『アルスラーン戦記14 天鳴雷動』 田中芳樹

相変わらずの文章力


天鳴地動(てんめいちどう) アルスラーン戦記14 (カッパノベルス)
田中 芳樹
光文社
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デヴァマント山から来る魔軍の一団に対して、ナルサスの献策によりアルスラーンはペシャワール城を放棄した。その好餌へラジェンドラ王の率いるシンドゥラの軍勢に、チュルク軍まで侵入、魔軍の介入よりチュルク軍は全滅。復活した魔人イルテリッシュは、魔軍の力に手ごたえを掴み、空からチュルクの首都を強襲するのだった。その一方、ミスル王国を掌握したヒルメスは、ナバタイ王国を迎え撃つべく大河を遡るが、思わぬ伏兵を受ける

漫画化、アニメ化の影響か、前巻より間もなく出版されていた
前巻から引き続き、アルスラーンの主従以外の場所が面白い。イルテリッシュ『魔界転生』の宮本武蔵よろしく、完全に自立化してチュルク王国の征服をはかる。魔人の君主に人間社会が統治可能かと疑うものの、あんがい生前(?)より頭が回るようになっているので、上手く行きそうな勢いである
作者の筆が乗っているのは、ミスルにおけるヒルメスだろうか
4年の時の流れを感じさせないアルスラーン主従に比べ、しっかりと年輪を刻み人間の幅が広がっているし、パルスの他に人はなしという世界観の中で、無警戒の凡夫が実は一世の梟雄だったという意外性もジュブナイル小説からはみ出している
なんとなく積読の山に入っていたが、読んでみるとあっという間に読破できた。余計な描写がなく、簡明で軽快な文章で頭のなかへするすると入ってしまうのである

魔軍はイルテリッシュのおかげか強化された
空飛ぶ猿たちも、空からの攻撃を徹底するようになった。今まで死んだ死人の数だけいるような大軍であり、前巻まで普通のおっさんに応戦できたものが、普通の兵士では苦戦するのだ
幹部クラス(?)の妖怪として人に化ける“鳥面人妖”も加わり、パルス側を大混乱に陥れる。まあ、追い詰められてもいないのに、自ら正体を現すのは謎すぎるが(苦笑)
これまでパルスに人材が集中し過ぎて、人間界に相手となる存在がいなかったところ、蛇王から発せられる超自然の力、妖怪、天変地異によって、調整されたかのようである
ともあれ、作者が予告していたように十六将がまた一人と死んでいく場面は唖然とするほかない。なんでそんなに簡単に殺せるのだろうか
こんな死に方をしては十六将のうちに入らないではないか、と危惧するような有様で、予想どおり地味な人からお亡くなりになっているのだ(苦笑)
人材が集まって死んでいく展開は、当初から『水滸伝』を意識しているだろうけど、それを貫徹する必要はあるのだろうか
最初から予定を決めてしまって、書いていくうちに立ち上がるキャラクターたちを転がしていかない手法は、長編ファンタジーと相性が悪く遅筆を招いている気がする


前巻 『アルスラーン戦記13 蛇神再臨』

関連記事 『魔界転生』
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『アルスラーン戦記』 第1巻 荒川弘

天野喜孝のイメージが強い


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荒川 弘

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小説は何度も読み返した人間なので買ってみた
第1話にアトロパテネ前のエピソードが追加されていて、繁栄するエクバターナルシタニア人奴隷とそれに捕まったアルスラーン王子が駆けていく
アルスラーンが奴隷制になんら疑いを持っていないのが印象的で、ルシタニア側の宗教的主張なども盛られて世界観が補強されていた
原作の弱点のひとつに主人公の影が薄かったので(そもそも主人公なのかという問題もあるが)、王子がはちゃめちゃ動きまわる展開は楽しい。性格も小説より好奇心旺盛なようだ
少し残念なのが、背景が薄かったこと。歴史物に長じたアシスタントを調達できなかったのだろうか。麗しのエクバターナを再現してもらいたかった

アトロパテネの会戦が始まってからは、ほぼ原作どおり
濃霧の中を騎馬軍団が全軍突撃する。中坊ながら、「これはないだろう」と思ってましたよ(苦笑)
漫画になって目立つのは、血と殺しあいの描写である。
剣士が一振りすれば、相手の首が飛び血を吹き出す。小説を忠実に再現してみると、そこは地獄絵図
アクションでは振るった瞬間を捉えて、ゴムゴムのように伸びきったり(笑)、描写に軽さがあるのだが、その後の光景には死体と血だまりに溢れたリアリズムがある
まして主要キャラクターと雑兵が同じ人間と感じられるように描かれているので、インパクトが強い
古来、戦場の英雄とはよく敵を殺す者である。小説では軽快な文章で通り過ぎる部分を、漫画ではがっつり捉えてしまった
漫画家のこだわりがジュブナイル小説のバランスを崩し、弱点をいらずらに晒してしまわないか。このコラボレーションは爆弾を抱えている
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ヤン・ウェンリーのモデル~『坂の上の雲』から

