カテゴリ0の固定表示スペース

カテゴリ0の固定表示スペースの本文サンプルです。
テンプレート使用時に削除してください

カテゴリ1の固定表示スペース

カテゴリ1の固定表示スペースの本文サンプルです。
テンプレート使用時に削除してください

カテゴリ2の固定表示スペース

カテゴリ2の固定表示スペースの本文サンプルです。
テンプレート使用時に削除してください


『ビッグ・ノーウェア』 ジェイムズ・エルロイ

警察が腐敗しずぎの50年代


ビッグ・ノーウェア〈上〉 (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋
売り上げランキング: 256,733

ビッグ・ノーウェア〈下〉 (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋
売り上げランキング: 273,569


1950年、1月のロス。若き保安官補アップショーは、遺体が獣に引き裂かれるという異常殺人に出会い、その解決に情熱を注ぐ。その死体解体現場を発見するものの、市警の管轄を不法に入るというミスを犯してしまう。一方、離婚危機を抱える警部補コンシディーンは、義理の息子の親権と名声を手に入れるため、赤狩り作戦に乗りだす。暗黒街の始末屋バズ・ミークスは、金のためにその作戦に組し、アップショーもまた異常殺人の捜査協力を条件に、左翼組織への内偵を試みるが……

『ブラック・ダリア』に続く、LA暗黒街シリーズの二作目である
ときは冷戦が始まって間もない1950年。ハリウッドでは赤狩りの波が何度も押し寄せ、作中ではエキストラと裏方の組合UAESが待遇改善のデモを起こしている。それを潰したい大実業家ハワード・ヒューズ暗黒街の帝王ミッキー・コーエンは傘下のティームスター(全米トラック運転手組合)に対抗のデモを打たせている情勢だ
この赤狩りを潰すためにUAESの弱みを握ろうと、アップショー、コンシディーン、バズ・ミークスがそれぞれ違う動機で誘い込まれる
前半はこの赤狩り作戦とアップショーの追う連続異常殺人が別枠として始まるが、下巻に入ると一気に交わりだし、次々に秘密が噴出して主人公たちを七転八倒させる
そのピンチのなかで、アップショーの正義感が無頼漢バズ・ミークスに乗り移り、冷淡なコンシディーンをも動かすという漢気の連鎖がたまらない
あまりに筋が複雑過ぎて、最後に作中で解説せざる得ないのは、ミステリー小説として不手際(笑)かもしれないが、いろんな意味で濃い名作である

前作がブラックダリア事件を題材としたように、本作でも実在の人物、事件が重要な位置を占める。そこに作品オリジナルのキャラクター、事象が乱入するので、どこまでが事実なのか、素人には判別できない(苦笑)
日本版WIKIにも確認できないスリーピーラグーン事件は、1942年にメキシコ系青年が殺されたことに対して、警察が無関係のメキシコ系移民を多数逮捕した冤罪事件である。背景にはアングロサクソン系白人のメキシコ系移民=バチューコに対する偏見があり、太平洋戦争の開戦で日系移民が収容所に入れられたことにより、よりメキシコ系に差別の対象が移行したという
主人公たちの視点ですら強烈な差別表現が次々に登場し読者を鼻白ませるが、これも50年代の苛烈な時代を再現するため。メキシコ系移民、黒人、同性愛者といったマイノリティがどういう扱いを受けていたか、掛け値なしに映し出されている
役人の出世のために行われる赤狩りに対しては、コンシディーンに「とてつもなく無駄であり、とてつもなく恥ずかしいことだよ」と言わせる。題名である「ビッグ・ノーウェア」=大いなる無とは、この無駄な労力、無駄な犠牲のことを指しているのだろう


前作 『ブラック・ダリア』
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『ブラック・ダリア』 ジェイムズ・エルロイ

表紙はリアルの被害者!
解説によると、”ブラック・ダリア”の由来は漆黒の髪をダリアの花に見立てたとか


ブラック・ダリア (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋
売り上げランキング: 200,384


1947年1月15日、ロス市内で女性が惨殺された。女優に憧れて東海岸からやってきた彼女の名はエリザベス・ショート。一介の巡査だったバッキー・ブライチャートは元ボクサーのつながりから、特務課のリー・ブランチャートに引き立てられるも、この通称「ブラック・ダリア事件」に巻き込まれて数奇な運命を辿る。はたして彼女を殺したのは……

