カテゴリ0の固定表示スペース

カテゴリ0の固定表示スペースの本文サンプルです。
テンプレート使用時に削除してください

カテゴリ1の固定表示スペース

カテゴリ1の固定表示スペースの本文サンプルです。
テンプレート使用時に削除してください

カテゴリ2の固定表示スペース

カテゴリ2の固定表示スペースの本文サンプルです。
テンプレート使用時に削除してください


『ホワイト・ジャズ』 ジェイムズ・エルロイ

悪党たちへのレクイエム


ホワイト・ジャズ (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋 (2014-06-10)
売り上げランキング: 421,124


ディヴィッド・クラインはロス市警の警部補の身で、弁護士資格を持ちつつ不動産業を営み、袖の下も怠らない多芸な汚職警官。麻薬課と深い関係を持つカフェジアン一家へ、変質的な強盗が押し入ったことから、刑事部長エドマンド・エクスリー直々に捜査を命じられる。麻薬課を中心に隠然とした勢力を持つ強盗課警部ダドリー・スミスを追い落とすためだ。クラインは一家の身辺を調べるうちに、相棒のステモンズ・ジュニアに不審を覚えて……

『ブラック・ダリア』に始まるLA暗黒街四部作の最終巻である
文体が特殊である。視点となる汚職刑事ディヴィッド・クラインに思考と完全にリンクしているがゆえに、やたらと文章の間に「‐」「;」「/」「=」と記号が使われて、詩のように短いセンテンスが積み重なっている
そこに余計な説明や冷静な分析はない。それだけ主人公クラインがしたたかながらも刹那的な世界に暮らしており、欲望に流されつつも鋭い勘でピンチをくぐり抜けていく。まるで暗黒街の住人をVR体験しているかのようだ
正直読みにくいことは、読みにくい(苦笑)。日本語と英語の記号が入り混じるがゆえで、原語ならばこそ生きる表現なのかもしれない
カフェジアン一家も単に犯罪者というだけでなく、人間関係も悪徳の極みといえるドロドロの世界にいる。そして、それに対峙するクラインもまた、それに匹敵するドロドロから這い上がった人物で、新しい悪事を働くことでそれを相対化していく狂気を持ち合わせる
はたして、人はどこまで堕ち続けていくことができるのか。堕ちた先に何が待っているのか
エクスリーが主役なら、もっと普通の文章になっただろう。しかし、打算と狂気を行き来するクラインだからこそ、巨悪ダドリーを刺せるのだろう

巻末の解説に乗るように、暗黒街四部作をダドリーの王国とその栄枯盛衰の物語と読むことができるが、それぞれがアメリカの変貌を映している
1958年を舞台とする本作では、マフィアの世界でも世代交代が起きる。ユダヤ系のミッキー・コーエンが脱税での収監をきっかけに没落し、イタリア系のサム・ジアンカーナが勢力を伸ばしていて、クラインもその仕事を受ける
その一方で、上院議員のジョン・F・ケネディが反マフィア運動に力を入れ、FBIを動かしてロス市警を揺るがし、エクスリーはダドリーを葬る口実に利用する
ダドリーのように薬の売人と釣るみながら、出る杭を打つ式に組織犯罪を押さえるという、犯罪者と警察の境界が曖昧な時代が終わり、エクスリーのような官僚が組織の利害を中心に動く時代が始まっていく。いつか見た映画、『県警対組織暴力』と同じテーマが隠れているのだ
当時、ニューヨークのブルックリンに本拠地にしていたドジャーズが、ロサンゼルスへ移転しホームグラウンド用地の立ち退きがワンシーンにあったりと、戦中戦後の混乱が良くも悪くもある種の秩序に収まっていくという時代の移り変わりを暗黒街シリーズは活写していた


前作 『LAコンフィデンシャル』

関連記事 【DVD】『県警対組織暴力』
     『アメリカを葬った男』
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『ヌメロ・ゼロ』 ウンベルト・エーコ

イタリア版松本清張
新聞の出資者コンメンダトール・ヴィメルカーテのモデルはベルルスコーニらしい


ヌメロ・ゼロ
ヌメロ・ゼロ
posted with amazlet at 17.03.30
ウンベルト・エーコ
河出書房新社
売り上げランキング: 167,155