また更新が滞りそうだから、小ネタを投入しよう

日本海海戦において、信濃丸の無線が三笠に届いた時のことだ

「総員起こし」
 というのがある。艦内はいっせいに起き、手のあいた者はぜんぶ甲板に出て十分ばかり体操するのである。
 そこへ加瀬順一郎が走ってきた。走りながら、
「そら来たぞっ」
 と、叫んだ。体操をしている手足がいっせいにとまり、みな総毛立つような衝撃のなかでこれをきき、いっせいに持ち場にむかって散った。
 このとき秋山真之は後甲板でひとり体操をしていたが、このとき近くにこの旗艦の砲術長の安保清種少佐がいた。安保の記憶では真之の動作が急に変化して片足で立ち、両手を阿波踊りのように振って、
「シメタ、シメタ」
 とおどりだしたというのである。
「秋山さんは小躍りしておられた」

 と、安保はのちのちまで行った。(『坂の上の雲』8巻p27-28)

バルチック艦隊が対馬に来たと確定し、迷いが晴れた時の喜びの踊り
大河ドラマでもモックンが再現してくれていた
これで思い出したのが・・・
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銀英伝のヤン・ウェンリーなのだ
原作が手許にないので心許ないが、自由惑星同盟で軍国主義者によるクーデーターが起こった時のこと。ヤンがイゼルローンから艦隊を首都に向けるのだが、どうクーデーター側の艦隊を片付ければいいか、考え込んでいた
そして、頭の中で作戦がまとまった時に、ユリアンの前で小躍りする・・・というシーンがあったはずだ
秋山真之は学費を理由に士官学校に入らざる得なかった点でも、ヤンと共通点がある。そして、彼がなりたかったのは文学者で、ヤンは歴史家、あるいは歴史の教師と、軍人とは対極の文系
貧乏で軍人になる前例なら山ほどあるだろうけども、ここまで揃うとさすがに

田中芳樹自身が告白するところ、小説のキャラクターは、特定のモデルからを作ることはなく、いろんな人物を適当に混ぜて作るそうだが、ヤンに秋山真之という成分が入るのは間違いないと思う
そう言い切ってしまうのも、『坂の上の雲』に銀英伝を感じる場面が幾つもあるからだ
近代的要塞を砲兵の運用で“あっさり”(小説中のイメージだが)落としてしまった児玉源太郎の采配と、宇宙要塞を三國志的策謀で“あっさり”落としてしまったヤンの手並み
秋山好古が騎兵や側面攻撃で敵を攪乱していく場面など、近代戦を講談のように痛快に描写するところは、戦記物の後輩たちに影響するところ大だったと思う
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アルスラーンな光景~ローマ帝国衰亡史から

衰亡史三巻目に入っているが、読了には時間がかかりそうなので、小ネタを投入

・・・すなわち、ティリダテス王の実子ホスローをふたたび父祖の王位に復し、アルサケス王家の忠臣たちには、それぞれ恩賞と名誉を与え、また大赦令を発したりなどした。・・・(略)・・・このホスローなる人物、体軀は矮小、気象もまた小心臆病で、とうてい戦争の労苦などには耐ええず、加えてひどい人嫌いということもあり、早々に首都を去り、エレウテルス河畔、深い森に建てさせた離宮へと引籠もってしまったのだ。・・・(略)・・・しかもこの恥ずべき安居を確保するために、ついにシャプール王に和を乞い、その講和条件を易々と受諾した。その条件とは毎年決まっての入貢、またかつてティリダテス王の勇武とガレリウス帝の戦勝によりアルメニア領となっていたアトロパテネ州の沃土までを、改めて返還することだった。(『ローマ帝国衰亡史 3』p131-132)

アルスラーン戦記の舞台となるパルスの建国王はたしか、カイ・ホスローだっけ。まあ、同じ名前の貴人は何人もいたのだろうけど、こういう情けない国王もいたのだ
戦記のシャプール(シャープール?)は序盤で死んでしまったが、史実ではササン朝を代表する王
アトロパテネがペルシャとアルメニアの間にあるということは、マルヤム国はアルメニアがモデルの一つなのか

