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『不屈の棋士』 大川慎太郎

インタビューした時期は2015~2016年、第1回電王戦が始まる前。もちろん、スマフォ遠隔問題は一切出てこない


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人間を凌駕するソフトの登場にプロ棋士たちは、どう立ち向かうのか。11人の棋士たちへのインタビュー
登場する棋士は羽生善治、渡辺明、勝又清和、西尾明、千田翔太、山崎隆之、村山慈明、森内俊之、糸谷哲郎、佐藤康光、行方尚史、とそのまま棋界の代表者といっていい錚々たる顔ぶれ。タイトルホルダー、ソフトを前向きに活用する者、電王戦経験者、ソフトを敬遠する者、とそれぞれと違った立場で電王戦の衝撃、ソフトの評価、棋界の将来を語っている
将棋界のど真ん中にいる人たちながら、その語り口はざっくばらんである。羽生こそ第一人者という立場から慎重であるものの、個人の感覚、考えについては信じられないほど率直に明かされる。プロ棋士はひとりひとりが個人事業主であり、勝ち負けに関してはきわめて合理主義者なのだ
著者は古くから将棋村にいる人ではない分、よく悪くも容赦なく答えを引き出していて、オブラートの少ない濃厚なインタビュー集にしている

将棋棋士はソフトの強さをどう評価しているのか
羽生三冠と佐藤九段は立場上(あるいは信条)から人間のトッププロを越えたとは言わないものの、ほとんどの棋士は認めている
「教授」こと勝又清和六段は、第2回将棋電王戦の三浦弘行‐GPS戦をひとつの決着戦と見る。ただし、人間のなかで羽生だけはレーティングで抜けた存在であるとして、その優劣を留保している
電王戦におけるプロ棋士側の勝利に関しても、永瀬拓矢六段を除き事前の研究によるものが大きいとする。特に斎藤慎太郎七段(当時五段)は普通に戦っているようで、穴熊を目指すことでソフトの人間側への評価関数を上げて暴れさせる、水平線効果を狙っていた。しかも自ら長考することで、相手に深読みさせるという高度な戦略をとっていた
「教授」は(まだ第1回の候補者が決まっていない段階だが)準タイトル戦の電王戦が第一期で、終わってもおかしくないと言い切っていた。くしくも今年、天彦名人が人間側の代表として登場したことで、電王戦は幕を閉じることとなる

ソフト開発者が研究を続け、ハードの性能が上がっていく限り、ソフトの力が人間を上回るのは必然だった。ソフトがプロ棋士に追いつき、追い越したとき、棋士はその現実にどう向き合っていくべきか。それはAIの向上と普及で、大きな社会変化にさらされるだるう一般人にも、無視できないテーマである
千田翔太五段、西尾明六段は終盤のみならず、序中盤の研究にもソフトを使用する。西尾六段の話では、チェスの世界では、グランドマスターがハンデをもらってソフトに挑戦する段階に達しており、ソフトによる研究は当たり前。世界戦の前に最新ソフトのアップグレードを相手に妨害される事案も発生しているという
もっとも、ソフト相手だけと指して、登りつめる人間はまだ出てきていないらしい
そのほかの棋士は意外なほどソフトを研究や対戦相手には活用していなかった。序盤がカオスで、中盤の評価値は利用しづらく、間違い合う人間同士の勝負ではあてにしづらいのだ。ただ、すでに奨励会員にはソフトの使用者が多く、とあるソフトを入手したことで大きく飛躍した成功者もいるので、時間の問題かもしれない
各棋士が警戒するのは、ソフトで考えることを節約してしまって、棋士としての“脳力”を落とすこと。高度なAIは人類にとって、禁断の果実なのか

『ルポ 電王戦 人間vs.コンピュータの真実』 松本博文

羽生さんが叡王になるとして、二番勝負で納得できるかというと


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人とコンピュータ将棋の戦いはいかなる過程を経てきたのか。コンピュータ将棋の黎明期から電王戦にいたるまで、ソフト開発者と将棋棋士の関わりを振り返る
初出が2014年6月で、第3回電王戦後。当然、最後の五対五の対抗戦である第4回電王戦、山崎叡王とPonanzaの二番勝負となった“第1期電王戦”はフォローされていない
それでも1960年代に始まったコンピュータ将棋と、それに対する将棋棋士の反応が辿られているのは貴重。1967年に11手詰みの詰め将棋を7、8秒で解くに到っており、当時の加藤一二三“八段”が早くも「アマ初段の腕前」と評価していた
1990年第1回コンピュータ将棋選手権が開かれる。「森田将棋」「柿木将棋」「永世名人」といまや懐かしい将棋ソフトに、第2回大会には電王戦にも出場したYSS(「AI将棋」)が登場している。市販にまで辿りつけば印税は入るものの、ほとんどの開発者はあくまで本業をこなした上で、余暇を割いて取り組んでいる。名利ではなく「楽しさ」「挑戦欲」が彼らを支えているのだ

本書は特に将棋界、開発者ともに敬意を払いつつも、著者が東大将棋部OBであることからか、Ponanzaの開発者・山本一成に紙数が割かれている
一軍半の将棋部員だった山本と嫁の詳細過ぎる馴れ初め(笑)、コンピュータ将棋大会での涙の敗北、勝ったら100万円の企画に結婚資金を割く、などの変人ぶりが書き綴られている
第2回電王戦のPVでは、子供に将棋を教える佐藤慎一四段に対して、ソフトの貸し出しを「やーです」と断る台詞を抜き取られ、ボンクラーズの伊藤氏ともにヒールの役割を背負わされたとチクリ。「勝ちたいです。もの凄く勝ちたいです」という台詞も、電王戦ではなくコンピュータ選手権に向けての発言だった
あの挑発的なPVは、かなり面白おかしく偏向させたものと見なすべきだろう