売れないライターであるロマンナは、シナイという男に依頼され、新たに創刊される日刊紙『ドマーニ(明日)』に参加する。テレビに負けない情報で読者を揺さぶる方向性で動き出すも、出資者であるコンメンダトール・ヴィメルカーテの隠然とした意向にいつのまか左右されてしまう。そして同僚ブラッガドーチョから、教皇庁の秘密、ムッソリーニの生死の謎、対コミュニスト部隊ステイ・ビハインドを聞くに及んで、事態は急変して……

『薔薇の名前』などで知られるウンベルト・エーコの遺作である。管理人はエーコの作品がはじめてで、まさか遺作から読むことになるとは思わなかった(苦笑)
出版は2016年ながら、作品の年代は1992年の5月から6月の一月間。ソ連が崩壊して冷戦時代の緊張が良くも悪くも溶け始めた時代。ネットが一般的ではなく、記憶媒体はフロッピーディスクで、主人公たちの新聞が意識するライヴァルも週刊誌でありテレビである
冒頭は、主人公が寝ている間に水道を止められるという事案、本人にとって不気味でも他人にとっては取るに足りないアクシデントから始まる。主人公が病んでいるとしかいえない出だしだが、その後に日刊紙の準備に携わるところから、神経症気味になるに到った経緯が分かる
話の展開はどこか松本清張を思い起こしてしまうが、かつてイタリア共産党が大きな勢力を持ち、極左組織がマフィアを介して保守勢力と結びつき、元首相を誘拐暗殺するとか、百鬼夜行の裏社会を持つイタリアの風土からすれば、遠い昔のことではないのだ

殻を破ろうとして生まれたはずのメディアが、どうやって既存のもののような保守性、事なかれ主義に陥っていくかが、本作の焦点だろうか
編集長であるシナイは、主人公コロンナを参謀格に経験の薄い記者たちを指南していくが、読者に新しい刺激を与えるとしつつも、不愉快になることを書かない読者にあくまで印象だけを残して、一定の方向に誘導することを目的とする。想像を誘うだけで、その責任までは取らないのだ
主人公のように本来は独立心をもった人間でも、いったん組織に属してしまうと、ブラッガドーチョのようなはねっ返りを除き、その枠内でしか動かなくなってしまう。官僚を批判する側が官僚的になってしまうのは、日本だけではないらしい
保守層を敵に回すことが出資者の意向に沿うのか、マフィアを敵に回す覚悟があるのか、そこまでするほどの意味があるのか、そんな内輪への言い訳を言っている間に、外国のメディアに堂々と暴露されてしまう。この報道途上国あるあるが、物悲しい
もっとも根っこでは、どこのメディアも抱えている普遍的な問題でもあり、一流メディアの報道という触れ込みで、実はそれも情報操作されているという現実もあるわけだが
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『LAコンフィデンシャル』 ジェイムズ・エルロイ

先週は持病の発作を起こして、検査入院。稀勢の里の一番を、病院のテレビから眺めたのであった
照富士は、ずいぶん株を落としたな、おい


LAコンフィデンシャル(上) (文春文庫)
文藝春秋 (2016-05-28)
売り上げランキング: 126,906

LAコンフィデンシャル〈下〉 (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋
売り上げランキング: 199,178


著名な父を持つエクスリーは警察官の世界で出世すべく、監獄の暴力事件「血塗られたクリスマス」をきっかけにロス市警の警部にのしあがる。地方検事候補エリス・ローに可愛がられた彼だったが、娼婦殺しに異様な熱意を燃やすホワイトや芸能界に羽を伸ばすヴィンセンスらベテラン刑事の反感を買ってしまう。しかし謎の虐殺事件「ナイト・アウル」を契機に、宿敵の三人が奇妙に交錯する

ケヴィン・スペイシー、ラッセル・クロウの出世作としての有名な映画の原作小説。LA暗黒街シリーズの中では第三作目である
出世欲と正義感に板ばさみのエド・エクスリー、女殺しを許さない暴力的正義の体現者“バド”・ホワイト、麻薬と芸能界で遊泳するジャック・ヴィキンズの三者の視点で物語は進み、現在扱う事件と別件が絡むところは前作『ビッグ・ノーウェア』と似ているものの、その絡み方はより重層的へ深化している。いい格好しいのエドと暴れん坊刑事のバドが好対照をなして人物の位置関係は分かりやすいものの、ナイトアウル事件が並行して起こる猥褻本事件とつながるのみならず、かつての児童連続殺人事件の真相へもつながってしまうとか、ロサンゼルスという都市空間の歴史と因縁が群像劇として描きだされているのだ
シリーズとしても、前々作から登場の俗物検事エリス・ローに、最凶の悪徳警官ダドリー・スミス史実の大悪党ミッキー・コーエンに負けない存在感を見せており、暗黒街を仕切る彼らがどう関わっていくかも注目である
ねえ、読者のみなさん。あなたがたはこの話をこの誌面ではじめて知ったのだ――この話はオフレコだよ。内緒だ。まさにハッシュ、ハッシュ

