の動きを利用し、天下を争奪したとする。そして、石田三成は日本を一元支配しようとした信長の遺志を継ごうとしたから、朝廷に見放されて西軍は戦う前から転落していく
石田三成がこのような不憫な役回りをするのは、豊臣、徳川に対する朝廷を基礎とした第三極を作るという幽斎の構想を正当化させるための演出だろう。豊臣家が関白家として忠実だと、その大義名分がなくなってしまう
鳥羽伏見の戦いのような例はあるものの、戦いの勝者に権威を与えるのが朝廷の流儀。両陣営の工作は熾烈を極めただろうが、どちらが勝っても文句を言われない日和見戦略が妥当であって、自ら大領土をもって武家を掣肘するという動きは、かえって迷惑だろう
もっとも本作はこうした構想のリアリティを問うものではなく、むしろ陰謀論をエンタメとして楽しもうという風情である。そうした中で、武家が表舞台で争う戦国ですら、朝廷が培ってきた伝統と文化が隠然とした力をもっていたことを示すのが作者の本懐なのだろう
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『ケルトの白馬 / ケルトとローマの息子』 ローズマリー・サトクリフ

アフィントンの白馬などの地上絵は、保全し続けないと消失するそうで


ケルトの白馬/ケルトとローマの息子―ケルト歴史ファンタジー (ちくま文庫)
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イギリスの作家ローズマリー・サトクリフの時代小説二編
サトクリフは、児童文学に分類されながらも、古代イギリスなどを舞台に忠実な時代考証で知られていて、代表作「ローマン・ブリテン3部作」など歴史・時代小説が多い。その再現ぶりから、専門の学者から歴史の入門書に最適と評価されているとか
やはりというべきか、日本を代表するファンタジー作家の上橋菜穂子、荻原規子などに大きな影響を与えていて、巻末にはその荻原規子の解説がある


<ケルトの白馬>

まだブリテン島にローマ人が来る前の昔。イケニ族の族長の息子ルブリンは絵の好きな少年だったが、部族はアトレバーテス族に征服されてしまう
イケニの風習では妹テルリの婿である、親友ダラが部族を率いるはずだったが、アトレバーテスの族長クラドックはルブリンに部族の代表に指名し、奴隷の指揮者として要塞の構築にあたることに
こうした因縁から、親友であったダラとも可愛い妹にも憎まれてしまうという、悲しい物語が始まる

タイトルの白馬は、イギリス南部の地上絵「アフィントンの白馬から連想されたもの。絵の才能を持つルブリンが部族の解放のために、クラドックへ地上絵(ヒルフィギュア)を捧げる
それは単に支配者への奉仕ではなく、自分が幼い頃に夢みた白馬を大地に刻み付けるという芸術であり、それをもって自らの生きた証とするのだ
悲しい結末だが、読後にはすがすがしさが残る


<ケルトとローマの息子>

ローマの難破船からケルト人に拾われた赤ん坊は、ベリックと名付けられて育てられる。しかし長じて部族に災害が起こった際に、ローマの子を拾ったからだとして追放されてしまう
そこからはブリテンの都市へ出た途端に騙されて、奴隷の身分に落とされるという展開。さらには奴隷主にいじめられ、逃亡できたと思ったら、冤罪でお次はガレー船の漕ぎ手になるという。『おしん』どころか、『ローマ黙示録カイジ』といったところだ
輝かしいローマ帝国の暗部が見てきたかのように描かれている

さすがにそのピンチを救うには善良な人間を出さざる得なかったのか、ローマの軍人ユスティニウスが亡き息子に似ているとして、奴隷になってからの事をすべて解決してくれる
理想主義が過ぎるご都合なのだが、リアル過ぎる現実を描ききった上で、こういう蜘蛛の糸を垂らすのは、ディケンズの『オリバー・ツイスト』とかイギリス文学の伝統だろう。それまでが暗黒過ぎるからこそ、許されるバランスである
それでも「人間はだれも助けてくれなかった。もう人間のいないところで暮らす」というベリックに、「もう一度、人間にチャンスをくれ」というユスティニウスの返しに、ケルトとローマの壁はない


「ケルトの白馬」には、侵略されるイケニ族と侵略者のアトレバーテス族。「ケルトとローマの息子」には、ケルトとローマあるいは市民と奴隷、と越えられない社会の壁が存在するが、作者はどちらか一方を悪者には描かない
征服者には征服者の都合があり、奴隷制の社会にも階級上昇を含めた、それなりの秩序がある。善を為すのも、悪を為すのも、同じ人間なのだという視線があるのだ


関連記事 『炎の戦士 クーフリン / 黄金の戦士 フィン・マックール』
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『宿敵』 遠藤周作

