ドイツのケルン大聖堂で行われていたミサのなか、謎の侵入者によって司祭と出席者が襲撃される。奇怪にも聖体拝領を受けた信者は、感電死を遂げていた。そして、奪われたのは黄金の宝箱ではなく、「マギの聖骨」。キリストの誕生を予見した東方の三博士の聖骨であった。動揺するヴァチカンからアメリカへ応援要請がなされ、国防省の秘密組織「シグマ」が出動する
歴史ミステリー&ノンストップアクションが売りの、「シグマ・フォース」シリーズの第1作
冒頭に12世紀のイタリアからドイツ(神聖ローマ帝国)へ、「マギの聖骨」を修道士たちが運び出す場面から始まり、伝奇ミステリーなのかと思いきや、お次のシーンは主人公グレイソン・ピアースが現代で炭疽菌テロを防ぐという怒涛の展開
ケルンでの怪死事件も「シグマ」のメンバーによって、科学的に分析されてオカルト要素が次々にそぎ落とされてしまう
相手のカルト集団「ドラゴン・コート」も階級社会の復活を志向しつつ、その手段は現代のテロリストのままであり、あまりおどろおどろしい雰囲気はない
トム・クランシーにミステリーのスパイスを振りかけたような作風なのである
登場する歴史的建造物に、液体防弾スーツなど近未来的に見える技術が実存のものであるなど、きわめてリアルが追求している一方、物語の展開や描写は『24』のような海外ドラマやアクション映画が強く意識されている。ルーカスが作者に『インディー・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』のノベライズを依頼したのも分かろうという話だ
だけど、管理人的には「マギの秘儀」が科学的に説明されて過ぎるのと、アクションものゆえの端的な描写が続くのとで、歴史物の雰囲気が味わえず、少しアテが外れてしまった
「マギ」とは、キリストの誕生をヘロデ王に告げた三人の賢者で、マリアと一緒にしたイエスに対して、乳香、没薬、黄金を捧げたという
言語の意味はペルシア系宗教(ゾロアスター教など)の祭司で、英語のマジックの語源となったとされる
マギの遺骨は小説にあるように、1164年にミラノから時の神聖ローマ皇帝フリードリッヒ(バルバロッサ)の手に渡り、ケルン大聖堂はこの聖遺物が安置されたことで殷賑を極めた。実際に聖骨の入った黄金の箱は、崇拝されるのが分かるほど豪奢な代物だ
そうした現存する歴史の遺物が、実は現代科学の最先端にも通じる、古代の知恵が凝縮されたものではないか、と話が転がっていくのがこのシリーズの持味で、ファロス大灯台が今では考えられない技術で建てられたように、古代の賢者たちは科学に通じ、中世の錬金術師がその伝統を守ってきたとする
こういう話の持って行き方は好きなのだが、上記のノリだと2作目以降を読んでいくかは悩んでしまう。21世紀を舞台にインディ・ジョーンズを求めるのは無理があるのか……