主人公の一人、エクスリーの父プレストンは、優秀な警官でありながら実業家に転じて、大成功を治めている
プレストンが携わるのがディズニーランドをモデルにしたテーマパーク『ドリーム・ア・ドリーム・アワー』であり、ウォルト・ディズニーをモデルにしたレイモンド・ディータリングなる人物が登場する
なぜ、わざわざディズニーを別名に置き換えたのか
作中にはなんと、アニメ『ドリーム・ア・ドリーム・アワー』の関係者の間で麻薬が蔓延している描写があるのだ。主人公の一人ヴィンセンスはそれをお目こぼしする代わりに、ロス市警を描いたドラマ『名誉のバッチ』の考証を担当するなど甘い汁を吸ったりとか、芸能界と警察行政の癒着ぶりが本作の背景に取り上げられているのだ
次作の『ホワイトジャズ』には、しれっとした顔でディズニーランドをそのまま出しているようだから、本作の描写がどこまで本当かは分からないが、土地と年代的に充分ありえる話ではある
当然のことながら、レイモンド・ディターリングは劇場版にはいっさい登場していない。某諸悪の根源が生き残ったりと、映画とはずいぶん展開も結末も異なるので、違いを楽しみに読み進もう


次作 『ホワイト・ジャズ』
前作 『ビッグ・ノーウェア』

関連記事 【DVD】『LAコンフィデンシャル』
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『ビッグ・ノーウェア』 ジェイムズ・エルロイ

警察が腐敗しずぎの50年代


ビッグ・ノーウェア〈上〉 (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋
売り上げランキング: 256,733

ビッグ・ノーウェア〈下〉 (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋
売り上げランキング: 273,569


1950年、1月のロス。若き保安官補アップショーは、遺体が獣に引き裂かれるという異常殺人に出会い、その解決に情熱を注ぐ。その死体解体現場を発見するものの、市警の管轄を不法に入るというミスを犯してしまう。一方、離婚危機を抱える警部補コンシディーンは、義理の息子の親権と名声を手に入れるため、赤狩り作戦に乗りだす。暗黒街の始末屋バズ・ミークスは、金のためにその作戦に組し、アップショーもまた異常殺人の捜査協力を条件に、左翼組織への内偵を試みるが……

『ブラック・ダリア』に続く、LA暗黒街シリーズの二作目である
ときは冷戦が始まって間もない1950年。ハリウッドでは赤狩りの波が何度も押し寄せ、作中ではエキストラと裏方の組合UAESが待遇改善のデモを起こしている。それを潰したい大実業家ハワード・ヒューズ暗黒街の帝王ミッキー・コーエンは傘下のティームスター(全米トラック運転手組合)に対抗のデモを打たせている情勢だ
この赤狩りを潰すためにUAESの弱みを握ろうと、アップショー、コンシディーン、バズ・ミークスがそれぞれ違う動機で誘い込まれる
前半はこの赤狩り作戦とアップショーの追う連続異常殺人が別枠として始まるが、下巻に入ると一気に交わりだし、次々に秘密が噴出して主人公たちを七転八倒させる
そのピンチのなかで、アップショーの正義感が無頼漢バズ・ミークスに乗り移り、冷淡なコンシディーンをも動かすという漢気の連鎖がたまらない
あまりに筋が複雑過ぎて、最後に作中で解説せざる得ないのは、ミステリー小説として不手際(笑)かもしれないが、いろんな意味で濃い名作である