『L.A.コンフィデンシャル』で有名な「LA四部作」の第一作
実在の殺人事件「ブラック・ダリア事件を題材しながらも、主役であるバッキー・ブライチャートに、相棒のリー・ブランチャートその“ルームメイト”であるケイ・レイクの三角関係が絡んで、先が予測できない複雑な展開を遂げる
視点は主人公の一人称で舞台がロサンゼルスというと、レイモンド・チャンドラーを思い出すが、この作家さんもあまり説明を交えずに文章を進めていくし、一つの事件にまったく無関係なような筋をぶっこんでくる手並みなども共通している
ただし、作品の性格はまったく異なる。シリーズものの主人公ではないので、バッキーは自らの生い立ちと選択に生々しく苦しみ続ける。事件の解決と同時に、人間の内面を描ききった濃い濃い長編小説なのだ
終盤のどんでん返しの連続には、やり過ぎとも感じてしまうが、2、3本の作品が混ぜ合わせたような濃さには圧倒され続けた

作者のジェイムズ・エルロイは、アメリカのタブーを取り上げることから「アメリカ文学界の狂犬」と言われている(「mad dog」の語感は、日本語で「荒くれ者」の意味らしく、けっして悪いイメージではない)
本作では「ブラック・ダリア事件」を取り上げつつも、当時の警察や治安状況を忠実に書き記し、終戦直後の復員でごった返すアメリカ社会の混沌を描ききっている
ブラック・ダリア事件に際しては、警察幹部が事件のイメージを膨らませて自分のお手柄にしようと新聞社を買収。方々で軍人の相手をしていたエリザベス・ショートに、清純な美女のイメージを作り出す
新聞を大きくにぎわせたことから、数百人の自供者が発生。そこから真の情報源を探すべく、警察は拷問紛いの行為で振るい落とそうとする。明らかに罪や弱みを抱えた人間に対しては、主人公たちも容赦なく拳を振るう
なるほど、捕まったらまず弁護士を呼ぶ社会ができるわけである(苦笑)。呼ばなきゃ、自分を守れないのだ
超有名なランドマーク「ハリウッドサイン」が、元は「HOLLYWOODLAND」と「LAND」が付いていたとか、リアルな40年代のLAが体験できる作品である


次作 『ビッグ・ノーウェア』

関連記事 【DVD】『ブラック・ダリア』
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『ミスティック・リバー』 デニス・ルヘイン

忠実に映画化すると、リズムや空気が悪くなるのも止む無し


ミスティック・リバー (ハヤカワ・ミステリ文庫)
デニス ルヘイン
早川書房
売り上げランキング: 182,354


ショーン、ジミー、デイヴは子供時代をともに過ごした幼馴染だった。しかし、11歳のときにデイヴが警官を騙る男たちに連れ去られたとき、三人の間に越えがたい溝が生まれた。25年後、ジミーの愛娘ケイティが何者かに殺される。刑事となっていたショーンは、被害者の父親になったジミーと対面し、関係者としてデイヴと接することに。三人の断絶は回りまわって、新しい悲劇を……

クリント・イーストウッド映画『ミスティック・リバー』の原作小説である
映画は後味が悪かったが、それが小説に忠実だからこそと分かった。本作はミステリーの皮をかぶった文学であり社会派小説生まれ育ちの違う人間同士の埋めがたい隔絶が丸裸に描いてしまっているのだ
優等生のショーンと不良少年のジミーには早くから経済格差を意識しているし、デイヴは性犯罪に遭って誰にも言えない心の傷を負っている。大人を生きる間に、お互いが分かりきれない背景を抱えて、かつては気心のしれた友人ですら疑心暗鬼に陥ってしまう
タイトルであるミスティック・リバーとは街を流れるドブ川だが、人々の闇を飲み込んでいく冥府の川なのである
映画では陰鬱な場面が続きすぎて、かえって悲劇としても乗れなかったが、小説では見事な悲劇として成立している。あまりに完成度の高い小説は、映画化に向いていないのだろう