他にもいろんな、エピソードが拾われている第1回電王戦の時点で、電王戦は五年間に一局ずつ行うと決まっていて、次に登場するのは加古川青流戦を優勝した船江恒平四段(当時)と内定していたという
しかし、第1回電王戦が終わった後の打ち合わせの間に、一年に5局の団体戦になった
このサプライズは短い打ち合わせの間に出たものというより、ドワンゴの川上会長が電王戦の反響を見ての腹案だったのだろう
数少ない叡王戦に不参戦の棋士、橋本崇戴八段は、第2回電王戦に500万円の対局料で依頼されていた。A級棋士として出るなら、進退をかける戦いになり500万円では割りに合わないと拒否したという
第3回電王戦に関しては、「悲壮感がありませんでした」との感想を漏らしている
いまや、電王戦は叡王戦のための口実になっていて、人間が負けても本人以外衝撃を受けていない。タイトル戦ばりの7番勝負にするとか、決着戦はしっかりやってもらいたいものだ

【電王戦】第4回電王戦FINALの意義

五対五の団体戦は最後であるとして、FINALの名を冠する大会となった第4回電王戦は、三勝二敗でプロ側の勝利に終わった
管理人は家族の事情で、試合の一部分しか観戦できず、会見のすべてを押さえられなかったが、現時点で分かる範囲の情報で今大会を分析したい


1.年末の森下九段VSツツカナ

2014年大晦日、森下卓九段とツツカナの間にリベンジマッチが行われた
ヒューマンエラーをなくすために、持論である継盤の使用と秒読み10分の特殊ルールが用いられ、勝負は年をまたいで正月の午前五時152手をもった指し掛けとなった
ニコニコでも検証されたように、森下九段が入玉が確定した状態で、ソフト側が持将棋にするにも点数が足りない。素人から観ても、負けるのが難しいぐらいの勝勢で、判定勝ちは至極妥当な裁定だろう
実戦でソフトが強くても、個々の局面での大局観・技術では人間が勝るということが証明された対局だった
実のところ、人間とコンピュータ将棋の力関係を測る点では、本戦よりこちらの結果が重要だったと思う。本戦はPVのあった通り、ケジメの一戦になるはずだった


2.電王戦の経過

第一局 ○斎藤慎太郎五段 VS Apery●

Aperyが飛車を振り、ソフトが得意とされる対抗型
しかし、一方的に飛車先の歩が切れる展開となり、プロ側の優勢に。そのまま中盤まで手堅く差し切った斎藤五段がソフトの追撃を許さずに押し切った


第二局 ○永瀬卓矢六段 VS Selene●

「横歩取り」に誘導されると思いきや、ソフトの三手目4八銀で力戦模様の相掛りに。前例のない長期戦はソフトの強さが出やすいので、永瀬六段もマズい展開と考えていたようだ
実際、ソフト有利の局面もあったようだが、いつのまにか後手のプロがソフトの右玉を追い詰め、決定的な局面において角不成!!
これに対して、ソフトは王手放置して他の手を指してしまった。Seleneは無駄な手を省いて読みの力を強めたため、意味のない不成に対応できなかったのだ
永瀬六段は優勢を確信しつつも、より確実な勝利のためにバグを起こす不成を着手した
将棋でもプログラム的にもソフトを圧倒した完全過ぎる勝利だった


第三局 ●稲葉陽七段 VS やねうら王○

開発者・磯崎氏の発言から、ソフト最弱と噂されたやねうら王が相手とあって、早くも人類の勝ち越しが期待された一戦
しかし、やねうら王のランダム性の強い序盤により、プロの研究を離れた力戦模様に。二筋を押し込まれた局面で、稲葉七段はあえて二筋で開戦する勝負手を放つ
相手が突きたいところを逆に突く手は問題視されたが、やねうら王自体の判断では直後に形勢が傾いたわけではないらしい
やねうら王は勝勢時に詰みを逃すなど間の抜けたところも見せたが、素人には良く分からないうちに勝ちきってしまった
局後の会見で磯崎氏は、不思議な序盤について、電王戦ではソフトに代わって着手する“電王手さん”が指す間がある分、デスクトップで対戦するのとは思考時間にギャップが生じることを指摘。事前研究と実戦ではわずかな時間差で、ソフトの指し手が劇的に変わってしまうのだ
事前研究の限界を示す一局といえるだろうか


第四局 ●村山慈明七段 VS ponanza○

前回の電王であり、実質最強といわれるponanza「序盤は村山に聞け」と呼ばれる棋界随一の研究家・村山七段が挑んだが……
対ソフトに有望とされる「横歩取り」への誘導に成功し、村山七段は最も激しい「相横歩取り」へ踏み込む
しかし、浮いた7八の金に対する対応に、ponanzaは意表の7七歩!
くしくも前例は米長前会長のみという奇手だったが、実はそこまでは研究範囲。しかし、ソフトが飛車交換を避けたことで研究を外れてしまい、馬を作られてからは苦しい展開となった