非英雄の物語


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同じ秀吉の近侍として大名へ上り詰めた小西行長加藤清正堺衆をバッグに交易・外交で頭角を現す行長に対して、清正は武人として功名を立て“商人”の行長を侮蔑していた。秀吉の天下統一の後、朝鮮出兵において共に先陣を命じられ、二人のライバル関係は激烈なものに。しかし、行長は朝鮮出兵そのものに反対で、詭計をもっての和平を目指していた……

小西行長と加藤清正に焦点を当てた歴史小説。遠藤周作はカソリックの信者であることから、近世のキリシタンを題材にした作品が多い
タイトルは「宿敵」とあるが、実質的な主人公は小西行長堺の商人・小西隆佐の息子として生まれ、そのバッグと要領の良さをもって出世するが、決して格好よくはない
頭の回転では石田三成に及ばないし、戦においては加藤清正にまったくかなわない
行長の武器は何かというと、商人らしい柔軟性。秀吉に棄教を迫られれば、表向きは従って裏では宣教師を救う“面従腹背”の姿勢でしのぐ
こういう姿勢を一本気な加藤清正は許せない。朝鮮出兵では、行長・三成の和平工作を暴こうと熾烈な暗闘が繰り広げられるのだ

小説での小西行長は、信仰に目覚めてキリシタンになったわけではない
むしろ、南蛮貿易の利を求めてのことであり、秀吉の怒りにはあっさり引き下がってしまう
それと対照的なのは高山右近であり、領国や家臣よりも己の信仰に殉じる道を選ぶ。その純な生きざまに行長は感動と劣等感を抱き、裏では宣教師やキリスト教信者たちを支援するようになる
同じ信仰の妻を同志とするものの、純粋な信仰者としては生きられない。正しいと思ったことをするために、ある部分では社会的にだけでなく宗教上の罪を抱えて、「汚れた人間」として生きざる得ない。右近のような信仰者にも清正のような英雄にもなれず、行長はきわめて等身大の、普通の人間として悩み行動する
最大の見せ場は、朝鮮出兵の和平工作で、明には秀吉が冊封を受けるとし、秀吉には明が折れてきたと偽装する。嗅ぎつけた清正を讒言で謹慎させ、和平に応じない朝鮮側の使者を卑賎の役人から仕立ててしまう
そうした平和のための詭計の顛末は、再度の出兵という悲劇に終わった
いかなる功名も栄光もいつかは消えてしまう。「空から空へ」という章立てがあるように、作者の宗教観にはキリスト教のみならず、日本の風土にある仏教の無常観を感じた
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『島津奔る』 池宮彰一郎

無双ではハンマーを振り回す


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慶長二年(1598年)。朝鮮出兵に動員されていた島津義弘は、泗川の守備に就いていた。そこへ太閤秀吉の死が知らされ諸大名が帰国を目指す中、それを察知した明・朝鮮連合軍が迫る。義弘は全軍の崩壊を避けるために殿軍を務め、その大軍を打ち破った。その大功から唯一の加増を得た島津家であったが、秀吉死後の主導権争いから前途に暗雲が立ち込める。国内でも中央政権への協力を渋る実兄・義久、石田三成と結びついた宿老・伊集院忠棟が足を引っ張って……

『政治家とリーダーシップ』で紹介されていた島津義弘を主人公にした歴史小説
物語は朝鮮出兵の最後を飾る泗川の戦いに始まり、秀吉の死に始まる吏僚派と武闘派の争い、そしてタイトルになっている、関ケ原の戦いにおける前代未聞の中央突破からの撤退「島津の退き口がクライマックスとなる
島津義弘を家臣の嫁に手を出す以外は理想的リーダーに描く一方、徳川家康を極度の小心者、石田三成を正義を振り回す頭でっかち、として義弘主従を持ち上げるために他の登場人物を貶す演出がなされている。その点では、かなり分かりやすい伝記小説
作者の好悪を激しく、黒田長政らを先が見えない猪武者とされ、捕まった三成に羽織をかけたエピソードなどは割愛されている。珍しいのが秀吉の正室・高台院(寧々)を、小早川秀秋を裏切らせて豊臣家の滅亡を引き金を引いた大悪人としていることで、ある意味鋭いと思う(苦笑)
島津家以外の部分に関しては講談的な俗説を取っているが、直に島津家が関わることにはリアルで精緻な描写が貫かれている