小説の裏テーマには、成長していく街とその住人たちの葛藤がある
70年代にすら、「岬」に集まる中産階級集合住宅に押し入られるスラム住人との埋めがたい格差があった
「岬」のショーンはそれなりの学校に通って敏腕刑事になりおおせたが、親父が失業したジミーは17歳にして強盗団の首領となり、その方面のカリスマとなる
ジミーがその才能を振るえる場所は、犯罪の世界しかなかったのだ
その数十年後の街には、外からお金持ちが流入して高級住宅街へと変貌。中産階級が貸していた集合住宅が取り払われて、スラム住民に行き場がなくなっていく。アメリカ社会の格差拡大が本作の背景にある

ジミーが致命的な確執を起こすのは、中産階級のショーンではなく、同じ下層階級のデイヴとだった。デイヴが性犯罪者にさらわれて、みすみす連れ去られたことを気に病んでいたジミーだったが、彼に容疑が浮上すると罪悪感が憎悪に反転する
まるで、デイヴが意趣返しをしたかのように、受け取ってしまうのだ
最初はデイヴをかばっていた妻のシレストが、デイブがさらけ出した闇に耐え切れず裏切るなど、本作では一瞬にして心のコインが反転してしまう描写が光る。追い込まれた人間の脆さと追い込む人間の醜さを描ききられている
テーマ性重視でドブ川のようにまったりと流れながらも、終盤では意外な真相への畳みかけもあって、ミステリーとしての要件をちゃんと満たしている。いろんな苦味を持ち合わせた名作なのである


関連記事 【DVD】『ミスティック・リバー』
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『黒祀の島』 小野不由美

黒祀という専門用語は創作?


黒祠の島 (新潮文庫)
黒祠の島 (新潮文庫)
posted with amazlet at 16.09.01
小野 不由美
新潮社
売り上げランキング: 51,019


仕事仲間の作家・葛木志保が突然、失踪した。探偵・式部悟は、葛木の故郷と呼ばれる地図にない島“夜叉島”へ向かう。そこは元網元の神領家が隠然とした力を誇る島で、“カンチ”と呼ばれる神を慰める風鈴と風車が不気味に飾られていた。余所者を嫌う島民たちに冷たい視線を受けつつも、式部は“カンチの裁き”とされる残虐な殺人事件を知る。果たして、殺された女性は本当に葛木なのか

『SIREN2』みたいな話と思ったら、まさかの悪霊島(苦笑)
前半部分の島の光景がおどろおどろしいので、ホラー物という先入観を持ってしまった。海に流される牛、季節はずれの風鈴と風車、見せしめのような残虐な殺し、それを隠蔽する支配者一族と島民……こうした描写の積み重ねがネット時代にあるまじき異様な封鎖空間を作り出す
しかし推理小説というジャンルとしてはどうだろう。式部があまりに平凡で地味過ぎる。普通で薄味の主人公はホラーでは、読者に近い視点を提供するが、謎を解く探偵としては存在感がない。島に赴任した医師・泰田元守護の安良といった情報提供者のほうがアクが強く、物語の展開も彼らの情報や推論に引きずられていく
ホラーとしても、ミステリーとしても帯に短したすきに長しなのだ
中盤が平和すぎて拍子抜けするし、終盤にひねったオチが畳み掛けられるものの、式部の葛木に対する思いが薄味なので感動のはずのラストも盛り上がりがない
『屍鬼』の作者とは思えない、竜頭蛇尾の作品だった


関連記事 『屍鬼』 第1巻
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『プレイバック』 レイモンド・チャンドラー

「タフでなければ生きられない。優しくなれなければ、生きている資格はない」


プレイバック (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-3))
レイモンド・チャンドラー
早川書房
売り上げランキング: 142,139


私立探偵フィリップ・マーロウは、ある弁護士から女性の尾行を依頼された。その女性、ベティは、駅構内でチンピラじみたミッチェルという男に脅迫されてしまう。マーロウは弁護士の「気づかれないように」という条件を破って介入。紆余曲折の末、ベティは「ミッチェルが死んでしまった」とマーロウに電話を入れるが、彼女の部屋には誰の死体もなかった。はたして彼女に何が起こっているのか