第五局 ○阿久津主税八段 VS AWAKE●

二勝二敗で迎えた最終局は、電王戦らしい(?)想定外の展開となった
AWAKEが成った角が取られる手を打ったところで、開発者の巨瀬氏が投了してしまったのだ
この展開は2月28日に行われたイベント「電王AWAKEに勝ったら100万円」において、アマチュアの挑戦者が勝った戦法で、序盤で角を取られる局面は確かに先手勝ちづらい。阿久津八段は研究数日目で気づいたそうだ
むしろ、本番は局後の会見だった
巨瀬氏が「プロがハメ手を使って勝ってにいいのか」と突きつけたことで、電王戦の存在意義が問われたのだ
ソフトが人間を圧倒してきた状況下において、魅せて勝つ余裕があるわけもなく、二勝二敗で迎えた責任からも阿久津八段を責める理由はひとつもない。角を取られても指すだけ無駄という状況ではなく、「将棋を魅せる」点でいえば、早い投了に問題がある。空いた時間を永瀬六段が埋めてくれたのだ
元奨励会員の開発者がかつての夢舞台で対局するというドラマは、後味の悪い結果となった


3.レギュレーションは妥当だったか?

前回と同じレギュレーションだったが、電王戦を総括する会見では、開発者側の大会への異論が噴出した
実のところ、前回から人間寄りのルールになっていたが、ソフト側が勝利したことで問題視されなかった。今回、人間側が勝利したことで、その不満が顕在化した格好だ
複数のPCをつなげるクラスタの禁止はソフトの棋力を限界よりは抑えてしまうし、ソフトの事前貸し出しと調整の禁止は開発者の不自由さにつながっている。ソフトを差し出して半年間何も手が出せないのは、開発者も悔しいしフラストレーションが溜まったことだろう
開発者の中で“貸し出し賛成派”の磯崎氏は、貸し出し対策に序盤のランダム性を高めていて、その分棋力が下がると話していた

もし羽生四冠などのタイトルホルダーとの最終決戦を想定すると、今回のレギュレーションのままでは通用しない。少なくとも開発者の調整を許さないと、人間側が隙を見つけ出した場合、勝負がマンネリ化し興行として成立しない
人類対コンピュータをテーマを追求すると、クラスタの禁止にも疑問符がつく
今回で電王戦が一段落したのは、運営する立場からすれば運が良かった。開発者・プロ・観客が納得するレギュレーションを設けるには、かなりの時間と労力が必要なことだろう
せめて、修正されたAWAKEのリベンジ対局が実現して、後味の悪さを払拭できれば嬉しいのだが

【電王戦回顧】第3回電王戦の意義と今後

第3回電王戦は、プロ側の一勝四敗という結果に終わった
前回より順位戦で上位のメンバーを揃え、昨年度までA級だった屋敷九段まで敗れたとあって、人間の完敗といっていいだろう
まして、プロに配慮したレギュレーションでの敗北は、ある種の決着がついたと言わざるえない


1.第3回電王戦のレギュレーション

第3回のレギュレーションから振り返ってみよう

・対戦ソフトと同じバージョンを棋士側に提出する
・用意されたハードウェア一台を使用する。クラスタは組めない(電王戦トーナメントと同じハード)
・持ち時間はチェスクロック方式の五時間。夕食休憩がある
・ロボットアーム「電王手くん」が代指しを努める


一般的にソフトは複数のパソコンでクラスタを組むことで、棋力が向上し読みの傾向も変わる。そして、プロ側は個人でそのような練習環境は用意できない。結果、前回は練習と実戦との違いに振り回されることになった
パソコン一台での勝負は、ソフトの貸し出しと同様にプロの練習環境に配慮したものといえるだろう
逆にいえば、戦前からプロ側がソフトの力を認めているがゆえの条件ともいえる
「電王戦トーナメント」から選出されたソフトに、GPSなど世界コンピュータ将棋選手権の上位ソフトがないなど、PVの「人間側の逆襲」が観られると思われた


2.電王戦の経過

正直言ってどの対局も難しく、管理人には指し手の評価などできようもないので、以下は雑感である

第一局 ●菅井竜也五段 VS 習甦○

電王戦初の振り飛車対居飛車の対抗形。ソフト側が飛車先を突かないまま、矢倉に近い囲いを作る独特の戦型(管理人の持つAI将棋もこういうことをやる)をとったのに対し、菅井五段は6八角と角の転換を図ったがこれが裏目に
一度、優勢になった習甦は、卒なくプロを追い込み、昨年の雪辱を果たした
菅井五段は高い勝率を誇る若手のホープであり、勝った習甦は電王戦MVPに輝いた


第二局 ●佐藤紳哉六段 VS やねうら王○

レギュレーションを巡る騒動に注目が集まる、アヤのつく対局になってしまった
ソフト側がバグを払拭するために直したいと申し入れ、主催者ドワンゴが容認した結果、棋力が上昇したわけだが、ソフトが修正されたのは勝負の一週間前。これを認めてはプロ側の練習環境に配慮するレギュレーションの意味がなくなってしまう
第一局後に流されたPVもドワンゴが興行面で素人であることを露呈したといえよう
対局後の「ソフトが強いというより、僕が弱い」という佐藤六段の言葉は後味が悪い。40局という練習量に疑問の声が上がったが、「局後学習」機能を警戒しすぎたかもしれない


第三局 ○豊島将之七段 VS YSS●

プロ側が連敗で追い込まれ、次世代のオールラウンダーに将棋ファンの希望が託された
戦型は横歩取りで、豊島七段が一瞬の隙に切り込み、ソフトが力を出す前に決着をつけ、ファンの溜飲を下げた
現地中継中に、ソフトが単に飛車をいじめるだけの1四金を打ち、谷川会長を凍らせる場面が有名になったが、あそこまで形勢が開いてしまうと他にまともな手がなかったのだろう
YSSは独自に進化してきた古豪で、全幅検索のbonanza系に対抗し電王戦出場を決めただけでも大したものだと思う