朝鮮出兵でも、関ケ原の戦いでも、前線に立つ義弘に対して、兄・義久はわずかな兵力しか与えなかった
作者はその原因を、華々しく武将として活躍する弟への嫉妬に置いていて、これを島津を二つに割りかねない危機に陥れる。義弘は兄を立て続けることで二頭体制を維持するが、義久は中央政権への不信から現実主義者の義弘の足を引っ張る構図が繰り広げられる
もっとも、実際にこんな単純な構図だったかは分からない。義久の隠居は九州征伐の落とし前であり、実質的な指揮はその後も義久が執っていたといわれ、当主の交代も義久→忠恒(義弘の三男)で行われたという史料もあるようだ
大兵を与えなかったのも、中央政局に前のめりの義弘を押しとどめる狙いだったという見方もできる。もともと島津は東軍よりだったのだから……

作品では島津の剽悍さがその特殊性に結び付いたものであることを、明らかにされている。鎌倉以来の制度である地頭が、その地域の郷士を掌握する中世的な「地頭・衆中制度」が維持されており、それは島津兵の土着的な強さをはぐくむともに、伊集院忠棟のような独立性の高い領主をともない島津家内の政策不一致を招いた
その結果として、当主・忠恒自身が三成とつながって権勢を誇る忠棟を斬殺する事件が起こり、忠棟の子・忠真は居城に籠り反乱を起こす(庄内の乱)。伊集院家の勢威は強大であり島津は自力で成敗できず、上杉征伐の直前に家康の調停によって下すことができた
この一件だけ見れば、島津家は家康に借りを作った格好であり、東軍につくのが自然に見える。西軍に参加せざる得なかったのは家康の上杉征伐に間に合わなかったからであり、小説とは違い、激変する政局に情報力が追いつけなかったからなのだ
とはいえ、関ケ原における義弘主従の豪勇はそのツケを帳消しにするもので、所領安堵と琉球遠征まで保証させるスーパープレイとなったのは間違いない


関連記事 『政治家とリーダーシップ』
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『秘本 東方見聞録』 赤羽堯

モンゴル人に化ける鎌倉武士の巻


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あのマルコ・ポーロは日本に渡っていた! 日蓮の説く法華宗に心酔する鎌倉武士・内藤甚太郎は、蒙古の大草原にあこがれて南宋出身の禅僧のつてで、モンゴル帝国の大都に潜入した。治安の役人となった甚太郎は、酒場で喧嘩に巻き込まれたマルコ・ポーロを助ける。日蓮が予見していたモンゴルの日本遠征を知ってしまった甚太郎は、自分に代わってマルコを日蓮への連絡役を頼む。マルコも‟黄金の国”ジパングへの興味から、快く引き受けるのであった

「ウンベルト・フーコの『薔薇の名前』に匹敵」が宣伝文句の歴史小説である
『薔薇の名前』は未読なので比較はできないものの、作品の傾向はだいぶ違うと思われる(爆)。現在、世界に遺された『東方見聞録』(原題『世界の叙述』)は、獄中のマルコ・ポーロから物語作家ルスティケッロが口述筆記したもの。著者はマルコ・ポーロ自身が後に書いた真の『東方見聞録』を発見したとして、それを小説化したのが本作品というのだ
物語は日蓮が法華宗への迫害を受けるところから始まる。主人公の内藤甚太郎は、蒙古の大草原へのあこがれと予見された日本遠征への危機感からモンゴルの支配する大陸へと渡る。マルコ・ポーロも父と叔父の後を追って、‟元”の国号を称していたモンゴル帝国に渡り、甚太郎と接触する。以降は甚太郎とマルコの二人の視点で、モンゴルと日本での物語が進んでいく
山場は日蓮とマルコ・ポーロの対面であり、第二次元寇=弘安の役。主にモンゴル側からの視点で日本遠征の困難が細かく描かれている
外交に下手を打ち続けて大帝国の侵略を招く鎌倉政権に、面子を潰された名君フビライが無謀な遠征を続けてしまうという、どちらにも勝者が生まれない構図なのである

本作でクローズアップされるのは、元寇であり日蓮
小説の日蓮は、もとから元寇を予見して「立正安国論」を書いていて、弟子を通して大陸の情報を集めていたことになっている。ただの宗教家であるだけでなく、政治家としての側面も持ち合わせていて、モンゴル帝国の情報と引き換えに、北条時宗の側近に法華宗のみに敵国降伏の祈祷を集中させることを持ち出したりしている
マルコ・ポーロと日本の仏教者を代表して宗論させるとか、高度の天文学を駆使して嵐の来る季節にモンゴルの船団をマルコと甚太郎に誘導させるとか、かなり持ち上げられて書かれていて、作者の宗旨が影響しているように思えた(実際に法華宗系の信者かは分からないが)
扱っている素材のわりに、日本人向けの作品に仕上がり過ぎているのが珠に瑕だが、当時の鎌倉が宋の商人や禅僧がやってきて国際性があったことなども描かれていて、元寇の時代を扱った貴重な歴史小説には違いない
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『真田太平記 (十二) 雲の峰』 池波正太郎