レイモンド・チャンドラー最後の作品
今までの作品に比べて、あっさり風味に終わった。ミステリーとしての複雑な筋がなく、妙な枝葉が枝葉のまま終わってしまうのだ
彼女が何に追われているのか、ミッチェルはどこに転がっているのか、そこら辺を読者に考えさせることもなく、クライマックスでひょいと解決するので、濃厚なこれまでの物語に比べると、どうしても薄く思える
最後に『長いお別れ』に出てきたリンダ・ローリングから電話がかかってくるのも異色で、本巻だけで作品世界が完結していない
しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」(清水俊二:訳)。この台詞を聞くための一冊なのだ

訳者あとがきによると、本来はマーロウを主役とするつもりではなかったらしく、舞台もカナダだった。途中でマーロウを出すことになって、事務所のあるロサンゼルスに近いネバダ州エスメラルダに白羽の矢が立ったそうだ
ロサンゼルスを舞台にしなかった理由に、チャンドラーは「かつて空気が乾いていたロスが、今では湿気がひどく蒸し暑い、住むに堪えない街になった」と告白している。第二次大戦後の街の変貌で、「小説の舞台としてのロサンゼルス」が失われたのだ
とすると、フィリップ・マーロウのシリーズの、本来の最終作はタイトルどおり『長いお別れ』であり、『プレイバック』はその字義どおりの「繰りかえし」に過ぎないのかもしれない


関連記事 『長いお別れ』

GOLDEN☆BEST/PLAYBACK MOMOE part2
山口百恵
ソニー・ミュージックハウス (2002-06-19)
売り上げランキング: 44,015
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『湖中の女』 レイモンド・チャンドラー

前提を疑うのは難しい


湖中の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
レイモンド チャンドラー
早川書房
売り上げランキング: 43,036


化粧品会社の社長デレイズ・キングズリーは、妻クリスタルが行方不明になったとマーロウに捜索を依頼してきた。メキシコで結婚するというクリスタルの電報に対して、その情人であるレイバリーは否定する。逗留先のひとつと考えれたキングズリーの別荘には、管理人ビル・チェスと話すのも束の間、湖に沈む女性の水死体を発見する。彼女は管理人の妻ミュリエルと思われたが……

シリーズ中で一番だまされた(苦笑)
いかにも裏のありそうな依頼人の社長に、美人の女秘書プロのジゴロ、その向かいに住む麻薬医師、その家を張る不良警官、と一癖ある人間が出過ぎて、あまりにいろんな筋が考えられてしまう
そして、前半で一幕と考えられた事件が、想像とは違う形で蘇ってきて、終盤の大どんでん返しにつながるとか、到底分からない
誰がどの人の顔を知らないのか、この認識の違いが大仕掛けの源となっている。マーロウくんの認識力が途中まで読者と同じラインなのもミソで、ほんの最後で一気に抜き去る。この切れ味がたまらない
洗練された文章といい、シリーズ最高といってもいい作品だが、案外名前が上がらないのは、終盤のピンチをみっともない形で乗り切るなど、小説らしい作為が見えてマーロウが引き立て役になりがちだからだろうか

本作は1943年に発表された作品である
「どうせ、もうすぐ兵隊にとられる」と衝動的に食ってかかる警官に、道路に壕を掘る作業員、山のダムを警備する陸軍兵士など、戦時体制を思わせる光景がいくつか出てくる
チャンドラーの長編小説は元々、初期に書いていた短編小説からイメージを膨らませたものだから、無理に書き込む必要はないわけだが(1942年の『高い窓』にはそれほど戦時色は強くない)、1943年という年がそれだけアメリカ社会に戦争がのしかかっていたということなのだろう
訳書あとがきにも、チャンドラーの友人の言葉を引いて、表向きは普段の生活を保とうとしている人々もどこか戦争の抑圧を受けて、衝動的になっているという。マーロウの相手になるブロンドが出てこない、と
確かに、主要な犯人たちは理性が薄い。ずる賢いが強盗のようなのである


関連記事 『高い窓』
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『大いなる眠り』 レイモンド・チャンドラー

「うふう」は「イヤオォ!」に置き換えよう


大いなる眠り (創元推理文庫 131-1)
レイモンド・チャンドラー
東京創元社
売り上げランキング: 63,952


私立探偵フィリップ・マーロウは、病身のスターンウッド将軍から依頼を受けた。油田で財を築いた将軍には二人の娘がおり、下の子のカーメンに脅迫状が届いたのだ。マーロウは脅迫者のガイガーを調査しその屋敷を突き止めるが、そこからは銃声が響く。中ではガイガーの死体の側に、全裸のカーメンがいた