第四局 ●森下卓九段 VS ツツカナ○

ソフトは評価がしやすいことから伝統的に駒得を重視してきた。それが「駒得は裏切らない」で知られる森下九段と対戦することになるのだから、面白い時代になったものだ
森下九段は後手矢倉ながら、果敢に斬り合う変化に突入。なんだか良く分からないうちに、悪くなっていた
立会い人の塚田九段はツツカナの差し回しを「まるで森下九段」と評したように、ソフトらしからぬ筋のいい棋風が光った
対局後の森下九段、一丸さんの態度がすがすがしく、記者会見もお通夜状態にならなかったのがなにより


第5局 ●屋敷伸之九段 VS ponanza○

総合成績の負けが決まっても、Uインターの対抗戦のように大将戦で勝てばいい。去年と同じようにその思いで見守っていた
戦型は横歩取り。屋敷九段の指し手が早く、研究どおりの展開に持ち込んだように思われた
ソフトは珍しく持ち時間を費やし、最終盤にいたるまで屋敷九段のほうが残っていた。最後の最後まで互角の形勢が続き、ソフトの評価は駒得で高いものの、プロの見立てでは形勢不明と見解が分かれた
大駒を追う香打ち、金打ちなど妙な手もあったが、最後は終盤の一手で勝敗が決まったようだ
第四局もそうだが、何が敗着か判然としないハイレベルの攻防だった
局後は屋敷九段の快活な受け答えが、一服の清涼剤のようだった


3.電王戦の今後

さて、前回より実力、段位が上位の棋士が選出したにも関わらず、プロが負けてしまった
パソコン一台勝負でソフトの優越が決まってしまって、電王戦の意義が問われる結果である。今後はどういった形で、人間対コンピュータの対局が想定できるだろうか

(1)タイトルホルダーによる番勝負

棋士はソフトとの真剣勝負の経験が一部を除いて皆無であり、初物の弱さは人間だけが負う。長時間の番勝負なら、ソフトの傾向をつかんで経験を生かすことができる
問題は日程だ。3月から4月開催となると、王将戦、名人戦と重なることになる。前回は三浦八段が名人戦挑戦者になる可能性があり、万全の準備がとれなかったのだ
他のタイトルホルダーも羽生三冠が両タイトル戦の常連(!)となれば厳しい

(2)森下九段による五番勝負!!

 森下九段は対局後と電王戦最後の会見で、「疲れる人間とコンピューターが同じ条件で対局するのはおかしい」「意表の一手も継ぎ盤などで冷静に見れば大丈夫」と大胆な提案をされた
 コンピューターは読みが、棋士は全てを読まなくても分かる大局観と感性が武器とするのなら、そこで純粋に張り合える舞台を用意すべきという考え方は間違っていないと思う
 「この条件なら100戦100勝」「やれと言われれば、いつでもやる」という森下節も炸裂したし、とりあえず森下九段自身が実験的に対局する企画はありなのではないだろうか

(3)対コンピュータ巧者のドリームチーム

 従来どおりの開催なら、羽生世代を無理繰りそろえるより、経験者を集める方がまともに戦えるのではないだろうか。第2回の阿部四段、船江五段、第3回から豊島七段は入れて欲しい
 また出場棋士を決める際に、出場希望者にソフトと対戦してもらって好成績の棋士から選抜するとか
 正直、タイトルホルダーだから対ソフトに抜きん出ているとは言えないので、慣れている人のほうがファンからすると安心感がある


今回の電王戦で、ひとつの区切りはついたと思う
これからは間違いなく、人間がソフトを追いかける時代
ただし、ソフト側も人間の作った定跡、棋譜をデータベースとしている以上、全くかなわないほどの差はつかないと思う
阿部四段が角換りで、豊島七段が横歩取りで快勝したように、豊富な研究で突破できる可能性はある。プロの研究では実戦で使われる以前に決着がついている形もあるそうだから、ソフトに記録されていない研究手順に持ち込めば充分に勝機はある
ただし問題はプロに対ソフト用の練習時間をどれだけ割けられるか、ということ
電王戦経験者は「将棋が強くなった」と話してくれるが、リスクもゼロじゃないだろう
若手あるいは、行動の自由が利くアマチュアから、コンピューターハンターが出てくれないかと管理人は期待している


関連記事 【電王戦回顧】プロが胸を貸す時代は終わった


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コンピュータ将棋側の3勝1敗1分に終わった第2回電王戦
その出場棋士全員の自戦記に、ソフト開発者への質問強豪コンピュータによる勝負所の解析など、さまざまな角度から電王戦を振り返る
観戦記については、ニコニコ動が掲載されたのと同じものであるが、全体的にはタイトルに偽りなしの内容であると言っていいだろう
日本将棋連盟発行ながら出場したプロ棋士とともに、ソフト開発者の熱意を称えるスタンスは、コンピュータと人間の共存共栄という電王戦のテーマにかなったものだと思う

