『武器製造業者』 A・E・ヴァン・ヴォークト

謎すぎる作者のバランス感覚


武器製造業者【新版】 (創元SF文庫)
A・E・ヴァン・ヴォークト
東京創元社
売り上げランキング: 323,792


“不死人”ヘドロックは、太陽系を統べる「イシャー帝国」とそれに対抗する「武器製造者ギルド(武器店)」の間が深刻化するのを防ぐべく、一人の帝国軍人として潜入していた。双方から裏切りを疑われた彼は姿を消しつつも、恒星間移動できる宇宙船が製造されたことを察知。その宇宙船を乗っ取って、小型宇宙船で外宇宙へ追っ手を逃れたが……

『イシャーの武器店』の時系列的には作品的続編。ただし、製作時期はこちらのほうが早い
『イシャーの武器店』にもでてきた“不死人”ヘドロックが主人公であり、ヒロインは女帝イネルダ。二人との関わりから、イシャー朝と武器店の誕生の秘密が明かされる
展開はこれも前作同様、短編集をまとめた“fixed-up”という手法ではないかと思うほど、ごったがえしている。女帝に死刑を宣告されそうになった直後に、武器店にも同じように処分を受けて逃走。その途中でとある武器店支部に訪れたギル・ニーランに出会って、その弟の行方不明を知ったことから恒星間移動できる宇宙船にたどりつくという忙しさである
そうした活劇を可能にするために、主人公には長い歴史を生き抜いた“不死人”という設定があり、不死身ではないものの過去に開発した秘密兵器を駆使して、ピンチを潜り抜けていく
というふうに、いろいろとぶっとんだ設定と展開が繰り広げられつつ、なんだかんだロマンスに落ちてまとまってしまうという、力技の作品である

これ以上書くといつものようにネタバレになってしまうのだが、書いてしまおう(苦笑)
ヘドロックはとんでもない長命であり、彼はイシャー朝と武器店の創設そのものに関わっている
現存の支配体制を作った、まさにの存在であり、“不死人”であることを隠しながらも、各時代のイシャー朝の女帝たちと関係をもってその血統を維持してきた
彼のデザインした武器店の役割は、国民ひとりひとりが武装する銃社会と、法律を盾に不合理と戦う訴訟社会を目指すもので、そのままアメリカ社会の理想でもある
もっとも、作品内でも理想どおりには進まない。武器店はヘドロックの秘密を明かそうと帝国の支配体制を崩すところにまで突き進んでしまい、ヘドロックはその“神の手”ともいえる科学技術を駆使して、是正せざるを得ない。まさか、巨人を進撃させるとか、たまげたなあ(笑)
冷静に考えると、一人の隠れた神=独裁者によって成り立つ体制であり、エルガイムのアマンダラ・カマンダラを思い出してしまった
ヘドロックのやりたい放題に思えるが、さらに恐るべき能力を持った“蜘蛛族”が彼の首根っこを押さえつけていて、かろうじて作品の均衡が保たれている
“蜘蛛族”はまさに機械仕掛けの神=デウス・エクス・マキナ神の上にさらに神がいて、その神も思い通りにはならないという、外が見えない入れ子構造であり、ぶっとんだ設定をさらなるぶっとんだ設定で帳尻を合わせるという、ほんとうに妙な作品だった


前作 『イシャーの武器店』

関連記事 『重戦機エルガイム』 第1話~第3話
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

『イシャーの武器店』 A・E・ヴァン・ヴォークト

銀河黙示録ケイル


イシャーの武器店 (創元SF文庫)
A.E.ヴァン・ヴォークト
東京創元社
売り上げランキング: 707,843


7000年の未来、地球は女帝イネルダを戴くイシャー王朝に支配されていた。その圧政に対抗すべく、数千年に渡って戦い続けてきたのが武器製造者ギルド。様々な特殊武器と科学装置によって、帝政の腐敗を是正してきた。だが、帝国側がギルドが予期せぬエネルギー兵器を使用したことで、時空に歪みが生じてしまい1951年から新聞記者が未来に流れ着いてしまう。ギルドは彼に蓄積した膨大な時間エネルギーを利用しようとするが……

なにかのSFの解説に名前が出ていたので、読んでみた
作者のA・E・ヴァン・ヴォークトは、SF小説における「ワイドスクリーン・バロック」という手法を確立した作家いわれる。wikiの定義を見ても良く分からないのだが(苦笑)、SFの条件を満たしながら社会風刺ともに冒険小説であり、政治小説にも純文学的でもあるという、ひとつの作品に様々な輝きを放つことの喩えのようだ
代表例として挙げられる、アルフレッド・ベスターの『虎よ! 虎よ!』には数冊分のプロットが一冊に放り込まれたような濃度を感じたものだが、本作も同様の濃さがある
もっともこの作品は、同じ世界観で書かれた短編を一冊の長編小説としてリライトする、作者いわく“fixed-up”という手法を用いていて、本当に元は複数の物語だったのだ

そんなわけで、1951年の新聞記者マカリスターが、7000年代の武器製造者ギルドに迷い込んだかと思いきや、次の章ではケイル・クラークの物語が始まってしまう
ケイルは田舎町に住んでいて、「オラ、こんな街いやだ」と店を継がずイシャー朝の都へと旅立つ。軍人さんに渡りをつけて、ここから銀英伝でも始まるかと思えば、急転直下の展開で地下王国へ送られるカイジのような状態に陥ってしまう(笑)。福本ファンなら、イシャー朝=帝愛と連想してしまう
武器製造者ギルドの面白いところは、帝国の圧政と戦いながらも、帝国そのものを倒さないこと。あくまでその腐敗を正すのみで、政治体制の変更は求めない。市民オンブズマンのようなNGOなのだ
そのイデオロギーは、人間は自分でその身を守らねばならぬと自衛専用の武器を販売し、不正に関しても市民自らがそれを正そうとする自覚を求める。どんな政体であろうと、そうした市民の意思がなければ腐敗はなくならないというのだ
解説いわく、アメリカのリバタリアン=自由主義の精神なのである
武器を所持するところは合衆国の伝統そのものであり、イシャーの若き女帝は大英帝国の歴代女王を彷彿とさせる。舞台は超未来でも、きわめて新大陸の歴史を感じる作品である


次作 『武器製造業者』

関連記事 『虎よ! 虎よ!』
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)
(この一行は、各ページ下部に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
カテゴリ
SF (22)
RSSリンクの表示
リンク
FC2 Blog Ranking
ランキング
アクセスアップ!?
検索フォーム
はてな
この日記のはてなブックマーク数
タグランキング

サイドバー背後固定表示サンプル

サイドバーの背後(下部)に固定表示して、スペースを有効活用できます。(ie6は非対応で固定されません。)

広告を固定表示させる場合、それぞれの規約に抵触しないようご注意ください。

テンプレートを編集すれば、この文章を消去できます。