レイモンド・チャンドラーの記念すべき処女長編
最初の筋は将軍の娘への脅迫事件で、そこからエロ本業者ガイガーの殺人へ進み、ガイガーに部屋を貸すマフィアであるエディ・マース、ガイガーのエロ本をパチったゆすり屋ジョー・ブロディと、一癖も二癖もある人物が一気に絡んでくる
依頼の一件は片付いても、もう一人の娘ヴィヴィアンの旦那、ラスティ・リーガンがどこへ行ったかの謎が残り、マーロウは年老いた将軍を惚れさせた男がどれほどの者か確かめるべく、探し求めるのだ
最初はプロとして仕事に取り組みつつ、その後は一転して個人的な動機で、無償かつ命の危険にさらされる行動をとる
このきわめてヒロイックな二段ロケットが、周到に隠蔽された真実にたどり着かせる。主人公も読者も半ば諦めたところで、真相が判明するのでビックリである。衝撃の真実とはタイミングが衝撃的なのだ
まあ、タイトルを冷静に思い返すと……ね

一番印象的なのが、双葉十三郎の謎訳だったり(笑)
本書がアメリカで出版されたのが1939年で、日本で訳書が出されたのはチャンドラーの没年である1959年。同ジャンルの翻訳が少なかったのか、アメリカ社会の情報が少なかったせいか、はたまた当時の日本の読者に説明するには適当な語彙がなかったのか、今から読むとユーモア溢れる単語が続出だ
全裸のカーメンが「着物」を着ることになったり、拳銃の喩えに「パチンコ」を連呼したり(せめて「ハジキ」)、「百雷の効果」など漢詩的なエッセンスもある
もっとも謎なのが、マーロウが否定とも肯定ともしないときに発する相槌「うふう。プロレスラー中村真輔の「イヤオォ!」にも通じそうなこの台詞が、英語でいったいどういう単語があてはまるのだろうか
双葉十三郎について調べると、年代物の訳にも納得。1910年生まれの大正の男なのだ
映画評論家として古くからSFやホラー、B級映画を正当に評価したことで知られ、アメリカのハードボイルド小説を日本に持ち込む第一人者でもあったようだ
他の人の翻訳が出なかったのは、こういう先輩に対する遠慮が業界にあるからだろう。香ばしいものが好きな人でない限り、村上春樹訳のほうがお薦め(未読ですが)


大いなる眠り (ハヤカワ・ミステリ文庫)
レイモンド チャンドラー
早川書房
売り上げランキング: 24,940
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『ナインスゲート』 ペレス・レベルテ

映画と小説では一味違う


ナインスゲート (集英社文庫)
アルトゥーロ ペレス・レベルテ
集英社
売り上げランキング: 358,292


デュマの古書を集める出版社のオーナー、エンリケ・タイリフェルが謎の自殺を遂げた。古本狩猟家のルーカス・コルソは、謎めいた収集家バル・ボルハから『九つの扉』の探索を命じられる一方、コルソの友人の書籍販売業者ラ・ポンテは、自殺したオーナーからデュマの肉筆原稿の調査を依頼されていた。『九つの扉』の一冊と『アンジューの葡萄酒』の原稿を手にしたことから、コルソは顔に傷が持つ“ロシュフォール”に襲われ、訪ねる先々で謎の殺人事件が起きる

壮大な衒学趣味のミステリー小説だった(笑)
先にジョニー・デップ主演の映画を観ていたせいで、アレクサンドル・デュマに関する膨大な薀蓄が投入されることに唖然とした。最初の邦題は『呪いのデュマ倶楽部』で、映画の公開に合わせて『ナインズゲート』に変更されていたのだ
映画はオカルト・ホラーだったが、小説は『三銃士』を現代パロディ化した登場人物と場面に、悪魔召喚の書『影の王国への九つの扉』と謎の殺人事件が絡むという複雑な展開を辿る。ただ、デュマと悪魔崇拝がどう関わるかと構えていると、オチは肩透かし(苦笑)
深遠なテーマ性よりも、悪魔的な強さの女子が登場するなど、読者の意表を突くのに専念したエンターテイメントであり、デュマの精神を引き継ぐ作品といえよう