本書の目玉は、ときに赤裸々に語られる棋士の自戦記
特に『将棋世界』でも詳しく触れられていなかった、第4局の塚田泰明九段、第5局の三浦弘行九段の自戦記は、電王戦参戦が決まる経緯やその直前の状況まで語られていた
塚田九段は軽い気持ちで立候補したものの、おそらく若手棋士が中心になると想定していたそうで、研究会でソフトの進化を知って愕然としたという
兄弟子でコンピュータ将棋の研究者である飯田弘之教授に聞いたところ、「斬り合っては駄目。まったりと押さえ込んでチャンスがあれば入玉を狙え」と言われ、攻め100%の棋士人生を送ってきた自分には無理だ、と辞退も考えたそうだ
三浦九段の場合は立候補していないにも関わらず、A級棋士でも出さないと興行が盛り上がらないと要請を受けていた
しかも、自身が名人戦に出場する場合は電王戦の参戦が延期されることになっていて、念願の名人戦出場がなくなった時点で電王戦の最終戦が決まるという、モチベーション的に最悪の状態に臨むことになった
もちろんそれは世間への言い訳になりえないが、コンピュータ将棋へのリテラシー、出場棋士への人選など、連盟側の課題を浮き彫りにしたといえる

本書を読んでいる間に、ニコニコ動画では電王戦で対戦した同士がコンビを組む電王戦タッグトーナメントが開催された
優勝したのは、現役プロ棋士で初の敗戦を味わった佐藤慎一四段とPonanza組で、佐藤四段が要所でPonanzaの提案を蹴って逆転勝ちするという面目躍如だった
そうしたこともあって読後感としては、人とコンピュータの決着はまだまだこれからという気になった。GPS将棋と三浦九段の将棋も、GPS側は仕掛けた後に考えを改めて違う手を見つけたらしく、たまたま成立した仕掛けだったという
第3回電王戦は、コンピュータのクラスタは禁止され、プロ棋士は最新ソフトと研究する機会を得ることになった(ソース→http://nikkan-spa.jp/496100
ある意味コンピュータ側が人間に譲歩した内容で、世間的にはまさに背水の陣だ。負けられないというプレッシャーから解放されたプロの逆襲に期待したい

【電王戦回顧】将棋世界七月号

電王戦直後の六月号には、ダイジェスト風の記事しかなかったが、今月号には出場者二人の談話に、世界コンピュータ選手権の模様が載っていた

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<われらはかく戦った船江恒平・佐藤慎一が語る電王戦>

船江五段は第1回電王戦後に米長会長の打診に即答し決定、佐藤四段も会長に即答したものの、「負ければ棋士全員の問題になる」と立候補しなかったが、締切日当日に理事から決定の通知を受けたという
立候補者は五人以上いたそうだから、どういう基準で出場メンバーが選定されたかが気になるところだ
6月から月一で対コンピュータの勉強会が開かれたが、対戦ソフトが決まるまでは両者とも特別な対策はとらず、1月から提供された『ツツカナ』で練り始めた


○電王戦第二局 対PONANZA戦

佐藤四段によると、定跡の認知の仕方が人間と違うらしく、第一局で習甦が指した角換りの桂損の攻めはツツカナもやってくるらしい
第二局において狙っていた作戦は、相矢倉から5二角と打たせて無理攻めを咎める形で、3月にニコニコで企画された『GPS将棋に勝ったら100万円』でも話題になった手だそうだ
プロといえどソフトの実力を認め、序・中盤に隙を突いていく戦略をとらざる得ないのだ
実際の将棋は一歩持って後手(プロ)のやや作戦勝ちになったものの、その後互角となり、先手・ソフトの6六銀に対する5五歩で再び優勢となる
問題はソフトが4四金と打った局面。直後には3二金より2六馬と入玉狙いがいいとの指摘があったが、実際には入玉できるかは敵陣に成駒がいない分、難しい
佐藤四段自身は、7三桂と馬にあてたのが直接の敗着と見ていて、7七歩→同銀といれてから桂を打ち先手の馬を追う手順のほうがよかったとのことだ


○電王戦第三局 対ツツカナ戦

ツツカナに対する船江五段のイメージは、駒の効率を重視する美しく筋のいい棋風で、中盤は自分よりやや上という評価をしていた
ソフトは角換りだと攻め筋が少なく下手で、横歩取りも定跡を外れた途端に後手の評価値が下がるのでソフト側から横歩は取らないという想定があったようだ
強いのは振り飛車と居飛車の対抗形で、盤の左半分だけの局地戦が得意で、人間の穴熊、ソフトの四間飛車銀冠の形でもソフトは精神的にめげないので手強いらしい

ソフト側の出だしは三手目に7四歩をつく意表の戦術をとった
しかし、船江五段は弟弟子の得意戦法であり、研究会でも指される手ということで、とまどいは少なかったよう
結局、普通の角換りに戻り先手だけ一歩持ち、手に詰まったソフトの無理攻めが出て優勢となる
後手・ソフトの5五香が妙手で、先手を歩切れにしてギリギリの勝負にもつれこむが、後手の6六銀が悪手で同竜に金銀交換して角成で先手玉を挟むと、後手玉が長手数で詰んでしまう。ソフトは20手以上読めないので、こういうミスが起きるそうだ
銀得でプロ側の優勢がはっきりしたが、そこから細かいミスを重ね、船江五段自身は2五桂打を悔いていた
ソフトには「勝負手」という概念がなく、悪くなったら相手を震わす手を指さずに後退していく。形勢がいいときほど大胆に進めるべきだったと
2六香と歩を払ったのも悪手で、香の頭に桂が邪魔して駒が前へ進まなくなってしまった


二人がともに語るのは、ソフトと練習しているうちに実力が上がったということ
プロ並の強さを持つソフトが万人の傍らに存在していくとなれば、アマチュアの棋力を底上げし、引いては馬鹿強い子ども達を生み出すかもしれない
電王戦の全体については、第2回は将棋連盟の側が様子見でメンバーを組んだと想像されるが(必ずしも立候補した棋士から選ばれていない!)、三浦八段が負けたとあっては精鋭を送り出さざる得ないだろう