前作がブラックダリア事件を題材としたように、本作でも実在の人物、事件が重要な位置を占める。そこに作品オリジナルのキャラクター、事象が乱入するので、どこまでが事実なのか、素人には判別できない(苦笑)
日本版WIKIにも確認できないスリーピーラグーン事件は、1942年にメキシコ系青年が殺されたことに対して、警察が無関係のメキシコ系移民を多数逮捕した冤罪事件である。背景にはアングロサクソン系白人のメキシコ系移民=バチューコに対する偏見があり、太平洋戦争の開戦で日系移民が収容所に入れられたことにより、よりメキシコ系に差別の対象が移行したという
主人公たちの視点ですら強烈な差別表現が次々に登場し読者を鼻白ませるが、これも50年代の苛烈な時代を再現するため。メキシコ系移民、黒人、同性愛者といったマイノリティがどういう扱いを受けていたか、掛け値なしに映し出されている
役人の出世のために行われる赤狩りに対しては、コンシディーンに「とてつもなく無駄であり、とてつもなく恥ずかしいことだよ」と言わせる。題名である「ビッグ・ノーウェア」=大いなる無とは、この無駄な労力、無駄な犠牲のことを指しているのだろう


次作 『LAコンフィデンシャル』
前作 『ブラック・ダリア』
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『ブラック・ダリア』 ジェイムズ・エルロイ

表紙はリアルの被害者!
解説によると、”ブラック・ダリア”の由来は漆黒の髪をダリアの花に見立てたとか


ブラック・ダリア (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋
売り上げランキング: 200,384


1947年1月15日、ロス市内で女性が惨殺された。女優に憧れて東海岸からやってきた彼女の名はエリザベス・ショート。一介の巡査だったバッキー・ブライチャートは元ボクサーのつながりから、特務課のリー・ブランチャートに引き立てられるも、この通称「ブラック・ダリア事件」に巻き込まれて数奇な運命を辿る。はたして彼女を殺したのは……

『L.A.コンフィデンシャル』で有名な「LA四部作」の第一作
実在の殺人事件「ブラック・ダリア事件を題材しながらも、主役であるバッキー・ブライチャートに、相棒のリー・ブランチャートその“ルームメイト”であるケイ・レイクの三角関係が絡んで、先が予測できない複雑な展開を遂げる
視点は主人公の一人称で舞台がロサンゼルスというと、レイモンド・チャンドラーを思い出すが、この作家さんもあまり説明を交えずに文章を進めていくし、一つの事件にまったく無関係なような筋をぶっこんでくる手並みなども共通している
ただし、作品の性格はまったく異なる。シリーズものの主人公ではないので、バッキーは自らの生い立ちと選択に生々しく苦しみ続ける。事件の解決と同時に、人間の内面を描ききった濃い濃い長編小説なのだ
終盤のどんでん返しの連続には、やり過ぎとも感じてしまうが、2、3本の作品が混ぜ合わせたような濃さには圧倒され続けた

作者のジェイムズ・エルロイは、アメリカのタブーを取り上げることから「アメリカ文学界の狂犬」と言われている(「mad dog」の語感は、日本語で「荒くれ者」の意味らしく、けっして悪いイメージではない)
本作では「ブラック・ダリア事件」を取り上げつつも、当時の警察や治安状況を忠実に書き記し、終戦直後の復員でごった返すアメリカ社会の混沌を描ききっている
ブラック・ダリア事件に際しては、警察幹部が事件のイメージを膨らませて自分のお手柄にしようと新聞社を買収。方々で軍人の相手をしていたエリザベス・ショートに、清純な美女のイメージを作り出す
新聞を大きくにぎわせたことから、数百人の自供者が発生。そこから真の情報源を探すべく、警察は拷問紛いの行為で振るい落とそうとする。明らかに罪や弱みを抱えた人間に対しては、主人公たちも容赦なく拳を振るう
なるほど、捕まったらまず弁護士を呼ぶ社会ができるわけである(苦笑)。呼ばなきゃ、自分を守れないのだ
超有名なランドマーク「ハリウッドサイン」が、元は「HOLLYWOODLAND」と「LAND」が付いていたとか、リアルな40年代のLAが体験できる作品である


次作 『ビッグ・ノーウェア』

関連記事 【DVD】『ブラック・ダリア』
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『ミスティック・リバー』 デニス・ルヘイン

忠実に映画化すると、リズムや空気が悪くなるのも止む無し


ミスティック・リバー (ハヤカワ・ミステリ文庫)
デニス ルヘイン
早川書房
売り上げランキング: 182,354


ショーン、ジミー、デイヴは子供時代をともに過ごした幼馴染だった。しかし、11歳のときにデイヴが警官を騙る男たちに連れ去られたとき、三人の間に越えがたい溝が生まれた。25年後、ジミーの愛娘ケイティが何者かに殺される。刑事となっていたショーンは、被害者の父親になったジミーと対面し、関係者としてデイヴと接することに。三人の断絶は回りまわって、新しい悲劇を……