作者のアルトゥーロ・ペレス・レベルテはスペインの国際ジャーナリストで、紛争地や密輸問題に携わりつつも、作品では芸術や歴史の知識を動員したミステリーを書いている
本作も原題は『EL CLUB DUMAS』で、いちおうデュマ要素がメイン。主人公コルソも『三銃士』をなぞったかのような筋書きに、自らもフィクションの立ち位置を意識して謎の挑むなど、物語に没入する読者をなぞらえたようなメタフィクションも散りばめられている
その一方で、『影の王国への九つの扉』について、9枚の版画と三冊分のバリエーション、計27枚の版画がわざわざ挿絵として用意され、読者に間違い探しゲームをさせるなど力が入っていて、オカルト要素も隠し味を超えた存在感を持つ
オチは「あらっ」という感じだが(笑)、小説愛好家のこだわりと悪魔崇拝者の執念は似通っているということなのかもしれない


ナインスゲート ―デジタル・レストア・バージョン― [Blu-ray]
角川書店 (2011-06-24)
売り上げランキング: 59,910
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『オリガ・モリソヴナの反語法』 米原万里

どこかで富野監督が褒めてたはず


オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)
米原 万里
集英社
売り上げランキング: 23,718


1960年、10歳の志摩チェコのプラハ・ソビエト学校に通っていた。そこのダンス教師オリガ・モリソロヴナは老女ながら魅了的な舞踊をする一方、異様に褒めて相手を罵倒する反語法で有名だった。30数年後、翻訳家となった志摩は、恩師がいかなる人生を送ったのか、ソ連崩壊後のモスクワへやってくる。そこで彼女は学校の親友やオリガの関係者と会い、スターリン体制下の苛酷な時代を生き抜く踊り子の人生を知る

日本人が書いたとは思えない、凄まじい物語だった
作者は少女時代をプラハで送っていて、志摩の人生とほぼ重なるようだ。巻末の池澤夏樹との対談では、オリガ・モリソヴナは実在するものの調べて分からなかった部分をフィクションにしたと告白している
オリガは元々、ネップ時代に花開いたモスクワ・ミュージックホールのスターであり、関係者の密告によりラーゲリ(強制収容所)に送られる。小説では収容所経験者の資料や告白によって、想像を絶する生き地獄が語られていく
こうして暗く陰鬱な話に続きそうなところを救っているのが、志摩の青春時代の回想であり、親友や関係者との食べ歩き(笑)。まさに光と影のように、好対照に場面が転換されていて、泣き笑いしながら謎を解いていく
何気に日本のバレエ業界へも毒舌を振るっていて、藻刈富代(誰のことか分かるよね!)が技術もないのに実家に金を出させてプリマを射止めたことなど、劇団経営が苦しく主役が金で買える状況が常態化している現状も告発している。ソ連崩壊後のボリショイにも同じ状況があって、資本主義とバレエは相性が悪いようだ
語り口の上手さから信じられないことだが小説としては処女作であり、最後の締めに関してはやや急仕立てな感はある。それでも時代に翻弄されつつも強かに行きぬいた女たちを描ききられた名作なのである

オリガ・モリソブナの謎は、嘘に嘘を塗り固めるソ連の体制が生んだものだった
スターリンの強い猜疑心から生まれた大粛清は、公安組織NKVD(内務人民委員部)の独走をはらみ、オリガ、いや前身の踊り子バラは外国人と交際したことからスパイ容疑をかけられる
スターリン体制下では些細なことがスパイ容疑に拡大解釈されて、その身内までも連坐する形で強制収容所へ放り込まれる。彼女が連れ込まれたのは、スパイ容疑の配偶者や愛人たちが集められた専用のラーゲリだった
妊娠していた者は堕胎するか、生んだあとに強制的に取り上げられてしまい、小さい子供たちも国家犯罪者の影響を遮断するために、誰が親か分からないうちに孤児院に入れられる
オリガの親友、エレオローナ・ミハイロヴナはそうした悲劇を味わった一人であり、プラハの学校にも孤児院から引き取られた子供が通っていたのだ