60歳で現役のお江さん


真田太平記(十二)雲の峰(新潮文庫)
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大坂の陣が終わり、徳川による天下が定まった。しかし、将軍・秀忠は関ヶ原の遅参を招いた上田城の屈辱が忘れられず、真田家取り潰しの機会を窺っていた。真田信之の側近して仕えていた馬場彦四朗は、徳川の間諜として潜伏していたが、流浪の旅から舞い戻ったお江に見破られて、真田家を追い出されてしまう。夏の陣から脱走した樋口角兵衛もまた、ふらりと上田城に戻ってくるが……

一番ホットな大坂の陣が終わったものの、物語のテンションは落ちない
歴史の大舞台をメタ的に解説することがなくなって、真田家とお江たちの活動に集中しているので、かえって作者の本領が発揮されているのだ
旗本を夢見て徳川に通じる馬場彦四朗に、家中では碁の好敵手として小川治郎右衛門当主・信之が用意した必殺の作戦は、まさに仕掛人のような切れ味である
真田家最大の危機が去ると、あとは登場人物たちのその後を優しく追っていく
樋口角兵衛に関しては、最後の最後で母・久野から「父親が昌幸でない」ことを明かされる。角兵衛の将来を慮ってついた嘘だったのである
大河の角兵衛はショックで切腹してしまうが、小説ではもはや悪さをする体力も気力も失って普通に家庭を作って死んでいったのであった

最終巻を読み終わったので、シリーズの総括をしよう
何度も記事に書いたことだが、池波正太郎は時代小説の人であって、歴史小説には向いていない。本人の気持ちが市井の、末端の人々に行き届いている反面、政治の上層にいる人間にはかなりクールに見切ってしまう
政治の論理が分かっていても、それをテーマとして書きたくないのだ
だからアウトサイダーである忍の者たちが輝く反面、たとえ豊臣秀頼、淀君、石田三成などをたとえ味方であり主筋であっても、見も蓋もなく描いてしまう
長編も得手ではないのだろう。瞬発的にいい話はあっても、一巻通した筋は見えにくかった。本当は三年ぐらいで終わるつもりだったのが、好評につき9年の連載に伸びたらしく、本人もずいぶん苦しんだのではないだろうか
作者お気に入りの真田信之に関しては、晩年のお家騒動について『錯乱』『獅子』という小説があるそうなので、機会があったら読んでみるつもりだ


前巻 『真田太平記 (十一) 大坂夏の陣』

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『真田太平記 (十一) 大坂夏の陣』 池波正太郎

日本一の兵なり


真田太平記(十一)大坂夏の陣 (新潮文庫)
池波 正太郎
新潮社
売り上げランキング: 9,157


関東方の大砲が大坂城の天守閣に命中するに及んで、大阪方は不利な休戦を受け入れざる得なかった。家康の意向を受けた真田信之は、弟の幸村と再会を遂げる。兄との最後の別れを終えた幸村は、来るべき最後の決戦に向けて、後藤基次、毛利勝永と連携をとるのだった

ついに大坂夏の陣
大坂城の堀が埋められ、城としての機能が損なわれても、豊臣秀頼、淀君、大野治長ら首脳陣は討って出ようとはしない。大野治長主戦派である弟の治房の刺客に襲われる始末で、大阪方の指導力はどうしようもなく弱体である
作者は家康が仕掛ける開戦へのこじつけを強引過ぎるとしつつも、家康が突きつける講和の条件は、家康が秀吉から言い渡された国替えに近いものではないか、と指摘する。大阪方への同情がなく、幸村はあくまで真田家と自らの武名を世に残すために戦うのだ

幸村の必殺の作戦は、後藤又兵衛基次が濃霧のなかを突出したことで破綻するが、後一歩まで家康を追い詰めた
やや不可解なのが、幸村の死までドラマ仕立てなのに、秀頼の下へ行った大助の最期を描かないところ。作者の執着がない部分は、本当にそっけない
忍者が暴れるフィクションなのに、急に作者のメタ視点で資料を吟味し出して「この説を採らない」「小説に書かない」とか、言い出すのも解せなかった(苦笑)
ともあれ、大坂夏の陣で全ては終わらない。幸村から草の者の後のことを頼まれたお江に、戦場から失踪した角兵衛、年甲斐もなくお通に恋をする信之、と最終巻に向けて不穏な要素が溢れている


次巻 『真田太平記 (十一) 雲の峰』
前巻 『真田太平記 (十) 大坂入城』
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