クリント・イーストウッド映画『ミスティック・リバー』の原作小説である
映画は後味が悪かったが、それが小説に忠実だからこそと分かった。本作はミステリーの皮をかぶった文学であり社会派小説生まれ育ちの違う人間同士の埋めがたい隔絶が丸裸に描いてしまっているのだ
優等生のショーンと不良少年のジミーには早くから経済格差を意識しているし、デイヴは性犯罪に遭って誰にも言えない心の傷を負っている。大人を生きる間に、お互いが分かりきれない背景を抱えて、かつては気心のしれた友人ですら疑心暗鬼に陥ってしまう
タイトルであるミスティック・リバーとは街を流れるドブ川だが、人々の闇を飲み込んでいく冥府の川なのである
映画では陰鬱な場面が続きすぎて、かえって悲劇としても乗れなかったが、小説では見事な悲劇として成立している。あまりに完成度の高い小説は、映画化に向いていないのだろう

小説の裏テーマには、成長していく街とその住人たちの葛藤がある
70年代にすら、「岬」に集まる中産階級集合住宅に押し入られるスラム住人との埋めがたい格差があった
「岬」のショーンはそれなりの学校に通って敏腕刑事になりおおせたが、親父が失業したジミーは17歳にして強盗団の首領となり、その方面のカリスマとなる
ジミーがその才能を振るえる場所は、犯罪の世界しかなかったのだ
その数十年後の街には、外からお金持ちが流入して高級住宅街へと変貌。中産階級が貸していた集合住宅が取り払われて、スラム住民に行き場がなくなっていく。アメリカ社会の格差拡大が本作の背景にある

ジミーが致命的な確執を起こすのは、中産階級のショーンではなく、同じ下層階級のデイヴとだった。デイヴが性犯罪者にさらわれて、みすみす連れ去られたことを気に病んでいたジミーだったが、彼に容疑が浮上すると罪悪感が憎悪に反転する
まるで、デイヴが意趣返しをしたかのように、受け取ってしまうのだ
最初はデイヴをかばっていた妻のシレストが、デイブがさらけ出した闇に耐え切れず裏切るなど、本作では一瞬にして心のコインが反転してしまう描写が光る。追い込まれた人間の脆さと追い込む人間の醜さを描ききられている
テーマ性重視でドブ川のようにまったりと流れながらも、終盤では意外な真相への畳みかけもあって、ミステリーとしての要件をちゃんと満たしている。いろんな苦味を持ち合わせた名作なのである


関連記事 【DVD】『ミスティック・リバー』
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『黒祀の島』 小野不由美

黒祀という専門用語は創作?


黒祠の島 (新潮文庫)
黒祠の島 (新潮文庫)
posted with amazlet at 16.09.01
小野 不由美
新潮社
売り上げランキング: 51,019


仕事仲間の作家・葛木志保が突然、失踪した。探偵・式部悟は、葛木の故郷と呼ばれる地図にない島“夜叉島”へ向かう。そこは元網元の神領家が隠然とした力を誇る島で、“カンチ”と呼ばれる神を慰める風鈴と風車が不気味に飾られていた。余所者を嫌う島民たちに冷たい視線を受けつつも、式部は“カンチの裁き”とされる残虐な殺人事件を知る。果たして、殺された女性は本当に葛木なのか

『SIREN2』みたいな話と思ったら、まさかの悪霊島(苦笑)
前半部分の島の光景がおどろおどろしいので、ホラー物という先入観を持ってしまった。海に流される牛、季節はずれの風鈴と風車、見せしめのような残虐な殺し、それを隠蔽する支配者一族と島民……こうした描写の積み重ねがネット時代にあるまじき異様な封鎖空間を作り出す
しかし推理小説というジャンルとしてはどうだろう。式部があまりに平凡で地味過ぎる。普通で薄味の主人公はホラーでは、読者に近い視点を提供するが、謎を解く探偵としては存在感がない。島に赴任した医師・泰田元守護の安良といった情報提供者のほうがアクが強く、物語の展開も彼らの情報や推論に引きずられていく
ホラーとしても、ミステリーとしても帯に短したすきに長しなのだ
中盤が平和すぎて拍子抜けするし、終盤にひねったオチが畳み掛けられるものの、式部の葛木に対する思いが薄味なので感動のはずのラストも盛り上がりがない
『屍鬼』の作者とは思えない、竜頭蛇尾の作品だった