<ボナンザ、7年ぶりの戴冠 第23回世界コンピュータ将棋選手権>

5月3日から行われた世界コンピュータ将棋選手権にも、多くのページ数が割かれている
電王戦二度出場の「Puella α」は残念ながら不参加だったが、他の上位チームを加えた40チームが参加した。中には女流棋士が参加した「メカ女子将棋」というソフトも。電王戦に出ることになったらどうする気なのだろうか(苦笑)
決勝は総当りのリーグ戦で、事実上の決定戦は前年優勝の「GPS将棋」と2006年優勝の「Bonanza」の対決
終盤は東大駒場キャンパス804台のコンピュータをつないだGPSの勝勢となったが、ここで異変が起こる
GPSが長手数の詰みを見逃し、一秒差しモードで時間切れになってしまったのだ

GPS陣営の話では、詰みは明らかに読みきっていたという
決勝で用いた803台中、3台が詰み探索専用で、詰みがあれば「司令塔」となるコンピュータに初手を知らせる仕組みだった
しかし、詰みを見逃した局面では残り時間の関係から三秒以内で着手する設定にしていたが、その時間内に詰みを読みきれず、通常の探索マシンの意見が採用され7八金を指してしまったそうだ
……ということは、結局短時間で読みきれなかったわけではないか(笑)
たとえハイスペック、大規模クラスタといえど秒単位の着手は精度が落ちる。将来的にはスペックの向上で補えてしまうだろうが、対コンピュータ戦に時間を使わせる戦略は有効だろう

*13’7/18 その後、匿名のコメントで情報を頂いた
 詰みの手が選ばれるのは「司令塔」に詰み手順の情報を送って、前ノードが処理された後なのだが、タイミングの問題で採用されなかったらしい
 ようはプログラムに瑕疵があって、一秒差しモードで露呈してしまったということだろうか
 素人の僕には深入りできないので、どういったことがありうるのか、どなたか記事にしてみてください(汗


結果、順位は1位「Bonanza」2位「GPS将棋」3位「Ponanza」4位「激指」5位に新登場の「NineDayFever」となった
2位に大規模クラスタのGPSが入ったということは、来年に電王戦があるすると、誰が戦うことになるのか。連盟にとっても悩ましいところだろう
4位の「激指」は市販されているシリーズなので、対策は立てやすい?
5位「NineDayFever」Bonanzaをベースにした新鋭で、5位までに三つのBonanza系が食い込んだことになる


第四局については特になく、内館牧子のコラム「月夜の駒音」で開発者の態度を咎めたのみ。塚田九段の涙には“あのおっさん”の発言が絡んでいたようだ
第五局のことは、青野照市九段の「将棋時評」でコンピュータがクラスタを組んだ点に違和感をおぼえたと触れられていた。コンピュータがチームを組むなら、棋士側のチームを組んでというわけだが、他のプロに言わせると棋士同士なら喧嘩になるという話もある(苦笑)
GPS側の仕掛けに関しては、「プロが考えついてもまず絶対にやらない手だから、将棋にはまだ新しい可能性があるものと思わされた。」とのことだ
他の記事では、コンピュータ将棋から生まれた新手にも触れられていて、コンピュータ将棋とプロ棋士の関係が新時代に入ったことを再認識させられた

将棋世界を買ったのは学生時代以来だが、出版不況の中、高いクオリティを維持しているのに驚いた
敵役ともいえるコンピュータ将棋を真正面から取り上げ、『森田将棋』の開発者・森田和郎さんの追悼座談会まで組まれている。コンピュータ将棋に興味がある人には間違いなく買いだ

【電王戦回顧】プロが胸を貸す時代は終わった

衝撃の結果を受けて。詳しいことは来月の『将棋世界』を読まないと分かりませんが(棋力は元アマ初段です)


第一局 ○阿部光瑠四段 VS 習甦●

角換りの将棋からソフトが桂損の攻めに出て、プロが冷静に立ち回り完勝した
事前の研究で桂損してくるところを把握していて、ソフトの弱点を見抜いていたことがそのまま勝因につながった
ある将棋関係者はプロが研究でソフトの弱点を探すなんて、と吐露していたが、以後の対局を見ればそんなことはいえない


第二局 ●佐藤慎一四段 VS ponanza○

ソフト側が飛車先の歩を交換させて、雁木模様の戦型をとった
ponanzaは第一局を見てか、序盤の定跡を外していた。角道を閉じた雁木もどきなので、プロが悪いとは思えなかったが、歩が交換できても手損の分、すぐ良くはならない
それでも、中盤にソフト側に疑問手が出てややプロ有利、いや指しやすい局面を迎えていた
先崎八段の観戦記によると、本当の敗着は最後の最後に受けた3二金らしい
すでに秒読みであり、疲れないコンピューターの強みが人間を押し切った
内容をみると、ponanzaに筋の悪い手が目立ち(即、悪手というわけではないが)、人間が大きなミスをしなければ勝てそうに思えた


第三局 ●船江恒平五段 VS ツツカナ○

第三局はソフトが三手目に7四歩を指し、力戦模様に。第二局と同じく開発者側が、定跡を嫌ってわざと三手目から外れるように設定したらしい
受けに定評あるというツツカナは、意外にも軽い攻めでボンクラーズに995点のポイントを出させるほど先手玉に迫った
しかし、実際はプロの読みが上回り、ツツカナの攻めは無理と判明。プロ側の玉型が長靴にも喩えられる要塞となり、明らかに逆転した
プロが完封を目指した中央での金打ちが疑問手で、ツツカナが長靴の口から打開し、押さえ込みの金二枚が歩越しの悪形に追い込まれて寄せきった