そうした冬の時代もスターリンの死ともに変わっていく。フルシチョフのスターリン批判に続いて、ベリヤ長官を始めとするNKVDも指弾されていく
ベリヤにはその職権を生かして、10代の少女たちを拉致・強姦する事件を起こしていて、謎の性犯罪者「青髭」として噂されていた。ただし、告発されたベリヤの罪は当局によって誇張されたとも言われ、政敵フルシチョフによる報復の一面があるらしい
フルシチョフもまたスターリンの腰巾着の一人であり、批判しつつも自らとスターリンのつながりを巧妙に隠す必要があった。嘘に嘘が塗り固められ、本当に何があったのかは誰にも分からない(NKVDの関係者に聞こうにも、本人たちも粛清されているケースが多い!)
こうした体制の嘘は下々へ嘘を強制し、エレオローナが発狂してまで真実を隠し続けたことへつながっていく
この悲しい嘘の連鎖は、プーチンのロシアでも引き継がれていることだろう。残念ながら
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『高い窓』 レイモンド・チャンドラー

翻訳家・清水俊二の遺作。病床で最期まで挑んでいたらしい
その後を戸田奈津子が引き継いだそうだ


高い窓 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
レイモンド チャンドラー
早川書房
売り上げランキング: 144,082


パサデナに住むマードック夫人は、亡き夫のコレクションが盗まれたとして、フィリップ・マーロウに見本コインの奪還を依頼してきた。夫人が犯人とみなすのは、愛息子の妻リンダ。彼女は結婚生活の不満で、屋敷から姿を消していたのだ。コインの件で電話をかけてきた故買商に接触した後、マーロウは麦わら帽子をかぶった男につけられ始める。その男フィリップスは、駆け出しの探偵で手に負えない事件を請け負った打ち明けてきて……

かなり難解な筋だった
裕福な未亡人から盗まれた珍しいコインを取り戻すように依頼されるのだが、息子のレズリーが借金漬けで怪しく、第一容疑者リンダの行方は中盤まで分からない。素人探偵フィリップスが絡んできたと思えば、ギャングと思しきモーニーとリンダの元同僚にしてモーニー夫人であるロイス、それにちょっかいを出すバニヤーが出てきて、なんだか良く分からないうちに謎のコインがマーロウの元へ送られてくる
管理人の拙い推理力では、まともに予想すら出来なかった(苦笑)
マーロウ自身も真偽の分からないコインと、関係者が次々に殺される展開に気が病んで、敏腕の刑事に珍しくやりこまれてしまう
作者自身も筋を複雑にし過ぎて、かなり悩んだのではないだろうか
タイトルの「高い窓」(原題もThe High Window)で、それはコイン騒動に隠された裏の事件に関わってくる。終盤に怒濤の展開で真相が明らかになるが、ヒントが少ないのでただただ圧倒されるだけしかなかった(苦笑)

あまり話すとネタバレになるのだが、ある程度書いてしまおう
純金のコインを偽造するのに、1930年代の歯医者が患者の義歯を仕上げる技術が使われるのが目から鱗。金歯の鋳型をコインに応用するわけだ
セメントの一種のなかに鋳型を作り、その鋳型にを流し込んでレプリカを製造。そこから高熱に耐えるセメントで包む型を取り、溶かした蝋をあらかじめ開けた穴から出せばコインの型が出来上がり。遠心分離機のるつぼにとりつけ、溶けた金を流し込んでその遠心力をもって型の中に注入する
そして、熱したセメントが冷めないうちに水をかけると、セメントは急激な温度変化で砕け、コインの複製が出来上がるという仕組みだ
硬貨の偽造はこのような手間がかかり、費用対効果から金貨でなければ採算が取れない
こんなことは想像もつかないから、故買商と同じビルにいた歯医者が事件に絡むとか到底読めないわ(笑)
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)
(この一行は、各ページ下部に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)
カレンダー
02 | 2017/03 | 03
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
カテゴリ
SF (22)
RSSリンクの表示
リンク
FC2 Blog Ranking
ランキング
アクセスアップ!?
検索フォーム
はてな
この日記のはてなブックマーク数
タグランキング

サイドバー背後固定表示サンプル

サイドバーの背後(下部)に固定表示して、スペースを有効活用できます。(ie6は非対応で固定されません。)

広告を固定表示させる場合、それぞれの規約に抵触しないようご注意ください。

テンプレートを編集すれば、この文章を消去できます。