関連記事 『屍鬼』 第1巻
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『プレイバック』 レイモンド・チャンドラー

「タフでなければ生きられない。優しくなれなければ、生きている資格はない」


プレイバック (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-3))
レイモンド・チャンドラー
早川書房
売り上げランキング: 142,139


私立探偵フィリップ・マーロウは、ある弁護士から女性の尾行を依頼された。その女性、ベティは、駅構内でチンピラじみたミッチェルという男に脅迫されてしまう。マーロウは弁護士の「気づかれないように」という条件を破って介入。紆余曲折の末、ベティは「ミッチェルが死んでしまった」とマーロウに電話を入れるが、彼女の部屋には誰の死体もなかった。はたして彼女に何が起こっているのか

レイモンド・チャンドラー最後の作品
今までの作品に比べて、あっさり風味に終わった。ミステリーとしての複雑な筋がなく、妙な枝葉が枝葉のまま終わってしまうのだ
彼女が何に追われているのか、ミッチェルはどこに転がっているのか、そこら辺を読者に考えさせることもなく、クライマックスでひょいと解決するので、濃厚なこれまでの物語に比べると、どうしても薄く思える
最後に『長いお別れ』に出てきたリンダ・ローリングから電話がかかってくるのも異色で、本巻だけで作品世界が完結していない
しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」(清水俊二:訳)。この台詞を聞くための一冊なのだ

訳者あとがきによると、本来はマーロウを主役とするつもりではなかったらしく、舞台もカナダだった。途中でマーロウを出すことになって、事務所のあるロサンゼルスに近いネバダ州エスメラルダに白羽の矢が立ったそうだ
ロサンゼルスを舞台にしなかった理由に、チャンドラーは「かつて空気が乾いていたロスが、今では湿気がひどく蒸し暑い、住むに堪えない街になった」と告白している。第二次大戦後の街の変貌で、「小説の舞台としてのロサンゼルス」が失われたのだ
とすると、フィリップ・マーロウのシリーズの、本来の最終作はタイトルどおり『長いお別れ』であり、『プレイバック』はその字義どおりの「繰りかえし」に過ぎないのかもしれない


関連記事 『長いお別れ』

GOLDEN☆BEST/PLAYBACK MOMOE part2
山口百恵
ソニー・ミュージックハウス (2002-06-19)
売り上げランキング: 44,015
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『湖中の女』 レイモンド・チャンドラー

前提を疑うのは難しい


湖中の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
レイモンド チャンドラー
早川書房
売り上げランキング: 43,036


化粧品会社の社長デレイズ・キングズリーは、妻クリスタルが行方不明になったとマーロウに捜索を依頼してきた。メキシコで結婚するというクリスタルの電報に対して、その情人であるレイバリーは否定する。逗留先のひとつと考えれたキングズリーの別荘には、管理人ビル・チェスと話すのも束の間、湖に沈む女性の水死体を発見する。彼女は管理人の妻ミュリエルと思われたが……

シリーズ中で一番だまされた(苦笑)
いかにも裏のありそうな依頼人の社長に、美人の女秘書プロのジゴロ、その向かいに住む麻薬医師、その家を張る不良警官、と一癖ある人間が出過ぎて、あまりにいろんな筋が考えられてしまう
そして、前半で一幕と考えられた事件が、想像とは違う形で蘇ってきて、終盤の大どんでん返しにつながるとか、到底分からない
誰がどの人の顔を知らないのか、この認識の違いが大仕掛けの源となっている。マーロウくんの認識力が途中まで読者と同じラインなのもミソで、ほんの最後で一気に抜き去る。この切れ味がたまらない
洗練された文章といい、シリーズ最高といってもいい作品だが、案外名前が上がらないのは、終盤のピンチをみっともない形で乗り切るなど、小説らしい作為が見えてマーロウが引き立て役になりがちだからだろうか