本局が一番の熱戦譜だった
舩江五段はコンピュータには序盤だけでなく、中終盤にも隙があることを実証した。その部分では、2007年の竜王ボナンザ戦から、さほど強くなっていないのかもしれない
もっとも、今回はデスクトップ一台での参戦だから、クラスタを組んだときにはどれぐらいになるのかは想像もつかない


第四局 △塚田泰明九段 VS Puella α△

前二局が居飛車力戦だったが、ディフェンディングチャンピオンと称するPuellaαは堂々と駒組みし、相矢倉となる
ソフト側がやや無理ではないかという端攻めを行い、塚田九段がそれを逆用する形で進んだ
塚田九段の作戦はハナから入玉ではなく、二段構えだと思う。しかし、局後、谷川浩司の名前が出されるほど細い攻めを上手くつなげて、塚田玉を入玉に追い込んだ
解説の木村一基八段が指摘していたように、角を逃がす順をとっていれば、その後の苦労は少なかったと思う
普通に相入玉しても駒の得点では絶望的で、人間相手ならかなり前に投了していただろう
最後は意地もプライドも捨てた執念で、持将棋に持ち込んだ

正直、電王戦のメンバーに塚田九段の名前が出てきたのは意外だった
おそらく大将戦がA級棋士だから、それに合わせてある名前のある棋士出したいけど、B級からはまだ出したくない。そういう意図を勘ぐりたくなる人選だった
塚田九段は他の棋士より準備期間が短く、持ち時間も求めていた時間より少なかった。入玉に重きをおいたのも、コンピュータ将棋に対する漠然としたイメージだったように思う


第五局 ●三浦弘行八段 VS GPS○

第4局に続いて本格的な相矢倉。ただし、三浦八段は角がにらみ合う脇システムをとった
脇システムはPuellaαが電王戦のために対策をとったとされ、コンピュータ将棋が苦手な戦型と見込んでの選択だろうか
端攻めをにおわすプロに対し、ソフト側が七筋から突っかけて前例のない形に突入した
七筋の突っかけを咎めようと矢倉の金銀を盛り上げ、後手陣の飛角を封じようとしたが、8三金が悪手。角得の手順ながら飛車が玉頭ににらむ位置に入り、6六金から8八歩の手順で振りほどけなくなったようだ(正確なことはよくわかりませんが)

将棋の性質は米長ボンクラーズ戦に近い、金銀の圧力で押さえ込みが破綻したもので、中盤が終盤に直結する粘りの効かない形だった
金を手放したところを咎められるのは第三局を思い出すし、人間相手に効く手とコンピュータの評価の違いを感じさせられた
また、数百台のコンピュータによる分業が強烈で、人間が1時間を要するところコンピュータは数分で決断できてしまう。理屈では弱点を見つけられても、実戦的には想像以上の化け物だった


局後で開発者が答えたようにソフトの出来不出来は激しいし、人間もしかり。これで優劣がついたわけでもない
しかし、プロがソフトに胸を貸す時代が終わったことは明らかだ
この結果は主催者、プロ、(伊藤氏をのぞく)開発者にとっても意外で、仮に次の対戦相手を出すにしても誰を出すというのか
今年と同じ一番勝負×5のチーム戦か、タイトル保持者相手の番勝負か。番勝負にするにしても、GPSの大規模クラスタは連戦可能なのか
羽生三冠がかつて予言した、ソフトが人間を超える2015年に、羽生本人が番勝負で最終決戦をやる。そんな未来もありえそうだ


関連記事 【電王戦】どうなる?人間対コンピュータ

【電王戦】どうなる?人間対コンピュータ

昨日、Togetterでまとめたものを補足して、より掘り下げてみます

人間対コンピュータ将棋の行方(ゆくえ) http://togetter.com/li/480505

管理人はかつて大学の将棋部に在籍していて、将棋を指すより「将棋世界」を読むのが好きなヘッポコ部員でした

1.コンピュータ将棋の特徴

過去の対コンピュータ戦を見通して思ったのは、序中盤はややリードを許すものの、勝勢まで許さずCOMはひたひたと機会をうかがっていた。人間様に容易に勝ち許さない差し回しで、寄せは詰め将棋レベル以前ですら正確だったことに進歩を感じた 数年前の市販のものだと、寄せで緩手を打ってくれる
kuronokuru1985 2013-03-31 22:09:32

僕が愛用してきた『AI将棋』は中盤が甘く、詰め将棋に入らないと攻めに鋭さがなかった(それでもいい勝負なのだがw)
それに比べ ponanzaは攻めの急所を逃さない。使われているパソコンのスペック、台数の違いはあるものの、素人目でも寄せのレベルが確実に上がっている

人間とコンピュータ将棋との戦いは、非対称の戦いだ。コンピュータは恐ろしい局面の数を読むものの、局面への判断が正確か疑問がある。その代わり、終盤は間違えず、精神的にも疲れない 将棋は最後にミスした方が負けるゲームだから、終盤震えないのは強い
kuronokuru1985 2013-03-31 22:15:38

第二局において、後手7三桂に対する、 ponanzaの先手8七金のやや疑問で金冠の悪形を作ってしまった。将来の当たりを避けることを優先しすぎて、囲いの弱体化を軽視していた