・・・これらローマ側提案の哀願的条件を一読したシャプール王はこれを容認する気になり、直ちに特使を送り満足の意を伝えることにした。全権を委ねられた特使ナルセスは、途中アンティオキア市でも、首都コンスタンティノポリスでも、それぞれ手厚い歓迎を受けたが・・・(同p191)

こちらは、ローマ総督の勝手な提案をペルシャ側が真に受け、結局はローマ皇帝にすげなく断られるという、かなり間の悪い一幕の一文
たしか戦記の著者は、ナルサスの“名前の元ネタ”を「ナルサフ」と明かしていたが、たぶん言語的にはこのナルセスと一緒なのではないかと
こちらのナルセスは「温厚慇懃」と称されているものの、完全に子供使いにされている。本人のせいではないけれど

衰亡史から見て想像できるササン朝ペルシャは、ローマ帝国視点でみると中堅国に見えるが、実際にはインドの部族を従えてゾウさん部隊を動員するなど多民族の帝国。その広大な国土と結束力は、周辺からすれば恐るべき大国なのだ
アルスラーン戦記では、一神教のルシタニアに対する多神教のパルスとして描かれるが、史実のササン朝ペルシアはゾロアスター教を国教とし求心力とした国
ゾロアスター教には光と闇の二神がいるが、最後が光が勝つとして一神教に近い。闇の神のアイデアからキリスト教に「悪魔」の概念を輸出したと言われ、多神教というにはかけ離れている
戦記のパルスは、あくまで著者が理想とする中世的国家とみるべきだろう

ローマ帝国衰亡史〈3〉コンスタンティヌスとユリアヌス (ちくま学芸文庫)ローマ帝国衰亡史〈3〉コンスタンティヌスとユリアヌス (ちくま学芸文庫)
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エドワード ギボン

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『アルスラーン戦記13 蛇王再臨』 田中芳樹

超久しぶりに読むアルスラーン戦記。第1巻が1986年刊行だから、23年目にもなる
タイタニアのことを考えると、続けてもらえるだけマシなのか

蛇王再臨 アルスラーン戦記13 (カッパ・ノベルス)蛇王再臨 アルスラーン戦記13 (カッパ・ノベルス)
(2008/10/07)
田中 芳樹

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これだけ飛び飛びに刊行されるシリーズだと作者のモチベーションが心配されるが、なんのなんのやっぱり面白い
異国で権力を握るヒルメスとその愛人フィトナに、アルスラーンに会うため王都に向かうエステルドン・リカルドの一行、デマヴァンド山で蛇王復活を待つガズダハムイルテリッシュ一味など、アルスラーン自体よりもその周辺の話が中心だ。ヒルメスを除くと特に秀でた能力を持っていない人間達が、各々の目標のために苦心する様というのは読んでいて微笑ましいもの
特に立派な小策士としての生き様を見せてくれたシャガードにはMVPをあげたい
このシリーズ、タイトルにもなっているアルスラーンはキャラが薄い今回はそれを潔く認めて(!?)、周辺の、しかもマイナーな人間に焦点を当てたことがいい味のドラマを生んだと思う
いつも待たされるが、さすがラノベの大家だ

意外だったのが魔軍が弱いこと。普通の人間に駆逐されてるやん
『ロードス島戦記』でいうと、上位魔神やら下位魔神やら中間管理職がいず、ゴブリンに羽根が生えたような奴しか出てこない。普通のおっさんでも武器さえ持っていればなんとかなるレベルなのだ
軍隊相手だと数を頼みにするしかないが、人間様よりは絶対数が少なそうだし・・・ゲリラ戦しかできないか?
ザッハーク様頼みというのも寂しいし、何か中ボスが欲しいところだ
イルテリッシュ『魔界転生』の宮本武蔵のごとく自立する気配がある。ガズダハムには気の毒だが、なかなかのカオス展開が待っているようで、これはこれで楽しみだ

今回は出番が少ないが、ナルサスはやっぱりバランスブレイカー
魔軍相手にも疑心暗鬼になることがないし、上から見下ろしちゃうから話が盛り上がらない。今回の計略も普通なら周囲の大反対にあうはずが、すんなり通るし・・・(現実性についてはあえて問いますまい)
いくら“ライトな講談”といっても限度がある
30台前後のモラトリアムで、天才というのは作者お得意のキャラではあるが、このシリーズに関してはいない方が締まったいい話になったと思う

とはいえ、小悪党たちも策を練りに練っている。堕天使ナルサスに一矢報いてくれ(無理か)


次巻 『アルスラーン戦記14 天鳴雷動』
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