本作は1943年に発表された作品である
「どうせ、もうすぐ兵隊にとられる」と衝動的に食ってかかる警官に、道路に壕を掘る作業員、山のダムを警備する陸軍兵士など、戦時体制を思わせる光景がいくつか出てくる
チャンドラーの長編小説は元々、初期に書いていた短編小説からイメージを膨らませたものだから、無理に書き込む必要はないわけだが(1942年の『高い窓』にはそれほど戦時色は強くない)、1943年という年がそれだけアメリカ社会に戦争がのしかかっていたということなのだろう
訳書あとがきにも、チャンドラーの友人の言葉を引いて、表向きは普段の生活を保とうとしている人々もどこか戦争の抑圧を受けて、衝動的になっているという。マーロウの相手になるブロンドが出てこない、と
確かに、主要な犯人たちは理性が薄い。ずる賢いが強盗のようなのである


関連記事 『高い窓』
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『大いなる眠り』 レイモンド・チャンドラー

「うふう」は「イヤオォ!」に置き換えよう


大いなる眠り (創元推理文庫 131-1)
レイモンド・チャンドラー
東京創元社
売り上げランキング: 63,952


私立探偵フィリップ・マーロウは、病身のスターンウッド将軍から依頼を受けた。油田で財を築いた将軍には二人の娘がおり、下の子のカーメンに脅迫状が届いたのだ。マーロウは脅迫者のガイガーを調査しその屋敷を突き止めるが、そこからは銃声が響く。中ではガイガーの死体の側に、全裸のカーメンがいた

レイモンド・チャンドラーの記念すべき処女長編
最初の筋は将軍の娘への脅迫事件で、そこからエロ本業者ガイガーの殺人へ進み、ガイガーに部屋を貸すマフィアであるエディ・マース、ガイガーのエロ本をパチったゆすり屋ジョー・ブロディと、一癖も二癖もある人物が一気に絡んでくる
依頼の一件は片付いても、もう一人の娘ヴィヴィアンの旦那、ラスティ・リーガンがどこへ行ったかの謎が残り、マーロウは年老いた将軍を惚れさせた男がどれほどの者か確かめるべく、探し求めるのだ
最初はプロとして仕事に取り組みつつ、その後は一転して個人的な動機で、無償かつ命の危険にさらされる行動をとる
このきわめてヒロイックな二段ロケットが、周到に隠蔽された真実にたどり着かせる。主人公も読者も半ば諦めたところで、真相が判明するのでビックリである。衝撃の真実とはタイミングが衝撃的なのだ
まあ、タイトルを冷静に思い返すと……ね

一番印象的なのが、双葉十三郎の謎訳だったり(笑)
本書がアメリカで出版されたのが1939年で、日本で訳書が出されたのはチャンドラーの没年である1959年。同ジャンルの翻訳が少なかったのか、アメリカ社会の情報が少なかったせいか、はたまた当時の日本の読者に説明するには適当な語彙がなかったのか、今から読むとユーモア溢れる単語が続出だ
全裸のカーメンが「着物」を着ることになったり、拳銃の喩えに「パチンコ」を連呼したり(せめて「ハジキ」)、「百雷の効果」など漢詩的なエッセンスもある
もっとも謎なのが、マーロウが否定とも肯定ともしないときに発する相槌「うふう。プロレスラー中村真輔の「イヤオォ!」にも通じそうなこの台詞が、英語でいったいどういう単語があてはまるのだろうか
双葉十三郎について調べると、年代物の訳にも納得。1910年生まれの大正の男なのだ
映画評論家として古くからSFやホラー、B級映画を正当に評価したことで知られ、アメリカのハードボイルド小説を日本に持ち込む第一人者でもあったようだ
他の人の翻訳が出なかったのは、こういう先輩に対する遠慮が業界にあるからだろう。香ばしいものが好きな人でない限り、村上春樹訳のほうがお薦め(未読ですが)


大いなる眠り (ハヤカワ・ミステリ文庫)
レイモンド チャンドラー
早川書房
売り上げランキング: 24,940
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)
(この一行は、各ページ下部に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
カテゴリ
SF (22)
RSSリンクの表示
リンク
FC2 Blog Ranking
ランキング
アクセスアップ!?
検索フォーム
はてな
この日記のはてなブックマーク数
タグランキング

サイドバー背後固定表示サンプル

サイドバーの背後(下部)に固定表示して、スペースを有効活用できます。(ie6は非対応で固定されません。)

広告を固定表示させる場合、それぞれの規約に抵触しないようご注意ください。

テンプレートを編集すれば、この文章を消去できます。