コンピュータ側はプロの棋譜から将棋を教えていて、思考に癖はあるものの、新手、新戦法は出せないはず 定跡から外れた局面でも、プロが優位に進められるはず 対コンピュータ将棋の戦いは、人間が序中盤を優勢にすすめて、いかに終盤で紛れのない順を選ぶか、不発弾の信管を外すような勝負になる
kuronokuru1985 2013-03-31 22:21:03

ただ不発弾の外し方が非常に難しい。COMが昔よりチョンボしなくなっている これが怖い 不発弾を爆発させないように、いかに指し回すか 電王戦は観客からすると、黒ひげ危機一髪のようなヒヤヒヤした戦いになると思う でも、それは将棋の醍醐味でもあるのだ
kuronokuru1985 2013-03-31 22:28:12

このあたり、実力に天地の違いはあれど、対コンピュータの戦いにおいて、素人もプロも変わらないのじゃないだろうか
人間側は終盤に時間を余さないと、確実に苦しくなる
清水市代-あから2010の対局をみても、秒読みに追われたのが痛かった。素人目からみると、決定的な疑問手は見えなかったが、ささいな隙を咎めてくる


2.人間対コンピュータの勝敗ライン

人間とコンピュータの戦いといっても、どの時点で人間が勝ち負けしたかというのも難しい ドワンゴ会長が言うように、将棋知っている人間の大半がソフトに勝てなかった時点でアカンやろという考え方もある
kuronokuru1985 2013-03-31 22:30:41

電王戦を記念してドワンゴ川上会長と羽生三冠の対談があって、そこで会長が放ったのがこの基準だ
身も蓋もないが、コンピュータゲームなどではコンピュータを強くしすぎてはユーザーがやる気をなくす、あるいはクリアが不可能になる恐れがあるからと、当然のように調整されている(強いAIを作れない場合は逆にハンデを持たせる場合もあるが)
IT業界の人間からすれば、常識的な視点なのかもしれない

チェスにならえば、トッププロが世界一のソフトに負けたら決着ということになるかもしれないが、あれももう一度やらしたらどうだったのか分からない カスパロフは作戦的に成功して勝利した一局もあったし、精神的に追い詰められて棒に振った一局もあったはずだ
kuronokuru1985 2013-03-31 22:34:06

IBMがディープブルーを送り込んで行なわれた勝負は、商業的な色彩が濃かった
チェスの勝負は引き分けが多く、カスパロフの一勝二敗三分で「コンピュータが人間に勝った」と報道された
前年にはカスパロフが完勝しているので、シリーズでは一勝一敗という見方もできる
カスパロフは再戦を希望したが、IBM側はチェスチャンピオンを倒した名声を得て、プロジェクトを終了させてしまった
この点、コンピュータ将棋の開発者は、まくり一発の勝ちではなく、人間に勝ち続けることを念願としているので、勝ち逃げはしないと思う

一番まずいと思うのは、コンピュータが完全定跡を見つけてしまうことだ それではゲームが死滅してしまう だが、その可能性はほぼないと思う そもそもゲームそのものを消滅させるような開発に、投じる金とリターンがあるのか、という商業主義の問題 誰もうれしくない
kuronokuru1985 2013-03-31 22:45:26

身近にまずいと思うのは、ネット対戦などで終盤からソフトを利用すること
操作の煩雑さはあるにしても、手馴れた人間ならば可能だろう
コンピュータとソフトが発達することで、人間が思考を捨ててしまうのが一番いけないことなのである
まあ、実戦を想定すると、秒読みに追われてソフトを動かすどころではないような気がするが

現行のソフトでは、プロの棋譜から形成判断を教えていく形になっているのだから、たとえ忠実に覚えさせられても、既存の考え方に縛られた域をでない 単にルールだけ覚えさせて、勝手に考えて完璧に指すところまでいかないと思う
kuronokuru1985 2013-03-31 22:50:15

僕自身は現行のソフトが将棋の質で人間を上回ることはないと思う
ただ、こういう人間の防衛ラインは世間は認めないだろうし、プロには将棋でも勝負でも勝っていただきたい
とはいうものの、故・米長会長いわく、対ソフトの研究は対人間には役に立たないわけで、出場したプロ棋士は貴重な時間を犠牲にして電王戦にのぞんでいる。普段の棋戦に影響が出る可能性があるのなら、気後れするのが当然である
リスクを承知で出場した勇気をまず褒め称えられるべき

電王戦第二局では、 ponanzaがほとんどの定跡を外して(これはこれで凄い勝負手だ)、午前中は開発者の山本さんが頭を抱えることになった それでもそこから決定的な失着なく、逆転まで持っていくのだから、たいしたものなのだが
kuronokuru1985 2013-03-31 22:56:32

人間対コンピュータの戦いと言われる裏で、実は開発者という人間が勝負手を放っていた。電王戦第二局で一番面白かったのはここだ
開発者にとってソフトは作品であり、わが子である。プロ対コンピュータ将棋の戦いは実は人間と道具を作った人間の戦いでもあったのだ

*2013’4/8
 4月6日の第三局は、ツツカナ船江五段に勝利しソフト側が番勝負に王手をかけた
 将棋の内容は第二局よりもはっきりとプロ側が優勢な局面があったが、ツツカナが糞粘りを見せてひっくり返してしまった
 終盤の失着ではなく中盤の手堅そうな悪手を咎めたものであり、内容的にも想像以上の強さだ
 船江五段は最後まで心が折れなかったが、見た目の疲労は隠せず、コンピュータは疲れない強みを存分に生かして勝ちきった
 第二局、第三局で普段の対局がいかに人間の精神を削りあうものかということを見せてもらったと思う
 相手が機械だからこそ、将棋というゲームの本質が剥き出しになる



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